鳥籠

 私は、今、息をしているのだろうか。


 外は、今、夜なのだろうか。



 ここは、異郷の地。


 友達は、いない。


 知り合いも、いない。


 彼も、いない。この家。



 彼は、仕事を終えて、シャワーを浴びると、

 また出掛けて行ってしまう。私を残して。



 昼間は、仕事で。


 夜は、遊んで。


 寝る間も惜しんで、遊びたい。そんな年頃らしい。


 若いから。


 若いから、彼。



 私も。


 卒業して、地元に戻ったのも束の間、

 彼との子を守るため、

 この地へ嫁いだ。



 淋しい なんて

 感じる暇もなく、

 毎日を生きることに必死で。


 ちいさな命を守ることに必死で。


 立ち止まってなんか いられなかった。



 私、今、ひとり?


 そんなことを考えてしまうと


 ふと 夜の闇に 吸い込まれていきそうになる。


 彼は、私を愛してくれているのだろうか。


 むなしさを覚えてしまう。



 私だけを 見てくれている訳ではないことを

 先日知った。


 彼が毎晩帰らない理由。



 あぁ……



 何故。ひとのものを欲しがるの?


 私のものを奪わないで。

 そう 言えたら いいのに。



 私が何をしたというの?



 たまたま、脱衣所でなっていた彼の携帯電話ケイタイに、後輩の女の子の名前が浮かんでいただけなのに。


 私も知っている女の子。


 何故?

 何の用?



 私は、彼にとって 何?




 ここから飛びたい。飛んだら自由になれるかしら?


 あぁ。

 でも。その前に、あの女の子にお仕置きをしなくっちゃ。


 ひとのものを 勝手に奪っては いけませんって。


 許さない。



 その思いで、

 私は 少しだけ前を向こう。


 許さないから。




 私は、思い切り息を吸う。


 夜の闇に 思い出を溶かして。



 真っ白なページに

『あなたを愛してる』と書いた。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る