後輩

 ひとりで過ごす時間が増えた。


 学生がひとつ上がった。



 隣のクラスなのに、やたらと私に声を掛けてくる。アイツ。


 たまたまなのか、同じ授業にいることが多い、アイツ。


 絡むアイツは、実は同い年。


 1浪して入ってきたからって


 私のことを先輩とは呼ばない。



 アイツと同じ授業を選択していて。


 課題をペアでこなさなければいけなくなって、


 アイツの下宿先に呼ばれた。


 断りたかったけど、

 私は寮に住んでいるから、異性が呼べない。


 明日の発表に間に合わせるためには、どうしてもアイツのところへ行くしかなかった。



 ひとつのコタツに いくつもの本を広げて、議論を交わして、

 発表原稿を作る。


 完成間近で、

「あとは、ぼくがやりますから」

 って 送ってくれたアイツの優しさに

 下心は

 本当に なかったのだろうか。


 チリチリと

 壊れかけた電灯の下

 アイツは

 いつも通りの笑顔で

 私を寮まで送り届ける。




「ぼくね、◯◯先輩がうらやましかったんですよ」


 突然に、あの人の名前が出される。


「ミコさんのこと、好きです」


 告白?!


 突然のこと過ぎて、歩みが止まる。



 アイツの手が、私に触れようとして

 くうつかむ。



「でも、ミコさんは ぼくのこと何とも思っていませんよね」



 アイツの笑顔がゆがむ。声が震えている。


 私は、動けない。


 互いの 息が白い。





 この夜、

 私がアイツの手を取ったなら、

 未来は変わっていたのだろうか。



 私は、

 アイツの想いに何一つ応えられなかったことしか、思い出せない。



 アイツの胸で泣くことができたら、

 私は少しは可愛気かわいげがあるって 思われたのかな。







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