先輩

 あの人は、私より先に卒業していった。


 年上なのだから、当然なのだけど。


 実習の後は、

 卒論で忙しいから という もっともらしい理由で、私を遠ざけた。


 あの女は近付けたくせに。


 私か知らないとでも思っているのかしら。


 年下の私では、何が不満だったのかしら?



 あの人の方から、声を掛けてきたくせに。


 入学したばかりで。

 地元を離れて来た私に。


 自分も同郷の出身だから。と、

 土地勘のない私に、色々と、教えてくれた。

 優しくしてくれた。


 なんとなく、付き合う感じになった。



 あの人の下宿先に案内されると。

 彼女が作った夕飯が、置いてあった。


 あれは、何?

 って訊いても、


「捨てるから」

 と答えたあの人。


 その口で、私の唇を塞いで。

 私を奪った。


 私を縛り付けた。



 次の日には、

「彼女とは別れたから」

 って、

 私の夜を独占した。




 思い返せば、

 始まりからして不穏だったのかも。



 そんな、

 あの人の卒業式に、

 あの女の笑顔が映る場になんて、

 私は行かない。

 行くものですか!




 後日。

 あの人が去った後の下宿を

 ひとりで見に行った。


 次の入居者は 未だ、来ていない。


 壊れかけていた あの自転車も なくなっていた。



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