第23話 〜過去〜

「失礼しまーす」

緊急時とはいえ、個別スペースだからな多少の罪悪感はある。

しかし知恵の神はあまり気にしない様子で踏み込んでいく。

何かがあるのを確信しているかのようだ。

「あっ」

俺は見覚えのあるものが視界に入ってきた。

世界創造するときに試しに描いたベッドである。

「なんで全能神のところに」

知恵の神はそのベッドを躊躇なく横にずらす。

「ありました」

そこには何か渦を巻いている穴が空いていた。

知恵の神はそのまま飛び込んでいった。

「あっこら」

俺も慌てて飛び込む。身体が暖かい何かに包まれ飲み込まれていく。

ゴーンゴーン。鐘の音が響く。

知恵の神はどこだ。

俺は辺りを見回して息を呑んだ。

知恵の神のその奥にボロボロの全能神がいた。

全能神の左右には鎧に身を包み、槍を持った執行人がおり、クロスしている片方の刃が全能神の首元に触れているようでうっすら血が滲んでいた。

どう言う状況だこれ。にしても時間がないぞ。

俺は何か描こうと思いペンを取り出した。しかしペンを走らせても何も描き表すことができずただ空を切るだけだった。

「くそここでは神の力は使えないのか」

「あなたは重罪を犯しました。間違いはございませんか」

どこからか声が聞こえる。

全能神は表情を変えずに「はい」と言った。

「読み上げた罪状に同意したとみなす。それでは最終判決を下す」

知恵の神が全能神の方へ駆け出した。

俺もそれを追いかける。どうにかできるとは思っていないが、何もできないよりはいい。

知恵の神の登場に場内の見えない観衆がざわつく。

裁判長は事態を把握し「捉えろ」っと下の者達に命令した。

「危ないっ」

俺は知恵の神を庇う。左右から電撃を喰らった。

「こんなの悪魔の雷に比べれば痛くもないぜ」

俺は知恵の神を守りつつ全能神の方へ徐々に近づく。

裁判長はこれ以上邪魔されないようになのか判決を下した。

「最終判決を下す。”有罪”」

全能神の首にあった刃は判決が下された瞬間に片方が動き、全能神の首を刎ねた。

近くにいた知恵の神と俺は首が飛んだ時の返り血を浴びた。

「お前らもこれ以上長居するなら裁くぞ」

裁判長が告げた。

俺は知恵の神を連れて戻ろうとする。

しかし知恵の神は全能神の亡骸へ近づくと何かを拾い上げた。

俺は知恵の神を抱え元の第8世界へ、全能神の寝室へと戻ってきた。

他の神達がこちらを見る。

俺は「間に合わなかった」と言うのが精一杯だった。

命与神と芸術神は崩れ落ちた。

「嘘でしょ。神って死ぬの」

「胡散臭い笑顔で冗談ですってどこからか出てくんだろ」

軍神が俺と知恵の神に近づくと「ご苦労だった」と背中を抱き寄せた。

俺は膝を折った。

目の前で見たのに、嘘だったのではないかとどこかで思っていた。

みんなの顔を見て気が抜けたのか、頭が真っ白だった。

それからどのくらい時間がったのだろう。

知恵の神がふらふらと動き出した。

「知恵の神」

おそらく精神的ショックが1番大きいであろう知恵の神。

「まだ休んでいていいじゃぞ」

発明神が知恵の神を支える。

「次の神のトップは誰がやるの」

誰かが呟いた。

「……」

それに答えられるものはいなかった。


知恵の神はぶつぶつの何かを呟いていた。

その様子にみな心痛な面持ちだ。

しばらくするとふらふらなまま手に棒を持ち何かを描き始めた。

愛の神が何かを察知して知恵の神の棒を奪いそして、描いていたものを足で消した。

愛の神はそのまま知恵の神を魔法を使って眠らせた。

俺はベッドを描いてやる。

豊穣神と発明神が知恵の神の様子を見ていると申し出てくれたので、残りの神は場所を移動して話し合いをすることにした。

「ここで落ち込んでいる間に創造した世界は動き続けている。我は一度様子を見に行こうと思う」

「私も行く」

冥界神、水神、重力神、破壊神、模倣神は軍神と一緒に巡回しに行った。

残った俺と命与神と愛の神は今後についてどうすればいいのかを話し合うことにした。

「何が……何がいけなかったの」

命与神が弱々しく呟いた。

「お前らって本当になんも知らないよな」

悪魔が喋り出した。

「あいつは俺のいた悪魔の世界を滅茶苦茶にしたんだぞ。本当に今でも怒りが込み上げてくるぜ」

「……あんたがこの世界を襲ったのは、元はと言えば全能神のせいなのか」

「知らん。本当は神と悪魔は協定を結んでいるからお互いに干渉することは禁止だったんだ。それを何代も守ってきていたのに、あいつは約束を破り襲ってきた」

「ちょっと待て何代もってことは俺ら以外にも神がいたってことか」

「当たり前だろ。むしろなんでこんなに神がいないんだよ」

「なんでって。悪魔はもっといんのかよ」

「当たり前だろ。悪魔はだいたい1000年生きるんだ。その間に仲間が増えていくのはおかしなことじゃないだろ」

「ってかお前は裁かれないのか。神の世界に不干渉なんだろ」

「神が破ったことによってその協定は破棄されたんだよ。だから俺は裁かれない。ってか早く俺を元の世界に帰してくれよ」

「あらぁごめんなさいね悪魔さん。あなた物知りだからもう少し神と悪魔の世界。いえ歴史について教えてくれないかしら」

愛の神の言葉に悪魔は頬を赤らめるとデレデレする。

「あらいい子ね。それじゃあこの世界の歴史について教えてくれないかしら」

「言っとくけど俺だって聞いただけの部分もあるから質問はしてくるなよ」

その昔、惑星も何もなかった頃。悪魔も神も同じように生活を送っていた。

そもそも悪魔と神という区別すらなかった。

しかし特に何も起こらない日々に退屈さを感じ、惑星というものを作り出した。

最初は1つだった惑星、放っておいても進歩する世界に神々は感動しいくつもの惑星を生み出した。

惑星を作るだけで満足していた神々は、次第にそれぞれの惑星の中へと侵食を始める。

乗り込んで気づいたんだ。自分達の存在が完璧であると。

そこで神は自分達を崇めるといいことがあると唆した。そして悪いことがあるとそれは悪魔のせいだと吹き込んだ。

その時から、一部の神は気に入らない神を悪魔と呼ぶようになり、迫害し始めた。

悪魔と神はそれから争いをすることが増えた。

「あれは俺が誕生して間もない頃だった」

悪魔軍と神軍の大戦争。

互角の戦力でどちらの軍も7割以上の損害が生じた。

どちらが負けになるまで続くはずだったその戦いは、”裁定者”の登場によって終結を迎えた。

裁定者は悪魔と神の世界を分断すると互いに干渉をしないように、当時のそれぞれのおさの血で契約を結ばせた。

裁定者はそれだけではなく、惑星を全て消滅させ、神と悪魔それぞれの能力に制限をかけた。

完璧だった存在はどこにも存在しなくなった。

「これくらいで歴史はいいか」

「えぇありがとう悪魔さん。そろそろあなたを返してあげないとですね」

「おぉほんとかありがとな」

愛の神は悪魔の入っている瓶を持つと、その瓶を持って時の狭間へ持って行った。

「さてどうして神は少ないのかしらね」

「それはまた、軍神達が戻ってきたら話しましょう」

「あぁそれがいいな」


しばらくすると軍神達が戻ってきた。

「特に変わった様子はなかった」

「それはよかった。今回の件、そして今後について話さないか」

軍神も大きく頷き、知恵の神以外の全員が集まった。

知恵の神はまた暴走する可能性があるので、見える位置で話し合うことにした。

「えーっと今回の件だが、どこから話し始めればいいだろうか」

軍神は悩んでいるようだった。

「あのぉ悪魔ももういないんですよね」

模倣神が発言した。

「えぇ裁定者に引き渡してきたわ」

それを聞いて安心したのか模倣神の顔が変わった。

「あの。俺ずっと言わなきゃいけなかったんですけど、言えなかったことがあるんです」

模倣神は複雑な表情をして続けた。

「皆さんが知っている全能神ですが、あれは本当は全能神なんかじゃありません」

予想外のカミングアウトにみんなざわつく。

「あの。俺全能神には先に顕現したって紹介されて、皆さんも映像を見たと思うんですけど、あれはフェイク動画です」

「えっちょっと待ってどういうこと」

「俺が顕現した時、全能神……あいつは真っ先に俺の魂を奪いました。そして俺の言った通りに動けと脅迫してきたんです。俺らが第5世界で並行世界から攻撃を仕掛けるというのも、あいつの指示でした」

「じゃあ世界をコピーしたっていうのも嘘」

「えぇ嘘です。あそこは全能神が待機場所として作った言わば控室と言ったところです。僕を断罪していた時のあいつの表情と言ったら、本当に今思い出しても気持ち悪いです」

一体誰を信じたらいいんだ。よくわからなくなっていた。

「言っておきますけど、あいつは神からも悪魔からも追放された存在です」

「追放?両方から」

「えぇ、あいつは両方の血が混ざってますからね。自分で神界に暮らしていた神を全滅させたと自慢していました。悪魔の方はどうやら全滅させるには敵わなかったらしいですけどね」

「なんで模倣神の魂だけ奪っているんだ」

俺は疑問を口にした。

「待って他にもあいつに何かされたやついるのか」

周囲を見渡すがみんな下を向いている。

「命与神お前が次にあいつと一緒にいる時間長かったんじゃないのか」

命与神は首を横に振った。

「私は本当に何も知らないの。私の前ではずっといい人だったもの。生み出したはずの神が顕現しないことがあった。でもそれはまだ私が未熟だから仕方ないって……」

「そうか、次は俺だよな権限したの。俺は世界の創造で最低限しかあいつと関わってないし、最初の頃はずっと寝てるって言っていたから本当に寝てるもんだと思ってたが、それも嘘なのかもな。俺が世界創造している時は基本いないからな」

「全員の話を聞いてもそこまで証言出てこないんじゃないか」

軍神が言った。

「そもそも本当にあいつ単独なの?この中に仲間がいたりするんじゃないの」

芸術神が声を荒げた。

「そもそもあいつは断罪されたんだから、いたとしてもあいつに恨みを持つ者だろ」

誰が味方で誰が敵なのか。みんなどの情報が正しい情報なのかを精査しきれずにいる。

ギスギスとして重い空気が流れる。

くっくっく。今まで黙っていた発明神が笑い始めた。

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