第13話 〜絵を描くということ〜

「さてそれじゃー始めるかー。こっちは……冥界か。お前にもペン渡すから適当に描いていいぞー」

俺は模倣神にペンを渡す。

「……」

模倣神は虚空を見つめ固まっている。

「どうしたー?具合でも悪くなったか?」

「……えーっと……絵ってどうやって描くんですか」

フハッ

俺はつい吹き出してしまった。

「ごめんごめん」

模倣神は軽く睨んでくる。

「まぁそうだよな」

俺も最初世界創造よろしくねと言われた時のことを思い出す。

「他の神は普通に描いてたから気にしてなかったけど、安心したわ。ありがとな」

俺は資料を漁りながら模倣神に問いかけた。

「描きたいもの何かあるかー?資料渡すから」

「……き」

「ん?よく聞こえないぞ」

「武器……とかって描ける」

「おっ待てよ。今まで描いてこなかったな。今資料渡すからそれ見ながら描いてみてくれ」

俺は武器がまとめられた資料を探し、模倣神へ渡す。

軍神がいるくらいなのだから、武器があっても問題ないよな。

まぁここ冥界だから、冥界神が武器を管理することになるだろうが。

俺はこの時の考えが間違いだということに、後々後悔することになる。

俺は模倣神が資料を見ながらうーんと悩みながらペンを進めるのを横目に見ながら自分も手を動かす。

天界と冥界は同じ惑星上に存在するが、その実繋がってはいない。

惑星の中心の面から上下にそれぞれ2つずつ平面があり明確に分けられている。

死者は天界と冥界どちらかにそれぞれ分けられると、さらに階層によって生活する土地が変わってくる。

ちなみに冥界は中心に1番近い層が罪が軽く3層目はもはや存在が消滅するらしい。転生すらできないものが3層目で消滅する。

俺は冥界神から3層目は苦しみながら消滅できる環境にしてと言われたので、それはそれはぐつぐつなマグマを描く予定だ。

熱そうだなとは思うものの、俺は神の特権で熱さは感じない。そういえば第2世界モノクロ世界の外側に触れると神でも消えるって言ってたけど、マグマは平気なんだなー。俺が描ける範囲のものでは消滅はしないってことだろうか。

話が逸れたが、今俺と模倣神がいるのは冥界の1層目だ。

ここはだだっ広い岩の土地である。

俺は機能を使いざっくりと高低差をつけると、色を染めることにした。

茶色と黄色の間の色で全体を染めただけだが、なんとなく雰囲気は出た。

あとは全体を俯瞰して少し色の濃さなどを調整していくだけでよさそうだ。

ちなみにだが、この冥界1層目の空はどんよりとした色にするように言われているので、灰色で染め上げた。

土地はこんな感じでいいとして、あと何欲しいって言ってたかな。

元々は自由に創造していいと言われていたが、実際にここの世界を作り始めると、冥界神はそれぞれの階層のイメージや創って欲しいものをリストとして作っていた。まぁこれは最低限欲しいものなのだろう。

「えーっと、ここは建物は全部で9箇所だな」

どれも同じ建物でいいと言われていたので、1つだけ描いて模倣神にコピーしてもらおう。

俺は凸のような形をした外観の建物を1つ描いた。

「模倣しーん……」

模倣神の方を見ると、大量に武器が生成されていた。

「それコピーした?」

俺は銃を1つ手に取ると、細部を確認した。渡した資料の細部まで忠実に描かれていた。

「コピー?ちゃんと描きましたけど」

「くそっ。なんで上手いんだよ」

模倣神はキョトンとしていた。

なんで俺だけ絵が下手なんだよ。おかしいだろ。と叫びたい思いを飲み込み俺はやるせない気持ちでいっぱいだ。

「まぁいい、楽しいか?」

「……よくわかりません」

「そしたらお前も見たものを描くんじゃなくて自分でなんか想像したものとか、描いてみたらどうだ?」

「想像したもの?」

やはり模倣するのが能力なだけあって、生み出す楽しさを知らないようだ。

「あー例えば、乗り物とか自分の使い魔とかさ、なんか欲しいと思ったもの」

「欲しいもの?」

こいつ欲とかないのか。

「あーわかったわかった。俺が試しに書いてやるから」

俺は雲のようなベッドを描いた。

「ほらどうだ?こんなふわふわなベッド最高だろ?」

模倣神はじーっとベッドを眺めると、急にペンを動かし始めた。

その後何度も描いては消してを繰り返し、やっと描くのをやめた。

「おっ完成したか」

直径2mくらいの球体に鎖が沢山巻き付けられていた。

「はい。完成しました」

模倣神はどこか満足げな表情だ。

「それでそれはなんだ?」

「えっ?わからないですか?」

「えぇ、はい無知な神ですいません」

模倣神を傷つけないように確認をする。

「これはムカついた神を閉じ込める入れ物です。中にも仕掛けがあって……」

生き生きと話す模倣神の言葉が途中から入ってこなかった。

「模倣神。君は疲れています。さぁこのベッドに入って、アイマスクをして、アロマを焚いて寝ましょう」

半ば強引にベッドへと押し込む。

模倣神はえーっと言って不満げな表情をする。

「冗談ですよ冗談」

そんなやりとりをしていると、突如来訪者が現れた。

「やっほー創造神。順調?」

冥界神が進捗状況を見に来たようだ。

「おっ何これ?」

冥界神は模倣神が先程作った。鎖のついた球体に興味津々だ。

げっ。嫌な予感がする。

「それは無視してくれ。模倣神が初めて自分で描いたものなんだ」

しかし冥界神は球体を開け中まで確認し始めた。

「いいねコレ」

冥界神が無表情のまま言った。

「本当っすか」

横になっていたはずの模倣神がガバッと起き上がった。

「うん」

冥界神が頷いた。模倣神の嬉しそうな表情にどうしたものかと悩む。

「あっ、武器もいっぱいある」

その辺に沢山山積みにされていた銃を見つけた冥界神。

「これバレットM82?こっちはCz75?」

目を輝かせながら量産された武器を確認していく。

資料を渡しただけの俺。そして渡された資料の通り描いただけの模倣神。

2人で顔を見合わせた。

「その辺にしとけ」

俺は冥界神を止めた。

「えっなに?今いいところだから止めないで」

「没収ー」

俺は冥界神から武器を奪うと大きな袋に詰めた。

武器を没収された冥界神は少しムスッとした。

「それで冥界神は何しに来たんだ?」

「進捗確認」

先程までの饒舌さが嘘のようにいつもの話し方に戻った。

「順調も何も、見ての通りだけど」

冥界神は辺りをキョロキョロ見渡す。

「ここ《1階層》だけ?」

「あぁ」

「ここできたら呼んで」

そう言い残すと去っていった。

「なんだったんだ」

冥界神がいた方をしばらく見つめていたが、作業に戻ることにした。

「そうだ模倣神頼みたいことがあるんだがいいか?」

俺は模倣神に描いていた建物を8つコピーして欲しいと依頼した。

模倣神は嫌な顔もせずコピーしてくれた。

コピーした建物の配置が終わり戻ってくる。

模倣神は冥界神に褒められた創作物が嬉しかったのか、よくわからないものを生み出し続けている。

俺は仕方なく。生み出したものを第8世界神の世界の模倣神のエリアあたりへと転送する。

俺は1層目が完了したので2層目へと移動しようと改めて辺りを見渡すが、ここ冥界っていうか、軍隊のための施設のような気がするなと思った。

もしかして軍神とここで軍隊でも作り上げるんじゃなかろうか。

しかし俺はその物騒な考えを追求するのはやめた。

「俺は2層目に行ってくるが、模倣神ここで描いているか?」

俺は一応模倣神に声をかけた。

「いえ、俺も行きます」

意外にも模倣神はついてくるらしい。

「……あーそうか。じゃあ行くぞ」

俺は約束通り冥界神に1層目が完成したと伝えると、模倣神と一緒に2層目へと移動した。

俺は冥界神からの依頼通り、雷が轟く大地を作り上げた。

ここは先ほどとは打って変わって、針のような山、どす黒い池、雷が落ちる滝などなかなかにハードな仕様だ。

模倣神は鋭利な針を描くとコピーした針を配置し、その他にも拷問っぽいエリアをそれはそれは楽しそうに描いた。

さて残る3層目。マグマだけを描く場所。

死者だろうがお構いなしなんだろうな。俺はあまり物騒なことは考えずに淡々とマグマを描いていった。

模倣神に手伝ってもらいながらなんとか冥界が完成した。

俺は冥界神に冥界が完成したことを報告すると、冥界神は軍神、破壊神、重力神を伴ってやってきた。

「創造神ありがとう」

冥界神はそれだけいうと他の神を連れてどっかに行ってしまった。

「まぁいいか。それじゃあ俺は天界の方へ向かうけど模倣神はどうする?」

模倣神は少し迷っている様子だ。

「別に他の世界へ遊びに行ったり、水龍や知恵の神のところへ行ってきてもいいんだぞ」

「それじゃあ俺水龍に会いに行ってきます」

模倣神は悩んだ末、水龍の元へ行くことを決意した。

「おぉちゃんと会話してこいよ」

俺は前へ進もうとしている模倣神を見送った。


俺は天界の1層目に来る。

冥界には冥界神いるけど天界神っていないのか?

天界も階層が分かれているが、何を描いたものか悩んでいる。

ふと気配を感じた方向を見る。

気のせいかと思っているとまた違う方角から気配を感じる。

「おい。誰だ?」

姿を現さないのにこちらを見ているような状態はとても気持ちが悪い。

俺は気配の感じた方に声をかける。

「すいませんんんんんん」

急に目の前に長い髪の毛が現れ、後ろにのけぞってしまう。

何だなんだ。俺は急に現れた神の全体像を掴むといつも通り挨拶した。

「えーっと初めましてで大丈夫ですかね。俺は創造神です」

髪の長い神は俺と同じ方向に回転し正常位に戻ると長い髪で顔を覆ったまま挨拶をした。

「はい、初めまして。天界神です」

俺は若干引きながらも話を続けた。

「早速で悪いんですが、天界どうします?」

すると天界神は急に笑い始めた。

「えっ」

状況が飲み込めずにいると、天界神は頭から長い黒髪を外した。

「えっ?お前冥界神?」

冥界神(?)はくすくす笑う。

「私は天界神です。冥界神の裏側を担当してます」

「……えーっとすいませんどういう状況ですか」

冥界神と別個体なのか同じ冥界神が分裂したのか、それとも双子なのかよくわからなかった。

「ごめんなさい。冥界神と同じ容姿をしているから困惑しますよね。時期によっては私が冥界を見ることもあるので、冥界神と天界神は2つで1つだとお考えください」

「……はぁ」

同じ容姿だけど、別の個体ということだけはわかった。

「あっ、それで天界をどうしたいかって話よね?」

天界神はマイペースに進める。

「あ、あぁ」

「天界は実力社会にする予定なので、学校のような場所にしてくださると助かります。スタートは皆一緒。上に行けるのは努力したもの。そして運がいいもののみ」

それじゃあ誰も上の層に行けないのではと思ったが、何か考えがあるのだろう。ツッコまないことにした。

「あら?何か気になる点でもあります?せっかく天界にきたのに悠々快適な暮らしができないのかーとか?徳を積んできたのにここでは意味がないのかーとか」

何も言ってないが天界神の笑顔が怖く何も言えない。

「ここは死者の世界。天界と言ってもいつまでもここに留まらせるわけにはいかないの。ここでは上の階層にいけるものだけが、行きたい惑星を選べるの。下に留まるものはランダムに飛ばされる。人で生まれたいか動物がいいか、その他の生物がいいか。それは本人たちの努力次第よ」

「そ、そうですか」

天界神はなかなかに厳しい神のようだ。

「まぁそれでも抜け穴とか色々あるんだけどね」

不敵に笑った。

「事情はわかりました。イメージのような色合いや風景などありますか?」

「ん〜そうねぇ〜隠し扉や隠し通路などトリックを沢山作ってください」

「はっ?トリックですか?」

「そうよ。運も実力のうちってね。そういう要素も大事なのよ」

なるほど物理的な抜け穴の話だったのか。

「わかりました。そのように作ります」

「ほんとーよろしくね」

冥界神のテンションとは正反対な天界神。この神が冥界に行ったらとんでもないことになるんじゃないか?

俺はまたも余計な想像をしないように作業に取り掛かることにした。

まず、学校だが、3層に別れているがその部分を一旦ぶち抜き作ることにした。

それにしても巨大な学校だよな。

天界ということでなんとなく雲の素材の学校も楽しいかなと思ったが、隠し扉や隠し通路を作るとなると雲は難しい。

うーんでも雲の中に隠すも面白そうだから、一部そういう場所も作るか。

俺は学校という概念だけで、使っている素材等については面白そうと思ったものだけで創ることにした。

池の一部が実は上の階への繋がっていたり、その辺に飾ってある絵画が実は隠し通路への扉だったりとなんでもありのファンタジー世界だ。

いや、そもそも今まで創ってきた世界もファンタジーのようなものか。

この天界が創り終われば俺もとうとう神の世界第8世界を創って終わりか。

よしっ。気合を入れ直し一気に描き上げていく。


「よっしゃー終わりだ」

俺は天界も描き終えた。これで第7世界までの全世界を描き終えた。

長かった……。全能神に世界創造よろしくねと言われてから、あまりにも色んなことがあったが、振り返ってみてもとても苦労した思い出である。

全能神やってくるかと思ったが、先に違う神が姿を現した。

「やっほー!天界創り終わったみたいね。直して欲しいとことかあったら君呼ぶからよろしくね」

そう言い残して天界神は去っていった。すると入れ違いに冥界神がやってきた。

「創造神お疲れ様。天界神迷惑かけてない?」

「あ……。あぁお前ら顔は似てるのに中身全然違うな」

冥界神はコクリと頷いた。

「本当にね。たまに私がこっち《天界》を担当することになると思うんだけど一瞬でバレそう」

「バレたらまずいのか?」

「まぁ良くはないよね」

「そこは二重人格とか、季節によってとかでうまく誤魔化すしかなさそうだな」

「うん」

「はいはいはーい」

ハイテンションな声が聞こえ、そちらを向く。

全能神含め顕現されている神が全員姿を現していた。

「創造神さん7つの世界の創造お疲れ様でした。投げ出したくなることも」

「はいはい長くなるからやめような」

全能神を遮る芸術神。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る