第12話 〜自分の居場所〜
一箇所ものすごく盛り上がっているところがあった。
俺と発明神はそちらに向かう。
「いやぁ〜美味しいですね」
「そうでしょ〜ほらもっと飲んで」
俺はとんでもない光景を目の当たりにした気がした。
全能神が模倣世界にいた女神達に酒を飲まされて酔っ払っているようだ。
顔が緩み切っている。
俺はそれをデータとして収めておくべく、猫ロボを起動し、動画を回した。
俺はしばらく眺めていたが、アホすぎる全能神へと近づくと頭を小突いた。
「おい、全能神何やってんだよ」
「あれれ?創造神ですか〜君もこのお酒飲んでみるといいですよ」
かなりハイテンションになっていた。
俺は隠し持っていた、水を全能神の口へと押し込んだ。
「全くあんたは何やってんすか。しっかりしてくださいよ」
しかしすでに遅すぎたのか、酔いが覚めそうもない。
俺は
そして、俺もそこにいた神に捕まった。
「創造神さんもお酒飲みましょうよ。楽しくなれますよ」
「……」
もともといた神達とは違う色気に少し絆されそうになるが、そんなことをしている場合ではない。そんなの世界創造が終わったらいつでもできるし、そもそもこの神達の力すら把握していない。
「君たちは何の神なんだ?」
豊満な体に似合わず目が大きく愛らしい顔の神。ウェーブがかった髪から顔を覗かせると不覚にもドキッとした。
「私は愛の神です」
そう言って俺の右腕に絡みついてきた。
気づくと左側にも神がいた。左目の下にホクロがあり顔も体も色っぽいお姉さんが俺の左太ももに手を置き、耳元で囁いた。
「豊穣の神よ。よろしくね」
だめだこれは。全能神の理性が飛ぶのも仕方ない。
俺は酒を勧めてくる彼女達からお酒をもらうと口元へ運ぶ。
飲もうとしたその時、ゴホンと咳払いが聞こえた。一緒に来ていた発明神である。俺は急いで彼女達から距離を取り発明神の方へと行く。彼女達は不満そうだったが、もう一度全能神の方に戻っていった。
僕は発明神に聞いた。
「あの……あの女神達はあれが日常なんですか?」
しかし先程までそこにいた発明神はいなくなっており、気づけば先程俺がいいた場所に行って酒を飲んでいた。
おいおい。さっきの咳払いは何だったんだよ。自分も飲みたかっただけかよ。俺は溜息しか出てこなかった。
ここにいてもいい事ないな。俺は知恵の神の様子を見に行くことにした。
こちらは先程の空気感とは全く異なり、やはり筋トレに励んでいた。
そんなに長時間筋トレして何になるって言うんだ。
俺はお辞儀だけすると、知恵の神の方へと向かった。
俺がいなくなる前と変わらず、すやすやと眠っているようだ。
安心すると俺は軍神の方へと向かった。
軍神と一緒に片手だけで腕立て伏せをする神達。みんなそこそこ筋肉には自信があるのだろうか苦しげなくこなしている。
「忙しいところすまん」
俺は3神に話しかけた。軍神と一緒にいる彼らに自己紹介をした。
「これはこれはご丁寧に。私は破壊神と申します。以後お見知り置きを」
軍神よりは少し若い見た目をしている紳士。見た目もスマートでどこに筋肉があるのだろうか。
「俺は重力神です」
こちらも短髪黒髪で爽やかな青年である。
彼らはしばらく軍神と一緒に筋トレを続けるらしい。
全能神にも多少こっちを見習ってほしかったよ。
先ほどの泥酔する全能神の様子を思い出す。
「なぁ他の神ってどこにいるのか知ってるか?」
俺は軍神達に聞いた。
「水神は第3世界にいると思います」
重力神が答えた。
「なるほどもう1神は水神なんですね。挨拶していないので探してみます」
引き続き知恵の神のことは軍神に任せて俺は
俺は巨大な水中生物や見た目が毒々しい魚などのは極力近づかないように注意しながら、水神を探した。
「これだけ生物がいると水神探すの大変そうだ」
水神の顔さえも朧げな俺は無駄足になるんじゃないかと思った。
しかしこの水の世界。綺麗な世界に俺は心が洗われた。
ゆっくりと泳いでいくと生物が急にいなくなった。
さらに奥へ進むと、水神らしきものが見えた。
俺はどんどん近づいていく。
すると水神らしきものが大きな龍のような生物になった。
俺は目を凝らすともう一度そちらをみた。
しかし気のせいだったようだ。そこには小さな影しかなかった。
「すいじーん」
俺は叫ぶとそちらに近寄っていった。
水神の姿が、はっきりと認識できるようになった。
水神は知恵の神よりは大人っぽかったが、まだ幼そうだ。
水中にただただ浮かんでいた。
俺はもう一度水神を呼ぶ。
彼はちらりとこちらを見るがまた視線を元に戻した。
感じが悪いなと思ったが、そのゆっくりな動きを見ているとただただぼーっとしているだけなのかもしれない。
俺は水神の目の前まで移動すると挨拶した。
「俺は創造神。君が水神で間違いないかな?」
水神はじーっとこちらを見つめるとコクリとゆっくり頷いた。
「ここで何してるんだ?」
水神は俺の後ろを指差した。
するとちょうど夜が明けるところだったようで、外が明るくなっていく。
「好きなのか?」
水神はまたゆっくりと頷いた。
「もしかして水神は話せないのか?」
水神は大きな瞳を揺らめかせた。
「そうかそれは大変だな」
水神はゆっくり首を横に振った。
「大変ではないんだな。神格レベルが上がると会話できるようになったりするのか」
水神はこちらを見つめた。
するとどこからか声が聞こえた。
「声がなくても、直接心に話しかけることができる」
もう一度水神の方を見る。
「そうかお前凄いな」
知恵の神と同じく可愛い子認定をした。
「お前は元いた世界の神とは仲良くないのか?」
今1人で過ごしているこの状況に違和感を覚える。
「そんなことないよ。いつも模倣神が近くにいてくれた。僕のテレパシーが届く神とそうじゃない神がいるんだ。君には届くみたいでよかった」
水神は少し嬉しそうな表情をした。
「あれ?でも発明神なら何かいい機械作ってくれるんじゃないのか?」
水神は首を横に振った。
「発明神は僕が無口な子だと思ってるから、こうやってコミュニケーションをとっていることすら知らないと思う」
模倣神はコミュニケーションが取れることを知っているのに、発明神には伝えなかっただろうか。模倣世界の神達には複雑な事情があるのかもしれない。
「そういえばお前は龍なのか」
俺は先程一瞬だけ見えた龍について聞いてみた。
水神はとても驚いた目をしていた。
「君には僕の本来の姿が見えるんだね」
この子は寂しい思いをしてきたのだろう。知恵の神と歳も近そうだし、知恵の神が元気になったら、ぜひ合わせてやりたいなと思った。
「
「あぁ満足するまでいるといい。水神は
「ありがとう」
俺は水神もとい水龍の頭を撫でてやる。
「そういえば水龍は模倣神がどこにいったのか知ってるか?」
水龍はフルフルと首を横に振った。
「わからない。でも多分寂しくしていると思う。彼は不器用だから」
「そっかありがとな。第1世界から順番に探してみるわ」
水龍はコクリと頷くと手を振って別れを告げた。
さて
俺は意を決して
俺はいくつかある都心部を見て回った。場所によって全く変わっていたが、それでもなぜか違和感は感じなかった。
そして変わってない場所を見るとホッとした。
ここから始まった。俺の創造世界。
ぐるっと一回りしたが模倣神は見つからなかった。
続いて第2
他の世界を照らす惑星なのに、この惑星の中はモノクロの世界っていうのはなんだか寂しい気がするな。
そして見た感じ特に生物は住んでいないようだ。
同じく模倣神の姿も感じられなかった。
そういえば軍神に会った時、中心部の光について随分調べていたが、結局何か異常はあったのだろうか。元々は存在してなかったって言ってたっけ?
しかしこの謎の光源を動力としてこの世界は動いていた。
機械があちらこちらを動き回っていた。
人間と同じ見た目をしているものがいるがあれも機械なのだろうか。それともこの世界に生まれた人間なのだろうか。疑問に思ったものの考えたところでわかるはずもなく、深く考えることはやめた。
中心部に近づくと歯車がゴゴゴと動く音が聞こえた。
そしてやはりこの世界にも模倣神は見つけられなかった。
次は
巨大な鳥のような生物の背中に乗ってみたり、走るのがものすごく速い生物と競争してみたり、一瞬何しにここにきたのかを忘れた。
ぐるっと世界を見て回ると喜怒哀楽に会った。
彼らは久しぶりの再会をとても喜んでくれた。
新しく増えた仲間や生活スペースなどについても教えてもらった。
模倣神がいないということももちろんわかった。
全能神はまだ起きないだろうか。完成したので早く次の世界の創造に取り掛かりたいものだけど……。
別に先に創造しに行っても問題ないか。俺は第7世界である死者の世界へと転移した。
死者の世界ははいわゆる天国と地獄に分かれているようだ。たまたま転移してきたこの場所から見える雰囲気が全然違う。
死んですぐに天国と地獄に振り分けられるのだろうか?それともどちらに行くのかを裁くものがいるのだろうか。
俺は死者の世界がどういうふうに成り立っているのか知らないので、今度冥界神にあったら聞こう。
するとどこからか急に模倣神が現れた。
「おい、お前」
俺は模倣神の腕を掴んだ。
はずだった。しかし俺の手は虚しくも宙を掴んだ。
その後何度か模倣神の姿が見られたが、彼を捕まえることはできないでいた。
「どういうことだ」
頭を抱えていると「やっほー」とここの世界の神が現れた。
「冥界神」
「創造神くるの早いね」
「あぁ
「ほうほう。それならこの冥界も楽しい世界にして欲しいよー。まぁ冗談だけど」
抑揚のない声のトーンで言われて嘘か本気か全くわからない。
「そうだ冥界神に聞きたいことがあるんだけど」
俺は先ほど見た模倣神について聞いてみた。
冥界神は驚くこともなく答えた。
「あーそれはまずいね」
「何がだ?」
「模倣神が自分の存在を消そうとしてるかも」
「はっ?」
「ほら、神ってそう簡単に死なないでしょ」
言われてみると、確かに死というものについてあまり考えたことはなかったが、自衛できるのでそう簡単に死なないのだろう。
「そう……だな」
「だけどみんなから否定されたり、忘れられたりすれば消えてしまうし、望んで消えることもできるみたいだよ」
冥界神も誰かに聞いた情報なのだろう。断言はしなかったが先程の幻影のような模倣神の姿に心がざわつく。
「まさか」と言いかけて飲み込んだ。
あんな事件があったのだ、消えたくもなるか。
「それはどうやったら止めることができるんだ」
俺は冥界神に尋問するかのようにきいた。
「まぁ説得するしかないんじゃない」
「そうだよな……冥界神は模倣神が今どこにいるのかわかるか」
「ちょっと待ってね。もしこの冥界にいるなら探すことができる」
冥界神が呪文を唱えた。
「我冥界の神なり。我に従い模倣神の居場所を教えよ」
唱え終わると冥界の一部がものすごい発光した。
「あーあそこにいるみたいだね」
あまりのわかりやすさに苦笑いした。
俺は冥界神に感謝すると模倣神の元へと近づいた。
「模倣神」
俺は自分の中で1番優しい声で彼を呼んだ。
模倣神は一瞬体を震わせはしたが、こちらをみることはなかった。
「なぁ聞いてくれ」
俺は模倣神の隣に座ると勝手に話し始めた。
「お前はこの世界が憎いか?自分のしたことが取り返しのつかないことだってわかって消えたくなってるのか。でもお前にはあぁする以外の方法が思いつかなかったんだろ?」
俺は次に紡ぐ言葉を探した。
「一度失敗したくらいじゃねーか。俺なんて世界創造してるのにお前に攫われる少し前まで、自分は絵が上手くなったと勘違いして落ち込んでたんだ。知恵の神になりすまして、俺と一緒にいたのお前なんだろ。模倣神」
俺は模倣神を見た。
「お前あの時俺に触れて、創造神にでもなるつもりだったのか?まぁそれならそれで俺としては楽できたかもしれないな」
模倣神が俺になりすまして世界を創造している姿を想像する。俺としては楽できるし悪くはないなと思った。
「あぁそう言えば水龍がお前に感謝していたよ。あいつお前意外とコミュニケーション取れなかったんだろ」
模倣神はこちらを見て驚いた表情をしていた。
「あれ?待ってもしかしてお前知らなかったのか?」
「……」
「はぁマジかよ。水龍もちゃんと言わなかったのか?お前いなくなったら水龍悲しむと思うぞ。心の余裕がなかった分、これからたくさん知っていけばいいんじゃないか。知恵の神だってお前と本当話したいだろうしさ」
知恵の神の名前を出した途端、模倣神の表情が曇った。
「あ、やっぱお前知恵の神に嫌われてると思ってるだろ」
模倣神は目を丸くしていた。
「大丈夫だよ。あいつは少し体調崩していただけだから、おそらく感性が敏感なんだろうな。全能神が物凄い怒ってただろ?それで多分やられただけだ」
知恵の神から直接言われたわけではないが、
「まぁ俺としては知恵の神の弱いところがわかって嬉しかったけどな。ってかお前1人だけ罪を背負おうとしてるけど、この世界を乗っ取ろうとしようって言ったのお前じゃないだろ」
俺は先程までいろんな神と会ってきたが、全能神を落とそうとしていた2神の顔が浮かんだ。
「お前は利用されたんだろうな。神って狡賢いやつもいるんだな」
俺はもう一度模倣神のことを見る。
「それじゃあ俺はそろそろ世界創造に戻るけど、お前も興味あるならいつでの大歓迎するぞ」
それじゃあと言って立ち去ろうとしたところ、模倣神に服の裾を掴まれた。
「ん?一緒に行くか?」
彼は少しだけ顔を前後に揺らした。
「へへそうかじゃあ行こう」
俺は嬉しくなり一緒に冥界神がいたところに戻った。
しかし冥界神はいなくなり、代わりに知恵の神がいた。
「お前もう体調回復したのか?」
「はい。おかげさまでありがとうございます」
知恵の神は模倣神のことを見ると改めて自己紹介をした。
「お会いしたき態度悪くてすいませんでした。体調が悪くて立っているのもやっとだったので、あまり記憶にないのですが、あなたを悲しませてしまいました。僕も全能神もあなたが全て悪いとは思っていません。1回間違えたくらいでなんで消えようとするのでしょう。僕たちは神なので余程のことがない限り消えることはありません。長い長い時を過ごすことになるのですよ。過去の出来事は消えませんが、これから変えていけますよ」
模倣神は何度も瞬きをする。
「だから……。だからどうか絶望しないで下さい。宜しければ、僕とお友達になりませんか。あまりにも皆さんから可愛がられる一方で、対等にお話ししてくれる方がいなくて、模倣神さんなら僕のこと全肯定しなさそうですしね」
ニコッと笑う知恵の神。駄目だ俺も甘やかしたくなるもんな。
模倣神の方を見るとまだどこか複雑そうな表情をしている。
「なぁ模倣神。いいんじゃないか。はっきり物事を言ってくれる存在って大事だぞ」
俺は絵が下手だと言われ傷ついていた時を思い出し付け加える。
「まぁずっと否定とか、批判しかしないのはよくないけどな」
模倣神に近づき彼の両手を掴む知恵の神。
「だめかな?」
グハッ。上目遣い+汚れのない真っ直ぐな瞳+逃げられない状況。なんてあざといんだ。知恵の神恐るべし。
待てよ。これは知識として知っていて、大抵の相手にはこの方法が効くことを知っているのではないか。
俺は知恵の神の方をもう一度見る。
やはり純粋で綺麗な瞳をしている。疑った自分の心が汚れているようだ。
模倣神にも効いたのだろう。顔こそ横に向けたままだが、小さく返事をした。
「い……いいよ……」
「ほんとやったぁ〜」
知恵の神は模倣神に抱きついた。ギョッとした目の模倣神。
「やめろ。くっつくな」
と叫んでいるものの、抵抗する力が弱そうだ。
この2神うまくやっていきそうだな。俺はホッと胸を撫で下ろした。
「仲良くなったみたいだし、俺はそろそろ描きに行くぞー。模倣神くるのか?俺のスキルだと限度あるし、できれば居てくれると助かるんだけど」
最後の方は聞こえるか聞こえないくらいの小さな声になってしまった。
模倣神は「行く」と短く答えた。
「おっありがと。知恵の神はー?どうする?」
「僕は休んでいた分、やらなければいけないことがあるので、今回は別行動でお願いします。早めに終わったら合流しますね」
「そうか。まぁ無理はするなよ」
知恵の神と別れる。
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