第11話 〜第6世界〜
第6世界は様子がおかしかった。
先に知恵の神が待ってくれていたが、今までとは姿が違う。
ドット絵で描かれているような解像度だった。
俺の姿を見ると知恵の神は近づいてきた。
「早かったですね」
ニコッと笑顔を向けられ俺は思わず頭を撫でる。
撫でた感触はドット絵の凹凸とは関係なく滑らかだった。
「見ての通りここはピクセル世界です」
「おぉもしかして俺もそういう感じになってるのか?」
自分の姿が見えないが。もしかするとと思い聞いてみる。
全能神が笑った。
「今はなっていないですよ。なりたいなら自由に姿変えられますが」
そういう全能神も今までと変わりない見た目をしていたが、ポンと音を立てると知恵の神と同じドット絵のような姿になった。
知恵の神が俺の姿も映してくれたが、俺も同じような姿になっていた。
「鏡がもはや鏡ではなかったが、とても面白かった」
「あなたは今までと同じように絵を描くだけで勝手に補正されるようになってるので、そこは安心してください」
全能神が情報を捕捉してくれた。
「それは良かった。それでこの世界はあとは何か縛りとか条件とかあるのか?」
「あぁ……まぁなんとなく気付いているかと思いますが、ここ第2世界よりも使える色が少ないので、あまり細かい色合いは気にしなくても大丈夫ですよ」
「あ、あぁ」
知恵の神や全能神のピクセル姿を見てなんとなく雰囲気が違っていたがそういうことだったのか。
「まぁあとは自由に描いてください」
そう言って全能神は去っていった。
「さぁそれでは僕たちも始めましょうか」
そう言ってポンと音がすると俺も知恵の神も元の姿へと戻っていた。
俺は通常通りペンで線を引いてみる。
なんだろうこの感じ。今までの線の描かれ方とは違ってぼこぼこしている。
描いていて少し快感を覚える。
「この感じいいな」
知恵の神の方を向くと、ニコニコしていた。
「このピクセル世界、楽しい場所にしたい。テーマパークっぽくしてもいいかな」
「テーマパークですか。今までにはない世界ですしいいんじゃないでしょうか」
そう言って知恵の神も全能神からもらったペンを使って何か資料を見ながらではあるが描き始めた。
しばらくすると知恵の神が巨大な絵を完成させていた。
「ジェットコースターです」
うねうねしていたそれは乗り物のようだ。
「試しに乗ってみましょう」
知恵の神に手を取られ、気づけば安全バーがまで降りていた。
「えっ……あっ。ちょ……」
俺の意思とは関係なく、動き始めたそれに始終叫ぶしかなかった。
ゼェゼェ。俺は立っていられずその辺に座り込んだ。
「創造神ごめんなさい。舞い上がっちゃって」
シュンとした表情の知恵の神に俺は「大丈夫だよ」と声をかけた。
こんな子供っぽい一面があるのかととても愛らしく感じた。
少し休むと「それじゃあ他にも描くか」と声を掛ける。
知恵の神は他にはこんなアトラクションがあったら嬉しいと俺に参考資料を見せてくれた。
2神とも資料を見ながら描いたはずなのに、どういう物体なのか理解している知恵の神の方が圧倒的にスラスラと描いていた。
ペンの効果が時折切れてしまうので、その度追加で能力を注いだ。
「楽しいですね」
だいぶ時間が経ったが、本当に楽しいのだろう。まだまだやる気に満ち溢れていた。
気づけば世界の半分近く出来上がっていた。
俺は知恵の神に質問した。
「模倣世界にいた神はどうなったんだ?」
「……」
知恵の神の手が止まった。
どこか遠くを見つめると淡々と話し始めた。
「彼らはまだ全能神の監視下にありますが、第8世界で暮らすことになります」
「あぁ……まぁでも事情も知らなかったんだししょうがないか」
「はい。模倣神の処遇については、まだ悩んでいるようですが、それ以外の神については能力の制限と監視だけで済んでいるようです。もしかしたらこの世界にも来るかもしれないですね」
俺は知恵の神にこの話題を振ったのは誤りだったかと反省した。
先程までとても楽しそうにしていたのに、表情に
「ごめん。無神経だったなこの話題は」
知恵の神は「いえ」と首を横に振った。
「僕は彼らに対して恨みなどはありません。ただ……」
何を考えているのか、次の言葉は急に現れた模倣世界の神によって紡がれることはなかった。
「すまんな。邪魔したか」
白髪の少し歳のいった神。
「いえ。俺は創造神で隣にいるのが知恵の神です。あなたは……発明神ですね」
模倣神を最初に庇っていた神なので覚えていた。
「いかにも。此度は迷惑をかけてしまい申し訳なかった。何か手伝えることはないだろうか」
「あーえっと……」
ちらりと知恵の神の方を見る。しかし知恵の神はただぼぉーっとしていた。
「今テーマパークにしようとしていたのですが、何か楽しいものとか。面白いものとか知りませんか」
「なるほど楽しいものか」
発明神は少し考え込む。
「たとえば、そうだな音楽とかはどうだろうか」
「音楽……」
第5世界までの世界では音のことなどは特に気にしたこともなかった。
しかしテーマパークであれば、音楽があってもいいな。
「発明神は何か音楽作れるのか?」
発明神は首を横に振った。
「儂ができるのは音が鳴る楽器を作ることと、技術を提供することくらいじゃな」
音楽は……芸術神に聞けばいいのか?音楽も芸術の一部だよな。
「発明神は何か楽器を演奏したことがあるのか」
「ふぉふぉふぉ。鋭いな。実は……」
目を細め、たっぷり間を開ける。
「やったことないんじゃ」
ドヤ顔だった。
「何もできないのかよ。よく音楽が楽しいこととして浮かんだな」
「やってみたいとは思っていたんだがな、発明品を作ることの方が楽しくてな」
「せっかくだし、何か音楽創っていくか?それなら興味ある楽器から創っていくけど」
発明神は少し悩んでいそうだった。
「ふむ。それならばまたとない機会じゃし何か演奏していこうかのぉ。なんでもいいから好きな楽器を創ってくれ」
「おーけーちょっと待っててくれ」
俺は知恵の神から楽器の資料を借りるとピアノ、ギター、ヴァイオリンと手当たり次第に描いていった。
発明の神は出来上がったものから手当たり次第にどんな音が出るのかと試していた。
そして意外にもピアノにハマったようだ。
「何かこのテーマパークにあう音楽創れそうか?俺たち出来上がってない方のエリア描いてくるから、できたら適当に流しておいてくれ」
発明神にそう言い残すと知恵の神と一緒に描いてない方のエリアへと移動した。
「大丈夫か?」
俺はほとんど動かなかった知恵の神に聞いた。
「あっ……僕何か失礼なことしてましたか」
知恵の神は自分がぼーっとしていたことに気づいていなかったのだろうか。
「いや、さっきまでの元気無くなってたからさ」
知恵の神は少し申し訳なさそうな顔をした。
「ごめんなさい。少し考え込んでしまったようです」
「いやそんなことは大丈夫だけど、模倣世界の神はやっぱ苦手か?」
心にできたトラウマというものは本人が思うより深刻なケースもある。
俺は適当にモコモコの椅子を描くとそこに知恵の神を座らせ、飲み物を渡してやる。
「ほら、これでも飲んで少し休め」
「あっ、でも……」
「大丈夫だよ。もう半分以上完成してるし、知恵の神も描きすぎて疲れたんだろ」
俺は知恵の神と別れると命与神を呼んだ。
命与神は妖精世界の生物を創っていたのだろう。喜怒哀楽のような小さな姿になっていた。
「忙しいところすまん」
急に呼び出された命与神は状況を把握してないので少し戸惑った様子だった。
「何?どうかした?」
「いやあのさ」
知恵の神の様子が少しおかしいことを命与神に伝え、何か可愛いキャラクターでも作れないかと伝えた。
「あー理解したわ。私に任せてちょうだい」
最初に会った時もイラストを用いて世界創造について説明してくれたが、描き慣れているのかサラサラと描いていった。
ほんと誰でも創造物を生み出せるようになってくれて助かる。
とはいえ、命与神は生物を生み出してきたんだったな。
生物は描いて生み出してきたわけじゃないよな?どうしてたんだろう。ふと疑問に思ったが、命与神が描いたキャラクターがあまりにも想像と違いそちらに気を取られた。俺が想像していた可愛いキャラクターは猫とか犬とか羊とかさそんな感じだったわけなんだが……。
見事に逞しい肉体を持つキャラクター達が造られていく。
「あの〜?命与神さん?」
「えっなによ?」
鼻歌を歌いながらノリノリで創作しているが一旦止める。
「もう少し可愛いの書けませんかね」
怒りに触れたらどうしようと思いながら、伝えると。
「あーごめんごめん。こいつらも十分可愛いと思うけどなぁ」
そう言って描いていたキャラクターのぬいぐるみを抱きしめる。
「今回は王道的なのが欲しいのね」
今度は今度は想像していた通りの可愛らしい猫やペンギンなどぬいぐるみが生み出された。
「おぉすごいな。こういうの求めてた」
「そうよ。創造神以外は案外絵上手いのよ」
「はっ?それはどういう……」
「あ、でも全能神とか軍神はそうでもないみたいなけどね。感性の違いかしらね」
「これくらい作ればどうにかなるかしら?」
「あぁ助かったありがとう。知恵の神に会ってくか?」
「ううん大丈夫だよ」
またねと言って命与神は去っていった。
俺は命与神が描いてくれたぬいぐるみを知恵の神に持っていくことにした。
「おーい知恵の神」
そう叫んで、知恵の神の近くに知らない神がいるのに気づいた。
俺は全力で知恵の神の近くまで移動すると、知恵の神を庇うようにその神との間に立った。
ついでに知恵の神はぬいぐるみで埋めた。
「お前誰だよ」
俺は敵意剥き出してその神を見た。
その神も驚いたような表情をしていた。よく見ると誰かに似てるな。
少し落ち着いたオレンジの髪。耳にはピアス。
そのピアスを見て俺は「模倣神か」と小さく発していた。
しかし模倣神にしては大きい。どういうことだ。
「……よく俺が模倣神だって分かったな」
「あっやっぱそうなんだ。でもどうして大きいんだ?」
「こっちが元々の姿。あんたと会ったときは力使いすぎて小さくなってただけ」
「あー芸術神みたいなものか」
神は力を使いすぎると弱体化する。模倣神も芸術神と一緒で力を使いすぎると小さくなってしまうタイプらしい。そして口が悪いのも一緒だな。
「元の大きさに戻ってるってことは、模倣世界は消滅したってことか」
模倣神は顔を逸らす。
「あぁ……」
「それでどうして知恵の神のところにいるのかな?」
俺は素直に聞いた。
「……」
彼は無言になった。
「また何か悪さしようとしてたのか?」
「……」
やはり無言だった。
「俺たち忙しいから邪魔をするなら帰ってくれ」
模倣神の顔が歪んだ。
「違うんだ」
模倣神は大きな声で叫んだ。
そしてまた静寂が辺りを包んだ。
「そろそろいいか。俺たちはまだやることが残ってるんだけど」
模倣神は何かと葛藤しているようで、唇から血が垂れていた。
「過去は変えられないけど、今の自分をあまりいじめてやるなよ」
知恵の神と移動しようとすると、模倣神は「待って」と小さく呟いた。
俺はもう一度だけ模倣神を見ると、今度はこちらをまっすぐ見つめていた。
「ごめん」
模倣神は頭を下げた。
「知恵の神も創造神も傷つけるつもりはなかった」
頭を下げたまま謝罪した。
知恵の神の方を見ると戸惑っている様子だった。
「俺は別になんともなってねーよ」
知恵の神は相変わらずだったので、俺は知恵の神を
「おーい誰かいるかー?」
第8世界は居住スペース以外はほぼ何もないので見渡すことができる。
見知った顔があったので近づいていくことにした。
「軍神。ちょっといいか」
筋トレ中だった軍神が動きを止める。
「おぉどうかしたか」
しかし筋トレをしていた、軍神の奥を見て動きが一瞬固まる。
そこには模倣世界にいた神が数名いた。
「ごめん取り込み中だったみたいだな。他あたるわ」
そそくさと移動しようとする。
「なんだ少年。別に逃げなくてもいいじゃないか」
「いやぁほんと大丈夫っす。ここいたら知恵の神、より具合悪くなりそうなので」
「知恵の神体調悪いのか?ちょっと待っててくれ急いで休める場所を用意するから」
軍神はテキパキと動き、知恵の神を寝させる場所を作った。
「これ軍神の部屋から持ってきたのか」
ベッドの他にアイマスクやアロマまであった。
「睡眠は大事だからな」
そして知恵の神を寝かせた空間に結界まで張ってくれた。
「これで安らかに眠れるだろう」
満足げだった。
「あぁありがとう。俺
「あぁ任せてくれ」
軍神の結界は強いらしいから安心だな。
俺は他の神にも知恵の神が体調が悪く軍神のもとで休んでる旨共有しておいた。
俺は
こちら側は没入できる空間にしたいと思っている。
アニメやゲームの世界に入れるように、動きによって物語が変わるようにそういう場所にできないかと、まだ演奏を続けていた発明の神に聞いてみた。
「なるほど。面白そうだな。そこに没入できるように、何か作ってやりたいところだな。この世界に異世界空間のような場所を作る方法は儂の専門外だから、それは全能神か知恵の神に聞くのがいいだろう。仕組みがわかれば儂も調整することができるから、その時また声をかけてくれ。それまではもう少しだけ楽器演奏させてくれると助かる」
俺は全能神を呼ぶと何かいい方法がないかと聞いた。
すると全能神は「できますよ。ここピクセル世界ですし、条件が揃っていますから」とあっさりと言った。
「それで具体的にどうするんだ」
「創造神には言ってませんでしたが、このピクセル世界は電子世界ですよ」
「んん?電子世界だとなんかあるのか」
「まぁ僕達神にはあまり関係ないですね」
そういうと全能神は何かコンソール画面を開いて何かしている。
「調整しましたので、あとは創りたい分だけ、ここにどういう世界にするのか書き込みしてもらえますか?」
「書き込む?」
「わかりました。猫ロボを渡すので、ここにどうしたいのか話してください。そうしたら言われたことを猫ロボが変換してくれますので」
「おぉ分かったいつもありがとな」
全能神は去っていった。
俺は何パターンも物語を創り猫ロボに伝えた。
ある程度できると楽器を演奏している発明神の元へと行った。
「発明神。何パターンか作ったぞ」
「あぁ分かった今いこう」
発明神は楽器を丁寧に片付けると、俺についてきた。
「えーっと俺にも仕組みはよくわからないんだが、猫ロボにアニメやゲームの情報を伝えると、情報を変換し書き込んでくれる。その書き込んだものがこれだ」
発明神に画面を見せる。
「ほぉなるほどなるほど」
「えっ。これの意味わかるのか?」
「いや。わからん。でも少しいじったらわかりそうな気がする。儂も作業したいからしばらくは話しかけないでおくれ」
「あぁ分かった」
発明神はどこからか材料を用意すると、何度も爆発をさせながら、それでも発明を続けていた。
「よし。俺ももう少し頑張ってみるか」
こうして俺と発明神は集中力が切れるまでずっと作業に没頭していた。
俺の方が先に終わったので、発明神を眺めていたが、気づけば俺は寝入っていたようだ。
発明神に声をかけられた。
「できたぞ」
見た目が若返っており一瞬誰だかわからなかった。
発明神も若くなる感じね。
俺は発明神が完成させた機械に入る。
リラックスできるようにと横になることができるようになっていた。
「これどうやって始めるんだ」
発明神に聞いた。
「右上に赤いボタンあるだろ?」
言われた通りに右上に視線を移すと赤いボタンがあった。俺はそれを押す。
ふと意識が遠くなるのを感じた。
俺はゲームの世界に来たことを理解していた。
しかし瞬時に潜り込んだこの世界がゾンビに襲われるゲームだということも悟った。
俺は急いで辺りに武器がないかを探した。
やっと見つけたそれは木の棒だったが、仕方ない。
俺は右手に棒を持ったまま、もっと強い武器を探して辺りを探索し始めた。
マシンガンを拾うと早速襲ってきたゾンビに打ち込んだ。
マシンガンを打つときの反動がとても大きく、ゲーム世界だということに感動した。
他のゲームやアニメの世界などにも入り込んで軽く体験をすると俺は満足して現実世界に戻ってきた。
「いやぁすごいっすね」
「そうかそれはよかった」
軽く遊んだだけのはずだったが、ある程度時間が過ぎていたようだ。戻ってきた時には発明神は元の白髪の姿に戻っていた。
これで完成だ。残すはあと2世界。まぁ真面目に創るのはあと1世界と言っても過言ではない。
「全能神ー」
いつもは完成を察知して自動でくるはずの全能神がこない。
おかしいな。俺はもう一度だけ全能神を呼ぶことにした。
「おーい全能神。
しかし反応はなかった。
仕方なく
発明神も満足したみたいだったので一緒に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます