並べ!!丑の刻参り!!

タヌキング

こちらが最後尾

僕の名前は牛野 明(うしの あきら)、突然ですが今から会社の上司を呪いに行きます♪俗に言う丑の刻参りってヤツです。

理由は上司に苦しみながら死んでほしいからです。

あのクソ上司、人に残業押し付けておいて、自分は定時で帰りやがって、オマケに少しのミスをネチネチネチネチ・・・あーーーーーーーー!!

あの男が居る限り僕の人生に平穏な時なんて無いのだと考えた僕は一大決心をした。白装束、五寸釘、金槌、藁人形を用意。頭にハチマキでロウソクを巻きつけようと思ったけど、試しに火を点けて巻いてみたら蠟が溶けて熱かったので、そこはペンライトで代用することにした。現代人が呪うのだから、このぐらいの呪いのアップデートは良いと勝手に解釈。



丑の刻参りというのは、午前1~3時の間に、神社の御神木に藁人形を釘で打ち付けるというやり方らしいので、僕はしっかり昼間の内に寝てから午前0時に家を出て、神社の近所の公園のトイレで白装束に着替えて出陣。

そうして神社の境内に上がる長い階段の入り口に向かったのだが、ここでまさかのアクシデント発生。

階段の入り口に巫女装束に身を包んだ若い女の人が立っており、僕を見るなりニコリと笑顔を見せる。

お、終わった。これから警察に連れて行かれて職質、そして母ちゃん呼ばれて説教コースだ。覚悟を決めて丑の刻参りをしようと思ったのに、早々にゲームオーバーでガックリ肩を落とす僕。

しかし、笑顔の巫女さんからは意外な一言が発せられた。


「丑の刻参りの方ですね。それでは階段を登って行ってください。」


「えっ?」


まさかの丑の刻参り推奨の神社だったの?

こうなると逆に怖くなってきたが、この程度のことで丑の刻参りをやめるなんてことは勿論しない。丑の刻参りウエルカムなら僕にとって願ったり叶ったりである。

僕は足早に階段を駆け上がって行った。

するとどうだろう。上に行くにつれて何だか賑やかな音や声が聞こえてきて、階段を登り終えて境内に到着すると、そこには提灯の明かりに照らされ出店の屋台が立ち並び、大勢の人々で賑わう、まるで夏祭りの様な風景が広がっていた。

これってもしかして・・・世にも奇妙な世界に舞い込んだかしらん?


「あの、丑の刻参りの方ですか?」


さっきとは違う巫女の人が僕にそう尋ねてきた。ここは正直に答えるしかあるまい。


「はい、一応そのつもりですが。」


「でしたら最後尾はあちらになります。」


巫女さんが指差す方を見てみると、そこには白装束の人達の長蛇の列が出来ており、一番後ろに【こちらが最後尾です】と書かれたプラカードを持った別の巫女さんが立っていた。


「あ、あそこに並べば良いんですか?」


「はい、あの列の先に御神木がありますので、順番が来たら一思いにやっちゃって下さい♪」


やっちゃって下さいと言われてもな。

まぁ、とりあえず並んでみるか。

僕は列の最後尾に移動し、とりあえず丑の刻参りの順番待ちをすることにした。

並んでみて分かったが全然前に進まない。もう丑の刻にはなっているので、藁人形の打ち付け作業は始まっているとは思うが、こんなふざけた感じでも丑の刻参りである。きっと恨み辛みが溜まり溜まって、一人一人の時間が長いのだろう。コーンコーンと釘を打ち付ける音が風に乗って聞こえて来た。


それにしても暇だ。呪いには不必要と判断しスマホも家に置いて来たし、とにかくやることが無い。ここは一つ前の人にでも話し掛けてみるか。

前に並ぶ人の後ろ姿が黒い髪の女の人風であり、一見すると恐怖映画の貞子を彷彿とさせて不気味だが、こちらとて丑の刻参りに来た男である。たとえ相手が悪霊だろうと構いはしない。


「すいません。」


そんな風に前の人に声を掛けると、前の人はコチラをクルリと振り向いた。やはり女性らしく、長い前髪が左目を隠していてはいるが、右目はクリっと大きな目をしており、口元には薄っすら紅が引いてあった。ありていに言って美人である。

その人は頭にろうそく型のライトを巻い付けている。やっぱり熱いもんな、中々本格派というワケにはいくまい。


「な、なんでしょう?」


明らかに僕を警戒しながら声を震わせる女の人。おっと、ここは出来るだけ優しく話さないと、丑の刻参り中にセクハラで警察に捕まるなんて僕はごめんだぞ。


「いえね。待ち時間が暇なので、お喋りでもしないかな?と思って話し掛けた次第でして。」


「・・・あっ、そういうことですか・・・わ、私も実は暇してまして、ずーっと頭の中で素数を数えてました。」


「ほぉ、なるほど素数を数えてたんですね。確かに素数を数えると心が落ち着きますね。」


「はい、某有名漫画でやってるのの丸パクリなんですけどね。あっ、私の名前は大仏 樹々(おさらぎ じゅじゅ)と申します。」


「あっ、僕の名前は牛野 明と申します。しがない会社員です。」


良かった。思ったより好感触で話しやすい。これなら自分の番が来るまで有意義に時間が潰せそうである。

聞けば大仏さんは高校でいじめに遭い、不登校になって引き籠り退学。そのまま23歳の今日に至るまで自宅警備員として生きてきたそうだ。

彼女が呪いたいのは特定の個人というワケではなく、社会全体、自分を爪弾きにした社会体制そのものを呪いたいのだという。中々スケールの大きな話で圧倒された。こういう人こそ世に出て社会を変えて欲しいものだが、いじめによって引き籠り生活を余儀なくされたことが何とも惜しい。

それから大仏さんと辛かったことや社会に対する不満を言い合い、時間はあっという間に過ぎて行った。



「はーい、午後三時になりましたので、今夜の丑の刻参りは終了とさせて頂きます。皆さんお疲れ様でーす。」


巫女さんがメガホンを使って丑の刻参りの終了を告げる。あと五人程終われば大仏さんの番だっただけに何とも非常に残念である。前を見ると藁人形をいくつも打ち付けられた大きな御神木があり、人々の恨みの多さを垣間見ることが出来た。


「終わっちゃいましたね。明日も来ますか?」


先程配られた甘酒をすすりながら大仏さんが僕にそう聞いて来た。

明日か、二日間もこの格好して長蛇の列に並ぶとなると中々しんどいものがある。


「とりあえず、この後一緒にファミレスでも行きませんか?まだ話足りないので。」


どうしてこんなに積極的な言葉が自分の口から出てきたのかは分からないが、多分夜遅くまで起きてハイテンションになっているからだろう。

大仏さんが笑って「分かりました、良いですよ」と言ってくれたのは嬉しい限りである。


人を呪う為に丑の刻参りをしようと思っていたが、こんな素敵な出会いが出来たことを神に感謝しておこう。




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