秘密のミーティング

 夕食後、ヴィオラに連絡してみる。

「あ。デレクぅ」

「なんか大騒ぎになってるって連絡があったんだけど」

「そうなのよぉ。さすがにもう暗くなったから祝宴はお開きなんだけど、結構飲まされてねえ」

「エメルとジャスティナは?」

「2人もそれなりに酔っ払ってるわね」


 さて。セーラがお風呂がどうこうと言っていたよなあ。どうしよう?


「セーラさん、セーラさん」

「あ、何よデレク。ちょっとこっちへ来なさいよ」

 スートレリアのセーラの部屋へ転移。

「ラボラスはどうなったの?」

「ラボラスは首尾よく使い魔にできたんだけど……」


 事情を説明しておいた方がいいので、身代わりのヴィクトリアを部屋に召喚してから、セーラと共に泉邸に転移。クラリスの部屋へ。


「こんばんは……。あら? こちらの方は?」

「えっと、ストラスと言って、……実は悪魔」

「はあああ?」

 そりゃ驚くよなあ。


 ストラスがセーラに挨拶する。

「ハワルッテファ、ドズィ クウィヤム ストラス」

「は?」

「初めまして、悪魔のストラスです、だそうだよ」

「これはご丁寧にどうも。デレクの婚約者のセーラです」


 リズにも来てもらって、遺跡に入ってからの経緯を説明する。


「魔王軍の四天王だったベリアルがまだ遺跡にいて、このストラスが連絡係?」

「まあそういうこと」

 何か納得できない風のセーラに、クラリスが言う。

「成り行きでこういうことになったけど、ベリアル本人は魔王軍をリセット、つまり遺跡も残った魔物も消滅させることができるならそうした方が良さそうだと言っていて、可能かどうかは分からないものの、デレクにその手がかりを探ってもらいたい、ってことなのよ」


「へえ……。しかし、遺跡に入ってまで女の子を連れて戻って来るとは、さすがに予想できなかったわ」

「あのね、別に女の子を集めて回っているわけじゃないんだけど」

「しかも、ピンチに陥った女の子を助けたというわけでもないしねえ。だんだん症状が重篤になって来てるわ」

「言い方が酷いな」


「当面、彼女はどうするの?」

「それがね、メイドの仕事でもしててもらおうかと考えてはいるものの、ストラスは人間の言葉が理解はできるけど喋れない。俺かクラリスがそばにいないといけないような状況で……」

「……え?」

 そこで、翻訳の指輪の件を説明する。


「指輪の機能は分かったけど、それってデレクが四六時中つけてなくても、誰か他の人に渡しておいてもいいんじゃないの」

「いや、それだと『耳飾り』を作ったとしても、俺との間で会話できないよ」

「あ。そっか。やっぱりもう1つくらいは必要か」


「それで、魔王軍の一部が残ってるなんてのは世の中的にはとんでもないことだから、絶対に秘密にしておく必要がある。現状、知ってるのは今ここにいるメンバーと、ヴィオラ、ジャスティナだけなんだ」

「なるほどねえ。……でも、すぐに何かをするわけではないのよね?」

「魔王軍の遺跡が消え残っている理由が解明できないと動けないね」


 セーラ、ちょっと考えていたが、やがて言う。

「これはやっぱり、ヴィオラを交えて、何もかも包み隠さず相談する必要があるわ。ね、リズ」

「……包み隠さず? あ! あーはいはい。了解。用意してくるよ」

 リズは部屋から出ていく。


「じゃ、クラリス。今日はあたしはこれで。ちょっとヴィオラと相談してくる」

「ええ、デレクをよろしくね」


 やっぱりそういうこと?

 セーラと一緒に魔法管理室へ。

「お風呂に入る約束だったわよねえ、デレク。いやあ、お風呂は久しぶり」

「今日は俺は遠慮して……」

「何言ってるのよ。早くヴィオラを連れて来なさいよ」

「……うん」


 宿のどこかにいるんだろうけど……。ジャスティナの所へ転移すればいいか。

直行転移ラッシュ・オーバー、ジャスティナ」


 転移したら、宿の一室。3人ともベッドで酔い潰れている。

「ありゃりゃ」

 ヴィオラがムクっと起き上がる。

「あら。デレクじゃない。そっかあ、夜這いってやつね」

「違うから。セーラが待ってるから来てくれないかな」

「え? 3人でするの?」

「酔っ払ってるだろ」


 立ち上がろうとしてふらつくのを支えると、思い切り抱きつかれる。酔っているヴィオラはいつもよりも体温が高い。泥酔というほどは酔っていないようだが、酒臭いなあ、お嬢さん。

「えへへ。もう離さないわよお」

「これはちゃんと話ができるのかな?」


 とりあえず、一緒に魔法管理室へ転移。

「あれ? セーラがいるじゃん」

「うわ。なんか酔っ払ってない? ヴィオラ」

 俺から事情を説明。

「峠にいたラボラスの脅威を取り除いたというんで、ヴラドナの町を挙げて祝宴があったそうなんだ」

「しょうがないなあ」

「あれ? ここってどこ?」

 ヴィオラは魔法管理室は初めてなのでキョロキョロしている。


 リズがやってくる。

「もうじきお風呂が張れるよ」

「あたしたちとデレクで、一緒にお風呂に入らない?」とセーラ。

 ヴィオラ、ちょっと恥ずかしそうに、しかし目を輝かせて嬉しそうに言う。

「え、デレクとお風呂? ……それは素敵。酔いが覚めてきたわよ。うふふ」


「じゃあ、リズ、ヴィオラを連れて行ってくれる? あたしはデレクが逃げないように一緒に行くから」

「あのー」

「はい、デレクも一緒に来るのよ」


 嬉しくないと言えば嘘になるけれど、やっぱり初めてヴィオラの前に裸体を晒すのは恥ずかしい訳で。

「さあさあ、男ならバーンと行きなさいよ」

 すでにバーンと全裸になっているセーラに連れられて浴室へ。


 湯船にはリズとヴィオラ。

「きゃあ。デレクだわ。えへへへ」喜色満面のヴィオラ。


 予想通りというか、ヴィオラの豊かなお胸は湯船にゆらゆらと浮いている。

「うわ。ちょっとヴィオラ、立ってみてよ」とセーラがリクエスト。

 ヴィオラが立ち上がると、見事な胸は引力に引かれて下へ少し垂れるものの、形状の美しさを保っている。そして、全身のゴージャスなプロポーションには恍惚感さえ覚える。

「これは反則よねえ」

 セーラはまじまじとヴィオラの胸を鑑賞している。

「何よ、セーラだって綺麗な形じゃない」

 ヴィオラの横にいたリズが、そっと下から持ち上げてみたりしている。


「あ。デレクったらぁ」

「きゃああ、デレクのえっちい」

 ……そんなこと言ったって、健康な男子なんだからしょうがないじゃん。

「ちょっとよく見せなさいよ」

「えー」

「何よ、あたしのは見たくせに。ほらほら」

「きゃー。あたしにも見せて」

「ちょ、きみたちねえ」


 その後で何があったかは言わないでおきたい。


 風呂上がりの色っぽいセーラが言う。

「いやあ、今日は実に有意義な日だったわね」

「本当に。デレクの身体も隅々まで記憶に焼き付けたし、あたし的には大人への確かな階段を上った記念日ね」とこれまたピンク色に上気したヴィオラが言う。


「スートレリアから帰ったら、いよいよデレクとしっかり致したいわねえ」

「セーラ。いつも思うんだけど、あなたアケスケに過ぎないかしら」

「えー。ぼやかして言っても、はっきり言っても、中身は一緒よね。ヴィオラもあれでしょ。デレクを狙ってるクチでしょ?」

「あら嫌だわ、狙ってるなんて。貴族たるもの、お慕い申し上げている、とか言わないとダメよ」

「でも婚約者はあたしよ」

「ふふふ。あたしはねえ、キーン・ダニッチの嫁でいいわ」

「何それ。貴族のご令嬢、しかも長女として、旦那さんの正体が不明ってのはまずいでしょう?」

「まず既成事実からかしらねえ」


 何か不穏な会話が、本人の目の前で繰り広げられている。


「あのねえ、クラリスが、デレクとセーラは早く結婚しなきゃダメって言ってたわよ」とリズが言う。

「あら。そうなの?」

「うん。ストラスがサキュバスだから、デレクがうっかりしたことをしそうなんだよ」


「サキュバス! え? そうなの?」

 驚くセーラとヴィオラ。

「うん、自分でも言ってたし、周りの女の子もねえ、ストラスを見るとなんだかソワソワしてるのね」

 ああ、リズはそういうのが匂いや雰囲気で感じ取れるらしいな。


「サキュバスって、男性を誘惑してナニをする悪魔だったわよね。それはまずいわねえ」とヴィオラが何か危機感を抱いている。

「だから、夜はあたしがデレクと一緒に寝ることにしたんだ」

「はー。なるほど」

 セーラが納得する一方、ヴィオラは意味が分からない。


「え? リズってデレクのいとこじゃなかった?」

「あのねえ、実は違う。リズはクラリスと同じで、天使なんだよ」

「……天使だとどうなのかしら?」

 リズがあっけらかんと言う。

「天使はねえ、子供が作れないんだ」

「だから、一緒に寝ても大丈夫、ということ? ……何か違う気がするわね。むしろあたしが同衾してあげるわ。既成事実も作れてデレクも満足。一石二鳥どころか三鳥くらいあるわね」

「あら。貴族のご令嬢がそんなことをおっしゃってはいけませんわ」とセーラ。


 なんかもうグダグダである。


「あのねえ、ちょっといいかな」

「え。誰と寝ることにしたの?」

「そうじゃなくてね、この魔法管理室だからこそ言っておきたいことがあるんだけど」

「何かしら」


 俺から、悪魔を全面的に信頼してはまずいという話をする。

「ヴィオラもベリアルとクラリスのやり取りを聞いていたと思うけど、クラリスはベリアルの言うことは疑ってかかった方がいいという意見なんだ」

「どうしてかしら?」


「今は遺跡の中にいるだけだけど、300年前は夥しい数の人間を毎日のように殺戮していたわけだろう? 我々を騙して復活を考えているという可能性を排除してはダメなんじゃないかということだよ」

「なるほど」とセーラ。


 リズから質問。

「ここだからこそ、ってデレクが言ってたのはどういうこと?」

「ベリアルは、俺が魔法システムの管理を任されていることや、ストレージ魔法を使うことなど、俺について驚くほど詳しく知っていた。遺跡の中にいるものの、色々な動物と感覚共有ができるから外部の様子は知っている、と言っていたから、俺たちが使うのと同じような魔法で俺たちの様子も見られていたんだと思う」

「そうなのか」

「どんな魔法でどんな風に外界の情報を集めているのかはまだよく分からないけど、ここだったらそういう監視はないから、ベリアルや悪魔に様子を知られることはないだろう?」

「確かに」

「そこで、表面上はベリアルの言うことを信じて行動しているように見せつつ、実際には真意がどこにあるかを常に疑いながら行動するべきだと思う。そういう意思の統一をしておきたいと思ったんだ」


 セーラが言う。

「確かにそうね、デレクの言う通りだわ。女の子とお風呂に入って浮かれてばかりじゃないところは偉いわねえ。感心したわ、デレク」


「例の、尋問の魔法をストラスに使ったらどうかな?」とリズ。

「実はね、もうやってみたんだけど、効果があるようには思えなかった。魔法が効かないのか、全く隠し事がないのか、どちらなのかは分からない」

「へえ。……ベリアルに使うとかは?」

「それはさすがに怖い」


「……っていうか、魔法システムの管理とか、そもそも天使って何よ。説明してくれないとさっぱり分からないんだけど」

 そうだった。ヴィオラには色々説明しないといけないな。

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