残りの試練は
廊下でしばらく待っていたら、濡れた服を乾かしたサスキアたちが戻ってきた。
サスキアがさっきの部屋での一部始終を説明してくれる。
サスキアが部屋に入ってドアを閉じると、しばらくして部屋に黒いモヤが現れ、水色の透明な体をした男と女が1体ずつ現れたという。
ゾーイが尋ねる。
「透明ということは、服も着てないってこと?」
「そうなんです。でも顔は分からないし、身体の輪郭が分かる程度です。あ、女の方はですね、もうコレもんです」と胸の前で巨乳を表すような仕草。
「男は?」とアミーが尋ねる。
「ふふふ。ぶらぶらしてました」
……それって、この前魔法管理室で遊んでみた立体映像みたいな感じ?
「どんな攻撃をして来るんです?」とアミー。
「水系統の魔法。ウォーター・カッターやウォーター・サーペントなんかを仕掛けて来るんだけど、こっちの打撃や剣の攻撃は全然効かなくて。もうねえ、部屋の中で溺れ死ぬんじゃないかと」
「どうやって倒したんだ?」とオーレリー。
「それが、
「なるほど。代わりにエンジェル・ライトニングではいかんのか?」
俺が慌てて注意。
「ダメダメ! あれは電撃だから、濡れてたら自分まで死ぬ」
「ん? そうか?」
オーレリー、納得はしていない様子。電気を知らないからしょうがないかなあ。
ドロップアイテムは「不屈の指輪」。第2階層の幻のような、精神に干渉する魔法を無効化する。あとは金貨1枚。
さて、さらに廊下の突き当たりの部屋の前へ。ドアは他の部屋と同じ感じ。
「これ、ボス部屋かな?」
「ボス部屋って石の扉じゃないかな?」
などと言いつつ、とりあえずドアを開けて全員で中へ。
中は広いボールルームで、向こうの壁際に誰か3人立っている。
ロングドレスを着た女性のようだが、頭部に20センチほどのツノが2本生えている。顔は黒いマスクで覆っており目しか見えない。手には
我々が全員部屋に入り、ドアを閉めると、3人の女性はすすすっとこちらへ近寄ってくる。段々と距離が近くなって分かるのは、身長が優に3メートルはあることと、身長に合わせて
そして、マスクから出ている目は、異常にまつ毛が長い。
「これはボティスと言うモンスターです」とゾーイ。
「2人1組で対応だな」
オーレリーがそう言うや否や、ボティスは
俺とセーラで1体。セーラが剣で
「フレーム・スピア!」
見事命中、……したのだが、全然効いていない。
ボティスはいったん後ろに下ると、自身の身体を回転させ、
そこへめがけてセーラが炎の魔法を出す。
「ファイア・ウォール!」
直径2メートル以上の炎の円盤が壁となってボティスに立ちはだかる、と思ったが、ボティスは炎の壁を蹴散らすようにして向かってくる。
げ、強すぎないか?
再びセーラが剣で
今度はこれならどうだ?
「デモニック・クロー!」
身体に断裂が入ったに違いない。ボティスの巨体はゆっくり倒れながら、そして薄く光る黒い霧になって消えて行く。
隣を見ると、ゾーイが『退魔の短剣』をボティスに突き立てており、ボティスは「ギリュー、ギリュー」と断末魔の声をあげながら消えて行くところだったが、ゾーイも傷を受けたらしく、こちらを見て少し笑いながら霧になって消えていく。
「ああ! ゾーイがやられた」
「サスキアもいないわ」とセーラ。
どうやらゾーイとサスキアの組で1体のボティスと戦っていたらしい。
残りの1体とオーレリーが向かい合っている。
オーレリーが『斬魔の剣』で切り掛かる。ボティスは巨大な
「うわあ……、オーレリーさん、凄すぎます。あたし、見てるだけでしたよ」とアミー。
「うむ。久々に歯応えのある相手だったな」と涼しい顔のオーレリー。
「ゾーイとサスキアがやられた」
「えー。ゾーイさん、魔法が2系統も使えるようになったのに」とアミーが驚く。
それぞれの戦いぶりを見ていたセーラが言う。
「どうやら、普通の射出攻撃や火炎程度では傷を付けることもできなかったようね。ドロップアイテムの『斬魔の剣』や『退魔の短剣』は有効だったみたい」
「初めて出くわしたけど、結構な難敵だったなあ」
セーラが言う。
「デレク、気づいていたか分からないけど、ドレスの下は蛇みたいなウロコだったわよ」
「え? 腕は普通に人間っぽかったけど。つまり、蛇女ってこと?」
「足もちゃんとあったわね」
「ツノも生えてたけど……。マスクの下は蛇の顔だったのかなあ?」
「そこはちょっと分からないわねえ」
モンスターの身体って意味が分からんな。
オーレリーが言う。
「ここはボス部屋だったのか?」
「確かに強いモンスターだったけど……」
部屋の奥に扉があるので、とりあえず開けてみる。すると、また廊下である。
「げ。今のでボスじゃないんだ」
「どうする? ゾーイとサスキアがいなくなっちゃったわよ」
「とりあえず、次の扉が出てくるまで進むか」
廊下を進むと、突き当たりにこれまでの部屋のドアよりも数段大きな石の扉が現れる。
「どうやらこれがボス部屋だな」とオーレリー。
「えっと、さっきのボティスって奴も相当強かったから、ボスと戦ってまた誰かが
「いいんじゃない? ここの時間ではあっという間だし」とセーラ。
「セーラは少し休んでからの方がいいと思うぞ」とオーレリー。
「じゃあ、大して何もしなかったあたしから行きますよ」とアミーが申し出る。
そこで、アミーに『試練その9』を渡す。
「試練を我に!」
アミーの姿が掻き消えて、1分も経たずにまた現れる。
「うへえ……」
かなり疲れた様子だが、足元に腕輪が落ちている。
「これは『
「それは頑張った甲斐がありました。召喚だけできるんですか?」
「そうそう。……あ、しかし魔法のレベル3が必要なはずだな」
「あたし、レベル2ですけど」
「じゃあ、レベルが3に到達するまでは使えないな。しかし、どうしてまだ使えない魔道具が取得できたんだろう?」
アミーは水系統の魔法が使えるからアイテムの種類が『
「で、どんな試練だった?」
「それがですねえ」
若干うんざりした様子でアミーが試練の様子を教えてくれる。
気がつくと、こことは違う地下のダンジョンといった感じの暗くて細い通路。ところどころに明かりがあるものの、見通しは数メートルといったところ。少しウロウロしてみたものの、通路はまさに迷路のように枝分かれしており、どっちへ進んだらどうなるのかさっぱり分からない。
すると、背後から小さめの矢が飛んできて肩先をかすめる。振り向くと、変な緑の帽子を被った鼻のデカい小人が通路の曲がり角にサッと隠れるのが見える。
慌てて追いかけるものの、どこかの枝道に逃げ込んだのか、すぐに見失う。
くっそー、と思っていると、また背後から矢が飛んできて、耳たぶをかすって行く。振り向くと逃げていく緑の帽子。耳たぶからちょっと血が出て痛い。
「ちょっと頭に血が上りかけましたけど、ここで、焦って追いかけたら疲れるだけだと思いまして、とりあえず背後から狙われるのを避けるために壁に寄りかかって、対策を考えました」
「なるほど。それは賢明な対応だな。それでどうした?」
「ふと天井を見るとかなり暗いんですよ。通路の明かりが、足元を照らすような構造になってましてね」
「ふむ」
「そこで、飛行魔法で天井にへばりついて、鼻のデカい奴が近付いて来るのを待つ作戦にしました」
「え。ずっと飛行魔法を使ってると疲れない?」とセーラ。
「飛行魔法で飛び上がった後、壁が適度にデコボコしてましたから、天井近くで足場を探してそこで頑張って身体を支えてました」
「なるほど」
「しばらくしたら、鼻デカがウロウロと現れたので、上から『
話を聞いていたオーレリーが感心したように言う。
「なかなか頭を使った攻撃だな。あたしだったらデカい魔法でなんとかしようとジタバタしてしまいそうだ」
「アミーはそういう発想力みたいなのが凄いよね」と褒めたら少し照れている。
次にオーレリーに『試練その10』、セーラに『試練その11』を渡す。
「試練を我に!」
口々に唱えると、2人の姿が消える。
アミーと2人きり。
アミーがちょっと目を伏せながら言う。
「あの、デレク様。さっきはご配慮ありがとうございました」
「もしかしたらだけど……、『秘宝館マスター』?」
「あ。はい」
「うん。気にしなくていいよ」
どんなアイテムが入手できたのか、気にならないわけでもないが、それは聞かないお約束だ。
「もしかしてデレク様も以前?」
「さあねえ」
「ふふふ」
すぐにオーレリー、そしてセーラも帰ってくる。
オーレリーは「自由の指輪」を手に入れた。
試練の内容は、暗い部屋でダンジョンスパイダーが2匹襲ってくると言うもの。
「この前の指輪で使えるようになった『
なるほどね。
セーラは「正鵠の弓」。
「洞窟みたいな所に出たんだけど、あちこちの枝道から延々と陰気な顔の山姥が出て来て。もう気が滅入るったらないわね」
結局8体を剣で両断したり、ファイア・バレットを浴びせたりして倒したらしい。
何だか、『試練その1』あたりと比べるとだんだん試練の難易度が低くなっている気がする。とすると、最後の『試練その12』はもっと楽なのかな。
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