受け取り窓口
第3階層へ降りてきて、入り口の扉の前。
重い石の扉を押し開けると、中はどこかの宮殿のような立派な廊下である。ただやはり明かりはぼんやりした薄暗い感じ。廊下は例によって奥の方へずっと続いているが、第2階層と違って所々に直角に交差しているらしい枝道や、ドアらしいものもある。
ダンジョンというより、どこかの企業か役所の建物に入り込んだような錯覚さえ覚える。
「妙に立派ね」とセーラ。
「ゾーイ、この階層はどんな感じ?」
「あたしは第2階層でやられちゃいましたから謎です」
ふむ。
剣を抜いて、ゆっくり進む。
最初のドアの前に到達。ドアは木製で、「空き部屋」と書かれたプレートが付けられている。
「本当に空き部屋かしらねえ?」と言いつつ、セーラがそっとドアを開ける。
ドアを開けると、内部にも明かりが点灯する。立派な暖炉があり、貴族の屋敷の部屋っぽい内装なのだが、何もない。ドアが勝手に閉まらないようにサスキアに押さえていてもらって、内部を調べてみるが、どうやら本当に空き部屋。
「こんな調子で部屋を調べていく必要があるのかしら?」とゾーイ。
「しかし、ドアのプレートに書かれているのが本当だという保証もないしなあ」
廊下を進み、次のドアの前に立つ。プレートには「剣士のみ1人入れ」と書いてある。
「なんだこれ?」とオーレリー。
「まあ、そのままじゃない?」
「あたし、入ってもいいかしら」とセーラ。
ダンジョンに書かれている指示自体が
「十分、気をつけて」
「もちろんよ」
ドアを開けるが、さっきと同じような空き部屋に見える。
「ドアを閉めないといけないのかも」
「なるほど」
ドアを閉める。するとすぐにドアが開いて、セーラが戻ってくる。
「あー、疲れたー! かなり手こずったわ」
「え? ドアが閉じてから一瞬だったけど?」
「ウソぉ。体感だけど5、6分は戦ってたわよ」
セーラが言うには、ドアが閉じるとしばらくして部屋に黒いモヤが現れ、黒い甲冑を身にまとった騎士っぽいモンスターが1体現れたという。
「その黒騎士がね、剣で襲ってくるんだけど、強いのよ」
「魔法で……」
「それが、魔法が使えなくて」
それで、純粋に剣だけで戦っていたそうだ。
「途中で気づいたんだけど……どうもその黒騎士、あたしと同じような技をよく使うし、力もあたしと同じくらいなのよ」
「どういうこと?」
「だから、この部屋に入った人物と同じくらいの力量を持ったモンスターが出てくるんじゃないかしら?」
「その理屈だと永遠に勝てないよね?」
「それで、ブライアンが時々使うコンボ技を思い出して、あたしは使ったことがなかったんだけど、試してみたらこれが上手いこと決まって」
「なるほど。部屋に入ってから技を工夫できないと勝てないのか」
「本当にそうかは分からないけど、あたしの印象はそんな感じ」
ドロップアイテムは『恩返しの指輪』。あなたを助けようとする者に、あなたも知らないうちに良いできごとが起きる、のだそうだ。へえ。
次の部屋の前へ。プレートには「魔法士のみ1人入れ」と書いてある。
「あたしが行ってもいいですか?」とサスキアが名乗りを上げる。
特に異論もないので、サスキアが1人で入る。サスキアは土系統のレベル4だし、前回のダンジョン探索でゲットした『破撃の籠手』もはめている。普通に強いはず。
ドアを開け、サスキアが中へ。
ドアが閉まって、数秒後にはサスキアが出てくる。
「あー。死ぬかと思いました」
サスキアはびしょ濡れである。
何があったかは後で聞くとして、オーレリー、セーラと一緒にさっきの空き部屋へ入って、服を乾かして来ることになる。
「服が乾くまで、ちょっと先の様子を見てみるか」
「そうですね」
そこで、俺とゾーイ、アミーで廊下を進み、次の部屋の前へ。
次の部屋のプレートには「受け取り窓口」と書いてある。
「何これ?」とゾーイ。
「あ、多分、俺の用事。
すると、アミーが言う。
「あの、あたしが最初に入っていいですか?」
「あれ? もらえるようなアイテムってあったっけ?」
すると、ちょっと口ごもるアミー。
「えっと、ですね……」
あ。
「いいよ、アミー。それで、もらった何かはストレージにしまっとくといい」
アミー、俺の顔を見て、ちょっと恥ずかしそうに言う。
「はい。デレク様、ありがとうございます」
アミーはそそくさと部屋に入って行った。
「何かアイテムがありましたっけ?」とゾーイは腑に落ちない様子。
「うん。何かあったような気がするよ」
アミーはすぐ戻って来た。ちょっと顔を赤くして小さな声で言う。
「デレク様、恩にきます」
「ん。じゃ、次は俺ね」
ドアを開けて中へ。部屋の中には机だけが置かれている。
ドアを閉めると、机の向こう側にシースルーのドレスの女性が現れる。
「あれ? アギラさん」
「試練の達成、おめでとうございます」
「あの『試練』、何ですか? すっげえ苦労しましたけど」
「ふふふ、お楽しみ頂けたようで何よりですわ」
「ちょっと質問、いいですか?」
「はい。答えられる範囲なら」
アギラの首から下をあまり見ないように努力しながら質問。
「このダンジョンに入る前に『
「このダンジョン内で『
「へえ。ということは例えば火系統の魔法士がこの試練に挑戦したらどうなります?」
「そもそも挑戦できないと思うけど」
「はあ……。でも光とか闇の系統は存在が伏せられてますから、多分情報に表示しませんよね。その系統の人は?」
「そんな人は滅多に来ないし、挑戦もさせませんけどね」
「え、ずるくないですか」
「そうねえ、例えばデレクさんが4つの系統の『
「酷いなあ」
「人に物をもらおうっていうんだから、そのくらいの努力はしましょうよ」
……正論、かな?
「挑戦しないといけない『試練』、つまりモンスターや周囲の状況はどうやって決めてるんです?」
「今回はあたしたちで決めましたけど、普通はアイテムの希少度のレベルに応じていくつか『試練』のテンプレートがあって、それを適当にカスタマイズするのよ。これはプログラムが自動的にやってるわね」
「もし俺がもう一度挑戦したら?」
「デレクさんは複数の魔法が使えて扱いに困るから、またあたしとかが出てきて個別対応かしらねえ」
「次はお手柔らかにお願いしたいんですけど」
「えー。たまに失敗するからこそ『試練』の価値があると思わない?」
「しかし、今回のはかなりレベルが高かったと思いますよ?」
「ふふふ。バレた? みんな、パーティーができて楽しそうだったわ」
そう言ってイタズラっぽく笑うアギラは、ホムンクルスと分かっていてもちょっと見惚れてしまう美しさである。
「さて、そろそろ肝心のアイテムを渡したいんだけど」
「はいはい」
「まず、モノはこれ」
そう言ってアギラは木の箱に入った薄い青色のカプセルを出して来る。長さ5センチ、太さは1センチくらい。
「まずデレクさんの血をカプセルに1滴垂らして、そのままそれを水に浸して3日間、日に当たらない場所で放置して下さい。水の量は20リットルくらいね。この期間はくれぐれも日に当てないで下さい。3日経つと小さな子供のような姿になります。ここで、『汝、○○と命名す』と名前を付けて下さい。今後はこの名前で召喚することになります」
「へえ……。成長はするの?」
「はい、水を与えておけば大きくなります。だいたい1週間で成人並になります。でも顔はないし、男女の区別もありません。あとは水を1日に1リットル程度与えておけばいいですね」
「何ができるの?」
「『
「へえ……。えっと、『
「さすがによくご存知ですね。えっと、
「
「
「自我はある?」
「ほぼありません。呼び出した人と同じくらいの知能を持ちますから、決まりきった作業をさせたり、雑談くらいはできますが、自分から何かをしようと思わないので、
「何か都合のいいロボットみたいだが?」
「ロボットって何だか分かりませんけど、いわゆる魂がある存在ではありません。つまり、『ひと』ではなく『モノ』です。物欲、睡眠欲、性欲はありません。食欲もありませんけど、食べるフリはできます」
へえ……。まさにコピーロボット。
「
「魂もなく、知能も借り物に過ぎませんから、ホムンクルスの中でも最下等のものに分類されますね」
「へえ……。魂、ねえ」
「何回か召喚したら、前のことは覚えているのかな?」
「いえ、召喚のたびに記憶はリセットされますね」
「じゃあ、いったん召喚してずっとそのままにしておいたら?」
「記憶は蓄積されるでしょうね」
「できないことはある?」
「勉強させても召喚者より賢くはなりません。自分で生殖はできませんし、生殖に関する器官もありません。それと、外見は召喚者のように見えますが、筋力は人並み以下ですね」
「ふむ。叩かれたり、切られたりしたら痛さを感じるのかな?」
「触覚や痛覚がないと普通に行動できないでしょう?」
「そりゃそうか」
「でも、切られても血が出たりはしません。放っておけば治ります」
「げ」
「腕くらいなら切り飛ばされてもくっつければ治りますけど、胴体とか首を切られると、再生できずに崩れ去ります。火にも弱いですね」
「へえ」
「他に質問は?」
「『
「いえいえ。最初の1つだけは今の説明を聞いて頂く必要がありますからダンジョンで手渡す必要がありますが、それ以降は腕輪をして『
「なるほど」
……かなり、ってどのくらいだろう?
「では、分からないことがあったら、またダンジョンまでどうぞ。あ、デレクさんはウルドにでも聞いて下さい」
「はあ」
アギラに礼を言って部屋の外へ。
帰ったら早速育ててみたいが、実際に大きく育ったらどんな感じだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます