親衛隊の怪しい動き
今日は午前中、聖都にやってきたフィロメナ、マリベルと今後の相談をしたい。
ゾーイと一緒に馬車に乗ってクロチルド館へ。馬車の中でゾーイと2人きり。
「思いますにね、デレク様は女性に対して誰にでも優しく接しすぎるのではないでしょうか。誰にでもその気があるように思わせる振る舞いは控えて頂くべきかと」
「そんな心配をゾーイにしてもらう必要はないように思うんだけどなあ」
「いえいえ。女性が圧倒的に多いお屋敷です。何か不測の事態が起きたりしないように、メイド長としても気を配っておく必要はあると存じます」
「一般論的にはそうだけど、別に俺が特定の誰かとまずいことになってるというわけでもないからさあ……」
「しかし、デレク様の部屋の片隅に置いて欲しいとか、無慈悲に○して欲しいなどという願望を抱いている子もいるようですから、油断はなりません」
「はあ」
そんな話もありましたなあ。
「まずは、セーラ様と早く結婚されるなり、既成事実を作るなりしたら如何でしょう。その後であれば誰かと何かあっても影響は軽微かと」
「えー」
「そして誰かとうっかりそういうことになった場合は、青タルクがあります」
「はあ」
チジーもたくさん買い込んでくれていたなあ。
「もちろん、お相手はリズ様でもよろしいと思いますが?」
「うーん」
「もしそういうことに何らかの不安がおありでしたら、僭越ながら、この私が手取り足取りお教えすることも可能です」
「はいはい」
「受け答えが急にぞんざいになりましたね?」
「いやー、そんなことはないよ。ゾーイこそ、BFあたりに気になる人がいるなら身を固めたらどうなのかな? 援助は惜しまないよ」
「いえいえ、私のことなどお構いなく」
そんな、履いた靴下に砂粒が入っていたような若干の心地悪さを感じる会話を交わしつつ、クロチルド館に到着。
フィロメナとマリベルは、昨夜はゆっくり休めたそうで何よりである。
パトリシアにも来てもらって、今後の相談。
「この前も少し話したけど、マリベルにはここでやっている読み書きなんかの先生役をやってもらえるといいんじゃないかと思うんだ。もちろん、様子を見学してから決めたらいいと思うけど」
「はい。そうさせて頂きます」
ゾーイに聞く。
「教室を1つ増やすことはできるんだっけ?」
「はい、すでに机や黒板、生徒用の石板などを準備しています」
「フィロメナには、パトリシアと一緒に働いてもらったらいいと思ってるんだけど」
「はい、おおまかな感じはパトリシアから聞いています。私のスキルがお役に立てることがあれば喜んでお手伝いしたいと思います」
「それなら、今日これから早速、他のメンバーと合流することにしようか」
「はい」
『過去視』は非常に貴重なスキルだ。『抑圧』のスキルを持つディアナと一緒にいた方がいいという判断もある。
そこへオーレリーがやって来た。
「デレク、ちょっといいかな? ここの女の子に嫌がらせをしている連中がいるだろ?」
「ああ」
「あの連中がどこから来ているか、だいたい把握できたぞ」
「え、それは有難いな」
「南の倉庫街にある人材派遣の会社でな、ネーズビー社って所が、日雇いの仕事にあぶれたような連中に簡単な仕事としてやらせているらしい」
「なんだそれ? 仕事? ……ということは、誰かが依頼してるわけだよな?」
「かな? そこまでは把握していないが、『聞き出し上手』ってのを使って話を聞いた限りではそんな感じだ。あの魔法は凄い、というか酷いな」
「あははは」
「デレクがあんな魔法で誰かをたぶらかしたりしていないか、監視しておかないといかんな」
「おいおい、そんな心配は……」
するとゾーイも言う。
「そうですよ。デレク様はご自身の行動にも注意して頂いた方が」
「だよな」とオーレリーがニヤニヤする。
「えー」
俺、そんなに信用ないの?
「それから……」とオーレリー。
「何?」
「嫌がらせというわけじゃなくて、騎士隊の若い連中が女の子が気になってちょっかいをかけに来てる、とマーカスが言っていただろ?」
「ああ。確かに」
「今度、騎士隊から何人かを募って、パーティーをすることになった」
「は?」
合コン?
「うまく行けば、騎士隊に所属している貴族の子弟に、ウチのメイドにぜひ、とか言ってもらるかもしれないぞ」
「ふむ。確かにそれはアリかもな。騎士隊は貴族だけじゃなくて、貴族の古参の家臣というか、例えば警護の家系の人なんかも隊員でいるから、メイドどころか嫁に欲しいとかいうのもあるかもしれんぞ」
「ほほう。それはいいな」
「ところで、そのパーティーにはオーレリーも出るのか?」
「お? 気になるのか?」
「いや、その……」
「ふふふ。出ようかとも思ったのだが、何故かサスキアに止められてな」
うん、オーレリーがメンバーに入っていたら、ひとりでみんな持って行ってしまいそうだからな。サスキア、グッドジョブだ。
「そういう会なら、少し援助して頂いても?」とゾーイ。
「そうだな。レイモンド商会から少し出すか」
「それは有難い。……ただ、ちょっと気にしてもらいたいのは……」
「何か?」
「騎士隊の隊長には内緒らしい。その辺りはよろしくな」
「あ、そうなんだ」
その後、パトリシア、フィロメナも一緒に泉邸へ。
俺がフローラの誕生日パーティーに出たり、『裏技』の対応でバタバタしていた間にも、『
まず俺から、ガッタム家の諜報員としてロドルフォ・サズマンという人物が聖都に送り込まれるという情報を伝える。今後、この人物がどこでどんな活動をするのか、『耳飾り』のログなどからも調べることにしよう。
マデリーンから報告がある。
「親衛隊は国王直轄の組織ということなので本隊は王宮内にいるようですが、王宮の外にも詰め所のような場所があることが判明しました。ただ、詰め所というよりはアジトみたいな感じで、数名の隊員が常駐してはいるものの、何をしているのか今ひとつ判然としません」
「親衛隊って何人いるんだろう?」
「それもよく分かりませんが、その詰め所に出入りしているのは10名くらいです。で、個人的な感想ですけどガラが悪い感じですね」
「というと?」
「警ら隊のように規律が取れていなくて、ギャングの用心棒みたいな雰囲気です」
「へえ」
「ミドマスの方は何か情報ある?」
「サンディからの情報で、ミドマスの方も親衛隊の詰め所を確認しているそうです。こちらはマルニクス商店に出入りする隊員がいるなど、少々きな臭い模様です」
「マルニクス商店って、海賊の拠点だよね?」
「そうです」
「海賊から親衛隊に送り込まれた隊員がいるのか、あるいは親衛隊自体が海賊と繋がっているのか、そのあたりを調べる必要があるね」
「はい、調査中です」
「魔法が使える人は、指輪の『ネームプレート』という魔法を使うと、目の前の人物の名前だけなら分かる。これはネコやカラスの視点で見ている時にも使えるから、隊員のリストと大体でいいから上下関係と、怪しい動きをしてる隊員を調べて欲しいな」
「了解です」
さて、今日はセーラが原稿を作成している間、魔法プログラムを少しいじってみたい。
問題は「試練」をランダムに呼び出しているらしい『試練ランダマイザ1』である。以前に調べてみた通り、取得できるアイテムの種類に対応するらしいパラメータが整数値のままベタ書きされているので、実際に動作させてみないと何が起きるか分からないのだ。
そこでプログラムに少々手を加え、少し前から「試練」に挑んだ時にどの値が選択されたのかをログに書き出すようにしてある。「試練」をクリアできたらゲットしたアイテムを使うだろうから、どの値がどのアイテムに対応するのか分かるだろうと考えたのだ。
ところが。
しばらくそのような設定で様子を見ていたのだが、「試練」をクリアするどころか、「試練」に挑む者がほとんどいない。
拾った魔法スクロールはほぼネタ魔法だから、そもそも詠唱しない場合が多い。しかも魔法スクロールが何らかの「試練」である可能性はさらに低い。
ではどうするか。
『試練ランダマイザ1』に列挙されたパラメータは12個あるが、そのうちの1つしか使わない限定版の魔法を12種類作って試してみればいいのではないか?
12種類のうちの1つは俺が挑戦した『真実の指輪』ではないかと思う。だが一方、『
つまり、なぜパラメータが12種類なのかよく分からないし、パラメータを固定化しても、挑戦できる「試練」を確実に指定できるのかは不明だ。パラメータの他に、挑戦者が使える魔法の種類やレベルなどを計算に入れて試練の種類や取得できるアイテムを決めている可能性もある。
まあ、とりあえずやってみるさ。
そういうわけで『試練その1』から『試練その12』までの「試練シリーズ」が完成した。いやあ、胸が高鳴るねえ。……ダンジョンに行く予定はないけどな。
翌日、早速新しい情報が入る。
昨日の午後、パトリシアがネコと感覚共有して、親衛隊の詰め所のあたりを見ていた際に、こんな会話が聞こえたそうである。
「ロドルフォってヤツが来るから、情報を共有しておけよ」
「いつもはどこに?」
「ネーズビー社にいるらしい」
俺から質問。
「ネーズビー社って言ってた?」
「人材派遣の会社ですね」
「昨日もオーレリーからその会社の名前を聞いたよなあ。クロチルド館の女の子に嫌がらせをしているって言ってたが」
「その会社も調べた方がいいですね」
「そうだな。嫌がらせの依頼をしている人物も知りたいし、ロドルフォがそこにいるのなら、そこが海賊の拠点なのかもしれない」
もしそうなら、親衛隊は海賊と繋がってるってことになりそうだ。
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