召喚と馴化(テイム)

 リズが言う。

「ゴーレムを飼いならしたり、召喚したりする魔法は分かってるんだから、他のモンスターをテイムしたりする魔法も調べたら分かるよね?」

「確かに」


 早速調べてみよう。


 まず、ゴーレム1体を呼び出す魔法は『ゴーレム召喚サモン・ゴーレム』で、これはロックリッジ家の魔道具の中の腕輪の魔法だ。以前に調べたが、これが起動する本体の魔法は『ᚨᛟᚺG』である。


 ヒナを呼び出して聞いてみる。

「『ゴーレム召喚サモン・ゴーレム』の本体の魔法だけど……読み方は?」

「『ミセハG』ですね」

「Gって?」

「ゴーレムのGですね」

 ということは、同じディレクトリにある『ᚨᛟᚺS』はサラマンダーとか、そういうことなのか。

 ソースファイルを見るものの、例によって謎のAPIを使い、コメントが意味不明。


「これ、何やってんの?」

「禁則事項です」

「は? ……コメントを翻訳してくれないかな?」

「使用には魔法のレベル3以上が必要。術者に登録されているゴーレムに呼びかける、ですね」

「これの何が禁則事項なの?」

「禁則事項です」

 ええ?


「じゃあ、『馴化テイムの腕輪』の本体の魔法はどれ?」

「ゴーレムの場合、魔法名は『ゴーレム馴化テイム・ゴーレム』で、魔法の本体は『𐍁ᛝ𐍇ᚺヤカシハG』です。

「あれ? ソースファイルがない……。何かが書かれたテキストファイルだけ存在してるな。ソースファイルはどうしてここにないんだろう?」

「禁則事項です」

「……テキストを翻訳してくれないかな?」

「使用には魔法のレベル2以上が必要。サブコマンドは創生オリジネイト訓練トレーニング解放デタッチである、です」


 ということは、飼いならすためには魔法レベル2が必要だが、召喚するのにはそれ以上のレベルが必要ということか。

 中身も分からないし……。もしかしたらローカルな魔法として魔道具に書き込まれている?


 するとリズが言う。

「魔法の名前は分かったんだから、誰が呼び出しているか調べられるじゃん」

「あ、そっか」


 ゴーレムについては前に調べた通り。

 サラマンダーの召喚は、ここ最近ではセーラがフィアニカで試して失敗しているのがログに残っているだけ。

 泥人間、フェニックス、ケルベロスについては何もなし。


 ところが、ラボラスは馴化テイム、召喚のどちらも実行している人物がいる。

「術者はタノン・マーランド、か。……あれ? 死亡してなかった?」

 最後に召喚を実施したのは半年くらい前。


 リズが質問。

「ラボラスって何?」

「大型犬に鷲の羽と鉤爪が付いた形の魔獣です。風系統の魔法を使います」とヒナ。

「へえ……」

 なるほど。それで番犬にしたら安心ってか。


「モンスターをテイムしていた術者が死ぬと、モンスターはどうなるの?」

 ヒナが答える。

「モンスターの性質によって異なりますが、ひっそり隠れ住むもの、眠ってしまってそのまま目覚めないもの、消滅してしまうもの、しばらく自由に活動するもの、に分かれると言われています」


「じゃあ、泥人間って何?」

「スワンプマン、またはドッペルゲンガーとも呼ばれます。術者と同等の知能をもつ人間型のモンスターです。魔法もある程度使えます」

「え?」と驚くリズ。


 俺からも質問。

「それって、術者本人とどこが違うの?」

「生殖は行えません。容姿は召喚した魔術士に似た顔つきになるとされています。それから、自らを投企プロジェクションするということがありません」

「自らを投企プロジェクションする、って何?」

「自らが何者であるかを考えたり、自ら行動を起こして他者との関係を作るということです。これは人間存在の根源的な要素である、とテキストには記述されています」

「……はあ?」

 なんだろう? 主体性のないコピーロボットみたいなもの?

 現状ではこれを使っている魔法士はいないみたいだけど……。


「どのダンジョンでどのモンスターが入手できるかは分かる?」

「情報がありません」


 確か、諜報員のガッツォはミドワード王国のザンディーン・ダンジョン、ミロキア王国のノルダール・ダンジョンに行ったことがあると行っていた。ゴーレムもそのあたりで入手できるのかな?


 前から疑問に思っていたことをヒナに聞いてみよう。

「魔法サーバのシリアルナンバーから、その魔法サーバの場所を調べることはできないのかな?」

「自分の周りの魔法サーバのシリアルナンバーを調べることはできますが、シリアルナンバーから具体的な場所を探すことは困難です」

「困難ということは、方法はあるということ?」

「しらみつぶしに調べれば分かる、という程度です」

 ううむ。


 そろそろお昼。

 昼食の間、スキャンした『裏技大百科』をプリントアウトして、いつでも気軽に見られるようにしておこう。

 昼食を食べ終わって、プリントアウトを糸で綴じていると、いつものようにセーラがやって来る。


「デレク、昨日はどうだったの?」

「まずは完全版の『裏技大百科』の入手に成功。ほら、複製を作ったよ」

「へー。こういう感じのイラストって初めて見るわね」


「それから、エドナさんにも確認してもらって、プリムスフェリーの書庫からなくなっていた『いにしえのガイドブック』がこの『裏技大百科』だったことも分かった。どうやら、イラストがあるページだけ、誰かが抜いていったので不完全だったらしい」

「何よそれ」


「それで、『裏技』を使うと魔法スクロールの魔法を指輪に固定して、『試練』に何度も挑戦できちゃうんだけど、対策として固定された魔法は3回しか使えないようにした」

「仕事が速いわね。なるほど。3回使ったらおしまいか。なかなかいいアイディアね、それ。……えっと、すでに固定されたものは?」

「すでに指輪に固定された分は、新たに3回使ったら終わりだね」

「それなら際限なく『耳飾り』のペアが増えることはなさそうね」


「それから、『耳飾り』だけじゃなくて、『試練』をクリアした報酬としてゴーレムやサラマンダーを飼いならす魔道具も得られることが判明したよ」

「え? そうなの?」

「セーラがフィアニカ・ダンジョンで『試練』をクリアして、『サラマンダー召喚サモン・サラマンダーの腕輪』をゲットしたじゃない。あれとペアになる『サラマンダー馴化テイム・サラマンダーの腕輪』というのがあって、『試練』でそれをゲットすると、サラマンダーを入手して育てることができるらしい」

馴化テイムの腕輪はまた別の『試練』ってことかしら?」

「うーん。この本では同時に2つ入手できることになってるけど……。モンスターを育てる専門の人と、召喚して働かせる人は別、っていう考えで実装されているのかも」

「せっかく『試練』をクリアしたのになあ」


「ところで、セーラの原稿は終わりそうなのかな?」

「ええ、そろそろメンバーが死に始めるわ」

「……言い方」

「それでね、実際には第6階層まで行ったのはデレクとオーレリーじゃない。物語的にはあたしと誰か、が良さそうに思うんだけど」

「ま、俺じゃなくていいよ。誰が最後に残ってたら物語的に盛り上がるか、ヒルダと相談したらいいんじゃないの?」

「それはそうね」


「明日からフレッドたちがダンジョンに出かけるみたいなんだけど」

「そうらしいわね。デレクは行かないの?」

「ほら、この『裏技』への対応を大至急しなくちゃいけないから、今回は断っちゃったんだよね。結果的には間に合ったわけで、ちょっと残念」

「外務省関係でまだまだ需要があるから、またそのうちチャンスがあるわよ」

「ただね、このまえガッタム家の諜報員のガッツォという男がミドワード王国あたりのダンジョンの名前を挙げていたから、そっちにも興味があるんだよね」

「うーん、なるほど。場所的には海賊の本拠に近いのかしらね」


 午後は、さっきリズに言われた機能、つまりイヤーカフでの会話を周りにも聞こえるようにする機能を実現する。固定電話のハンズフリー通話みたいなイメージだ。

 通常は耳元で再生される音声を、少し離れた空中で大きめに再生すればいい。この時、相手もハンズフリーを使っていたりすると再生音をマイクで拾ってしまってピーという音が出ることがある。ハウリングという現象だが、これを抑制してくれる音声信号処理のフィルタがあるので有り難く使わせて頂く。

 会話中にコマンドを喋るのは変だから、ジェスチャーで切り替えができるようにすればいいかな? 耳の前を指でトントンと叩くと切り替えられるようにしよう。

 この機能を追加した『パーティーライン』を新しく登録。


 そんな作業をしていたら、ミドマスに行ってもらっているシトリーから連絡。

「ミドマスです。無事にフィロメナさんたちを出迎えることができました」

「それは良かった」

「今日は、こちらのレイモンド商会の拠点で一泊して、明日、聖都に帰る予定です」

「了解。美味いもの沢山食べておけよ」

「えへへへ」



 翌日。

 今日はリズはフェオドラの絵のレッスンがあるというので、俺だけでスールシティへ行くことになった。


 例の「コンチータの店」に行くと、入口あたりを少年が掃除している。

「こんにちは」

「あ、どうも。……今日はお一人ですか」

「え、うん」

 心なしか気落ちした感じの少年。……リズが来るのを楽しみにしていたのかもしれないな。なんかごめん。


 エゴンが出てきたので、店のテーブルに座ってを見せる。

「ほー! これはすごいなあ」

 予想以上の出来だったのだろう。驚きを露わにするエゴン。


「それで、これはオマケですけど……」と言いつつ、斜め後ろを振り返るもお披露目。

「これはまた素晴らしいが……。こんな絵はなかったよな?」

「まあ、当方に有能な絵描きがいると思って下さい」

 横から少年も眺めて興味津々という感じ。血は争えないってこと?


 エゴンが言う。

「約束通り、これで十分以上に満足だ。ところで、あんたの名前も何も聞いていなかったんだが……」

「あー、それはちょっと秘密にさせておいてもらえませんか」

「うーん。まあいいけど……」


「ところで、小説にも『裏技大百科』と書いてありますから、私のように見せて欲しいと訪ねて来た人もいるんじゃないですか?」

「うんうん。これまでにも数人いたんだけどね」

「買い取りを突っぱねたんですか?」


「いや、この挿絵が入ってるのを見てね、稀覯本きこうぼんとして名高い『裏技大百科』にそんな挿絵が入っているわけがない、ってみんなバカにして帰っていったよ。まともに取り合ってくれたのはあんただけだよ」

「おやおや。ものの価値が分からない連中ですねえ」

「本当にな」

「ふふふ」

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