ゴーレムの入手方法

 今朝も頑張って起きてトレーニング。

 今朝はダニエラ、オーレリー、サスキア、ズィーヴァというメンバー。

「今日はちょっと人数少なめかな?」

「ここ数日、人数が多くてちょっと手狭なので、エメル、フリージアとマデリーンは早めに来て、もうトレーニングは済ませたみたいですよ」とズィーヴァが教えてくれる。


 というわけで、オーレリーにちょいと揉まれて、それから朝食。


 お茶を注ぎに来たアミーに言われる。

「昨日はどこかにお出かけでした?」

「うん。ちょっと急用ができてスールシティへ」

「急用?」

「海賊が、これまでは知られていなかった『裏技』と呼ばれる魔法を使って、『耳飾り』を簡単にゲットできるようになったらしいんだけど、その大本の古文書を探しに行ったんだ」

「へえ。『裏技』ですか」


 その話を聞いていたオーレリーが言う。

「この前、誰かが『裏技』とか言ってるのを聞いたぞ」

「え? どこで?」

「ほら、ネコになってあちこち見る魔法を教えてもらっただろ? エスファーデンの王宮とか、あたしが知ってる場所を時々見に行ってるんだが、砦の誰かがゴーレムの話をしてる時にそんな話をしていたと思う」

「どんな話?」

「ゴーレムを操るためには『裏技』が必要だとか言っていた。ただ、それ以上具体的な話はなかったなあ」


「ちょっと待てよ? ゴーレムを使ってるのは反王宮側の砦だよね?」

「うむ」

「俺が『裏技』の話を聞いたのは、ガッタム家の、つまり王宮側の諜報員が使う『耳飾り』についてなんだが」

「つまりどういうことだ?」

「『裏技』に関する情報や知識が、実はもうかなり広まっていて、ガッタム家も、その対抗勢力も知っているということかな?」

「そこまでは分からんなあ」


 もしそうだとすると、『裏技大百科』に書かれているその他の特殊な魔法や魔道具が、世の中に広く出回っている可能性がある。

 かなりまずい状況なのかもしれない。


 朝食後、魔法管理室でスキャンした方の『裏技大百科』を真面目に読む。


 特定のダンジョンで入手できるというアイテムの紹介を詳しく見ていくと、『馴化テイムの腕輪』がある。これはダンジョンで「試練」をクリアすると『召喚サモンの腕輪』と同時に入手できるらしい。


 第1段階では、『馴化テイムの腕輪』を使って魔獣の幼生を入手できると書かれている。その種類は術者の使える魔法の系統によって決まっている。土系統はゴーレム、水系統は泥人間、風系統はラボラス、火系統はサラマンダーである。

 「幼生」って書いてあるけど、ゴーレムの場合はホムンクルスかな?

 「泥人間」って何だろう?

 「ラボラス」はこの前オーレリーが何か言ってたな。番犬にすると心強いとか。


 「試練」をクリアすると、とあっさり書いてあるが、これは俺が『真実の指輪』を入手したり、マーカスが『破魔の戦斧せんぷ』を手に入れたりした時のような、対象が1人の「試練」なのだろう。


 これまで、『耳飾り』の取得に直接関係する『愛する者たちの試練』のことばかり考えていたが、レアなアイテムを得る「試練」が、やはり魔法スクロールの詠唱で挑戦できるものだとすると、『裏技』を使うことで何度でも挑戦できるようになっているのではないだろうか? そうだとすると、ゴーレムなんかを操れるアイテムを入手している術師が増えている可能性もある。


 リズがやって来る。

「デレク、今日は何をしてるの?」

「どうやってゴーレムを作るのか、調べてみようと思って」

「具体的な方法までそこに書いてあるの?」


「事細かには書いてないけど、まずはダンジョンで魔法スクロールを拾って詠唱するよね。すると、低い確率で『試練』への挑戦権が得られて、それをクリアすると、レアなアイテムをゲットできるわけだ。で、どうやらそのアイテムがゴーレムやサラマンダーを入手して育てるための魔道具の場合がある、ということらしい」

「話を聞いていると、確率的にかなり低いんじゃないの?」


「そうなんだけど、『裏技』を使うと何度も挑戦できる可能性があるよね。それに『裏技大百科』の通りに『試練』が実装されているのかも分からない」

「前に『試練』はソースファイルを見てたよね?」

「あれはかなり下手なプログラムでねえ。解読が困難なんだよね」

 具体的な値だけがコードに直に書かれているので、字面からは何を意図しているのか分からないのだ。

「つまり?」

「実際に何回か試してみないと、何が起きるのかは分からないんだ。ただ、この前ちょっと改良して、どの選択肢が選ばれたのかはログに書くようにしたから、実行例が集まったら段々様子が分かってくると思うよ」


「えーと、ホムンクルスのウルドにも聞いてみたらどう?」

「あ、そうだね」


 久しぶりに呼びかけてみよう。

「ホットライン。ウルド」

「あら、デレク。久しぶりじゃない?」

「最近どう?」

「外の世界も面白いんだけど、今は冬ってやつでしょ? 春っていう時期が来て、もうちょっと暖かくなったらまた出かけようかと思って。最近はねえ、あちこちのダンジョンでモンスターを操る係をやってたりしたわ」


 リズからクレーム。

「ねえ、会話の内容が分からないんだけど」

「あ、ごめん」

 コンピュータで、会話の内容をモニタするプログラムを起動する。これで周りの人にも音声が聞こえるはず。

「これ、魔法で同じことができるようにしておいたら便利じゃないかな?」とリズ。

「確かに。後で検討するよ」


 さて、ウルドに質問である。

「この前、ゴーレムについて教えてくれたじゃない?」

「はいはい」

「ゴーレムの作り方は知らないって言ってたけど、『馴化テイムの腕輪』とか『召喚サモンの腕輪』は知らないかな?」

「あ、それは知ってるわ。『試練』をクリアすると取得できるのよ」

「それでテイム、つまり飼いならすことができるのは何?」

「確かねえ、ゴーレムとサラマンダー、ラボラス、泥人間、フェニックスとケルベロスかな」

 え? フェニックスとケルベロスなんて『裏技大百科』にはなかったが?


「テイムできるのは4種類じゃないの?」

「術者の使える魔法の系統に応じて存在するのよ。光系統がフェニックス、闇系統がケルベロスね」

「なるほど。ケルベロスはダンジョンで見たアレかなあ? あれ、羽があったけど……」

「ケルベロスって、羽、付いてるよね?」

「普通は付いてない」

「普通って何よ」

「……ふむ」

 それはまあいい。


「最近、『試練』への挑戦が前よりも増えてるってことはない?」

「そうねえ、数年前くらいからかな? 増えてる気がするって担当のアギラって子やノピカなんかが言ってたけど……。あれはデレクが関係してるの?」

「いや、俺も関係なくはないけど、多分『裏技』だな」

「『裏技』? どういうこと?」


「普通、『試練』に挑戦できるのは、ダンジョンで魔法スクロールを拾って、それがたまたま『試練』に挑戦できる魔法の詠唱だった時だけでしょ?」

「そうね」

「魔法スクロールはその時1回しか使えないけど、あれを指輪の魔石に固定して、何回でも挑戦できるようにする魔法があるんだ。これが通称『裏技』ってやつ」

「へえ。何か釈然としないわね」


「ところで、『試練』に挑戦してゲットできるアイテムには何があるのかな?」

「色々あるけど、デレクが成功した『真実の指輪』以外にもレアなアイテムがあるわ。まずは『知恵の指輪』、『啓示の指輪』、『魔法鞄マジックバッグの指輪』。これは『試練』をクリアしないと手に入れられないわね。それと『馴化テイムの腕輪』も『試練』のクリアが必須ね」

「その他には?」


「全部を列挙するのは難しいけど、『ポイズン・ジェイル』とか『メテオストライク』とか、ヤバげないくつかのアイテムも『試練』をクリアするのが必要ね。あとは2人で挑戦してゲットする『以心伝心の耳飾り』とか」

「この前、『試練』に挑戦して『破魔の戦斧せんぷ』をゲットした人がいるんだけど、あれは『試練』でなくても入手できるよね?」

「そうね。『試練』じゃないと入手できないものと、ドロップアイテムとしても入手できるものがあるわね」


「アイテムの取得以外、『試練』に挑戦して何かが身につくとか、レベルが上がるとかはないのかな?」

「あることはある、かな。普通の人は魔法のレベルの上限が生まれつき決まってるんだけど……」

「ん? どういうこと?」

「どの魔法の系統が使えるかが決まっているように、この人はどんなに頑張ってもレベル2の魔法までしか使えません、みたいなのが決まってるのよ」

「え! そうなの?」

「うん。で、『限界突破の試練』をクリアするとその上限をとっぱらうことができるのよ。他にもあったと思うけど、ちょっと今は思い出せないわ。そもそもその魔法スクロールが出る確率はとても低いはずだし」


 あ、そうそう。これは聞いておかないと。

「色々聞いてゴメン。えっとね、『試練』の種類ってダンジョンによって違うのかな?」

「正確にどうだったか覚えていないけど、ダンジョンごとに内部の構造とかモンスターの種類が違うように、『試練』で挑戦できる内容にも違いはあるわね」

「例えば、どういうこと?」

「あるダンジョンではレアなアイテムへの挑戦権は滅多に得られないとか、ゴーレムをテイムするための『試練』を引き当てる可能性が高いとかは確かにあるわね」

「なるほど」

 『裏技大百科』に「特定のダンジョンで」と書かれているのを、そうやって実現しているのだろう。


「長々とごめんね。また何かあったら質問してもいいかな?」

「いいわよ。どうせヒマだし」


 リズが言う。

「つまり、『耳飾り』を効率的にゲットしようとして『裏技』を使えるようにしたら、ゴーレムを召喚したりする魔法も入手しやすくなった、ということ?」

「そうらしい。ゴーレム以外のモンスターとか、その他のレアなアイテムも入手している可能性があるなあ」


「『裏技』の使用頻度がここ数年で増えてるって言ってたじゃない?」

「うん。ここ2年くらいでガンガン使われているね」

「使っている人も多いのかな?」

「それはどうだったかな。ちょっと待って」


 もう一度、魔法のログを調べてみる。


「えーと。3人だけだ」

「その3人がダンジョンに入って、この魔法を延々と使っているということ?」

「多分そうだ。拾った魔法スクロールが『試練』かどうか、繰り返し調べてるんじゃないかなあ」

「3人だけということは、まだ世界中で使われているというわけじゃないんじゃない?」

「そうかもしれないな」


 ちなみに、『詠唱魔石固定ネェメニィノイム』を使っていたのはこの3人。


 タノン マーランド ♂ 30 死亡

 Level=2.7 [風]


 ダニオ フリーガン ♂ 27 正常

 Level=2.1 [土]


 ラドナ ソフォビー ♀ 24 正常

 Level=2.3 [火*]


 あれ? タノンという男は、何でかは知らんが死んでるな。

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