ミノタウロス
ようやく石の扉に到着。中へ入り、トンネルを用心深く進んで行くと、祭壇。
壁が崩れると、その先は今度はジャングルである。
見通しがきかないほど、ツタ類や名も知らぬ木々が生い茂っており、空気は湿気ていて暑い。足元は少しぬかるんだ泥で歩きづらい。
川が流れた後と思われる低地に沿って辛うじて進むことができる。
ガサッという音がしたと思ったら、右側の灌木の陰から身の丈3メートルはありそうな黒褐色のサルが躍り出て、棍棒を持って襲ってくる。オーレリーが『鉄壁の盾』で攻撃を受けると、身を翻して藪の中へ隠れてしまう。
「初めて見るが、どうやらギガントエイプってやつじゃないかな?」
「しかし、藪に隠れられると、斬撃では攻撃できないぞ」
今度は、背の高い木のてっぺんから飛び降りて来たので、オーレリーが剣で薙ぎ払おうとするのだが、サルはツルを掴んで、反動で飛び上がって逃げてしまう。
しかし、ほんの数秒、その姿を視界に捉えることができた。
「エンジェル・ブレイド!」
レーザー光線は射出技と違って瞬間で攻撃が届く。空中でサルにヒット。サルはそのまま空中で霧になって消えてしまう。
また背後の藪から飛びかかって来るのが1匹。一撃をオーレリーが盾で受け止めると、身を翻して藪に飛び込んでしまう。
「おい、デレク。さっきの『
「なるほど。しかし、隠れた敵まで射抜くことができるのかな?」
まあ、やってみよう。
弓に矢をつがえて待つ。
今度は左右の藪から2匹同時に攻撃してきた。くそっ!
オーレリーが1匹の攻撃を盾で受け止める一方、俺はもう一匹の棍棒の打撃を守備隊の手甲で受け止める。
メチャクチャ痛い。
また身を翻して藪に飛び込んで行くサルたち。
必死の思いで、ここかと思うあたりに狙いをつけて矢を射掛ける。
すると、どこをどう飛んだのか分からないが、矢が命中したようだ。「ギャーーッ!」と悲鳴がする。
「お、行けたんじゃないか?」
「しかし、全部で何匹倒せばいいんだ?」
「終わったら扉が出ると思うよ」
今度は、どこからともなくコブシ大の石が1つ、2つと飛んでくる。どこかの木の上から投げつけているらしい。
「安全な所から石を投げつけるとは、SNSの正義マンと同じレベルのク○野郎だな」
「デレクが何を言っているかわからないが、どうするんだ?」
「うーん」
さっきは個体を認識してから矢を放ったから当たったのだろうが、どこにいるかも分からないのに矢を射ても当たるかどうか。
また石が飛んでくる。
正確な位置は分からんが、不自然に幹が揺れているあの高い木のあたりだろう。
「デモニック・ブラスト!」
目標の木のあたりで、ドカンとデカい爆発が起きる。デモニック・ブラストは狙ったあたりで爆発を起こす闇魔法である。
数本の木が、幹からバラバラになって四散している。サルを倒せたかどうかは分からんが……。
「うわ! ……こりゃひどい」とオーレリーに言われる。
ふと見ると、今まで何もなかった所に石の扉が出現している。
「あ、行けたみたいだな」
「しかし、デレクはメチャクチャだな」
「オーレリーには言われたくないねえ」
とりあえず、棍棒を受け止めた腕に治癒薬を塗る。
扉の前にドロップアイテムを発見。これは親切。ジャングルの中を探し回るのは手間だからな。
小さめの皮袋に、『啓示の指輪』と金貨が6枚。『啓示の指輪』は魔法などで隠されていた本当の姿を見抜くことができるようになるらしい。つまり、俺がいつもやっているような偽装や変装を見破るってこと? もし誰かが使っていたらヤバいな。
石の扉に入って、トンネルを進むと、両開きの大きな扉。ようやくこの階層のボス部屋らしい。とりあえずは「ヒール」のスクロールで体力を回復して、いざ。
大きな石の扉を押し開けると、中は20メートル四方ほどの部屋。
ぼんやりとした明かりが部屋を照らす中、部屋の中央あたりに黒いモヤがたちこめ、見る見るうちに背丈3メートルはありそうなモンスターになる。
顔のあたりは赤茶色の毛のウシ。首から下は筋骨隆々とした巨人だが、太ももから下はまたウシの脚になっている。右手に大きな斧、左手には丸くて分厚い盾を持っている。
ミノタウロスだ。
ミノタウロスはいきなり斧を振り上げてこちらへ突進してくる。
「ファイア・ストーム!」
「サンド・エッジ!」
俺とオーレリーでそれぞれに魔法攻撃を試みたのだが、発動しない。
「あれ?」
「魔法が出ないんだが?」
ミノタウロスが振り下ろす斧を、盾で必死に受け止める。「ガズッ!」と鈍い音がしてめっちゃ重い衝撃が来る。
その隙にオーレリーがミノタウロスの左側面から、オニギリ丸こと『斬魔の剣』で斬りかかる。肩から背中にかけて一閃!
すると、ミノタウロスがぐらついた。
物理攻撃は効くのかよ。
これはどうやら、王都にある闘技場のように、攻撃系の魔法を抑止する仕組みが動作しているようだ。だとすると、レベル1程度の魔法しか使えないだろう。
では、『自由の指輪』をはめてみたらどうだろう? これは自前の魔法サーバだから、周囲のレセプターや魔法サーバの設定には関係ないはずだが……。
ミノタウロスは攻撃を受けて怒っている。今、オーレリーの方へ向かって攻撃を仕掛けようとしているので、ちょっと距離をとって魔法を試す。
「エンジェル・アロー!」
……あっれー? やっぱり魔法が出ない。
普通とは違う方法で魔法を制限しているのか? だとしたら相当に厄介だ。
「オーレリー、『雷撃の杖』をこっちへ!」
オーレリーは背中に背負っていた『雷撃の杖』をこっちへポーンと投げてくれた。さて、これはどうだろう。オーレリーと対峙しているミノタウロスに杖を向ける。
「ライトニング!」
すると、青白い電撃がバチバチッと杖からミノタウロスに走るのが見える。ミノタウロスは一瞬身体全体を硬直させたが、あまりダメージは受けていないっぽい。
こっちをギロリと睨む。
「デレク、雷の攻撃の一瞬は身体の動きを止められるから、もう一度やってくれ!」
「よし。ライトニング!」
再び青白い火花が飛び、ミノタウロスが硬直する。
その一瞬の隙に、オーレリーが『斬魔の剣』で一撃を加える。
ミノタウロスが後ろを向いて、オーレリーの方へ向かおうとしている。
この隙に、少し距離を取って『
引き絞って、……放つ!
ミノタウロスが振り返った瞬間に、左目に命中。
「グガガアッ!」
こちらへ注意が向いた瞬間を狙って、オーレリーがミノタウロスの右脚に攻撃。
ガクッと膝をつくミノタウロス。これは効いてる。
ミノタウロスの動きが鈍くなったので、再び遠くから矢を射掛ける。今度は右肩を射抜いた。左手で斧を振り上げるが、そこを背後からオーレリーが一閃。
天を仰ぐような姿勢で力尽きたミノタウロスは、黒い霧になって光って消えた。
「ああ。やったなあ」とオーレリー。
「魔道具が役立って良かったよ」
しかし、剣と弓矢で倒すしかなかったわけだが、どういう仕組みで魔法が無効化されているんだろう? 魔法は効かないのに、魔道具は動作するって仕組みが分からん。ダンジョンならではのご都合主義だろうか。
さて、ドロップアイテムは「不屈の指輪」。精神に干渉する魔法を無効化するとのことだが、つまり、『魅力の指輪』とか『尋問上手』みたいなのが効かないようになるのか。
あとは、金貨が20枚。
指輪を俺がもらう代わりに、金貨は全部オーレリーにやると言ったら、そんなには要らないという。
「もらってもなあ。使い道のあてがあるわけではないし……」
「じゃあ、クロチルド館の改装とかに使ったらどうだ? 食堂をもっと豪勢にするとか。それか、あそこにもトレーニングルームを作るというのもいいぞ」
「なるほど。警備員だけじゃなくて、他の女の子も護身術くらいは身につけてもいいかもしれないしな」
「あと、あそこで勉強を教えるらしいから、その設備に使ったらいい」
「確かに。勉強は苦手だが、国の発展には必要だな」
毎日ぼんやりしているよりも、何か目的を持って毎日を過ごす方がいいに決まっているからな。そのためのきっかけになったらいいかもしれない。
そういえば、第5階層をクリアした人はいないとか言ってた気がするな。
もしかして史上初の快挙ってやつ?
少し休憩をとって、オーレリーに聞いてみる。
「ここまで来たら、第6階層も覗いてみるよな?」
「そうだな、不思議と腹も減らないし、そうするか」
ボス部屋の奥にある石の扉を押し開けると、『第5階層攻略おめでとうバッジ』が2つ置いてあった。……まあ、階層を攻略した証拠にはなるかな。
そして、第6階層。
石の扉を押し開けて中へ入ると、草木もほとんど生えていないような岩山の風景。足元から続く道は、断崖絶壁の途中に幅1メートル程度に作られた道に続いている。
「えー? これを進むのか?」と明らかに嫌そうなオーレリー。
「そもそも、何を目的にどこへ行ったらいいか分からないよなあ」
進むのを躊躇していると、目の前に金色の霧がふわっと現れ、見ている間に女の子の姿になる。
その女性は小柄で、肌の色が全体に緑っぽく、長いプラチナブロンドの髪の間に尖った耳が見える。絹か何かで作った薄物の服を着て、革で作った帽子をかぶり、ブーツを履いている。
全身を見た感じ、一言で言うならロリ体型である。
「エルフ?」と俺がつぶやくとオーレリーも言う。
「へー。初めて見たよ、エルフ」
「ハーイ。可愛いエルフのノピカだよぉ」
ノピカと名乗ったエルフはあざといポーズでウインクなんかする。
……俺、こいつ嫌いかもしれん。
オーレリーが尋ねている。
「ノピカとやら。まず尋ねたいのはだな」
「はいはい。どうしてあたしがこんなに可愛いかってぇ?」
「いやいや、なんで乳首が透けるような衣装で、しかもパンツも履いていないのか、というところなんだが」
「いやん。それはね、エルフだからよ」
「エルフってみんなそうなのか?」
「可愛いあたしはとめどなく可愛いさが溢れてるから、惜しげもなくサービスしてあげるってこと」
「ここにいるデレクがムラムラして押し倒して、言葉にできないような卑猥なことをするかもしれんぞ」
「おいこら。ちょっと待て」
「やあねえ、そんなことをした時点で、
俺から精一杯のお願い。
「君を消す方法を教えてくれないかな」
「それはダメなんだよぉ? あなたたちを目的地まで誘導するのがあたしの仕事なんだから」
「実は単なるホムンクルスなんじゃないの?」
「失礼ね。普通のホムンクルスには名前なんかないのよ」
あ。なんだ、ホムンクルスなんじゃん。
「何で名前があるの?」
「可愛いあたしを呼ぶ時に名前がないと困るでしょ?」
そろそろ本題に入りたい。
「この階層のゴールって何?」
するとノピカは遠くの山のてっぺんを指差す。
「あそこの山の頂きに刺さっている聖剣を目指します。もちろん、そこに至るまでにはモンスターに襲われちゃったりするけど」
オーレリーが質問。
「どんなモンスターが出るんだ?」
「最弱でゴブリン、最強でミノタウロス」
「それって、だいたい何でもアリってことか」
「それで、聖剣にたどりついて、それを抜くことができれば……」
ベタな展開キタコレ。
「……世界を征服することだって夢じゃないらしいわ」
何でトーンダウンしてんだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます