第3階層

「俺がジェル・ボールを打ち出して動きを止めるから、そこを攻撃して!」

「分かった!」


 粘度の高いジェルをジェル・ショットで撃ちまくる。ジェルが命中したイモリはしばらく動きが止められてしまうので、そこを他の3人がせっせと剣で攻撃する。


 こうして、少し時間はかかったものの、厄介なイモリを討伐完了。

「十数匹はいたよな」

「あー。疲れた」


 オーレリーが言う。

「デレクの照明の魔法とジェル魔法がなければかなり苦戦しただろうなあ。それぞれは攻撃力が高いわけじゃないんだが、結果的にはあたしのファイア・サーペントよりずっと役立ったわけだ」

「いや、あのファイア・サーペントは凄かったよ? 敵の種類によってはあれが役立つこともあるに違いないさ」とフレッド。

 カメリアも尊敬の眼差しでオーレリーを見ている。

「あたしも初めて見たけど、すごいわね。圧倒されたわ」


 ドロップアイテムはまず「土の指輪」。土系統のレベル3の魔法が使える。これをカメリアに。

 オーレリーは魔法スクロールを拾っていた。

「『透明人間』って何だ? しばらくの間、モンスターからも、味方からも見えなくなる、って説明があったけど」

「その通りのモノだろう。ダンジョンの中でしか使えないって書いてなかった?」

「あ、あったな」

「じゃあ、今後どこかで、難易度の高い敵に出会ったら使えばいいと思うよ」


 さらに「回避の指輪」をフレッドに。これでローザさんが魔法攻撃を回避できたらしいという話を、オーレリーにはそれと分からないようにぼやかして説明したら、是非欲しいとのこと。


「ローザさんって、ケイのお姉さんってこと?」

「そうだよ。道場の娘だからかなり強いけど、今は貿易商をやってる」

 カメリアとオーレリーにも分かるように説明。

「ケイっていうのは、テッサードの護衛や警備担当の家の女の子でね、テッサード領内では接近戦最強と言われてるんだ」

「確かになあ」とフレッドは納得。


 オーレリーが言う。

「ケイという子は、先日のダズベリーのパーティーでちらっとだけしか見ていないのだが、そんなに強いのか?」

「ああ。彼女は『隠密』のスキル持ちエクストリで、予想できないところから防ぎようのない攻撃をする才能がある。体術も強い」

「へえ。そのスキルは聞いたことがないな」

「今、ダズベリーで俺の兄嫁のボディーガードをしているから、しばらく聖都には来られないだろうなあ」

「そうか。なかなか興味深いな」


 俺は「チャージの指輪」をもらった。これはロックリッジ家にもあった。起動直前の魔法をあらかじめ指輪に蓄えておくことができるらしい。どんなものなのか、効果を確かめてみたい。

 あと、金貨が2枚と怪しい魔法スクロールが2つ。


「どうせ休憩中だし、お約束で詠唱してみる?」とフレッド。


 コイントスを順番に3回ずつ行って、ウラが出た回数の多い人、というルールでいざ。

「あれれ?」

 カメリアとフレッドが3回とも全部ウラ。


 まずはカメリアから。

「ちょっと怖いけどやってみるね。……解放と恩寵と友情の御使いたる……お示しあれ」


 何も起こらない。

「あ! 『君には期待している』ってメッセージ、……次の戦闘では体力、魔力の消耗が軽減されるって」

「へえ。それは当たりだな」


「え。そんなのアリ?」とフレッドは不満そう。

「これはフレッドに期待だな」とオーレリー。

「また誰かに舞を舞ってもらえるかしらね」とカメリア。

「はいはい。行きますよ。……天啓と勤勉と陶酔の御使いたる……お示しあれ」


 するとフレッドの前に、背丈が30センチくらいの、ままごとで使うような人形がふわっと現れる。

「あら、可愛いわね」とカメリア。


 人形は口をカクカクさせて、可愛いような不気味なような声でこんなことを言う。

「あなたに、朝急いでいる時に、まともなシャツが全部洗濯に出てる呪いをかけてあげるわ。じゃあ、頑張ってね」

 それだけ言うと、人形はふいっと消えてしまう。


「……なんじゃそりゃー!」

「あはははは」

 3人で爆笑。


 さて、気分転換もできたところで、部屋の奥の扉を開けると、薄暗い廊下が続いている。廊下はホコリ臭い上に歩くと床板がギシギシ鳴る。廃墟ツアーみたいな感じだな。


 歩きながらフレッドがぼやく。

「くそー。酷い呪いをかけられてしまった」

「多分、1回だけで済むと思うからさ」となぐさめるものの、カメリアとオーレリーはニヤニヤしている。


 しばらく進んだら、「書庫」と書かれた部屋の扉が見える。

 あ!

「ちょっと中を見てみたいんだけど、一緒に来ない?」とフレッドに声をかける。

 廊下をオーレリーとカメリアに見張っていてもらうことにする。


 中に入ってからフレッドにだけ聞こえるように話しかける。

「あのな、さっき俺がネタ魔法を詠唱した時、何も起こらなかったみたいに見えただろ。実は『秘宝館マスター』ってやつで、秘密のお告げがあった」

「なんでヒソヒソ話すんだ?」

「どうやらダンジョンの書庫、つまりここに、があるらしい」

「な、なんだって。それはゲットせねばならんな」

「お告げによると、暗がりでも黄色く光る背表紙の本があるとのことなんだが」

「よし。手分けして探索だ」


「オーレリー、ちょっとすまん。興味深い文献がありそうなので探してみるよ」

「あー、分かった。こっちは休憩してるから気にするな」


 それほど広くはない書庫。書架の本はほとんどがただの見せかけで、木片だったり、空き箱だったりする。

「あ。あれじゃね?」とフレッド。

 見るとちょっと高い棚に、自転車の反射材のように黄色く光る背表紙を発見。

 背伸びして取り出す。どうやら、本ではなく、箱である。


「何だろうな」

「開けるぞ」


「なんだこれ?」

「あ、この形はもしや……」

「この感触はちょっと……」

「な?」

「ほほう」


 うまい具合に2つ入っていたので、フレッドと山分け。

「これは紳士と紳士の秘密だ」とがっちり握手。

「うむ。今日は良き日だな」

「まさしく」


 オーレリーがにゅっと顔を出す。

「なーにやってんだ?」


「あ、いやいや、何につけ、探求の道は厳しくも楽しいと、そんな話をしていたのだ」

「ほう。デレクは何か難しそうな言い回しでごまかそうとするから気をつけないといかんなあ。どうせ怪しいものを見つけて悦に入っていたのではないか?」

「そんなことは全然ないぞぉ」


 厳しくも楽しい探求は終わって、またギシギシと床板の鳴く廊下を進む。

 廊下の突き当りに、今度は2つの扉がある。扉の向こうには1メートル四方くらいしかない小さな部屋があり、さらに扉。


「これは、2人ずつに分かれて進むということかな?」とオーレリー。

「どうやって組分けする?」

 フレッドが言う。

「魔法の能力が高いデレクとオーレリーは別々になるべきだな。で、カメリアをよろしく、と言われたのは俺とデレクだから、俺とオーレリー、デレクとカメリア、でどうかね?」

「特に異論はないけど」


 というわけで、右の扉にフレッドとオーレリー。俺とカメリアは左の扉へ。

 小さい部屋に入って入口を閉めたら、向かいの扉が開いた。


 そこはボールルームのような少し広い板張りの部屋である。さっきの廊下よりは少し明るいように思う。


 部屋の隅に飾られていた2体の全身甲冑が、いきなりガチャガチャと音を立てて動き出した。それぞれ、俺とカメリアの前まで来て、戦闘態勢を取る。

 ガチの剣術勝負?


 一瞬の沈黙の後、甲冑が長剣を繰り出してくる。同じく剣で受け止める俺。どうも甲冑の中に何かがいるような重量を感じる。

 少し間合いを取ったと思ったら、甲冑は怒涛の連撃をかましてくる。うわあ。


 ちらっとカメリアの方を見たら、さすがに白鳥隊、互角にやり合っている。すごいな。

 カメリアは上半身は甲冑なのでまだいいが、俺は手甲以外は防具がない。

 ちらっとカメリアを見た隙を突かれて、上腕に一撃を食らってしまう。

「くっ」


 しかし、相手が剣で攻撃してくるからって、必ず剣で返す必要はないんじゃないか?

「ファイア・バレット!」


 甲冑の頭のあたりを狙って魔法攻撃をかけてみるが、効果がない。甲冑が防いでいるのだろうか? じゃあ、ちょっと掟破りな気もするが……。

(デモニック・クロー)


 これはさすがに効果があったらしく、膝から崩れ落ち、霧になって消えてしまう甲冑。


 さあ、カメリアに助太刀、と思った瞬間。

「きゃあ!」

 物凄い勢いの体当たりを食らってしまうカメリア。

 カメリアは壁に激突すると、モンスターと同じように霧になって消えてしまう。


「しまった!」

 脳震盪でも起こして失神してしまったのだろうか。

 うわあ。アンソニーに約束したのに守れなかったよ……。


 もう1体の甲冑をデモニック・クローでとっとと倒す。

 ドロップアイテムは『ヒール』のスクロールと、「死の指輪」である。

 「死の指輪」か。レアなアイテムらしいが、もうひとつ使いどころが分からんのだよなあ。


 「ヒール」はもったいないので、治癒薬を腕に塗っておく。


 広間の向こう側に扉があったので開けると、そこはまた廊下。

 そろそろと進んで行くと、向こうから黒い影がいくつかやって来る気配。


 うわ。ダンジョンスパイダーだ。


 床から、天井から、クモが一斉に襲ってくる。何匹いるんだろう?

「ファイア・サーペント!」


 大蛇のようにのたうつ炎が、何匹もの黒いクモを一瞬で全滅させる。これは楽だ。


 ドロップアイテムは、金貨4枚、治癒薬の小瓶が1つ。さらに、ネタ魔法と思われるスクロールが1つ。


 廊下の突き当りはまた扉。開けるとそこは、これまでと違う石造りの部屋。

 正面に大きな石の扉がある。


 ふと振り向くと、今通ってきたはずの扉はもう消え失せている。


 なるほど、ここがボス部屋の前の合流地点か。

 他には誰もいない。


 石の扉を押してみたが開かない。他にまだ戦っているメンバーがいるらしい。ちょっと安心。しかし、カメリアに助太刀できなかったのは悔やまれるなあ。


 しばらく待っていたら、急に壁にドアができて開き、セーラとマーカスがやって来た。


「あら? デレクの他は?」

「すまん、カメリアがやられた」

「え! デレクが付いていながら、ダメじゃん」

「いや、ほんとにゴメン。敵がぶつかってきて、失神したらしいんだ」


 と言っている間に、またドアが開いてオーレリーがやって来た。

「あれ? フレッドは?」

「すまん、カマキリ人間みたいな集団に襲われてなあ」


 オーレリーの話によると、昆虫型のモンスターで、4本の足に鋭いカマがあり、しかも尻尾に毒がある個体がいくつか混じっていたそうだ。

「あたしは火系統の魔法でかなり倒したし、フレッドもパンチでかなり粉砕したんだが、毒針でやられたようだ」


 さっき冒険者のプラガも言っていたが、第3階層は確かに厄介だな。

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