そろそろ本調子

 昼くらいに、ソイバンクの町に到着。

 ソイバンクはそれほど大きな町ではないが、シナーク川にニサイ川が合流する地点にあり、川沿いに倉庫なんかが立ち並んでいる。


 ここで昼食。昼食はカメリアのリクエストでパスタ。

 例によって、オーレリーがメニューに食いついている。

「デレク、このラザニアってのは何だ?」

「平たいパスタでミートソースやチーズを挟んで焼いたヤツだ。俺も好きだから食ってみたらいい」


 マーカスがオーレリーに質問。

「ゾルトブールは料理が美味いという噂なんだけど、聖都と比べてどう?」

 うわ! その質問はまずくない?


「ゾルトブールの、特に王都ウマルヤードについて言えば、確かに何でも美味い。あたしは山がちな地方の出身だったから、魚料理はあまり馴染みが無かったんだけど、川沿いの都市では、川魚はもちろん、海の幸も食べられてかなりいい感じだよ」

 お? ソツのない受け答え。やればできるじゃん。


 今度はオーレリーがアンソニーに話しかける。俺がハラハラしながらオーレリーを見ているのを、セーラだけが気づいてニヤニヤしている。

「失礼ながら、アンソニー殿は近々ご婚約されるとか小耳に挟んだのだが……」

 アンソニー、ちょっと顔を赤らめて言う。

「おや、耳が早い。まだ正式に発表はしていないんだけど……」

 カメリアが自分から言う。

「ええ、アンソニーとあたしが婚約する予定なのよ」

「それはめでたい」

 騎士隊所属のメンバーは気づいていたらしい。セーラが口を挟む。

「アンソニーは騎士隊をやめる前からカメリアが気に入ってたみたいだもんね」

「え、うーん。そうだけど。……まあ、いいじゃないか」


 カメリアが言う。

「オーレリーも色々辛いことがあったみたいだけど、まだ若いでしょ?」

「いや、もう24だなあ」

「おっと。それはまだ十分過ぎるくらいに若いよ」とアンソニー。

「そうね。機会があったらパーティーに呼びたいわね。ちゃんとドレスを着たらきっと映えるわ」

 セーラが言う。

「オーレリーのドレスを誂えたことがあるから断言できるけど、プロポーションは見事なものよ。聖都でパーティーなんかしたら、きっと話題を独占ね」

「えー! それは見てみたいわねえ!」とシャーリー。

 いやー。あんまり表に出るのはよろしくないと思うんだけどなあ。


「いえいえ、今は単なる警備員というわけだし」と謙虚なオーレリー。

 マーカスがどういうわけか知っている。

「ちょっと待てよ。例の『13番地事件』のあった場所の警備員って……」

「あ、そうそう。そこの警備をしてるんだ」

「あそこ、出入りしてるのも、警備してるのも全員女性ばっかりって評判だよ?」


 シャーリーが尋ねる。

「え? あの、どこかの会社の倉庫跡みたいな所でしょ?」

「今は改装して、国外から来る女性たちの宿泊施設になってるんだよ」

「へー。いつの間に」


 マーカスが言う。

「あそこさあ、可愛い女の子ばっかりって噂だから、騎士隊の若いメンバーもちょこちょこに行くんだけど、警備の子に見つかって石投げられて帰ってくるんだよね。最近はむしろ肝試しみたいになってる」


 小バエの正体、判明。


 食事が終わり、馬車を4人乗り2台に乗り換える。

 シャーリーが仕切って、婚約者同士は同じ馬車は禁止というルールを提案。

 そこで、一方の馬車に俺、マーカス、カメリア、シャーリー。もう一方はセーラ、オーレリー、フレッド、アンソニーである。オーレリーから目を離すのは心配だが、セーラに任せよう。


 今度は小さめの馬車なので、さっきよりも互いの距離が近い。

 聖都に出てきてまだ日の浅い俺が質問攻めといった様相。


「セーラってちょっと変わり者でしょ? デレクは大丈夫?」とシャーリー。

「あー。俺も自覚はないけど怪しいやつってよく言われてるから」

「怪しいって、何が?」

「母がラカナ公国のプリムスフェリー伯爵家の出なんだ。で、小さい頃に叔父さんからもらった指輪があって、これで普通にはない魔法が起動できるから、昔から怪しいヤツって言われてる」

「普通にない?」

「ちょっとネバネバしたジェルを、ウォーター・ボールのように出せるから、これを使って犯罪者を無力化できる」

「え! 今出せる?」とマーカス。

「じゃ、ちょっとだけ」とピンポン玉程度を手のひらに出して見せる。

 3人が恐る恐る指でつついてみる。

「わぁ。ネバネバだね」

「これを犯罪者の顔面に射出したら、もう息ができないわけ」


「うーん、それすごい!」とシャーリーが感心している。

「シャーリーはそれをウォーター・ボールでやってるよね」とカメリア。

 確かに『13番地事件』の時にやってたなあ。だけど、ここは知らないフリをしておかないとな。

「ウォーター・ボールだと、位置をキープしておくのが大変じゃない?」

「かなり練習したわ。おかげでかなり魔法のレベルは上がったわよ」

「なるほど」

 ちょっと失礼してステータスを確認。


 シャーリー チェスター ♀ 18 正常

 Level=3.0 [水*]


 以前は確か、レベル2だったよな。かなりレベルアップしたな。


 マーカスが言う。

「従姉妹が二人とも魔法が使えるのに、俺はダメなんだよなあ」

「だったらほら、ダンジョンで何かうまい具合のモノを見つけたらいいじゃない」とシャーリーが適当なことを言う。

「なんだよ、うまい具合のモノって」

「さっきのアンソニーの指輪みたいなのとか? デレク、あとどんなのがある?」

「アンソニーの指輪は水だったけど、火とかほかの系統のもあるはず。攻撃力がすごい刀や戦槌、逆に防御力のある盾とか」

「へえ」

「でも確かに、魔法が使える人の方が有効活用できるアイテムは多いかな」

「やっぱりなあ」とちょっとマーカスがへこむ。


 夕方近くになって、ブレイズの宿場に到着。ここで休憩してメンバーチェンジ。


 今度は俺、オーレリー、シャーリー、アンソニーの組み合わせ。


 シャーリーがアンソニーに聞いている。

「アンソニーはデレクとはもう知り合いなんだっけ?」

「そうだな。デレクはミシェルの誕生パーティーで、面白いモノを持ってきてただろ?」

「ネコ耳カチューシャか」

「ふふふ。ミシェルとフローラはデレクがずいぶんお気に入りみたいだぞ。あ、この場合のお気に入りというのは、異性としてではなくて、どちらかというとイジっても怒らない親戚の男の子みたいな感じだと思うけどな」

「はあ。まあ褒めてもらったととっておくよ」


「オーレリーにも色々聞いてみたいことがあるのよねえ」とシャーリーがニヤニヤしている。う、危険……かな?


「まず、血縁でもないデレクの所で厄介になってるのはなんで?」

 変なこと言うなよ、とハラハラして見守る、授業参観の親みたいな俺。


「どうも聖王国ではデレクの凄さはあまり知られていないようだが、デレクはラカナ公国で名誉騎士に叙されたりして、大公陛下の覚えめでたい人物なのだな」

「それはこの前の婚約発表の時にも言ってたわね」

「具体的にどんな功績を上げたのかって聞いてないけど、どうなんだ?」とアンソニー。

「どうなんだ? デレク」とオーレリーが俺に丸投げ。


「え? 自分で言うの? しょうがないな。まず、ゾルトブール王国で無実の罪を着せられて奴隷同然に売られそうになっていたシャデリ男爵のお嬢さんを助けた。これが1つ。それから、長い間消息不明だったプリムスフェリーの後継者を探し出して正しい継承が行われるようにしたこと。そんな所だね。もちろんひとりでしたことじゃなくて、色々な人の助力があってこそなんだけど……」

「またまた。デレクはそういって自分の手柄を小さく見せるような物言いをするだろ。貴族たるもの、主張すべき点は堂々と言うべきだな」と、貴族ではないオーレリーが偉そうに言う。


「ということはまだあるわけ?」とシャーリーが続きを聞きたがっている。

「えーと、ラカナ公国に入ってすぐくらいに、懸賞金のかかった盗賊団を壊滅させたな。それから、奴隷魔法の魔道具の取引を検挙する手助けをした。山賊に襲われて拉致されていたお嬢さんたちを助けたこともあるな」

「ほら、叩けばホコリが出るってやつだ」とオーレリー。

「こらこら。それは悪事が露見するときに使う表現だ」


 アンソニーが感心する。

「ほう。すごい活躍をしてるのに……、あ、そうか、国外でのことだからか」

「そうそう。他にも実はいろいろやってるんだが、口止めされてるから言えない」と自分の手柄みたいに言うオーレリー。

「オーレリー、そういう言い方は……」

「つまり、なぜデレクの所で厄介になっているのかという質問に答えるならば、デレクの所にいるとすごいことをしてくれそうだから、かな」


 シャーリーが思い出したように言う。

「そういえば、『13番地事件』の時にキーン・ダニッチという怪人が出現したんだけど。デレクは知ってる?」

 う、ヤバい話題来た。

「ちょうどその時、ラカナ公国に向けて旅行中でね。この前、セーラの所でフランク卿に詳しく聞いてきたよ」

 アンソニーがシャーリーに尋ねる。

「シャーリーはそのダニッチという人物を間近で見たんだろう? どんな感じだった?」

「うーん、顔はよく分からなかったけどいい声でね」

 うん、あれは声優の早見ジョーさんの声だけどね。

「突然空から現れたのは驚いたけど、その他には驚くような強大な魔法を使ったということはないわねえ。でも、そのときもらった革鎧と盾の防御力はすごいのよ」

「へえ」

 オーレリーにはキーン・ダニッチの話はしていないから、知らないかな?


「それで、その時のメンバーにヴィオラって子がいるんだけど、それ以来、キーン・ダニッチの信奉者と化していてね」

 うーん。そんな話をセーラもしてたなあ。

 オーレリーがぶっちゃけた質問をする。

「それって、その辺にダニッチという人物がいたら結婚を申し込みたいとかそういうこと?」

「あたしも聞いてみたのよ。なんて言ったと思う? 恐れ多いと思うけれど、可能なら結婚して、いえ、結婚しなくても押しかけて子供を5、6人作りたいくらい、だってさ」

「重症だな」

 ホントに。


 オーレリーがヤバい話題を口にする。

「噂ではゾルトブールにも、ハーロック・ショゴスという怪人物がいるらしいぞ」

「あ、その話は……」

 止める間もなく、自慢するように話をするオーレリー。

「ハーロック・ショゴスは麻薬を撲滅するという目的で、数名の凄腕の戦闘集団を率いてあちこちの麻薬農園を壊滅に追い込んでいるというんだな」

 ちらっとこっちを見てニヤニヤしてる。ううむ。


「それは怪しいんじゃなくて、正義の味方じゃないの?」とシャーリー。

「正体不明なところがまず怪しいのと、どうやら可愛い女の子ばかり助けているらしいのが圧倒的に怪しい」

「ほう。それは確かに怪しい」とアンソニー。

 ぐは。


「ゾルトブールの内乱が終結したのも、陰でハーロック・ショゴスが動いていたからじゃないかと、あたしは睨んでるんだが、デレクはどう思う?」


 しれっと本人に話を振るなよ。

「いや、噂では、あれはダンスター男爵という人物の策略が素晴らしかったからだと聞いているけどな」


 オーレリーも、最初はよそよそしい感じだったけど、いつもの調子に戻ってきたかな?


 ゾルトブール王国の内乱がどうなったとか、そんな話をしているうちに、馬車は次第に鬱蒼とした森の中へと入って行く。もう夕暮れ時、周りはすっかり暗くなってきた。

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