ゴーレム兵

 ザ・システムや魔王関係の情報に詳しいドラゴンにコネができたものの、ジャスティナをよろしく、と言われてしまった。


「リズ、どうしよう」

「ジャスティナを幸せにすればいいんだから、ドラゴンと戦えって言われるよりずっと簡単だよ」

「そうは言うものの、セーラに怒られそうなんだけど」

「デレク様、もう『尻に敷かれてる』ってやつですか」と人ごとのようなジャスティナ。

「はう」


 しかし、ドラゴンに連絡をとるにはジャスティナに頼むしかない。そして、ジャスティナは可愛い。そう考えると、確かに悩むよりは現状を受け入れた方がお得だ。

「……でも、セーラが怒りそうだ」

「だからさっきも言ったじゃん。セーラより先に子供を作らなければ大丈夫」

「そうかなあ」


 どうせしばらくは子供を作る予定はないので、現状維持という方針に。


「とりあえず、魔王軍がいきなり復活する危険はなさそうだし、今日は疲れたからもう寝るよ」

「えっと、添い寝は……」とジャスティナ。

「あー。……またそのうちね」

「はい! ぜひ近いうちに!」


 次の朝。

「あれ? なんでリズが一緒に寝てるのかな」

「ジャスティナも一緒だったら良かった?」

 そういいながら、俺の頭をかかえてお胸に押し付けるリズ。

「そういう話でもないんだけど」

 まあ、朝から幸せ。


 トレーニングルームに行くと、エメルとノイシャがいた。


「ジャスティナが昨日、ずいぶん浮かれてましたけど、何かあったんですか」とノイシャにも怪しまれる。

「えー。まあ、そのー、別にこれといって……」

「絶対何かあったと思うんですけど?」

「あたしも昨日から妙だなあ、って思ってるんだけど」とエメル。

「や、やだなあ」

「怪しい」「怪しいですね」


 ノイシャに組み手の相手をしてもらう。

「なんか、めきめき強くなってない? ケイの相手をしてる気分だよ」

「ふふふ。デレク様をそろそろ追い越す予定です。そしてお風呂です」


 エメルとも組み手をして、クデラ流について少し教えてもらう。

「あいててて」

 組み伏せられた後で妙に身体を密着してくる。絶対わざとだろ。



 朝食のあと、魔法管理システムで『耳飾り』の情報をチェック。エスファーデンの内乱がどうなったか、チェックしておきたい。


 エスファーデン王宮とゾルトブールに送り込んでいる諜報員とのやりとり。


 【ウマルヤード監視】 Y8qbb3T6

  ▲: 連日、ダルーハンのあちこちで戦闘が行われている。

  ▽: どちらが優勢か。

  ▲: 兵士の人数では王家派が圧倒しているが、相手はゴーレム兵を使っており、戦況はむしろ相手方に有利に見える。

  ▽: ゴーレム兵とは何だ?

  ▲: ダンジョンで出くわすようなヤツらだ。これが兵となって戦っている。

  ▽: まさか。

  ▲: 錬金術師と名乗る者が反王家派にいるらしい。


 何だって?

 続報がある。


 【ウマルヤード監視】 Y8qbb3T6

  ▲: ウマルヤードにいる特務部隊を国境手前まで引き上げさせろとの命令だ。

  ▽: 入国はしなくていいのか?

  ▲: 命令はそうだ。

  ▽: 了解。数日かかると思われる。


 この、ゴーレム云々という情報は、まだ他の諜報員には知られていないらしい。


 泉邸に転移して、のんびり朝食後のお茶を飲んでいるリズに報告。

「エスファーデンの内乱でゴーレムが使われているという情報があるんだが」

「え? うそ!」

 思わず手にしたカップをソーサーの上にガチャンと置く。


「情報では、錬金術師を名乗る者がいるなんて言われている」

「えー? どういうことなの? ねえ、どうする?」


 などとオタオタしていると、馬にまたがってセーラがやって来る。


「おはよう、デレク。いい子にしてた?」

 そう言われると「いい子だった」とちょっと言いづらいよなあ。いや、そんなことよりも、だ。


「今、緊急に対応すべき情報があるんだけど」


 『耳飾り』のやりとりに『ゴーレム兵』という、ただならない情報が含まれていることを説明。


「ゴーレムって、この前、ロックリッジ家の魔道具の中にゴーレムを操るというのがあったけど、あれよね?」

「多分」

「デレクが調べた範囲では、どうやってゴーレムを作るかは分からなかったのよね」

「そうなんだ」

「ふーむ。劣勢のはずだった反王家派が武力闘争に踏み切ったのは、これがあったからかもしれないわね」

「そうかも」


「これはもう、見に行ってみるしかないんじゃない?」

「いきなりは危ないだろう。まずは『遠隔隠密リモートスニーカー』で状況を把握してみるよ」

「そうね」


 書斎の椅子に座り、俺とセーラでエスファーデンの王宮のあたりを見に行く。


 武装した兵が大勢いるが、戦闘は起きていない。

「戦闘はどこで起きているんだろう? やっぱり、俺だけ転移してみるよ」

「気を付けてよ?」

 感覚共有を切って、すこし厚着してから王宮のあたりに再び転移。

 やっぱりダルーハンは薄ら寒い。


 兵士の従者らしい男が荷馬車のそばで荷物の番をしていたので、話を聞いてみる。

「ちょっといいですか? 今、戦闘はどこで行われているか情報はありますか?」

「ウェドヴァリー男爵家が持ってる砦のあたりだ。反王家派の連中はそこを拠点にして戦っててな。手強くて手を焼いている」

 ウェドヴァリー男爵家? この前、王宮内で側室が、ガッタム家と関係ないとか言っていた貴族のひとつだった気がする。


「それってどこです?」

「この大通りを2キロほど行って、街道との辻を……」

 すこし街外れの旧街道に、昔、王都の守りを固めるために使っていた砦というか、頑丈な石造りの城跡があるのだという。


「噂ではゴーレムが……」

「そう! そうなんだよ。もうね、おれは兵士じゃないけど、兵士として前線に出されたら、あの化け物に殴り倒されるのは決定だからさ、ほら、この周りの連中はいつ出撃命令が出るのか、気が気じゃないわけ」

「どうもありがとう」

「あんちゃんも、適当なところで逃げた方がいいかもだぜ?」


 『目視転移ショートリープ』などを使って、教えられた方角へ向かう。


 すると、川沿いの街道をさえぎるようにせり出した岩山に、小さめだが石造りの城があるのが見える。その周囲で、数百人ほどの兵が戦っている様子が見える。

 危険のないように、対岸に転移してから状況を観察する。


 甲冑を着た大勢の兵に取り囲まれるように、身長3〜4メートルはある、黒っぽい土か岩の人形のようなものが仁王立ちになって、時々長い腕を振り回している。


 これがゴーレムか!


 よく見ると、ゴーレムは3体確認できる。


 セーラに連絡。『共有隠密シェアドスニーカー』を使って、俺のいるあたりを見てもらう。

 セーラはカラスと視覚が共有できたらしい。

「あ、あれか。動きは早くないけど、身体が大きいから、腕を振り回しながら突進して来られたら、運が悪いと直撃だね」


 そう言っている間にも、不運な兵が1人、また1人と殴り倒されている。

 兵たちは矢を放ってみたり、槍で応戦しようとしているが、効果はないようだ。


「これはどうやったら倒せるんだろう? ダンジョンのゴーレムは水に弱かったけど」


 そう言っていたら、兵の中に水系統の魔法士がいるのだろう。大きなウォーター・ボールがゴーレムの頭上に現れ、ザバッと全身に水をかけることに成功した。

「お、やるじゃん」


 しばらく様子を見ていたが、ゴーレムには効いていない様子。

「あれれ?」


 別のゴーレムに、ファイア・バレットやファイア・ストームの攻撃が行われているが、こちらも効果があるようには見えない。

 ゴーレムは次第に、兵をじりじりと後退させている。


「弱点が分からないな」

「これって、誰かが操作してるのかしら? そうだとしたら魔力切れってことはないのかしら」

「さっきからかなり長い時間戦っているけど、動きが鈍くなったりする様子はないな」

「何よ、弱点が見当たらないじゃない」


 しばらく戦況を見守っていると、王都の方角から、多くの馬に引かれて、何か大きな装置がやって来た。

「あれは何かしらね?」


 ゴーレムから数十メートル離れたあたりに据え付けて、何か準備を始めた。

「あ! 投石機だ」


 投石機のカゴにまず重しとなる石と、投げ出す大きな石をセットし、それから周囲の数人の兵がせっせとロープを引っ張ってカゴを持ち上げる。


「おーい! 投げるからどけー!」と兵が叫んでいる。

 ゴーレムの周りの兵が慌ててゴーレムから離れる。


「それっ!」

 掛け声とともに投石機のロープを一気に離すと、重しのカゴが落ちる反動で投石機の長い腕がブンッと半回転、テコの原理で勢いよく石が投げ出される。

 投石機からひと抱えもありそうなデカい石が面白いように飛んでいく。


「投石機が動いてるところって、初めて見たわ」

「こりゃ、面白いな」


 最初の石は狙いが外れてゴーレムの手前に落ちた。そうしている間にも、次の石を発射する用意をしている。


「次は行けるかな?」


 だが、ゴーレムも石の標的になるのを呑気に待っているはずもなく、ドス、ドス、ドス、と投石機の方へ向かってくる。


 2投目。


 大きな石が見事な放物線を描いて、ゴーレムの頭部にドスンと命中。

「お、やった!」

 兵たちからも歓声が上がる。


 ゴーレムの頭部は土団子のように砕けてしまう。同時に、動きが止まる。

「ということは、石なんかの物理的な攻撃に弱いのか?」


 ところが。

 数分すると、なんと新しい頭が来る。

「げげげ」


 その間に、別のゴーレムがドス、ドス、と投石機の方へ向かってくる。慌てて逃げる投石機担当の兵たち。

 せっかく用意した投石機は、ゴーレムがゴンゴン、ガンガンと殴りつけて壊されてしまう。逃げ惑う兵たち。


 一方、砦の中からその様子を見ていた兵たちは大喝采である。

「いいぞ!」

「ゴーレムがあれば負けることはないぞ!」


 魔法管理室に転移して、セーラ、リズと話し合い。


「水も火も、打撃もダメだったな」

「今回、投石機を使っていたけど、土系統の魔法士がいたとしても結局同じよね?」

「ああ、砕けてもしばらくしたら再生してしまうようだ」

「ゴーレムだけで勝てるとは思えないけど、あれを見せられたら、兵士は戦意喪失よね」


 リズが尋ねる。

「それ、不死身ってこと?」

「いや、もともとゲームの中に登場するモンスターだから、どこかに弱点があるはずなんだ。そうでないと、として見た時にバランスが悪すぎる」

「そんなものなの?」

「チェスでも格闘技でも、戦いは互角の勝負にならないとつまらないだろ?」

「なるほど」


 セーラが少し考えている。

「……あ、魔王軍と戦った兵たちはゴーレムに対抗してるはずじゃない?」

「そっか。『スィーロン戦記』あたりにヒントがあるかもしれないな」

「それと、一体、誰がどうやってゴーレムを復活させたのかも調べる必要があるわ」

「確かに」


 ゴーレムの知識が世界中に広まったらエラいことになる。

 対応策をなるべく早く見つけておく必要があるだろう。

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