復活(リザレクション)
呼び出したサスキアに質問。
「サスキアがヨダブにいた同じ日、ニーファはロールストンにいたんだけど」
「え、それは知りませんでしたね。そもそも彼女は外での任務には就かないはずなんですけど」
「それは小さいから?」
「そうです。まだ戦闘能力もありませんしね」
「でも、
「うわぁ」
「え?」
「デレク様は可愛い女の子のことは何でもお見通しなんですね」
「いや、そうじゃなくてだな。とにかく、彼女を保護してるので対応を検討したいんだ。えーと、最初は俺たちだけで対応してみる。陰で聞いていてくれるかな。必要に応じて呼ぶから」
「了解です」
例によってゾーイと、今回はアミー、ジャスティナに同席してもらう。同じ部屋の衝立の後ろにはサスキアに待機してもらっている。
「
途端に、ソファーの上にプラチナブロンドのニーファが現れる。よく見ると、両手首、両足に縛られたロープの跡が付いている。
ゾーイがそばに寄って、ニーファをゆすり起こす。
「起きなさい。ニーファ」
名前を呼ばれたニーファはぼんやりと目を開ける。
「あれ? あなたは……誰? ここは?」
「よく聞きなさい。あなた、縛られて男の人に何かされたんじゃない?」
「あ、はい。とても痛かったです」
急遽、アミーとジャスティナがニーファを連れて出て行って身体を洗う。
部屋に残ったゾーイ、サスキアとヒソヒソ話をする。
「酷いわねえ、あの子いくつ?」
「まだ12です」とサスキア。
「エスファーデンには鬼畜なロリコン野郎しかいないのかしら」
「誘拐結婚の名残りがあるみたいですけど」
そうこうしていると、可愛い服に着替えたニーファが戻ってくる。ちょっとしたお嬢様みたいに見える。
例によって『尋問上手』で色々と聞き出すと、サスキアとは別な孤児院から、
「なんであそこにいたのかな?」
「特務部隊のプレスマンというおじさんが、他の隊員も頑張っているから、ニーファも初任務だ、がんばろう、って言って」
「プレスマンって人は農園にいたの?」
「その人に縛られたのよ。これは国王陛下の立てた『人質作戦』という計画だから、痛くても我慢するようにって」
ひどいねえ。そして計画を立てたのは国王かよ。
「農園ではニーファのスキルは何かの役に立ったのかな?」
「いえ、別に」
「そのスキルって何ができるか、教えてくれるかな?」
「壁の向こうに何があるか分かるとか、です。例えば、衝立の後ろにサスキアがいるのが見えるというか、まあ、分かります」
げ。モロにバレてるし。
しかしすごいスキルだな。魔法を封じていても関係ないのか。
「あー。サスキア、バレてるみたいだから出てきていいよ」
衝立の後ろからサスキアが現れる。
「やあ、ニーファ」と間の抜けた挨拶。
「サスキア、何やってんの?」
「えーっと、あたしも人質作戦で酷い目に遭ってねえ」
「サスキアもプレスマンって知ってるんだろう? どんな人?」
「一言で言うならエロオヤジですね。あいつ、前からニーファのことを狙ってたんだな」
ジャスティナが言う。
「ロールストンの見張り要員は殲滅せず、そのまま残して来ましたよね?」
「そうだな。だからそのエロオヤジも生き残っているわけだ。どうやら、あの農園の警備のトップだろ? 今頃きっと責任を取らされているんじゃないかと思うけど」
「○ねばいいんだよ、あんなやつ」とサスキアが容赦ない。色々と嫌な思いをさせられたらしい。
ソファーに座ったサスキアがニーファを勧誘する。
「ニーファも、エスファーデンの王宮に戻るのはやめて、ここで暮らしたらいいよ」
「でもメディア姉様に親切にして頂きました。心配かけてないかしら」
「今から帰っても、またプレスマンに酷いことされるかもしれないぞ」
そろそろお昼の時間なので、食事を食べながら相談することに。
例によって、サスキアが無言で食うこと食うこと。
負けじとニーファも食う。すげえ食う。ひたすら食う。
一息ついてニーファがニッコリ笑って言う。
「あたし、エスファーデンには戻らないことにしました」
あー、はいはい。つまり胃袋に忠実な結論に至ったわけだね。いいんじゃない?
「サスキアには、こことは別な所の警備の任務を任せることにしたんだけど、ニーファは体術とか戦闘とかは……」
するとサスキアが口をはさむ。
「あー、ニーファはねえ、今は結構元気だけど、特務部隊に来た当初は病気がちで寝込んでばかりいたから、訓練も何もしてないよ」
「おやまあ」
ゾーイが提案する。
「お屋敷にいる子供たちと年齢も変わらないですし、お屋敷で預かることにしたらどうですか?」
「あたしもそれがいいと思う。今はちょっと栄養不足ね」とジャスティナが言う。
まあ、それが穏当な線だな。
「じゃあねえ、ウィルカーって名前は孤児院かどこかで付けてもらった名前でしょ? ニーファの本当の名前はツインデューっていうんだ。これからはニーファ・ツインデューとして暮らすことになるけど、いいかな?」
「はい、分かりました」
子供は素直でいいねえ。
「それと、スキルのことは秘密にしないとね。万一情報が漏れたらエスファーデンから連れ戻しに来ないとも限らない」
「そうですね。気をつけます」
そこにリズが現れた。
「あらら。デレクったら、また?」
ニーファがすかさずリズにご挨拶。
「これは、デレク様の奥様でいらっしゃいますか。私、ニーファ・ツインデューと申します。今日からこちらにご厄介になることになりました。どうかよろしくお願い致します」
「え? えへへ。よろしくね。……デレク、なかなか可愛い子じゃない」とリズがニヤけている。
なんだろう、この大人びた挨拶。年上のサスキアとは大違いだな。
そしてその場で一番キーとなる人物を見抜く力は透視のスキルの賜物……なわけないな。小さいながら苦労してきたんだろう。
午後は、ニーファの服とか日用品が必要になるだろうというので、子供たち総出で買い物に出ることになった。引率はシトリー。馬車をノイシャが出してくれる。
「これから寒くなるから、子供たちはみんなで服を新調したり、必要なものは買っていいよ。お小遣いも上げるけど、無駄遣いするなよ」
お小遣いももらったし、新しい友達が来たというので、大人数で大騒ぎで出かけて行った。楽しそうで何より。
あ。魔法を封じたままだけど、どうしようか。……後で考えよう。
そして俺はやっと魔道具のチェック。リズと魔法管理室へ。
木箱にいっぱいの、薄汚れた品々を前にリズが半ば呆れている。
「こりゃまた、ガラクタを沢山買い込んできたねえ。指輪に腕輪、ブローチにネックレス、短剣に小盾、それからこれは笏か。よくわからない棒とか板とか、……これは杖の握りの所だけじゃん」
「ダルーハンで買ったから、これまでとは毛色の違うものがあるかもしれないぞ」
とはいうものの、「仕入れてみたけど魔道具じゃなかった」というものを買い込んできただけあって、ハズレ率が半端ない。
20個くらい取り出した時点で、『妖精の明かり』の指輪と、『無限ライター』の、どちらも機能しないヤツ。これを見つけたダンジョンが消滅したんだろう。
「ダメだねえ」とリズ。
「無限ライターは復活できるから役に立つよ、きっと」
「あとはデレクの試作品作成に回すか、子供たちのオモチャだね」
「いやいや、木箱にはまだまだ希望が眠っているぞ」
「
その後も、『時刻の腕輪』、『風の指輪』、『獣避けの指輪』などが出てくるものの、どれも機能しないヤツ。確かにリズの言う通り、魔道具の
リズはしばらくそばで見ていたが、飽きてしまったらしく、ソファに座って小説を読みだした。
オークションで見たような、というか絵本で見るような古いオイルランプを発見。
「
魔法名: 精霊のランプ
説明: 手を触れて詠唱すると精霊の立体映像を出せる。
残念だが、これも
だが、ダンジョン固有IDの部分を書き換えれば起動するだろう。魔法のパッケージを他の道具に書き込むことも可能だろうし、いやいや、これはなかなかヒットじゃないか?
木箱の底に、光沢のある黒いケースに入った2つの腕輪を発見。
「
すると、驚くべき内容が表示された。
魔法名:
説明: 過去数時間程度に負った負傷を治療する。ただし、部位の大きな欠損には対応できない。
もう1つ。
魔法名:
説明: 死亡から数時間以内であれば、
なんだって?
「ちょっと、リズ。治療魔法なんてダンジョンの中だけだと思ってたけど?」
するとリズ、ちょっと考えてからこう説明してくれた。
「ダンジョンの魔法はヒールで、こっちは『
「どう違うんだ?」
「ダンジョンの方は知らないけど、この世界で生きている人、特に魔法を使う人は、過去数時間程度の間の自分の肉体の情報をキャッシュとして保持しているんだよ」
「どこに?」
「さあ」
「……まあいいや。それで?」
「『
「さらに謎なのがこっちの『
「……これは正体不明だね」
「え。魔法システムに説明がないということ?」
「そう」
リズの知識は魔法システムと連携しているので、魔法システムに記述されている内容を自分の知識として説明できる。それができないということは、システム外の技術ということだ。
「なんだろうこれ。蘇生できることがあるって? さらにヤバそうなのは『破滅的な結果』。これって何だろう?」
「さらにもう一回死ぬ?」
「普通は死んだら死にっぱなしだ」
通常の「蘇生」には使わない「
プログラミング言語の処理系に『リザレクション』という機能を持つものがあるけど、それと関係あるのかな? あ、「○リンセス・リザレクション」っていう、パンツがたまに見える漫画があった気もする。変なことを思い出したな。
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