残された疑問
カーラとエミールがやって来て、倒した賊を縛り上げる。カーラの前でいい所が見せられて良かったな、ジョナス。
一方、セーラに追求される俺。
「ねえねえ、さっきこの女に『魔法はもう使えない』って言いましたよね」
「あ、そう、だったかな?」
「うーん、何か怪しいなあ」
カーラまで笑いながら言う。
「セーラさん、デレクはこんな感じの怪しい奴だから深く追求しても無駄ですよ」
何かもっと分かりやすい魔法でバッチリ決めたら良かったのかなあ。
サビーナが少し復活したらしい。縛られたままわめき出した。
「何よ、ちょっとほどきなさいよ。こんなことしてタダで済むと思ってんの」
エミールが涼しい顔で応じている。
「ああ、はいはい。ここにいる全員、多分処刑台までまっしぐらですけど、余罪について詳しく説明してくれたら少し命が長くもつかもねえ。今のうちによく思い出しておいてね」
捕らえた賊を引っ立てて建物の表に回ると騎士二人がやり遂げたぜっていう顔で待っていたが、ケイは相変わらずの感じ。
縛り上げられた賊が次々に建物から連れ出されている。
ブライアンが爽やかな笑顔で裏口チームの我々に話しかける。
「やあ、問題なかったかい?」
「見て!
「こいつに笏の魔法を使われそうになって大ピンチですよ」
「嘘つけ」と間髪入れずに突っ込むジョナス。
「え、笏の魔法をですか」
驚いているブライアンとフレッドに、セーラが一生懸命説明する。
「彼がね、何か変な魔法でね、相手は何ていうか、なすすべもなくというか」
何か興奮して説明になっていないんですけど。ちょっと。何この可愛い女騎士。
ブライアンは何か呆れた風で尋ねる。
「俺に使った変なやつとはまた別な変な奥の手があるのかい、デレク」
みんなで変、変と言わないで欲しい。
「あーその話は後。まずは奪われた金品を確認しよう」
「了解」
「それから、討伐した賊は全部で何人?」
「建物の中に8人。全員男だ。それと奥の部屋に死体が1つ転がってた」
ケニーが縛られている男の胸ぐらを掴んで問いただす。
「あの死体は何だ」
すると代わりにすっかり不貞腐れたサビーナが言う。
「あー、あれはナジフ。昨日ね、その笏を見つけて、ポイズン・ジェイルだって分かったから試しに詠唱を試していたらね、偶然、ナジフに術が直撃しちゃってさあ。まあ、不幸な事故ってやつよ。ほんと、偶然だからね」
死んだナジフに対して申し訳ないというような気持ちはないらしい。さすがに幹部ともなると筋金入りの酷い女である。っていうか、幹部は3人とも真っ先に裏口から逃げようとしていたよな。なんだろうなあ。
ケニーが問いただす。
「お前らの組織のボスは誰だ?」
「ナジフだったのよ」
嘘つけ。
「なんで笏がポイズン・ジェイルだって分かったんだ?」とブライアン。
「だって、『ポイズン・ジェイル』って書いた箱に入ってたわよ」
あー。そうでしたかー。
テランスが持っていた荷物が、公爵邸から盗まれた金品で間違いないようである。
ロメイが馬に乗って状況の報告に向かった。
荷馬車を呼び寄せながらケニーがサビーナに向かって聞く。
「組織の構成員はこれで全員なのか?」
「まあ、大体ね。仕事によって声をかける奴らもいるけど。あれ、あいつが戻ってきてないね……」
「酒くさい運び屋なら死んだよ」とエミール。嘘だけどね。
「え、バカな」
足を砕かれてひっくり返っていたテランスが素っ頓狂な声を出す。こいつが麻薬売買の親玉だったな。
「あいつも組織のメンバーなのか?」
「いや、ザニックの野郎はまあ、いつ死んでもいい使いっ走りだけどさ。じゃあブツもダメか」
使いっ走りであるという自己認識も含め、ザニックの情報は正確だったな。彼には鉱山あたりでしばらく働いてもらうことになるだろう。
「いつ死んでもいい」とまで言われちゃうのはちょっと可哀想かもしれんが、結果的にザニックの方が長生きできそうだ。
我々が乗ってきた荷馬車2台と、賊の荷馬車2台に捕縛した賊を詰め込んで、我々もそれぞれに分乗して帰途につく。
「しかし、ケイさん、凄かったですよ」とフレッド。
「本当に。狭い室内で、気がつくとあちらでひとり、こちらでひとり、と次々に賊を倒していましたね」とブライアンも称賛する。
「ケイはこの守備隊のエースですから」とジョナスが自慢する。
「お前が自慢するんかい」と突っ込むのはお約束かな。
肝心のケイはというと、人前で褒められるのに慣れていないのか、所在なげにモジモジしている。
「セーラさんも、ムーリックを倒したり、サビーナに一撃を食らわせたり、すごく強いですね。魔法が使えると伺っていましたけど、剣の腕だけであれだけの活躍とは素晴らしいです」
後方から戦況を見ていたカーラもセーラの活躍を褒める。
「本当。あたしも遠くから見ていたけど、セーラさんの動きは無駄がなくてびっくりしました。サビーナを倒した時なんか、あたし、何が起きたか分からなかったですから」
「ありがとうございます。でも、私の所属する白鳥隊って、王妃殿下の護衛というか、式典の時にそばに控えているだけのことが多くて、こんな風に犯罪者と直接やりあうのは初めてなんですよ」
「本当ですか。それにしては堂々としていましたよね」
「主にデレクさんとジョナスさんが戦って、私はちょっと手を出しただけですよ」
「いずれにせよ、こちらに怪我人が誰も出なくて良かったですね」とフレッド。
カーラがそれに応じる。
「悪党連中はどうせもう簡単に裁判してとっとと処刑台送りでしょ? あまり手当をしてもしょうがないかなあ、なんて思っちゃいますよね」
カーラは守備隊員に負傷者が出たら手当をするべく待機していたのだ。犯罪者の怪我は範囲外かもしれないが、取調べで口がきけるくらいには手当てしてやってほしい。
ブライアンに、少し疑問に感じることを聞いてみる。
「少し引っかかっていることがあるんですけど、いいですかね?」
「うん、何だい?」
「そもそもこの強盗の話を持ち出してきたシンディってメイドですけど、何か引っかかるんですよね」
「どんな所が?」
「まず、バレたら困る借金があるから公爵家の財宝を金に変えたい、だけど、自分ひとりで盗み出したらバレるから強盗に入ってもらってその分け前をもらおう、という流れだったはずですよね」
「うん、そうだった」
「でも、手引きをしたことはもうバレていて、現在本人も消息不明じゃないですか」
「そうねえ、何か変ね」とセーラ。
ブライアンは少し考えながら答える。
「そうだなあ。我々がさっきのザニックという男を追いかけて聖都を出たのは、事件が起きた翌日くらいなので、メイドが今も消息不明なのか、あるいは強盗団に殺されるか何かしたのかは確認できていないんだ」
「さらに、もうひとつ疑問があります」
「なんだろう?」
「私は魔法の探究が好きで、ダンジョンとかで色々な魔道具を集めるのがこの上なく楽しいのですが」
「ほう」
「骨董屋で変な魔法スクロールを束で買ってきたりするんですよ」とケイ。
「なるほど、デレクさんは変わってますね」とセーラ。
「さっき使っていた『遠見の筒』もダンジョンで拾ったんですけど、いつも何か怪しいものを見ているみたいです」
「なるほど、ケイはデレクが他の女の子を見てるんじゃないかって心配なんだな」とジョナスが能天気なツッコミ。
「あ、そ、そういうわけではなくてね」とケイが急にしどろもどろになる。
「あれ、ケイさんってそうなんですか」とセーラに言われてる。
あー、話が進まない。
「あの、いいかな、その話は置いておいてだな。ザニックの話の中で、宝物室にあった指輪をひとつだけ選んで持って帰ったと言っていたじゃないですか。あれが最も気になる点です」
「なぜ?」
「つまり、ザニックの話の通りなら、金目の物目当てという漠然とした目的で宝物室に入ったら、たまたま何かの指輪があるのを見つけた、という状況なわけです。ギャンブルに夢中になって借金するようなメイドがその価値を一瞬で見抜けるのか、ということです」
「確かに」
「これを逆に考えると、実はシンディというメイドは、何かわかりませんけど、その指輪が宝物室にあることを知って、メイドとしてお屋敷に潜り込んで、指輪を盗み出すチャンスを伺っていたのかもしれません」
「うーん。可能性としてはあるかもしれないけど」
するとセーラがこう言う。
「宝物室にある宝飾品や魔道具は、おおよそリストを作って管理していたそうですから、今回回収できた物品を持ち帰ってリストと照らし合わせれば、何がなくなっているか分かるのではないかと思います」
「あとは単純に、そのメイドの行方を突き止めて捕まえるかだな」とブライアン。
今回捕縛した賊は、警ら隊の本部に連行することになっている。人数が多くて守備隊の詰め所の留置場には入らないし、ザニックは死んだことになっているしね。
警ら隊は貴族領の警察組織。つまりはお巡りさんである。刑事事件や民間の揉め事の解決に当たる。そのため、国境守備隊よりは住民と接する機会は多い。
普段は長剣や警棒を持ち歩く程度の軽装だ。構成員も若者から中高年まで様々で、女性隊員も多い。国境守備隊は若くて体力があるうちでないとつとまらないので、国境守備隊をやめてから警ら隊に入る人も多い。
しかし、住民との接点が多いため、汚職や腐敗の噂が絶えないのも事実だ。
警ら隊の詰め所に到着。
すると、検察の人がいて、今回の容疑者は警ら隊ではなく、検察で直接取り調べるから、検察の建物の方へ行ってくれと言われる。
「これはきっと、聖都で警ら隊の隊長が不祥事で捕まった件が影響していますね」とフレッド。
「こんな所にまで影響するもんですか」とケイ。
「警ら隊の隊長を逮捕したのは聖都の検察ですからね。聖王国のあちこちで警ら隊の不祥事がないか調べている最中なんですよ」とセーラ。
そういえば、アイラさんも警ら隊はどこでも不祥事が当たり前みたいなことを言ってたな。
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