第13話 世界が俺を否定する
結局、タンメンの麺だけ食べたのだが、納得がいく訳などないのだ。
あんな病院食みたいな物など食べた気がしない。
しかし俺の不満を余所に、西松はどこか満足気なのだ。
それが余計に腹が立つ…
「西松よ。あれで足りたか?」
「俺は足りたけど、風間は麺しか食べなかったもんなぁ」
「あぁ、早い話がハンバーガーを食べに行くぞ」
「え?まだ食べるのかよ!構わないけど俺は飲み物だけだからな」
「勝手にしろ」
と、俺たちは某大手ハンバーガーチェーンへと向かう。
数分もしないうちにバーガーチェーンへ着いた。
しかしだな、さっきのラーメン屋みたいな事はまっぴら御免だ。
メニューを確認しないと、ラーメン屋みたいな地雷を踏むことになるからな。
俺は店頭に掛けられたメニュー表を見る。
「なんだこれは…」
そのメニュー表は俺の心を挫くのに充分過ぎるほどの衝撃であった。
「ここまでやるのか…」
この店で食べる気のない西松までもがその衝撃で驚いていた。
ハンバーガーのハンバーグの部分、パティが大豆由来、パンの部分、バンズも緑色で野菜が練り込んであるという。
ハンバーガーの原材料、全てが植物由来…
これはハンバーガーに限った話ではなかった。
全てのメニューが植物由来のみ、シェイクやコーラはメニューから消されていた。
「これが国民健康なんたら法と生類憐みの令の影響なのか」
「そう、みたいだね」
「糞がっ」
なんで俺の知らぬ間にこんなことになっているのか!
半年間でこんなになっていたことを俺は何故気づかなかったのか。
誰だ…、誰がこんな糞みたいなことをしやがったのか…
「畜生っ!」
地面を蹴るも、蹴る物も無く靴のソールを地面に擦り付けただけだった。
それが余計に俺の怒りに火を付ける。
「この糞がっ!」
俺は思い切り、地面へ向かって足裏を叩きつける。
一発、二発、三発…
「おい、風間…」
と西松が俺を呼ぶ。
「なんだ、西松!お前は悔しくないのか!」
「違うんだよ、周りを見ろよ」
と西松に言われ、周りを見ると通行人が俺たちを取り囲んでいた。
「なんだ!見せ物じゃねえんだよ!」
と一喝すると、通行人たちは口々に俺をたしなめる言葉を掛けてくる。
またか、こいつらは俺に善意を押し売りしようってのか?
「西松、フライドチキンだ!行くぞ」
俺は通行人らを押しのけ、フライドチキン店へと走る。
某ハンバーガーチェーン店の数軒先にフライドチキン店があったはずなのだが、そこは見たことも聞いたこともない、自然食の店になっていた。
俺はショックのあまり、店の前に立ち尽くす。
「チキンもかよ…」
遅れてやって来た西松も驚いたようだ。
「西松、俺たちにはまだ希望がある。着いてこい」
所沢プロペ通り商店街の某チキン店からもう少し先に行った場所、そうだ、この商店街の真ん中辺りに目当ての店がある。
俺はその店へ向かって全力疾走する。
「無いっ!ブーガーキングが無いっ!」
ブーガーキング、それは某ハンバーガーチェーン店の通常サイズよりも、二倍近くの大きさのハンバーガーを通常サイズにしている素晴らしい店だ。
味付けも俺の心を捕らえて離さない、はっきりと濃厚で食べたら一日中後味という余韻を残す、素晴らしい味付けの店だ。
そのブーガーキングまでもチキン店跡地にあった自然食の店に変わっていた。
俺は思わず、その場に崩れ落ちそうになったのだが、ここは我慢だ。
ここで崩れ落ちたら、俺はもう二度と立ち上がれない気がする。
「ブーガーキングも無いのか」
後からやってきた西松もこれに驚きの声を上げた。
「あぁ、でもまだだ。まだ終わらんよ」
俺は一目散に走り出す。
コンビニだ。
プロペ通り商店街には各種コンビニが軒を連ねている。
結局、プロペ通り商店街のコンビニ全店を見て回ったのだが無駄足だった。
パンは全て全粒粉か何かの硬いやつ、おにぎりは全て雑穀米か何かの不気味な色のやつ。それは弁当も同様で白米が無いのだ。
弁当のおかずも野菜ばかり。肉が無い。あったとしても大豆の代用肉ばかり。
カップ麺も無い。アイスクリームも無い。レジ前の唐揚げとかも無い。お菓子も明治、大正、昭和の遺物のようなものばかり。
そしてコーラを始めとする清涼飲料水が全て炭酸水となり、紅茶やコーヒーも全て無糖。
そうだ、さっき中学生に貰った缶コーヒーも無糖だった。
俺が日頃、好んで口にするもの全てが無くなっていた。
あるものと言えば自然食的なもの、健康に良さそうなもの、坊主が喰うような精進料理みてえなもの。
全身から力が抜け、無力感に苛まれる。
俺は疲れ果て、プロペ通りのど真ん中にしゃがみ込む。
「この世界は何なんだ。
世界は俺を否定するのか!」
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