第4話 蛍の光

「“仮面”!」


 “仮面”の変化に俺と二号と西松は思わず叫んでいた。


「大丈夫だよ。僕は冷静だから」


 と、“仮面”は言うのだが…


「僕は今、身体を改造してくれたことに感謝しているよ」


 “仮面”は両腕を俺に向かって差し出した。

 すると着ていた服の袖が肩から解けていく。

 解けた袖はさらに細かく解け、繊維へと変わる。

 さらに“仮面”の肩から下の腕も細かく分解されていく。


「え?どうした⁉︎」


「いいから、見てて」


 “仮面”の合成したような音声がどこか不敵な声色に感じた。

 分解していった腕はそのまま、何か違う物へと変形、再構築されていく。


「ナノテクノロジーだよ」


 と“仮面”が言い放ったと同時に腕の再構築が終わった。

 “仮面”の両腕は巨大なガトリング砲へと変形していた。

 これが“仮面”の言っていた、人間兵器。全身に武器を内蔵されたってのはこのことだったのか!


 この“仮面”の変形に誰もが度肝を抜かれた。

 驚きのあまり、皆、言葉を失う。


「見てよ。これなら奴らなんて敵じゃない」


 “仮面”は変形させた腕を誇らしげに見せる。


「僕がここから出て、奴らを蹴散らしてるうちに皆んなは裏口から逃げて」


「“仮面”!」


「大丈夫だよ、シロタン。今度は僕が皆んなに恩返しする番が来たんだ」


 と“仮面”はその赤く光る眼を点滅させた。


「“仮面”、やれるのか?」


 と、二号が念を押すかのように言った。


「城本君、大丈夫だから見てて」


「わかった!“仮面”頼んだぞ」


 “仮面”は大きく頷いた。


「“仮面”、死ぬなよ!」


 と言うと、“仮面”は右腕のガトリング砲を差し出した。


「シロタン、また会おう」


 俺は“仮面”の右腕を握り返す。

 冷たい金属であるが、どこか“仮面”の熱を感じる。


「じゃあ、行ってくる!」


 と“仮面”は言うと、トレーラーハウスの玄関ドアを蹴り飛ばし、外へと躍り出る。


「散開しろ!」


 黒薔薇党の真ん中にいる男は指揮官だろうか、その声が聞こえると同時に黒薔薇党達は散らばった。

 “仮面”の腕であるガトリング砲の銃身が高速回転し始め、すぐさま、銃撃音と共に砲身から無数の弾丸が吐き出される。

 ガトリング砲の一撃によって、散開しきれなかった黒薔薇党の数名が血飛沫を上げ砕け散った。

 凄い威力だ。黒薔薇党員達はまた一人、また一人と砲弾の餌食となり、数を減らしていく。

 しかし、そのガトリング砲の銃撃を一つの黒い影が巧みにかわしている。

 それはヅラリーノの重武装された車椅子だ。

 一見、鈍重そうに見えるのだが、意外なまでに軽快な動きで銃撃を避けている。

 その車椅子に鎮座するヅラリーノの後には黒薔薇党のリーダーらしき男が同乗していた。

 そのリーダーらしき男は車椅子の後部に設置された機関銃を発射する。


「“仮面”!」


 その銃撃は正確に“仮面”を捉えた。


 ように見えたのだが、その刹那、跳弾するような音が聞こえた。

 “仮面”は左腕を巨大な盾に変化させヅラリーノからの銃撃を弾き返していたのだ。

 攻防一体か。

 “仮面”は左腕の盾で身を守りながら反撃するのだが、ヅラリーノは俊敏だ。前後左右、それでいて不規則かつ自在に動く。

 そんな中、ヅラリーノの放った銃弾がトレーラーハウスの窓ガラスや壁を貫き、室内に跳弾する。


「ひぃぃっ」


 西松が悲鳴を上げた。


「一号、さっさと裏から逃げるぞ!」


 二号が叫ぶ。


「わかってる!」


 と返事をした時だ。ヅラリーノが急旋回する。

 その勢いでヅラリーノの背後にいた黒薔薇党リーダーと思われる男の黒頭巾が飛んだ。

 そこに現れたのは見覚えのある顔。

 よく知る顔だ。


「ジージョ!」


 俺のその叫びが奴にも聞こえたのか、俺とジージョの視線が交錯する。


「流れ弾に当たってもいいのか!さっさと逃げるぞ」


 二号が俺の肩を掴んで、無理矢理に振り向かせる。


「“仮面”に任せるんだ!」


 二号が言うことはわかる。しかし今の俺の頭の中は、黒薔薇党員らを指揮してた男がジージョだったことで溢れかえっている。


「行くぞ!」


 二号は俺の右腕を掴み、トレーラーハウスの裏口へと引っ張る。



 断続的に続く銃撃音。

 それは“仮面”のものか、黒薔薇党やヅラリーノのものかわからない。

 俺たちはトレーラーハウスの上に架かる橋の上まで逃げてきていた。

 橋の下の河原の先には黒い集団が見える。

 黒薔薇党の増援部隊のようだ。


 ジージョの野郎が黒薔薇党員のリーダー格だったのか?

 ヅラリーノは確かに黒薔薇党の一員、仲間であった。

 でもジージョまでもが…、ただの極悪な性癖野郎ではなかったということか。


 あぁ、そうだ。

 入間川高校時代のジージョは黒薔薇婦人のリムジンの運転手をしていた。

 あの無言で黒薔薇婦人に従う様子からして、婦人の狂信者であっても不思議ではない。



「はっはっはっはっはっ」


 二号が気の抜けたような笑いを漏らす。


「え!」


 二号の笑いと西松の驚きに釣られ、正面を見ると、橋の上の前方には武装した集団が待ち受けていた。

 振り返ると後方にも同じく武装集団。

 知らぬ間に俺たちは橋の上に追い詰められていた。


「単純ね、あなた達」


 聞き覚えのある声が前方の集団の真ん中から聞こえる。


 激しく波打つソバージュヘア。

 カップ焼きそばのような髪型と、四角いカップ焼きそばの容器のような輪郭と、大胆としか表現出来ないパーツをこれまた大胆に構成した顔立ち、その口元は皮肉に歪む。

 ペヤングだ。


「でも、あまり手を焼かせないで頂戴」


 万事休す、だ。

 俺たちは終わり、最終回だ。

 蛍の光が聞こえてくるようだ…

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