第5話 PUMAの偽物はPUNCHなのか、PORKなのか
「何よ、その格好」
とペヤングは俺を見て笑う。
「何がおかしい」
「素肌にジャージの上だけ着て、下は汚ったない白ブリーフと白靴下だけなんて!」
とペヤングはさらに哄笑する。
「しかもそのジャージの上着は何⁉︎
プーマの偽物のパンチじゃない」
「何ぃ⁉︎」
ペヤングのその言葉に思わず、ジャージの胸のロゴを見る。
確かにプーマではない…
心なしか手足が長く見えるネコ科動物のマークの下にはPUMAではなく、PUNCHと書かれていた。
ペヤングの後にいる武装した男たちが一斉に哄笑する。
男たちは口々に偽物野郎だの、パンチ野郎だの、お前はプーマでもパンチでもなくポークだろうが等、俺を罵る。
「畜生っ!」
よりによって、俺は森本の家でプーマの偽物を選んでいたなんて!
「でも、そのくっそダサいエンジ色の偽物ジャージがお似合いよ。
もちろん、悪い意味でね」
ペヤングのその一言で、さらに哄笑が巻き起こる。
奴らからの侮蔑の眼差しを痛いぐらいに感じる。
俺はいたたまれない気分になり、パンチのジャージを脱ごうとする。
「駄目!脱いだら駄目。風間さん、貴方はプーマの偽物のパンチを着ていなさい」
ペヤングが後の男たちに目配せをすると、男たちが持つ自動小銃の銃口が一斉に俺たちへ向けられる。
「それを脱いだら、ここで全員射殺よ」
俺たちは全員、両手を上げる。
「風間、脱ぐなよ」
西松だ。西松が小声で懇願するかのように言った。
「風間さん、貴方にこれ以上ないぐらいの屈辱を与えます。
話は、
は!な!しぃ!はそれからよ!」
ペヤングはこれ見よがしに、したり顔をしやがった!
さらに、よりによって俺の決め台詞をパクリやがった。
俺は思わず歯噛みする。
あのペヤングの四角い容器みてえな顔、ど真ん中に渾身の一撃をぶちかましてやりてぇ…
「ペヤングっ…、ペヤングの分際で…」
「なあに?何か言った?」
ペヤングがにじり寄ってくる。
片眉を上げ、侮蔑してくるような眼差しを投げかけてくる。
「風間、逆らうな」
西松が小声でたしなめてくるかのように言った。
ペヤングは踵を返す。
「護送車に乗せて」
と一言だけ言うと、俺たちの背後から黒塗りの大型トラックがやってきた。
ペヤングが言うところの護送車のようだ。
護送車の後部の扉が開くと、俺たちは武装した男たちに車内へ乗るように促される。
護送車の後部の扉が閉じた。
その扉の閉じる音が心に重く響く。
ここはトラックで言うところの荷台を改造したスペースのようだ。
窓一つ無く、天井から壁、床まで見るからに分厚そうな鉄板だ。
壁に沿ってシートがあり、天井に蛍光灯が灯っているだけの薄暗い車内は圧迫感を感じる。
その車内の四隅には武装した男が四人配置され、進行方向右側のシートには俺と二号、その向かい側のシートには西松が座らされている。
そういえば……、あれ?パリスがいない…
「おい、パリスはどうした?」
「知らねえな」
俺からの問いかけに二号が答える。
「俺も今気付いた。あいつ、いないよ」
西松だ。
「あいつ…、一人だけ逃げやがって…」
肝心な時だけいない、ふとした時の逃げ足だけは早い、パリスらしいと言えばパリスらしい…
「あの野郎っ、一人だけ逃げやがってぇ」
西松はパリスへの怒りを滲ませながらも、嗚咽し始めた。
「俺たちは、これからどうなっちゃうんだよぅ!」
西松の嗚咽は号泣へと変わった。
「そんなこと気にするなよ」
二号だ。号泣する西松を見る二号の顔には余裕が感じられる。笑みを浮かべているようにも見える。
「気にするに決まってるだろ!この状況どうするんだよ!」
「なるようになるだけだ」
西松が声を荒げても二号は落ち着き払っている。
西松は恐いだの、助けてだの連呼し号泣する。
そんな中、
「二号、もしかしてお前、何かあるのか?」
車内四隅にいる男らに聞こえない程度の小声で言った。
「何かって何がだよ?」
「作戦とか、策だよ。もしかしてパリスと“仮面”がこの護送車を襲撃するとか」
「そんなもん、無いだろうな」
「それなら何故、お前はそこまで落ち着いていられるんだよ?」
「ここで慌てて何が変わる?
西松にも言っただろ、なるようにしかならないって」
二号のその一言に思わず、溜息が出た。
そうだ、なるようにしかならないだろうよ。
だけど、その一言で納得出来るものか!
しかし俺たちは丸腰。
俺に至っては前を閉じることさえも出来ないプーマの偽物ジャージと白ブリーフと白靴下のみだ。
靴さえも履いていないのだ…
どうにもならない…
そうだ、この丸腰の絶望感は入間川高校が占拠された時にも感じていた。
あの時は、入間川高校の屋上でヅラリーノ率いる武装した黒薔薇党十名ぐらいに包囲されたのだが、高梨の奇襲によって一命を取り留めたのであった。
あの時はどうにかなったが、あんなことは二度もないだろう。
あぁ、今度こそ終わりだ。最終回が近づいている。
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