第11話 新しい朝が来てしまった
大急ぎで部屋に戻ると既に浴衣姿のレレインが待っていた。
「あ、お帰りバスディ……ってなんで濡れてるの? もしかしてそのまま出てきちゃったの!?」
「いや、ちょっとな……」
不思議そうに俺を見るレレイン。しかし俺の頭の中ではあの野郎にがチラついて仕方がない。
くっそう、何で俺がこんな目に……。
「うぅ寒ぃ……折角風呂入ったのに、体が冷えて来た」
「濡れたまま出て来るからだよ。バスディスさんってば子供みたい」
「うるせぃ。おいちょっとタオル貸してくれ」
「はいはい。……はい、これで大丈夫?」
「ああ、ありがとな……」
レレインからタオルを受け取り、濡れた髪と体を拭く。ああ嫌な目にあったぜ。
なんで俺がこんな目に合わなきゃならねえんだ?
確かに今の俺の面構えは間違いなくイケメンの分類だろ。でもさ、それで男に襲われ掛けなきゃならんのは許容出来んぞ。
「ああ、やだやだ。……今日はもうぐっすり眠ってそして忘れよう」
「風邪引かないようにね? 寝相でお布団蹴とばしたりとかしないようにね?」
「自慢じゃないが寝相がいい方なんだ、そんなことするか。灯り消すぞ?」
「はいはい。じゃあおやすみなさーい」
お互いのベットの間にある小さなテーブル。その上のランタンの灯りを消した。
途端に部屋は暗闇に包まれ、カーテンの隙間から木漏れ出る月明かりだけが唯一の光源となった。
「ああ……」
部屋が暗くなった途端、急に眠気がやってきた。やはり慣れない旅路で疲れていたんだろう。……いや、本当はもっと別のことで疲れてしまったんだが。
俺はゆっくりと瞼を閉じた。
せめて明日は、もっと穏やかに旅が出来たら……。
………………
…………
……
『ハハハハハ! これで目障りな王室を排除出来た。無能な者どもに座る玉座などあるはずが無い。今日この日を以って私こそがこの国の統治者、唯一の支配権を持つ者ッ――』
『……ッ! き、貴様は、自分が何をしたのか分かっているのか!?』
『無論だよ哀れな兄上。過去の遺物を葬り去られ、ついに相応しき者が君臨したのだ』
『馬鹿な……!? こ、このような事、父上が!』
『父? ふん、小煩い男だったよ。我らが父は既にその鮮血! 大地へと流し朽ち果てるだけの物言わぬ骸となった』
『な、に……?』
『旧王家に迎合する事にしか脳を使えん蛆虫などに、私の作る未来を生きる資格などあろうはずも無い。そして――それは同じく』
『何を……!? 貴様ッ、この兄に剣を向けると言うのか!?』
『血縁に価値は無し。ただ己が無能を……あの世とやらで悔い改めるがいい!!』
……
………
…………ディスさん。
ぅ……ん……?
……バスディスさん。
んん……?
「もう……バスディスさんッてば!!!!」
「があああああ!!!!!?」
急に俺の耳元で叫び声が聞こえて瞬間、脳を振動させ、頭骨内を乱反射して蓄積された衝撃波は悲鳴となって俺の口から飛び出して行った。
「あ、やっと起きた」
「何すんだお前この野郎!!?」
「だって~もう朝だよ?」
カーテンが全開になった窓から差し込む朝日の眩しさ、それと同時にどこからか聞こえてくる鶏の鳴き声。
確かに朝だ。……じゃない!
「起こし方ってものがあるだろうが! もっと優しく起こせよ!」
「だってバスディスさん、私が何度呼んでも起きなかったんだもん」
「だからって耳元で叫ぶ奴があるか!? ああもう、頭がガンガンする……」
レレインの奴め、なんて事を。
爆音で起こすなんて酷いと思わんのか? いや思わんよなこいつ。
(ああくそ、何か大事な夢を見ていたような気がしたが全部吹き飛んじまった。……まあいいか、所詮夢の出来事なんて大したもんじゃないだろ)
どうあれ起きた以上は切り替えて行かないと。
昨日の体の拭きが足りなかったのか、やっぱりちょっと寒気がするな。朝食は暖かいスープでも飲みたいもんだ。
「朝ご飯はどうする? ここって朝は食堂で食べられるらしいよ」
「う~ん、そうだな……」
昨日のフロントの女の子の話ではこの宿、朝限定だが飯を出してるらしい。
ビュッフェ形式で好きに飯を取っていくスタイルとの事。料金は一律。
この時間じゃ飯屋もやってないから、持参した食料が無いと実質一択。
「じゃあ行くか。飯食ったら出よう」
「はーい」
レレインは愛用のブラシで軽く髪を梳かし……。
「あ、バスディスさーん。髪梳かして~」
「えぇ……仕方ないな」
浴衣から着替えて食堂に……。
「その前にちゃんと顔洗っとかないと」
「この箱にお金を入れたら歯ブラシ持って行っていいって書いてあるよ」
「そりゃ都合がいい。健康な一日は歯を磨く事からだな」
「へぇ化粧水に乳液も売ってるんだ。あ、安い」
「手作りかな? 次はいつ町に寄れるか分からんし買っていくか」
共用洗面所から出た俺達は、今度こそ食堂に向かうのだった。
入口で料金を前払い。
並べてある料理から好きなものを取って行き、適当なテーブルに着く俺達。
「お前、朝から取りすぎじゃないの?」
「育ち盛りだからいいんだも~ん」
トレー一杯に料理を乗せるレレインに飽きれつつも、俺も暖かい料理に舌鼓を打つことにした。
いいなこのポタージュ。ジャガイモの旨味と温かみが全身に穏やかな熱を与えていくこの感覚、たまんねぇ……。
「バスディスさん、それ美味しい?」
「ああ美味いぞ。ほら、スプーン一匙分ぐらいは分けてやる」
「ほんとに? それじゃ遠慮なく……美味しい~!」
顔を綻ばせるレレイン。自分だって別にスープ取ってきたくせによ、ったく。
あ、このパンとの組み合わせは普通に美味いな。
その後もつつがなく朝食を消費していく俺達だったが……。
「バスディスさん……」
「あ? 何だよ、どうした?」
急に飯を食う手を止めたレレインが俺に話しかけてきた。
一体どうしたって……?
「バスディスさん――隣のお姉さんって知り合いなの?」
「え?」
「やあ、昨日ぶり」
「うあああああああああ!!!!!!?」
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