第8話 勇者御一行、町へと来訪
道中もまた化け物を相手にしながらも、なんとか日の出ている内に町へとたどり着く事が出来た。
「やっと着いたね!」
「ああ、そうだな」
俺はレレインの言葉に気のない返事を返す。
(やれやれ、ようやくこれで休める)
肉体のスペック的には疲労は感じないが、精神面――つまり俺自身はクタクタだった。
だってそうだろう? 前世じゃ喧嘩すらロクにしなかったんだから、そんな俺が化け物を倒してここまで来たんだから疲れも溜まる。
「バスディスさん、早く宿に行こうよ! それでさ、何か面白いものがないか見て回ろ?」
「落ち着けよ、あんまりはしゃぐと田舎者だと思われるぞ。……ったく子供は元気だな」
「あ、子供扱いしちゃって。新しい町に来たんだよ? それだけでワクワクしてこないの?」
「そういうのは俺には無いの」
俺はレレインの頭を軽く小突きながら、宿を探すべく町の中へと入っていく。
さすがに前に居た廃村とは活気が雲泥の差だな。比べること自体失礼な話だが。
しかしこの雰囲気、岩山地帯を抜けた場所にあるだけあってか牧歌的だ。少なくとも都会ではないな。
こういう感じは嫌いじゃあない。前世じゃ都会生まれの都会育ちだったからか、密かに憧れているところがあった。
それに今の疲れた心にはこういう雰囲気が染みる。これだけでも来てよかったと言えるだろう。
ただ万一に備え、懐からサングラスを取り出して掛ける。アグラディス家の領地からは離れたとはいえ、俺を知っている人間と絶対に出会わないなどと楽観視することは出来無いからだ。
「もうすぐ日も暮れるのにどうしてそんな物掛けてるの? 人にぶつかったりとか、危なくない?」
俺の事情など知るはずもないレレイン。とはいえそのことについて話すつもりも無いから適当に誤魔化す事にする。
「これは……あれだよ、俺の故郷でブームなんだ。どのタイミングで掛けるかはともかく、若者なら全員一つは懐に忍ばせておく位は人気があるんだ」
「へえ、そうなんだ。でもバスディスさん」
「何だよ?」
「似合ってるけど、やっぱり怪しい人みたい」
「ほっとけ!」
町に入ってそう時間がかからないところに宿を見つけたのは幸運だった。
この町にあといくつ宿屋があるかは知らないが、とりあえず今日はもう日も暮れるしここでいいだろ。
ただ、国を出るまでどれだけ掛かるか? それを考えると出来るだけ路銀は節約したい。宿は適当に選ぶことになったが、せめて部屋は安く抑えたいもんだ。
「いらっしゃい! お泊りですか?」
店番をしていたのは若い女の子だった。歳はまだ十代半ばといったところか? この宿の娘か?
「ええ、二人でお願いします。それと、部屋は最低グレードのものお願いしたいのですが」
「分かりました。……それですとお二人で一部屋となりますがよろしいでしょうか?」
「構いません、それでお願いします」
俺は懐から財布を取り出し、提示された料金を支払う。
「あれ? じゃあバスディスさんと一緒の部屋に泊まるの?」
「別に問題無いだろ。先の事を考えれば、あまりパーッとは使いたく無いんだよ。お前はベッドでグッスリ出来れば文句は無いんだろ?」
「まあそうなんだけどね! お宿代ありがとうございまーす!」
「へいへい」
この感じとやっぱりこいつ金持ってないな。剣もどっかに失くす位だし、自己管理の甘さは原作以上か。流石は二年前。
「ではお部屋に案内いたしますので、着いて来て下さい」
「わかりました。……ほらお前も遅れるなよ」
「はいはーい。……あ、そうだ。お嬢さん、ここら辺オススメのご飯屋さんってなーに?」
「オススメですか? それでしたら――」
若い女子二人の会話を他所に、俺は案内されるまま部屋と向かうのだった。
「では、本日はごゆるりとお寛ぎ下さいませ」
それだけ言うと、宿の娘は入り口の方へと戻って行った。
「おお、ここが本日の我らが城ですな。……こじんまり」
「俺の奢りだぜ? 文句言うなよ」
さすが最低グレードというだけあって、部屋の中はベッドが二つに荷物の置けるスペースがあるだけだ。
それでは背負っていた荷物を降ろす。ふう、肩が軽くなったな。
「改めて思うんだけど結構重かったなぁ」
「お前の荷物は数日分の食料だからな。だけど重要だぞ、その重さがそのままお前の責任の重さなんだ」
「カッコイイ事言ってるように聞こえるけど、もしかして面倒を押しつけてるだけだったりしない?」
「…………気のせいだろ」
「今の間は何?」
レレインの追及を躱しながら、俺はベッドに腰を掛ける。そしてそのまま後ろに倒れ込み、天井を見上げた。
(……ふう)
ようやく一息つけるな。なし崩しとは言え、やっぱ勇者との旅は楽じゃあないね全く。
今朝からの付き合いでこれなんだから、この先果たしてこいつとやっていけるのだろうか? ……いや、まだ決めつけるのは早い。ここでこの主人公様と仲良くしなかった為に数年後にぶった切られる可能性もあるのだから。
頭を振って考えを改める。
……しかしなんだな。こうしてベッドで仰向きになっていると、なんだか眠気が……。
「ねえねえバスディスさん」
「あん?」
「このまま寝ちゃうの? ご飯は?」
確かにそうだ、俺達はまだ夕飯を食べてない。このまま寝てそれで空腹で夜中起きて、その時にはもう飯屋が全滅してました。というのは不味い。
一旦睡眠モードに入りかけた怠い体を無理矢理起こす。
「じゃあ食いに行くか。流石に腹の中に何も納めない訳にもいかんしな」
「うんうん、行こう行こう! さっきの女の子のオススメのご飯屋さんはね――」
と、いうわけで。
部屋に預かった鍵を掛けて、フロントの女の子のオススメを食いに行く事となった。
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