第7話 勇者を助けるラスボス候補
「いやあ~まさか私にパーティーが出来ちゃうなんて。ねえねえ、一緒に歌でも歌おうよ。きっとすっごく楽しくなると思うよ!」
「ハイキングをやってるんじゃないんだよ。俺達は旅の途中なの、今日中に宿も見つけなきゃいけないんだからそういうのは無し」
「え~、バスディスさんのけちんぼ」
「ケチで結構」
「ぶー」
レレインは頬を膨らませて不満げだ。
(ったく、そんなに旅が楽しいのか?)
俺は別に楽しくない。たださっさとこの国を出たいという目的があるだけさ。
しかしこいつのこのテンションの高さはなんなんだ? まるで遠足前の小学生のようだ。荷物の入ったバッグを背負っているから余計にそう思うのかもしれない。
確かに原作でも明るい性格だったが、ここまで幼かったか? 原作の二年前だからしょうがないのか。
「バスディスさーん。楽しい旅の始まりなんだよー!」
「はいはい」
俺はレレインに手を引かれながら、村を出て街道を歩いていく。この街道もしばらく使われていないのか、草が生い茂っていた。
「はあ……」
(こんなんで大丈夫なんだろうか……)
先が思いやられる。俺はレレインの能天気さに頭を抱えるのだった。
村を出てから数時間後、俺達は街道の続く岩山地帯を歩いていた。
手持ちの地図によればここを抜ければ町が見えてくるらしい。
……そういえばこの地図にはさっきの廃村について書かれて無いな。確か二年前の地図のはずだから、それよりも前に人が居なくなったと考えるべきだろうか。
抜けて来た今となってはどうでもいいか。
「ねえバスディスさん?」
「ん?」
「ふかふかのベッドのある宿に泊まりたいなぁ。ここ数日野宿だったし」
「この先にある街は小さいからな、宿自体数が少ないと見ていいだろ。その中でさらにベッドの質を求めるほどの選択肢があるかどうか。こういう時はな、基本的にベッドで寝れることはありがたいと思うんだ。期待しない分ショックも少ないだろ」
「え~。でもさあ、やっぱり期待通りだったらハッピーだよ。折角旅をしてるんだから、ワクワクを大事にしないと」
「そんなもんかねぇ。……そうよお前、今日の宿代」
そう言いかけた時の事だ。
周囲に嫌な気配が立ち込めてきた。どうやらこの体の鋭敏なセンサーに反応があったらしい。
「どうしたの?」
俺が急に会話を打ち切ったのを疑問に思ったであろうレレイン。
(おいおい、お前だって勇者だろうに)
内心呆れながらも、俺は警戒心をさらに引き上げていく。
そして、その時は訪れた。
グオオオオオオオオオ!!
岩山地帯に響き渡る咆哮。それと同時に、俺たち目掛けて何かが飛んできた。
それは巨大な岩石だった。直径は5mほどだろうか? その巨体が俺達目掛けて高速で飛来してくるのだ。
(おいおいマジかよ!? 思ったよりデカいのが来たぜ!)
俺はレレインを突き飛ばし気味に、横っ飛びで回避した。
直後、先ほどまで俺たちがいた場所に岩石が落下する。衝撃で地面が大きく揺れ、周囲の木々から鳥たちが慌てながら一斉に飛び立つ。
「おい無事か?」
「大丈夫大丈夫ぅ。でも、いきなり襲ってくるなんて」
「この手の化け物は容赦無しがお約束だろ」
俺は心配する素振りを見せながらも、レレインが背負った背中の荷物を見る。よし無事だな。
曲がりなりにも勇者のこいつの心配はしていない。下手したら今の俺より強い可能性があるからな。
俺はレレインを抱き起すと、襲ってきた岩面野郎を見る。
岩山に生息するモンスターで、普段は岩に擬態して獲物を狙った時だけ襲ってくるんだったか。
ま、この程度の化け物ならわざわざ俺が身バレ覚悟で力を使わなくたって、こちらの主人公様が片付けて下さるだろう。
そう思ってレレインの方を見ると、何やら焦ったような顔をしていた。
え? 何で?
「あ、あのねお兄さん。実は私……野宿してた時に剣無くしちゃって、どうしよう?」
……えぇ、嘘だろ?
そうだ、なんで今まで気づかなかったんだ。確かにレレインの奴、腰に剣をぶら下げてないじゃないか!
一応武器が無くても戦える術があったはずだが、あれは二年後に習得するんだったか。
「ああもうクソ! ……仕方がねえ、こいつは貸しにしといてやるぜ!」
あんまり勇者の前で闇の力を使いたくはなかったが、背に腹は変えられない。
(込める力は出来るだけ小さく。それならバレないだろ)
右手の中指に魔力を集中させる。俺自身は初めてやるが、体の方は慣れてるのか直ぐ出来た。
周囲に放つ闇の魔力の光も最小限に抑え――!
グオオオオオオオ!!!
「デカい声で鳴くんじゃねえ、うるせえんだよ!」
俺が指を小さくパチンと鳴らすと、岩面野郎は一瞬にして粉々に砕け散った。
(ふう……)
俺は内心、怪しまれないかと冷や汗をかきながらレレインの方を見る。するとそこには俺の予想とは違った光景が広がっていた。
「バスディスさんすごい! 今のどうやったの? あんな魔法見たことない!」
この能天気な少女は、闇の魔力に怪しむところかむしろ感動すらしていた。
「お、おう、そう……応援サンキュー」
怪しまれないように出来るだけ抑えたとはいえ、ここまで能天気だと逆に心配になるくらいだな。
その後もすごいすごいとはしゃぐレレインを抑えつつ、俺達は街へと向かうに戻るのであった。
「いやほんとにすごいよ! ……でも何か変わった感じがしたような」
「……気のせいだろ。ほら、とっとと町に行こうぜ? 日が暮れちゃうよ」
未熟でもやはり勇者だったか。俺の魔力に僅かながら引っかかりも覚えていたようだ。
やっぱり油断ならないなこいつ。
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