第6話 パーティー結成
食事を終えた後も俺達はしばらく一緒に過ごしていた。その間もレレインは何かと俺に話しかけてくるが、適当に相槌を打って誤魔化していた。
(にしてもこいつの警戒心の無さはなんなんだ?)
普通見ず知らずのよく知らん野郎とここまで楽しく過ごせるもんかね? これも勇者としての生まれつきの人柄ってやつか。いや知らんけど。
……これはこれでなんか心配になってくるな。そのうちこいつ、悪い男にコロッと騙されやしないだろうか?
(ま、俺には関係ないか)
そうだ、あくまでも今回限りの関係。この廃村から出て行ったらそれまでなんだ。
俺はただ俺の目的を果たすだけさ。気が抜けないが考えすぎもよくない。
「ねえお兄さん」
「あ? なんだ?」
俺がそんな風に考え事をしていると、レレインが話しかけてきた。
「ねえ、お兄さんはこの村を出たらどこに行くの?」
「ん? ああ、俺はとりあえずこの国を出て行きたくてな。当分はそれが目的さ」
何の気なしにそう返した。下手したら原作の流れに乗っかりかねないから、あまりこいつには関わりたくないがこのくらいだったら別に話してもいいだろう。
しかしここで思わぬ問題が発生してしまった。
「え?! じゃあ私と同じだね!」
そう言ってレレインは嬉しそうに笑った。
眩しっ!
俺自身が綺麗な心を持っていない上に今は悪役に転生してしまっている。この屈託のない笑顔が痛いぐらいに眩しくて仕方がなかった……ってそうじゃない!?
「お、同じだって?」
「そうそう、私もこの国から出る途中なんだ。へへ、奇遇だね~」
ど、どういうことだ!? こいつはそもそも外国の出身、何か目的があったからわざわざこんな国に来たんじゃないのか?!
「そう、か……。いやぁ、でもお前さん? だったらこの国に何しに来たんだ? それもこんな廃村ですることなんてないだろ?」
原作でのこの時期のレレインの行動なんて全く描写されてないから、手探りで質問するしかない。ここでももし下手を打ってバッサリ! なんてことも無いとは言えないからな。
なんとか顔には出さないが、今の俺は内心ハラハラだ。
「え? う~ん、それはまだ内緒ってことで。へへ」
(……こ、こいつ)
俺はレレインの答えに少しイラっとした。しかしここで怒ってはまずい。あくまでも冷静に対処しなければ。
「そ、そうかいそうかい。はは、そいつは残念だなぁ。まあでも俺もお前さんも旅の途中なんだし、この先どこかで出会うこともあるかもな」
「うん。でもねぇ……」
「ん?」
「折角だからさ、一緒に行こうよ! これも何かの縁だと思ってさ。その方が楽しいよぜーったい!!」
レレインは目をキラキラさせながら、俺の手を握ってくる。
(えぇ……嘘だろ……)
俺はその手を引き剥がした。のだが……。
(……いや待て、ここでこいつと縁を作っておくのも悪くない、か?)
俺の頭の中に1つ、アイディアが浮かぶ。
この主人公様は俺の正体を知らない。ならいっその事、この女を懐柔して旅を共にする。そうすれば俺の安全を確保することができるのでは?
その上でこいつが原作に添ったストーリーを紡ぐにしても、俺が無事ならば確かに問題はない。ようは俺が原作通りの悪役ムーヴさえしなければいいんだ。
そう思うとなかなか悪くないんじゃないか?
それにこいつは主人公様だ。現時点でどれほど強いかは知らんが、少なくとも最終的にはラスボス的立ち位置にいたこの体の元の持ち主を倒すぐらいには強くなっていた。
俺の護衛役として最適なのでは?
そこまで考え、俺は再びレレインの手を取った。
「仕方がない。年端も行かない女の子の一人旅は確かに危ないしな、保護者として同行しないでもないぜ」
「ほんと? やったね! でもさあ、お兄さん保護者っていいけど歳いくつなの?」
「あ? 十六だよ」
「へえ、私の二つ上なんだ。年上だと思っていたけど本当にお兄さんなんだね」
ま、中身は享年二十五歳だけどな。そいつを教えてやる理由なんか全くないが。
「よーし、パーティー結成だ! これから旅を楽しく頑張るぞー! えいえい……」
そこまで言ってちらっと俺の方を見るレレイン。
なんだそのキラキラした目は? え、これ俺もやるのか?
「じ~……」
仕方ねぇ。心象は良くしとかないと、どこかで詰みかねない。今はまだ全然綱渡りなんだ。
「お、おお」
「おー! えいえいおー!」
「お、おおー……」
「うん! 旅は道連れ世は情けってね。お兄さんもこれからよろしくよろしくぅ!」
(……ま、いいか)
こうして俺はレレインとパーティーを組むことになったのだった。
「あ、そうそう。折角これから旅をするんだからそろそろ名前を聞かせてよ。私はね、レレイン。レレイン・ワイズって言うんだ~。よろしくね!」
「バスディス……だ」
「……お兄さんもしかして何か隠してない?」
「気のせいだろ」
「そうかな~」
俺の家名はこの国じゃ有名だ。そこから色々探られかねないが、さすがに少し怪しかったか。
ドキリとしたが、知られるわけにもいかないんでね。
ということで俺達は組むことになった。これが吉と出るか……いや出て欲しい。
飯を食べ終え、共に旅をすることを決定した俺達。
懐中時計を取り出すと、時刻は現在十二時ちょっと過ぎか。ちょうどいい時間帯だな。
「そろそろ行くか」
「あ、もう出るの?」
「ここには一休みに立ち寄っただけだからな。最低でも日が出ているうちに宿を確保出来る場所まで行かないと」
そう、さすがにこんな廃村で一晩過ごす気なんて毛頭ない。単に体を休めるだけが目的で、食料が手に入ったのはラッキーだった。目的も果たした以上ここにいる理由はない。
しかし、ふと思った。
(二人旅になったんだ、荷物を多く持ち運ぶことができるよな)
貯蔵庫にはまだ保存食が残っている。俺1人だけだったらこのまま屋敷を立ち去るだけだが、レレインもいるのならあと数日分の食料を持ち出すことができるのでは?
「おいレレイン。お前、わざわざこんなボロ屋敷に立ち寄った理由ってなんだ? そのくらいなら教えてくれてもいいだろ」
「それはですねぇ。え~っと……」
「なんだよ?」
なんで急に恥ずかしそうにモジモジしだして。
「食べ物無くなっちゃったんで、お裾分けしてもらえないかなーって」
「こんな誰も居ない村で、誰が分けてくれるって言うんだよ」
「まあそこはその、気持ちだけありがとうって言って、何か無いかなぁなんて」
(それってお前空き巣じゃないか?)
なんて思っても口には出せない、なんせ他でもない俺がそうだからだ。
「そうか、じゃあ仕方ないな。この家の元住人として喜んで残った食料を差し上げようじゃないか」
「いいの? ありがとう元住人さん! 食料って地下だよね? じゃあ取りに行ってくるー!」
「あんまり慌てるなよ、転ぶぞ」
(チョロい奴だぜ)
餌を見せられた子犬の如く、隠し貯蔵庫の中に入っていくレレイン。
あれ? そういえば中は暗いんじゃ……。
そう考えて直ぐの事、中から人が転ぶような大きな音が聞こえた。
……ライターぐらい渡すんだったな。
俺は再びライターに火をつけて貯蔵庫の中に入って行くのであった。
出鼻は挫かれたが、気を取り直して今度こそ旅路に出ることになった俺達。
「さあて、これからが新生レレインちゃんパーティーの門出だよー! リーダーは私! で、保護者のバスディスお兄さん!! それじゃあ気合入れてしゅっぱーつ!!」
「……へいへい」
テンションが高いな。どうもこのノリにはついていけそうにない。
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