第4話 廃村に到着。そして邂逅
「はあ……こりゃまた随分と寂れた村だな」
たどり着いた村はおおよそ人の気配の感じられない、遠くから見たら分からなかったがもしや廃村?
いや、この際屋根の下で一休みできるんだったらもういいか。
「せめて水場でもありゃいいんだが……」
村の中を歩くと、至る所に雑草や枯れた作物の残骸が落ちていた。
村から人がいなくなって何年も経ってる感じだな。
「まあいいか、人がいないんだったら遠慮することもないだろう。少しでもまともなボロ家で腰を落ち着かせるとしよう。しかし、この感じじゃ水も期待できないか」
水源の世話なんて何年もしてないだろうし、下手すりゃもう枯れてる可能性もある。
「とりあえずは……少しでもボロくない家でも探すか」
そう思いながら歩いていると、一際大きな屋敷を見つけた。小さな村のわりにはそこそこ大きいな……村の権力者か何かが住んでたんだろうか?
だがさすがに手入れもされていないし、壁なんか一部崩れている部分もあった。まるで何年も放置されている荒れ具合だ。
「ここにするか。他の家よりはまだましだろ」
パッと見て回った程度だが、他の家は随分と風通りの良さそうな趣のあるものばかりだったからな。……今はしっかりした屋根の下で休みたい。
と言ってもそんなに時間は取れないんだが。
「お邪魔しまーす。って返されても困るんだけど」
誰もいないと思ったから入り込んだんだ、これで返事があったら俺は逃げる。
だがその心配も杞憂だったようで、誰の声も帰ってこず当然人の気配も感じなかった。
玄関の扉をくぐれば、確かに何年も放置されているかのようにそこら中にほこりが積もってる。しかし、壁や天井が傷んでる様子もない。屋敷だけあって耐久性があるんだろうな。
「ラッキーだと思うべきか。いや、安心するにはまだ早いかもな……」
何事も用事に越したことはない。俺は屋敷の中を慎重に物色する。
まずはキッチン周り、あまり期待はできないがもしかしたら保存食がある可能性もある。
と思ったんだけれど……。
「所詮は淡い期待だったか」
戸棚やらを空けてもすっからかん。さすがにその都合よくはいかないようだ。ハナから期待はしていなかったからショックも少ないんだが。
あと他には……お?
「蛇口……。ってことは近くに川があるのか」
キッチンには流し台が設置されていた。こんな寂れた小さな村でも水道整備はされていたらしい。試しに蛇口をひねってみれば、そこから流れる綺麗な水。
ゴクっ。
思わず喉が鳴った。
「は! いかんいかん。こんな何年も放置されていたような水道から直接水を飲むなんて、中で虫が卵でも植え付けてる可能性だってある。いや、虫がいなくてもこんな水道管が錆びてそうな水を飲んで腹でも壊したら……」
本能を押し込めぐっと堪えることにする。今は家出の途中なんだ、こんな誰もいないところで体を壊しても誰も助けてなんかくれんぞ。
少なくとも近くに川が流れている可能性があるのは分かった。後でそこから水を汲むとしよう。
「となると、次は食料か」
仕方がない。いつ切れるか分からないからあまり食べたくなかったが、携帯食料で腹を満たすとしよう。
キッチンからさらに奥に行くと、そこはリビングだった。テーブルや椅子が置いてあり、暖炉なんかもある。
恐らくはここで食事をとったり団らんの場として使われたりしたのだろう。
そして壁には絵画が飾られていた。
「ん? これは……」
それはこの村の風景を描いたものだったと思われる風景画だ。しかし……何か違和感があるな? 俺は風景画の額縁の四隅に妙な擦れ跡を発見した。何だろう? 汚れか?
「いや、これは……」
違和感の正体はこれか?
いや……これはまさか……。俺は確信めいた予感を感じつつ、その風景画を壁から取り外した。するとそこには案の定というか何と言うか、予想通りのものが隠されていた。
「隠し扉か……」
思えばこの風景画、飾ってある位置がやたら低い。普通この手の絵は立っている人間の目線に合わせて飾るはずのものだ。それが低い位置にあった。これはつまり……。
「隠し扉を隠すためか」
風景画を取り外した先には、確かに小さな扉が存在していた。鍵が壊れてるんだろうか? その扉は簡単に開けるようになっており、地下へと続く階段があった。
なるほど、この絵はカモフラージュだったわけか。恐らくだがこの絵画が外されない限りはこの扉の存在には気づかないだろう。改めて思えば違和感の塊だな。おそらくだが、家族以外に利用しない部屋だからかもな。
「もしかしたら食料の貯蔵庫か」
俺は意を決して階段を降りていった。……入り口が小さいから、屈まないとといけないのが面倒臭いな。
左手にライターを灯しながら降りて行くと、そこはやはり――。
「……やっぱり貯蔵庫だったか」
階段を降りきった先にあったのは、そこそこの広さの食料庫。ライターが灯っているおかげで多少視界もマシだが……そこは我慢するか。
流石に生ものは無いが、保存の利くものが大方備蓄されていた。精々が数日分ってところだろうが。
「うーん、サツマイモか。米とかは……無いな。ま、食いもんがあるだけマシか」
まったく期待していなかったからこれはこれで良かったかもしれない。何より、食料が見つかることが大事なのだ。
他には何か無いだろうか?
「うーむ……まあ、こんなとこか」
見つかった食料は保存が利きそうな根菜類と干し肉、乾パン、後は野菜の缶詰なんかだ。それと幸運なことに瓶詰めの飲用水まである。
「缶詰はそこまで古さを感じない、か……。この家から人がいなくなってそこまで年数が経ってないのかもな。まあいいや、持ち主がいないのならありがたく腹に納めさせてもらおうじゃないか」
いくら保存食って言ったって、このまま放置するよりはきっちり食べた方が有意義ってもんだろ。
長旅の途中なのでこれら全部を持って歩くことはできないが、数日分の程度を持って俺は再び階段を登ることにした。
しかしたまたま忍び込んだ廃屋にこんな状態の良い食料貯蔵庫があるなんてな。結構運がいいじゃないか。
そんなことを考えながら貯蔵庫から飛び出した瞬間だった。
「あ!? 貴方こんなところで何やってるの!!?」
見覚えのない――いや、ある意味で非常に見覚えのある人物がそこにいた。
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