第3話

 空は青一色、雲一つなく、太陽の日差しを遮るものはない。その空模様と打って変わってどんよりとした空気が流れる地上。重たい空気が漂う地上を照らす日が高く上ったころ、ファシルは村に生存者がいないか確認するため、歩いて回っていた。


 村全体が焼かれて、元の形を保っている建物はほとんど無かった。ファシルは黙々と作業をこなすように一つ一つを見て回る。

生存者の探索を開始してすぐの頃ファシルは、誰かしらまだ生きている住人がいるかもしれないと淡く期待して探索をしていた。しかし、目に入って来るのは厳しい現実ばかりであった。ファシルはそれらを目の当たりにしていくにつれて、少しづつ心が削られていく。すると次第に、ファシルは無心になっていった。それは心が防衛本能として、精神の崩壊を避けるべく、目から入る情報を無意識に受け流すようにしていたのだ。


 村を全体を見て回った結果としては最悪であった。生存者を一人も確認することが出来なかった。ファシルは村の住人の顔を全て覚えていたわけではなかったので、全員が死んでしまったのかは分からなかったが、生きている住人を見つけることは出来なかった。

厳しすぎる現実を認められずファシルは、何度も何度も村を見て回った。それはまるで、憑りつかれた様であった。


 ファシルは亡くなった住人の埋葬に数日を費やした。

ファシルの年齢で、亡くなった者の埋葬を一人で一から行うことはまずあり得なかった。したがって手順などは正確ではないため、本来より一人の埋葬にかかる時間は短くなっていた。そうとはいえ、ファシルは出来る範囲で丁重に埋葬を行った。

確認できる住人の遺体の埋葬は相当な時間を要し、それが村の惨状を物語っていた。


 埋葬を終えて木陰に入り一息ついていた。木にもたれながら座って休んでいると、ファシルはいつしか眠ってしまっていた。ファシルは自身が思っているよりも疲れていたのだ。ファシルのまだ短い人生の中でこれほど体を動かしたことも、苦痛に心を揺さぶられたこともなかった。短い期間で密度の濃い経験をしたファシルは相当に疲弊していたに違いなかった。この状態で止まることなく行動し続けれたのは奇跡的なことであった。

木陰から寝息がしばらく聞こえた。


 眠っている間に見る夢は、頭が起きている時の記憶の整理をしている。それによって断片的であり、通して考えると支離滅裂なものがほとんどだが、ファシルが今見ている夢はそういったものではなかった。今見ているそれはファシルの記憶であり、心にしまってある思い出であった。それは楽しい事や嬉しい事などを振り返っているようでもあった。それらを追体験していたファシルであったが、それらはある所で止まり、光となって散って消えてなくなる。その光の散り様は綺麗なもので見とれるほどであった。その光景を見ていたファシルは悲しい気持ちになると同時に少し苦しくなった。しばらくすると、光は完全に消え、暗い闇だけの景色となった。それは、何も見えなくてどんなに足掻いても元には戻らなかった。心がぞわぞわとしたファシルは、いてもたってもいられず走り出したが何処にも行くことは出来なかった。そしてファシルは、とうとうその場にしゃがみこんでしまった。果てしなく広い空間に閉じ込められているような気がしたファシルは大の字に寝転がり、大声で叫んでみた。しかしファシルの声は反響することはなかった。ファシルは声を発しているはずなのにそれが出来ていないのではと思った。無駄な足掻きに思えて寝転がっていると、やがて何もかもが広がり続ける感覚に陥る。そこでファシルは目を覚ました。


 ファシルは目を覚ますと体の疲れがなくなっている事に気付いた。それと同時に夢を見ていたような気がしていた。しかし、それがどんな内容だったのかは思い出せなった。でも、ファシルは自分の目が腫れていることから悲しい夢だったのだろうと思った。

ファシルは夢で泣いてしまった事に妙に恥ずかしくなった。そしてその様を誰かに見られたわけでもなかったが恥ずかしさを紛らわすため、大きく伸びをした。伸びをしたファシルは、どれくらいの時間が経過したのかと、まだぼんやりとする頭で考えていた。


 村の住人の埋葬を終えた翌日、ファシルは軽装だが荷造りを終えた恰好して、セリーネとガイアスを埋葬した場所にいた。そこには村の近くで自生している花が添えられている。ファシルはそこで目をつむり祈りを捧げた。そして口に出して今までの思い出を交えつつ感謝の言葉を告げていく。ファシルの思い出話は名残惜しさから長らく続いた。そして、二人に旅に出ること告げる。

「行くよ、頑張るから見守ってて」

ファシルはそれだけを言って踵を返す。

ファシルが短くそう言ったのは決心の現われであるとともに、ためらいを捨てるためでもあった。


ファシルは旅に出た。

一先ずその目的は、

森で出会った六つの大きな羽を持つ怪異を倒すこと。

村を散々な目に合わせた王国軍への敵討ち、の二つであった。

ファシルは、確信はないがこの二つはつながりがあると考えていた。

復讐の旅が今始まった。

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