赤広未那の兄
From:おにーさん
件名:Re:美谷涼香です。未那の友達の
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連絡ありがとう。
いつも未那がお世話になっているね。気難しい妹だけど、懲りずに付き合ってくれると嬉しい。あの子は寂しがりやだから、口や態度では示さないだろうけど、君にはとても感謝していると思う。もちろん、報告にあったもう一人の子にも。だから俺からも、ありがとう。
それで、未那が何を考えて動画配信をやめたのか、ということだけど。
どうかな、未那はやめていないと思う。おそらく今日の23時頃だ。新着ライブ動画を検索してみるといい。君にはわかるはずだ。
こう言っては誤解を招くかもしれないけれど、俺は未那が何を目的に何をしようとしているのか、しているのか、実のところ全部知っているんだ。
ああ、上手い文面が思いつかないな。やはり俺に文才はない。
ただ、君が疑っている「俺が未那の思考を誘導している」あるいは「未那を洗脳している」というような事実はない。そのことは明言しておこうと思う。
君が俺の悪意を疑っているということではないこともわかっている。
未那の境遇を知っている君は、未那の心が壊れないように俺が記憶や思考を誘導している可能性を疑っていたんだろう。催眠治療とかそういうやつだ。
不安定な頃の未那を知る君ならそう疑うのも無理はない。
未那にとって俺の存在が異常に大きいことは自覚している。だからその意味では、俺が未那の思考や行動を誘導しているというのは強ち間違いではないんだろう。教育というのは洗脳というからね。
だけど俺が恣意的に未那を操っているわけではない、ということは理解してほしい。
つまりは最近の未那が丸くなったのは君のおかげだということだ。
だから重ねて感謝を。
未那が動画配信という穏当な手段を選ぶようになったのは君のおかげだ。
ああ、こういう言い方も悪いのかな。すまない。決して皮肉ではないということもできれば察してほしい。未那にも言われるように、俺は大分口下手なんだ。
最初から、「未那がやっていることは概ね承知しているが、未那が俺の掌の上で踊っているだけ、なんてことはない」と言えばいいだけの話だった。
当然、未那が俺のことを世間的に持ち上げようとしていることも承知しているが、歓迎しているわけでもない。
俺は未那が思うような優れたる人間ではない。
むしろ凡人以下だろう。
力があることは確かだが、そんな力は崩壊に対しては微々たるものでしかない。
そんな誤差レベルの意味しかない力がいくら強かろうと、その他の必要なことを満足にこなせない俺はやはり才能がない。
未那には「そうやって自分を下げるのはむしろ他の人達に失礼」なんて言われるけれど、逆に俺はより自分が凡人以下だと実感したよ。その失礼が俺にはわからないから。だから俺には人を動かせない。だから俺は人を先導する立場になるべきではない。なれるわけでもない。
話がそれた。
斯様に俺には未那の行動をこのように誘導する理由がないということを言いたかったんだ。
それでも未那を止めないのには理由がある。
ああ、まずその誤解を解くべきだった。
すまない。実は推敲している余裕がない状況なので、思考を垂れ流すような文面になってしまっていると思う。けれどこのタイミングで返さないと間に合わない。すまないけれど、どうにか読み取ってもらえると助かる。
前後したけど、俺は未那に動画配信を止めろと言っていない。
だから未那が君たちに動画配信をやめるといったのは、おそらく君たちをこれ以上巻き込むことを心苦しく思ったとかそういうところだと思う。
巻き込んだ手前、魔法は教えるとか言ったんじゃないかな?
まあその内心を俺が勝手に推し量り、君に伝えたところで意味はない。
現実に、未那は俺を理由にして動画配信をやめると君たちに言いながら、自分だけで事を推し進めるつもりだということだ。
その未那に対して君がどのように思うのかは自由だ。
俺の希望を言えば、もちろん未那に付き合ってあげてほしいところではある。
けれど、未那が身勝手な振る舞いをしていることは確かだ。
君が呆れ果てて見放すことも已む無しと思う。
俺にも責任のあることだから、未那には付き合えないが魔法は覚えたい、というなら俺が何とかしよう。
その前提の上で未那に付き合ってくれると言うなら、俺にとっても大変喜ばしいことだ。
検討してくれると嬉しい。
仮に未那に付き合って動画配信をしたい、というのであればの話だが。
未那に「隠れてやっていることはわかっている」ということを突きつければいい。
そうすればあの子は開き直って君たちを改めて巻き込もうとするだろう。
実を言えばどうしてそうなるのか俺にはよくわからないのだが、未那はそうする。おそらくは照れ隠しなのだと思うけれど、照れ隠しでなぜ君たちを巻き込むのか、正直よくわからない。けれどそうするんだ、統計的に。
また話がそれた。
未那が俺の意に沿わないことを目標にしているのに、なぜ俺がむしろ推進するかのように振る舞っているのかという理由についてだ。
その理由はいくつかある。
一つは、未那が自主的にやりたがっていることを尊重したいということ。
俺たちの両親を守れなかった俺が言うと未那には悪いんだが、親心というやつだ。
あの頃の俺でも、守れたはずなんだ。なのに見過ごしてしまった。未那から両親を奪ってしまった。いや、こういうと不謹慎の誹りは免れないが、ただ両親がいなくなるよりも惨いことになってしまった。
結果論でしかないというのは承知している。ただ俺が勝手に責任を感じているというだけの話だ。未那に言えば酷い喧嘩になるかもしれないな。だからこれはここだけの話にしてほしい。いや、未那と喧嘩というのも興味深いけれど。反抗期はいつ来るんだろうか。いや、ある意味今が反抗期なのだろうか。未那も俺が先導する立場を拒否していることは承知しているだろうし。なるほど、これが反抗期か。感慨深い。何か思っていたのと違うが、それも含めて感慨深い。
他にもある。というかこちらが本題だが、これが未那のためだからだ。
抽象的ですまない。話せることと話せないことを区別するのが難しい事柄なんだ。とある事業に関連した守秘義務がある。
だから話せることというか、ある程度確定した未来についてを話そう。
未那はこの件を経ることによってある種のブレイクスルーを得る。
なぜ俺が介入するとそれが得られなくなるのかはわからないが、おそらくはそれが自主性の重要性というものなのだろう。どれだけ俺が教えてもできなかったことができるようになる。
そしてそれは、俺が自分では得られないものだ。あるいはそれが、俺が教えられないことの理由なのかもしれないが、どちらかというと未那の特異性に関係しているような気もする。俺がそれを得られない理由ははっきりとわかっているから、後者の可能性が有力だが、まだ仮説が固まっていない。この辺りのことについては、機会があればまたいずれ。
ああ、言い訳だな。すまない。君はおそらく、なぜ俺が君にこんなことを話しているのかと疑問に思っていることだろう。
君にとって必要な情報はとっくに出揃っている。
「未那に付き合って動画配信を行うか否か。行うならば未那の隠していることを暴け。そのほかの選択肢は君が自由にするといい」
これだけだ。
だからそれ以前にこれが読み取れていたならばもうこの無駄に長い文章を読む必要はない。もっと早くに断りをいれるべきだったな。申し訳ない。
これは懺悔だ。
娘のように思っている妹と同い年の女の子に自分の罪悪感を吐露して少しでも軽くしたいという、あまりにも情けない振る舞いだ。見るに堪えないことだと思う。重ね重ねすまない。これ以降を読んでいないことを願うが、読んでしまうだろう。未那に近しい君にこれを伝えることで、俺自身を罰したいのかもしれない。あるいは止める言い訳がほしいのだろう。その卑怯な振る舞いを含めて、頭を下げるしかない。
俺は未那を利用しようとしている。いや、している。それがあの子のためだというのは嘘ではない。けれど。
この駄文の最初の方で、俺は嘘を吐いた。
介入しないことで、何かをしないという選択によってそれが為されるならば、その選択は誘導に他ならない。
そんなことを俺はずっと繰り返している。この世界で誰よりも大切な妹に。
更に言えば、それが本当に未那を救うことになるのかわからない。
そもそもどうなれば未那は救われたと言える?
その答えが出ないまま、続けている。選ばないことを繰り返している。
不明瞭な物言いばかりですまない。もしここまで読んでしまったなら、本当に申し訳ない。
未那が危険に見舞われているとかそういう話ではない。これから先に袋小路が予定されているというわけでもない。少なくとも俺の知る限りでは。
家族を守れなかった男の、ただの悔恨。愚痴だ。読むに堪えない戯言だ。忘れてほしい。
未那のこと、よろしく頼む。
【第一章 終】
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