第22話 赤広未那は羞恥した//
「というわけで、今後どうするかって決まったかな?」
「あたしは決まったよー」
「ウチも決まった」
例によって赤広未那、若槻莉愛、美谷涼香の発言順番だ。
以前のように修行場にテーブルを出して三人で囲んで座っている。
「それじゃ、リアからどうぞ」
「えっとねー、動画に写したりしないんだったらー、シェイプアップとかはお願いしたいんだー。みーなーとしてはー、おもしろくないとは思うんだけどー、そのついでに魔法も教えてほしいなーって」
「ウチらを肥やした責任、ちゃんと取ってもらうんだから」
「えっと、スズも同意見ってこと?」
「モノマネっぽいから違う気がするー」
「知らんか……おもろいんやけどな。確かにウチらはリメイクもレーティングにひっかかるが、コミックとかは全年齢やから知っとる思ったけど」
「スズ……声のモノマネしてる時点でそれほとんど自白」
「そっくりなのー?」
「ちゃうねん。格ゲーとかソシャゲとかのコラボ登場でキャラの声の調子とかはわかるからそれで想像で真似しただけやねん。ウチもちゃんとモノマネできとるかしらん」
「まあ、スズが十八禁に手を出していようがいまいがもう別にいいんだけど」
「えっちなの?」
「ちゃうねん。残酷表現で
「まあ、スズが十八禁に手を出していようがいまいがもう別にいいんだけど」
「あれ? おんなじこと言ってる?」
「まるで信じてもらえない悲しみよ」
「リアはわかったよ。じゃあ食事のメニューと運動のスケジュールとか組みたいから後でヒアリングするね」
「お、思ったよりも本格的……というか魔法でぱぱっとできたりしないのー?」
「スルーされる悲しみ」
「あのスケジュールはあくまで動画構成ありきだったから。それに魔法でぱぱっとやるのは、リアが自分で魔法を使えないと難しいよ。人間って自分自身の姿を無意識に固定しようとするから。どこが嫌、どうなりたいっていうイメージがあったとしても抗力は働いちゃう。だからキミらの余ったお肉を燃焼させる魔法をわたしがキミたちにかけるのは多分無理。それは代謝そのものをいじる作用だから。
運動によるエネルギー消費から体の一部分を保護するとか、特定の目に見えて嫌な部分を取り除きたいとかだったら、わたしが掛けても十分に作用する見込みはあるけど、それがずっと続くわけじゃないから、まあリバウンドは必至だよね」
「あのー。それってー、あのまま動画撮影してたとしてー、あたしどうなってたって話になるのかなー?」
「逃さんいうのはそういうことか。名推理」
「まあ白状するとね、そういうこと。いざ効果が出たとして、それを維持するためにはわたしが必要で、それから逃れるためには自力でできるようにならなきゃいけないって状況に仕立て上げていました。でもその後、リバウンドしにくい体質作りに移行しようとしたでしょ? わたしも反省したんだよ」
「……お菓子」
「プラン変更に伴う餌付けの動機自白にしかなっとらんがな」
「まあもう過ぎたことだよ。
リアのほうはそれでいくとして、スズは?」
「お菓子……」
「その前に、ちょい確認させてんか」
「お菓子なら低糖質高タンパクのお菓子を用意するようにしようかと思ってるけど? いきなりお菓子絶ちなんかしたらストレスでお肌荒れちゃうし、無意識に食事量が増えたりして逆に太るかもしれないからね」
「それ、おいしいのー?」
「そんなん確認したいんと違うから」
「前にも少し言ったけど、運動には脂肪酸をエネルギー元にするようにしたほうがいいから、バターや生クリームは使うしちゃんと美味しいよ。さすがに甘さは控えめになるけどね、そこは味覚に作用する香りや食感と、味蕾を立たせる成分の組み合わせで補おうかと思ってる」
「……なんか思ったんだけどー、みーなーのそのお料理スキル、動画にしたらよかったんじゃないかなーって」
「……もうええ。
リア、こいつをどう思う?」
無視され続けた涼香は諦めたように息を吐き、スマホに表示させたとあるページを莉愛に向けて見せる。
その画面は当然、未那の目にも入った。
「――ッ」
「え、っと。Vtuber? かわいいけど……これが何? あ、お料理してるねー。魔女っ子クッキング? え、これ実写? アバターってこんなに違和感なく物とか掴めたっけ? というか……この声って……どこかで」
「ヒント
「す、スズ……な、なんで……」
「え、これ中の人みーなー?」
「そうみたいやな。さすがにデジタル音声やと聞き間違いかもって不安やったけど、今、確信したわ」
「 」
「みーなーが絶句するのって初めて見るかもー」
「ウチももしかしたら初めてかもしらん」
口をパクパクと開閉して言葉を発せない様子の未那を、二人は何やら感慨深げに眺める。
「けど、これってけっきょくどーゆーこと?」
ほとんど硬直してしまった未那を置いて莉愛は首を傾げる。
「どういうことなんやろうな? ウチもそれ聞こう思ててん」
「あたしたちの動画出演をやめたのは自分だけでバーチャル配信するためだったってこと?」
「それはちゃうと思う。ウチらを使えんくなったから仕方なしってところやろとは思う」
「それにしてはー、けっこうノリノリに見えるけど」
「いや、ウチにはヤケクソに見える。昨日はわからんかったけど、ミナがやってるって目で見るとそうとしか見えへん」
「言われてみればー……。ていうかけっこう再生回数回ってる?」
「個人勢がショートも上げんで昨晩投稿と考えるとなかなかの数字やね。つぶやき系SNSなんかで導線は作っとるっても、その垢も登録昨日付けやし」
「あ、ダイエット用の質問箱がある……」
「夜更けに飯テロしといてダイエットとか草生えるいうコメついとるし、反響はあるて思うてよさそうや。まだ調べられとらんけど、どっかでスレ立っとるんちゃうかな」
「っていうことはー、もしかしてあのまま動画投稿しててもけっこういいところまでいってたって感じ?」
「コメみる感じ、個人勢やのに企業勢と比べてもアバターの精度がヤバいとか、さっきリアが言うたように背景が実写やのにほとんど違和感ないくらいの存在感とか、そういうんに注目されとるってのが大きいみたいやから、予定やった動画構成でもうまくいったかもしれんな。少なくとも初期に注目は同じくらい取れてたかもわからん。
ただ実写と並べてシンクロってコンセプトやったし、スマホなんかでは見にくかったと思うし、アバターがリアルすぎる上に中の人も見えてるって状態やったわけで、バーチャル配信を見に来るような層にはウケんかったかもしれん。
なんでもそうやけど、順番って大事やからな。演者を知りたがる層も、そのキャラのファンやアンチになってから知りたい思うもんやし。最初っから演者出ししとるとどっちに注目していいかわからんで、他にたくさん動画があるんし、疲れるってんで他行ってもうたかもわからんね」
「えーっと、でもあの基本コンセプトって、スズちゃんが提案したんじゃなかったー?」
「ミナの目的から言うて、完全バーチャルはナシやったかんな。まあ苦し紛れやったし、そこまで考えとらんかったんもホントやけど」
「そっかー。……でも、あれ? じゃあなんでみーなーはバーチャルでやってるの? 目的に合わないんだよね?」
「それをウチは聞こう思ったわけや」
そうして、莉愛と涼香は「ぅなぁぁぁ……」と唸りながら両手で顔を覆って机に突っ伏す未那を、半眼で見つめた。
【次回、赤広未那は配信した】
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