幕間 赤広未那の話(前)
「みーなーにご両親って、いないの?」
「動画配信どないするって話のはずなんに、いきなりそれかい」
若槻莉愛と美谷涼香は二人でファミレスに来ていた。
涼香が言う話題をいざ話そう、というタイミングでこの問いかけである。
脈絡がないので、涼香は困惑した。
「ん、ていうかけっきょくはー、みーなーとこれからどう付き合っていくかって話かなーって」
「ああ、せやからミナのこと知りたい、ってわけね」
「しょうじき言うとー、あたし動画配信したいって思ってるわけじゃなかったから。最初からね?」
「そうやったっけ?」
「そだよー。そりゃ、ちょっとは興味あるよ? でもそれ、動画配信っていうより、芸能人とかモデルさんとか、そっちのほうだけど」
「ああ……そういうんか。そりゃイメージしてたんとちゃうかったやろな」
「ぎゃくにー、スズちゃんはどうして?」
「……まあ、お察しの通り、ウチも動画配信やらは興味ないな。芸人として身ぃ立てたい思てるいうんはもちろん冗談やし」
「その冗談、初耳なんですけど」
「間接的には言うたと思うけど、まあそれはどぉでもいい。
つまりリアとしては、ミナとつるむんに動画配信するかどうかってのはあんま関係せぇへんいうことやな」
「そーだねー」
「んで、ミナのこと聞きたがってるわけやな。けど、なんでご両親のこと?」
「だって、ところどころ、変じゃない? 保護者って言ってお兄さんになるのも変だと思うし、なんか聞いてたら、みーなーってお兄さんに育てられた、みたいな感じに聞こえるし。あたし詳しくないけど、未成年が保護者になるとかはできないんじゃなかった?」
「詳しくないいう割にはあんまウチらの年代が知らんような法律、よお知ってんね」
「ほら、成人が十八歳になったじゃない? あの時に何が違うのかなーってちょっと調べたの。そしたら二十歳にならないと養子を取れないってあったから、それって保護者とかにもなれないってことかなって」
「まあ……せやな。ミナが複雑な家庭環境なんは、そん通り」
「お兄さんが最強魔法使いだとかっていうけど、別に権力を持ってるってわけでもないから、みーなーは動画配信しようってしてるわけで……じゃあなんでそんな法律無視したようなことになってるのかなーって」
「リア……あんた実は頭いいん?」
「あたし、頭よくない自覚はあるけどその言い方にはキズついた……」
「ごめんて。まあ、あれやな。たぶんやけど、リアは普通とテンポがちゃうんよ。せやから地頭はええんけど、自分のテンポでしか考えられんから、他とズレてまってあんま頭よさそうに見えんのな。てかあんま考えてるように見えんのな」
「マイペースっていうのは、たまに言われるけどー。スズちゃんに言われるとなんかモヤモヤするんですけど」
「ごめんって。
で、ミナの家庭事情な。……まあ、ウチも全部知ってるわけやないし、ウチから言うてええことなんかわからんけど……。
ミナのことやから、あんたがある程度察してることくらいはわかっとるやろ。隠す気あるんやったらそういうこと言わんし家にも招かんやろうしな、うん」
「みーなーがあたしにはどうせわからないって思っただけってことはないかなー?」
「あんたを腹黒言い始めたのミナなんから、それはないと思うで」
「えっと? どーゆーこと?」
「腹黒って要は計算高いとかそういう意味合いあるやん? ミナはリアのそういうとこ、わかっててそう言ったんちゃうかな」
「え、それぜんぜん喜べない」
「ミナは良くも悪くもおにーさん以外には公平ってかフラットやから、気にせんでええよ。たぶん腹黒言うのも貶してるつもりないで。挑発ではあったやろけど」
「あー……アレ。そーいえばアレのあとは言ってこないねー」
「合理的っていうとなんかちゃう気がするけど、そういうとこあんねん、ミナは。理由があったらなんでもやってまうけど、逆に、無駄に人貶したりはせん」
「でもなんか上からじゃない?」
「あのプライドもね、おにーさん
「そう聞くとー……あー……って感じ」
「そんで、どうしてそこまでおにーさんに……言ってまうと依存しとるのかちゅーと、まあ、リアの想像してるようにご両親のこと関わってるんけど……これ、説明むずいな。どうしてそうなってるんか、ウチもよう知らんし」
「スズちゃんも知らないんだ……」
「ウチが知ってる事実だけを言うと、どうしても誤解を招く言い方にしかならんのよ。……ご両親いないわけやないんけど、二人とも、ミナのこと認知しとらん。そういうても、伝わらんやろ?」
「……? たしかに、よくわかんない」
「ええとな……ミナのこと自分たちの子供と認識できないんよ。せやから養育義務があることも認識できん。せやからミナの養育は全部おにーさんがやってる。どうやってそういうんを成り立たせてんのかは、ウチにもわからんけど」
「えっと、病気?」
「ある意味そうなんやと思う。ちゃんと聞いたわけやないけど、大体十年くらい前に、魔物が溢れたことあったやん? そんときに魔物にやられたんと思う」
「え、でも」
「そう。普通はな、ただダンジョンとか魔物とかを認識できんようになるだけ。心無い連中は、魔物被害者を
想像してみ? 同じ家に生活してんのに、ある日から突然、他所の子供をなぜか預かっているみたいな態度を取られるんよ? 実際どういう扱いやったんかまでは知らんけど、頭おかしなるで、どんなんでも。
そんな環境で、ちゃんと自分のこと家族やって認識して、衣食住の世話から教育まで全部やってくれるおにーさんに依存するんは、もう仕方ないやろ。いや小学生でそないなことできるおにーさんが超人やっつーのも全然誇張じゃないんけど」
「……」
「そんで、そういうんはなんでか周囲にもわかるってか漏れる。魔物を認識できんくなるのと、ミナを認識できんくなるってのを結び付けて、ミナを魔物呼ばわりするアホも、いたわけや……。ミナは否定するやろけど、ミナが人間嫌いなとこあんの、それが原因の一つやとウチは思ってる」
「それで、スズちゃん……あのとき、言わせないようにって」
「その察しのよさ、普段から発揮しとったほうがええと思うで。まあ多分ウチが危惧してたこと勘違いしとると思うけど」
「どーゆーこと?」
「ミナがキレてリアをどうにかしてまうと思ててん、あんときは。昔と今じゃミナの実行力が
「えっと?」
「魔物呼ばわりしたアホがどうなったかっちゅー話。
『わたしが魔物だっていうんだったら、殺しても死なないし、忘れるんだから大丈夫だよね?』
……そんときのミナのセリフ一部抜粋。
具体的にどうしたかは、ウチの口からはちょっと言えんわ。ちな、それミナに言ったアホ本人だけやなくて、それを吹き込んだ親にまで行ったってのも付け加えとく」
「うわぁ……」
「ミナはどの方面から見ても問題児なんやから、こうして考えると学校が目ぇ光らせるんも当然なんやなって」
(続く)
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