第19話 赤広未那は惑乱した
「別にわたしは、お兄ちゃんに彼女ができようが恋人ができようが構わないって思ってるっていうかむしろお兄ちゃんのことを認めてくれる人が増えるのはむしろ歓迎っていうかファンを作ろうってしてるんだからそれは明らかっていうかファンが夢見るのは勝手っていうかむしろファンって直接触れないからファンっていうんじゃないのかとか思わなくもないけどそれでも人気が出れば必然的にそういう輩は出てくるから有名税っていうかわたしがお兄ちゃんの妹であることは何があっても変わらないってないっていうか義姉になろうとかふざけたこと言い出さなければギリ許せるっていうかせめてわたしを倒してからにしろっていうか?」
「みーなーの肺活量ってどうなってるのー?」
「現実逃避乙。や、ウチが乙りたい。むしろ乙る」
例によって赤広未那、若槻莉愛、美谷涼香の発言順番だ。
たった一息で喋りまくった未那は息切れもなく、その表情は一切動いておらず、まばたきもせずじっと涼香の顔を見据えている。
「というわけで、スズ、かかってきなよ」
「どういうわけなの」
「弱い者イジメいくない」
「正直お兄ちゃんに異性への興味とかあるのか怪しいけど、それだけに逆にあっさり悪い女にひっかかりそうだからわたしが
「それたぶん許せてない」
「目が完全にアレなんやもんなぁ……」
「わたしを倒せるくらいじゃないとお兄ちゃんは任せられないから当然でしょ?」
「会話になってるようでなってないというか」
「バイオレンスな方向とはちゃうと思うんねん」
「つまりスズはバイオレンスじゃない方法でならわたしに勝てるっていうんだ?」
「あたしが言うのもなんだけど、それ話がちがうと思うの」
「ミナ、お願いだから落ち着いて。計画が全部崩れてヤケになるのもわかるけど、ウチに当たったってなんにもならんよ」
涼香はまっすぐに未那を見つめ返し、真摯に、それでいてどこか優し気に言った。
「……スズはズルい」
「……」
「せやな」
莉愛は珍しく空気を読めたのか無言だ。
少し遅かったというか発端が莉愛の問いかけなのだけど。
いや、未那は遅かれ早かれ爆発していたか。
「西倉先生だ。それか学校。部活申請したの、失敗だった」
未那はぽつりと零すように言う。
「あー……」
「なるほどねぇ。理由はともかく、消去法ではそれしかないか」
「普段つるんでなかったリアとグループになってるから、部活動じゃなくても活動してるのは、少し目端が利けば予想できるし。多分、身バレで学校を特定されたりして何か問題になる可能性を危惧したんだと思う」
「そういえば、身バレとかどうするんだろーってはちょっと思ってた。あたしたちのアバターすごいリアルだったし、あたしたちがマスクとかしても意味ないよね」
「てか身バレはマスクしようが不可避やろ、アバターがどうとかやなしに。動きやすい衣装って時点で体のラインは見えるし、運動してるとズレるやろうし、そういう映像がアーカイブで残るんから、視聴者が増えて本気で探されたらたぶん速攻やな」
「スズの言う通り。編集でも限界はあるから。だからマスクしたとしてもせいぜい時間稼ぎだから、その辺はキミたちに選んでもらおうと思ってた。アバターにマスク付けるくらいは後付けでできるからね」
「まー……しょうじき身バレとか気にしてなかったからあたしはいいんだけど」
「よくないのが学校っちゅうこっちゃな」
「一応校則は調べて、問題はなかったはずなんだけど、懸念があれば保護者に確認と注意くらいはいくよね……。我ながら迂闊すぎる。こんな際どいタイミングでバレたのはスケジュール遅れのせいだけど、もともと想定もしてなかったって時点で完全にわたしの手落ちだ。ごめんね」
「み、みーなーが素直に謝るの、すごい違和感あるんですけど」
「けどな、ミナ。もともと魔法に関しては匂わせに留めるって方針になったんから、別にこのままでも配信は始めてもええんと違うの?」
「そうなんだけどね。でもそこからどうやって魔物討伐まで持っていくのか、お兄ちゃんを配信者にするのかっていう道筋が、見えなくなっちゃって。
ごめんって言うのは、わたしが言い出して巻き込んだのに、わたし自身の動機がなくなっちゃったことなんだ」
「えっと、つまり……?」
「動画配信自体をやめるいうんやな?」
「申し訳ないけど、そう。
お詫びってわけじゃないけど、魔法修行はキミたちにとっても絶対プラスだから、それは続けようと思うんだけど、どうかな?
もしくは、魔法要素は完全に排除して、普通の動画撮影とか編集、アップロードを請け負うとかでもいいよ。その場合、人気取ろうと思ったらどっかのアイドル売りの箱とかに応募したほうがいいとは思うけど。あ、何ならそのためのシェイプアップとか、キレイな立ち姿とかボイトレの訓練とかに付き合おうか」
「……」
「……ちょい、考えさせて」
「うん。もう焦る理由もないし、わたしもまだ冷静じゃないし、返事を今日もらえなくてもいいよ。せっかく集まったのに、ごめんね」
「……」
「せやな……リア、少し話ししよか、二人で」
「うん、わたしも一人で頭冷やしたいし、今日はもう解散ってことで、ごめんね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます