第18話 赤広未那は追及した
「突然ですが、お兄ちゃんにバレました」
「へー。……何が?」
「おにーさん帰ってきたん?」
例によって赤広未那、若槻莉愛、美谷涼香の順番だ。
ただしいつもと違い、丸テーブルを持ち出して三人で囲うように座っている。
「機材が届くまでに一度帰ってきたけど、その時はまだバレてなかったんだけど、昨日なんでかバレたらしくて電話が来た」
「えーっと、そもそもなんでバレたらダメなの? というか隠してたの? なんで?」
「マッチポンプを悟らせないためやって」
兄バレ云々に関して莉愛は聞いていなかったので涼香が補足する。
莉愛は「マッチポンプ?」と首を傾げ、当初からの未那の目的を忘れていることを露呈した。正確には、未那の兄をデビューさせる方法(予定)を忘れていた。
「まあ我ながら迂遠なことしてるとは思うし、忘れられても別に困らないんだけどね。でもここらで少し振り返ってまとめてみようか。
わたしの元々の目的は大まかに言って二つ。
一つは、魔法を若い世代に普及すること。
もう一つは、お兄ちゃんの待遇を改善すること。
この二つは結局のところ、国とかの大きな組織を改革することでしかなしえないけど、上層部から改善することが難しいっていうのは、これまでで説明したことから、ある程度はわかってもらえていると思う。
だからわたしは、迂遠と知りつつも比較的若い世代が大多数ユーザーのSNSを使って、民衆の意識に刷り込むことから始めようと考えたわけ。そして最も影響力と説得力があるのは動画配信だから、それをメインに据えようと思った。
だけど、いきなりお兄ちゃんを配信したところで、誰だこいつってなるのがオチだし、お兄ちゃんが自己主張なんてするわけないし、そもそもお兄ちゃんにそんな暇はないし、下手にお兄ちゃんを出して叩かれることになったらわたしが我慢できないし、とにかく正攻法じゃ無理。
そこで実は、最初はわたし自身が出演して視聴者数を稼いでから、お兄ちゃんをヒロイックにデビューさせようと思ってたんだよ。けど、知っての通りわたしってこんなだからね。いろいろと検討した結果、わたし自身はでないほうがいいってなった。そうするとわたし以外で視聴者数を稼げる人材が必要になるよね。
そこで部活を立ち上げようと思ったけど、スズも言ってたようにまあ最終目標考えると厳しい。いろいろ制限もかかっちゃうしね。それでも一応申請したけど、ぶっちゃけ人材確保できたら部活がどうなろうとどうでもよかったから、キミたちを捕まえられただけで良しとしたわけ。あれから一応学内でそういうスキルがある人探したけど、引っ掛からなかったしね。うちの学校にはいないか、いるとしたらよっぽど隠蔽が上手いってことになるよね。そんなスキル持ちがいたらぜひ欲しいところだけど、そんなに隠したいなら、部活とか立ち上げたところで入ってはくれないだろうし、というところで完全に見切りをつけました。
そういうことで、わたしたちだけでやろうと思ったわけだけど、わたしならともかく、キミたちにいきなり魔物討伐とかやらせられないし、まずはキミたちを鍛えようと思ったわけだけど、せっかくだからこの修業期間も使えないかと思って、動画にしようと思ったわけ。
その前提で考えた動画構成が、魔法を使ったダイエット。わたしの中ではこれはキミたちのモチベを高めつつキャッチーなテーマになると思ってたんだけど、ちょっと読みが甘かったね。広告なんかではビフォーアフターに顔だしで出演している人がよくいるから、そんなに抵抗あるとは思ってなかったんだよね。仕事でやってる大人を基準に考えたらダメだった。反省してる。
その反省を活かして、スズの提案を取り入れて、動画のための準備を済ませて、さあアバター完全シンクロダンス撮影を始めるよ、ってやろうとしたところでお兄ちゃんにバレました。今ココ」
「こうして聞くとー、なるほどなーって思うけどー、実はー、あたしたちがやらされてることと、お兄さんのこととどうつながるのかとか、ぜんぜんわかってなかった」
「ミナの悪い癖やな。ミナというか、この兄妹の。特にミナは自分の考えが一般的でないこと自覚してんのに、他人もわかってる前提でなんでも進めるかんな。しかも、確かに言ってはいたけどマジやったんか、ってパターンが多すぎんねん」
「お兄ちゃんも自分が一般的な思考回路じゃないことは自覚してるよ。自己評価が低いから、自分より考えが足りない人のことが理解できないだけで」
「えっと、それたぶん、どっちのフォローにもなってないと思うんだー」
「エヌ回目」
「まあバレるのは想定内というか既定路線。お兄ちゃんが駆けつけてくれるようにタイミングを見計らうには、動画配信自体については知っててもらわなきゃいけないから。想定外なのは、動画配信を始める前にバレちゃったこと」
「しょうじきね? 何がよくて何がダメなのかぜんぜんわかんないー」
「まあ、おにーさんの立場やと、魔物討伐置いてもミナとかウチらが魔法規制派に目ぇ付けられそうなことには反対するわな」
「スズの言う通り。始めてしまえば、ある程度拡散した後だったら、もう取り返し付かないから、せいぜい注意くらいで、むしろバックアップしてくれたかもしれないけど、まだ始めていないこの段階だとね。というかなんでバレたんだろ。お金の動きではまだわからないように工作してたのに……」
「お兄さんがすごかったって話? これって」
「いやな、たぶんこれ、ウチがチクったって疑われとる」
「スズなら自分への疑いを察した時点で開き直るから、違うのは今わかった」
「あたし、お兄さんに会ったこともないけど?」
「せやな。言うたら悪いけど、リアがミナの目をかいくぐっておにーさんとコンタクトとれるとは思えんし」
「そう。というかお兄ちゃんに連絡できるのって限られてるんだよね。わたしでさえ、帰ってこないときのお兄ちゃんになかなか連絡とれないのに」
「そういえばー、スズちゃんとおにいさんってどういう関係なのー?」
「このタイミングでそれ訊く? というか訊き方」
「スズは五年くらい前にお兄ちゃんに助けられたってだけ。それより、スズじゃないんだったらもう一人くらいしか思い当たらない」
「つまりー、おにいさんのファン?」
「おにーさんのファンがミナの目論見チクったって文脈に聞こえるで。いやウチがファンってわけとちゃうけど」
「違うの?」
「目がこわい」
「ミナがおにーさんのファンに対してどういう感情を持つのかわからんかったけど、今余計わからんくなった」
「むずかしい問題だよね。お兄ちゃんに色目を使う女に対してわたしはどういう感情を持つべきなのか」
「ま、まばたきくらいはしない、みーなー?」
「ファンが色目使ってくるとは限らんのとちゃうかなー、なんて」
「つまりスズはファンじゃない、と?」
「こわい」
「不自由な二択。正解はない」
(続く)
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