第14話 赤広未那は報復した

 アイディア自体はすごくいいと思っている。


 けれどそれを涼香が思い付けたのは、彼女がその実現性について理解していないからだ。


 未那は自分にできる中から配信内容を考え、涼香は『未那ならばこれくらいのことはできる』という、信頼とも身勝手な期待とも言える思い込みから発想した。

 その違いだ。


 つまり現状、未那には『現実の動きをゲーム内で再現する魔法』を実現できない。

 新しく魔法を作らないといけない。

 既存の魔法を組み合わせて実現できるならば、未那は自分で発想できていた。


 ただ、本当にそうなのか。

 魔法に関してはその通りで間違いないが、発想できなかったのは未那がゲームに詳しくないから、ということはありえる。


 新しく魔法を作る前に、ビデオゲームについて詳しく調べて、どこをどうすればいいのかという方針を立ててからのほうが開発にかかる時間が短くて済みそうだ、と。


 そうやって調べていくと、MR(複合現実)という技術が求めるところに近いように思えた。医療機器営業のことではない。

 簡単に言えば、録画してVR(仮想現実)化した映像を現実にあるように見せる技術だ。AR(拡張現実)とは違うらしく、全部を入れ替えるか部分的に張り付けるかの違いらしいが未那にはよくわからない。


 更に調べていくと、ダイブ型VRというものが引っ掛かる。

 どうやら現状はフィクションのようだが、思念をまるごと仮想現実に反映させることで、現実では身動きしなくても仮想現実内で活動できるという概念のようだ。しかも仮想現実内の感覚をフィードバックさせることもできるという。


 思念だけを、というのが今回の目的にはそぐわないが、まさにそれが求めるところである。

 しかしフィクションだ。ダウングレードするとやっぱりMRになる。正確には、MRを作る段階の技術を魔法で再現すればいい。

 

 少し整理してみよう。


 今回、未那が実現したいものを箇条書きにしてみる。


①特別な機器を用いずに現実の動作をリアルタイムでモニター内のアバターにトレースさせる


②それらの動作は記録され、何度でも再生可能


③現実の動作を反映させずともアバターの動作を操れる


 最低限これだけが満たされていればいい。


 これらのほとんどは既存技術で解決可能だ。

 ①における『特別な機器を用いずにリアルタイムで』という部分に問題が集約されている。


 ①においては予め背景やアバターを仮想空間に作成しておくことで魔法が関与する部分を減らせる。背景やアバターを作成する段階に魔法を使ってそれを機械に再現させるというところがやや困難か。しかし既存技術をカバーする形ならば後は機械のグレードの問題になるだろう。

 機械のグレードに関しては、逆にあまり高級なものは望ましくない。

 涼香の言う『やれる範囲でやれるだけやった』という演出だ。


 仮にも真にも最強魔法使いの兄の妹である未那が動かせる資金はそれなりだ。それなりであっても一般女子高校生の範囲からは大きく逸脱している。そんな未那が本気を出して資材を揃えたら、それは一般的に再現不可能になってしまう。

 それにそうした資材は納入までに期間を要するものだ。

 できるだけ早く取り掛かりたい未那としては、今回の方針変更に時間を取られての遅延はこれ以上許容したくない。

 ただでさえ脱線が激しくて当初スケジュールから遅れているというのに(※割と自業自得)。


 というわけで即決して機材を発注する。

 細かい調整はこちらでやるので納入を早められる機材ばかりを選んだ。


 それでも兄にバレる可能性があるが、未那に甘い兄ならば『友達とVR動画作ろうと思って』と、魔法普及や魔物討伐に関してを伏せて言えば『ミナにもそういうことする友達ができたか……』と感慨深く言って承知してくれるだろう。


 ……克明にその様をシミュレートできるのに何か釈然としないのはなぜだろう。未那は自分の想像を訝しんだ。


 まあいっか(思考放棄)。


 できるだけ簡単に揃えられる物を選んだとは言っても、やはり納入までには時間がかかる。

 物がこないと解析もできないので、今から具体的な魔法理論を組むのも無駄が多い。

 MRに関しては一旦ペンディングだ。


 既存のダンスゲームについての調査にとりかかる。


 やはりダイエットとダンスゲームというのは紐づけされているようで、簡単にそういう企業PRなどの案件動画についても見つかる。

 涼香なんかはこういうのと提携することを最初、提案していたのだろう。

 しかし未那が今知りたいのは、箇条書きで③の、アバターを操作する技術の部分だ。


 ある意味当然だが、アバターが再現できるのは事前に取得し入力したモーションだけであって、入力したモーションを自由に改変してアバターにダンスをさせるというものではない。

 これはゲームというよりシミュレーターの分野だ。

 そしてシミュレーターの分野ならハードさえ揃えれば現状の未那でも作れる。


 そうなると、今できることは配信の構成を考えることくらいか。


 未那の考えている配信動画の構成は、こうだ。


1.一番最初に適当な創作ダンスを踊らせて、それをリアタイキャプチャして踊るアバターが写ったモニターを同時に動画撮影する。


2.記録されたアバターの踊りを見ながら本人たちが実況という名のリアクションする様を動画配信する。


3.どこをどう直したらよりよいダンスになるかを、本人たちにアバターを操作させて考えさせる。

 (※その過程も面白そうならば動画配信に載せる)


4.本人たちにも見えるようにモニターを映して改善した振り付けの通りに踊れるようになるまで試行錯誤。


 これらの工程を、『局部激ヤセ魔法でダイエット』という大目標を前提に置いて行う。

 

 ちょっとテーマがとっちらかっている気がしないでもない。


『痩せるためにダンスを振り付け作りから始めた結果、痩せることは忘れてダンス制作に没頭した』


 みたいなことになりそうだ。


 別にダイエットはつかみに使えると思っただけなので、忘れられてもいい目的ではあるのだが、なんか涼香に誘導されたみたいで悔しい。


「思いっきり精巧なアバターにして余ったお肉まできっちり再現してやる……」


 他の誰かにも再現できると思わせるような物にするという演出についてはどこに行ったのか。


 未那には割とこういうところがあった。

 涼香に対してだけだが、涼香は果たしてそのことを喜ぶだろうか。

 とばっちりの莉愛などはきっと複雑な思いをすることだろう。




 一方その頃、

 

 「発案者の人そこまで考えてないと思うよ」という顔をした涼香が、あったかいお風呂に入っているのに背筋を震わせたとか。


「ま~たミナが何かよからぬこと企てとるな、これ」


 正解。

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