第13話 赤広未那は説得した(された)
「スズの言いたいことはわかったよ。つまり、どこかと提携しろってことだよね?」
「せやな」
例によらず、赤広未那、美谷涼香の発言順番だ。
若槻莉愛は発熱につき休憩中である。
「ぅぁー」とかってうなってる。
「色々理由はあるけど、それはパスで」
「なんでや」
「一番おっきい理由を言うね。わたしたちは未成年で、そういうことをしようとしたら公的な手続きが必要で、どうやってもお兄ちゃんにバレるからダメ」
「……まさかとは思ってたけど、マジか。この暴虐ブラコン、おにーさんに内緒でやろうとしてんのな」
「あれ? 言ってなかったっけ」
「言うてんよ。ウチらがピンチのときにおにーさんが助けにきてくれるってことしか」
「お兄ちゃんに演技なんかできるわけないんだから、いざその時までは言うわけにはいかないし、当然の帰結でしょ?」
「暴虐ブラコンの常識がウチらに通じるわけないんだよなぁ。
いやま、薄々そうでないかっては思ってんけどね。
おにーさんのすごさをリアに見せたらより説得力マシマシやのに、とか、
ウチらに魔法教えるにしてもおにーさんのアドバイスあったらよりはかどるんちゃうか、とかで。
せやかて今忙しい言うおにーさんを呼べんってことなんかと思ってたんよ」
「でも最初のころに、お兄ちゃんにチクったら、とかも言ったけど」
「それはウチらに魔法を無許可でかけたことかと」
「あー、うん。なるほど、色々相互認識に齟齬があったことはわかったよ。でもそういうことだから」
「いやさ、またれよ。ここは目先を変えてみてんか?」
「スズ、がんばるね。ちょっと意外。抵抗するなら余ったお肉撮影会のときかと思ってたのに」
「ウチかてやるんなら成功させたいって。恥をかくんは、イヤやけど、恥のかき損はもっとイヤやん?」
「そんなに見込みがないって思うんだ……」
「さっきも言ったけど、正直わからん。何がおもろいんかわからんよーなのがバズったりもしてるしな」
「たぶんだけど、それって視聴者との距離感なんだよ。
自分でもできそうとか、自分だったらこうする、って感じの憧れみたいな、でも手が届く、みたいな。地上波や映画なんかよりはずっと近いから、そのイメージがしやすい。
自己投影のしやすさっていうの? そういうのが受けやすいんじゃないかって思ってるんだけど」
「困るな、その説得力。せやから素人くささをあえて出そうってか」
「手が届くってイメージがしやすければ魔法へのとっかかりになるって目算もあるけどね」
「けどな? 素人くささっつても、狙ってそれやっても逆効果ちゃうんかって気ぃせんでもない。そういうのってできる範囲でやれるだけやったってとこからくるんちゃう?」
「それはそうかもね。簡単にやってるように見えて実は色々工夫してるってこともあるんだろうとは思う。
だったらフリー音源とか探してせめてBGM付ける?」
「それもええんやけどな。ウチが思ってんのは、ミナのその魔法技術を裏でふんだんに使うっちゅーことなんよ」
「えっと、キミたちをマリオネット化して遠隔操作でダンシング、みたいな?」
「いやそれ思ってたんとちゃう。てかウチが言わんでもそれやる気やったんちゃう? もしか……」
「思い付きはしたけど、キミたち自身ができるようになってくれるのが一番いいと思って保留にしてる案だけど?」
「この暴虐ブラコン普通に脅かしてくんな。ぜひ棄却してクレメンス」
「前も言ったけど、一発で全部上手く行くとは思ってないから、棄却はできないかな」
「まあいい。ちっともよくないけどそれは未来のウチに任せる。
ウチの提案ってのはな? 要はダンシングゲームをミナが同人で作らんかってことなんよ」
「……ん? ちょっと待って。なんか趣旨がまるっと変わってない?」
「変わってんよ? そのダンシングゲームってのが、モーションキャプチャーを魔法でやってそれをゲーム内に再現させるっちゅーもんやったらどない?」
「……ああっ! なるほどっ! ダンスゲームを現実に再現するのではなく、ゲーム内のキャラクターに再現させるってこと。
確かにそれなら、ダンスが素人臭くてもゲーム内が本題なんだから滑稽であってもむしろそれがネタになるし、キミらのダメージも小さくて済むね。後でそのゲームを本人たちが見返して実況してみせるって構成にもできる。
なるほど、ダンスゲームを作るためのゲーム、かぁ。
現状だと普通のモーションキャプチャーはダンス再現くらいになると、ごてごてしたもの付けなきゃいけないし、それがないのに完璧にゲームで再現できるってことで分かる人にはその不思議さがわかる。わたしが想定していないクラスタにも訴えかけられる可能性があるってこと。
うわっ、すごい。スズはよくそんなの思いついたね」
「ふっ……人間追いつめられると思いもよらない力を発揮するものさ。
って、いやまってこれだとミナの暴虐ブラコンぶりが正解だったということに……?
聞かなかったことにしてくんろ」
「スズのそういう、自ら墓穴を掘っていくスタイル、嫌いじゃないよ」
「かんさいの血が騒ぐんねん」
「そんな事実はないの、いわゆる幼馴染のわたしは知ってるってわかってて言うんだからスズったら」
「えっ!? ないの!?」
遠くから莉愛が驚きの声を上げる。
休憩しながらも聞き耳は立てていたようだ。
「だましててごめんなぁ、リア。せやねん。ウチにかんさいの血が流れているなんて事実は、ないんねん」
「そんな、そんなのって……っ!」
「何かが唐突に始まっている……」
突然に始まった愁嘆場(愁嘆場?)に、茶番だなと察した未那は一つ頷く。これは放置していいやつだと。
そして涼香に詰め寄る莉愛を迂回するようにして水を汲みに行く。
二人は放置して涼香のアイディアを煮詰めるつもりだ。
「せや……ウチはしょせん、エセや。ウチにはリアと一緒にお笑いの道に進む資格なんかない」
「だましてたも何もさっきからずっと初耳だよ……っ! ていうかあたしにもかんさいの血とか流れてないよ!? 資格とか、ないよ! その気もね!」
「あきらめんと、いいんかな……? ウチは……」
「その前に、なんでスズちゃんそういうしゃべり方を? てっきりあたし、方言が恥ずかしいから普段はネタでごまかしてて、素が出たら方言なのかとばっかり思ってたんだけど」
そこは寸劇関係なく本当に気になっていた莉愛である。
「キャラ分けのためやな」
「急に、すんってされてもあたし困る」
(続かない)
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