第12話 赤広未那は憂慮した
「というわけで、何度目になるのかもうわからないけど今回こそは! 局所激ヤセ魔法を受けてもらって動画撮るよ! 案は考えてきたかなっ!?」
「なんかー、みーなーテンションおかしくない?」
「あの日なんやろ」
例によって赤広未那、若槻莉愛、美谷涼香の発言順番だ。
「スズさぁ、下ネタ最低限って言ったよね? カットするにしても繋ぎとかで編集が面倒になるから普段から気を付けてよ?」
「重い方なんだー」
「さすはて」
さすが腹黒天然の略(はらぐろてんねん)。
「はぁ…………」
「ホントに重い感じ?」
「クソデカ溜息」
「ぶっちゃけ重かったとしても魔法でなんとでもなるからそんなのと違うし」
「え、それ普通に教えてほしいかも。あたしかなり重い方だから」
「その魔法、まさかおにーさんが作ったとか?」
明らかな話題逸らしから軌道修正することを諦めた溜息だった模様。
「さすがのお兄ちゃんも自分で検証できない、体に作用する術式は作らないよ。生理用品を平気で買ってくるお兄ちゃんだけど。しかもばっちりタイミングで」
「えぇ……」
「コメントに困る」
作れないではなく作らないというところがこのエピソードのミソである。
「これってやっぱり引くようなこと? だよね? それともわたしが意識しすぎ?」
「ん~~~。びみょ~~~」
「変に気を回されるよりはマシ、か……?」
「まあ、お兄ちゃん、魔法を普及させる試みの一環として生活魔法を作ることを考えていたから、そうしたら必然的に生活に密接する生理作用についての理解が必要で、その中にそうした知識が入ってて計算したってだけなのは、頭ではわかってるんだけどね。そもそもお兄ちゃんの場合デリカシー以前の問題だし」
「え、でも聞いたことないよー? 生活魔法」
「着眼点悪くないと思うが?」
「生活密着系の魔法の多くが特医師の範疇だったんだよ。あと家電メーカーを敵に回したら逆効果になりそうだったから。というかインフラ系まで敵に回しかねないし」
「……前からちょっとは思ってたけど。
なんで聞いた感じ便利な魔法が普及しないのー、って」
「ネガキャン張られまくりか」
「ネガキャンどころか情報封鎖・情報操作レベル。この国どころかどっかの大国でもあんまり普及してないのは、間違いなくそういう圧力がかかってるからだろうね。軍需産業とかはたぶん、対魔物兵器の開発を行っていて、それが軌道に乗ってからようやくその技術がほんのちょっとだけ市井に流れていく、みたいな感じを狙ってると予想してる。
まあ、無理だと思うけど。魔法はちょっと属人的すぎるから。一般に知られているような程度ならともかく、本物の魔法は。
少なくとも、絶対に間に合わない」
「あー……」
「察し」
二人は未那が、嫌いすぎて無感動になるレベルにあるのだと察した。
「お兄ちゃんが不遇な立場になってる理由が少しはわかってもらえたかと思う。で、そういうこと色々考えてたら、わたしがやろうとしてることってあまりにも小さいなぁって我に返っちゃった感じ」
「あのー、その前にー、そういう圧力かかるようなこと、あたしたちで公表しちゃって大丈夫?」
「エシュロン」
「そっちは対処できるから気にしないでいいよ」
「気になるよぉ! そりゃね、みーなーが言うんじゃなければただの陰謀論とかって笑い飛ばせるけどっ! みーなーがいうと冗談じゃないし!?」
「リア、リア、自分で答え言っとる」
「そういうこと。まず最初はネタとしてしか受け取られないし、ネタじゃないってわかったときにはもう遅いし。その頃にはたいていの実力行使には対抗できるようにキミたちは鍛えられているし。
普及させたいって勢力がないわけじゃないから孤立無援ってわけでもないし、何よりその時にはわたしだけじゃなくてお兄ちゃんも対処に回ってくれるんだよ? 不安なこと何かある?」
「そ、想像以上のスケールにあたしちょっとついてける気がしないなーなんて」
「エヌ回目」
「そんな難しく考えることないよ。わたしらが何もしなくても遅かれ早かれそういうことにはなるし、これはそういうことが起きたときに予め自分たちの立ち位置を決めておくってだけの話なんだから」
「あー、それならー……ってならない、ならないよ!?」
「選択肢がどれも重い件。小さいとはなんだったのか」
「事の大小なんて個人の見方次第ってことでもあるけど、現実はいつだって変わらないからね。その選択肢は今見えるようになったってだけで最初からそこにあるんだから。最初からその前提で見ていたわたしにとっては小さいというか、小分けにしているというか」
「ぐぬぬ」
「何かごまかそうとしてんか?」
「別案がないことをごまかそうとしてる人が何か言ってる」
「ひぃん」
「論点そらし乙」
「……スズが気にすることじゃないよ。だからさっさと着替えてきてくれるかな? それともまた剥かれたい?」
「ひゃぁぁ」
「いずれ話してよ、待つから。……ちな、別案なら一応ある」
「あるのにここまで引っ張ったってことは、問題ある案なんだ?」
「あ、なんか風邪ひきそう。ひいてるかも」
「まあ、ウチの力でどうにかできる案じゃないから言い出しにくかったんよ」
緊張感かもしたところ、なんか湿度高くなってきたと思えばひんやりさせられて、すぐに常温に戻る二人の会話テンポに莉愛はもはや風邪状態だ。
「確認するけど、その案は『躍動感』と『ある程度の運動量』の二つは満たしてる?
リアはマジで熱出てるから少し休んでたほうがいいよ」
「……なんで触れずに熱出てるのわかるのってツッコミするのもつらいからそーするー」
「全部言っとるがな。
というかダンスって部分の別案じゃなくて、自主創作ってところをどうにかしたかってん。あとせめて音楽も付けたい」
莉愛は水を飲みに行き、ベンチで休んだ。
「でも下手にどこかの振り付けとかBGM使ったら著作権云々でややこしいよ?」
「けど、音なしの素人ダンスとか絶対受けんよ。ミナのことだから魔法で身体能力上げたり身体制御させたりして、素人ダンスが魔法でこうなる、みたいな演出を考えてるんだろうけど、まずそこまで持ってけんと思う」
「局所激ヤセ魔法ではつかみが弱いってこと?」
「正直わからんけど、なんていうかな、ミナも言うてたように最初はネタってしか思われんわけ。そしたら魔法はネタで、つかみにはならんよ。ついでにいうと局所激ヤセって何がすごいんかわからん層のほうが多いと思うんよ。したら別のつかみがいるやん?」
「だからこそのキミたちの余ったお肉撮影会だったんだけど」
「つかめるだけに、ってか。やかましいわ」
「えぇ……」
(続く)
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