第11話 赤広未那は解説した

「簡単に言うと、魔法の習得は若い方が圧倒的に早いんだよ」

「えっとー、それって若い方が頭が柔軟だからとかって感じで?」

「成長期の学習効率が高いのは当たり前定期」


「うん。期待通りの返答ありがとう。でも成長期とかはただの学習効率の問題であって、この差はどちらかというと世代の問題なんだって。魔法が発生した後に生まれたかどうか。これで全然違ってくるらしいよ」


「なんかみーなーにしては歯切れが悪い?」

「どうせおにーさんが言ってたとかそういうことやろ」


「そう、お兄ちゃんが言ってたのはその通りなんだけど、それだとつじつまが合わないなって思ってて、でもお兄ちゃんが言うことだしな。でもお兄ちゃんが言うことだしな? って言ってる内にわたしもわけわかんなくなっちゃった」


「……みーなーのこの様子、どこかで見たことがあるんだけど……スズちゃんわかる?」

「ヒントコロン自己矛盾に惑乱する宗教家」


「それヒントじゃないし。答えだし。って誰が宗教家か」

「あー……近所のオバさん」

「絶妙なタイミングで草」


「同い年にオバさん呼ばわりはさすがに看過しかねるかな?」

「ち、ちがっヒュ……」

「ミナ、ミナ、圧が漏れてる」


 焦って素の涼香の指摘で、未那はふっと息を落として圧を消す。


「いやまあ、リアの近所のオバさんが宗教家だってことなのはわかるけど、それ以前にわたしを見て連想する時点でかなり失礼だと思うんだけど」


「え、でもホントにそんな感じだったよー?」


「お手本みたいな煽りだろ? ウソみたいだよな。天然なんだぜ、これで。

 てか、瞬間でもあの圧受けて直後にこれって天然じゃないとできんやろ」


「世代のことはお兄ちゃんが言ってたことだけど、考えたらおかしいなってだけなんだけどな。だってお兄ちゃんが生まれたの、魔法発生以前だし。お兄ちゃんのことだからもしかして自分sageサゲのために言ってたのかもって思ったら、ありえる……ってなってしまっただけなのに」


「あー、たしかにー。ならなんでお兄さんが最強なのーって話になるんだー」

ageアゲているのかsageサゲているのか、それが問題だ」


「もしかしてお兄ちゃんがこの理論を公に周知しようとしないのって、自分が言うと説得力がないってわかってるからかも? でもお兄ちゃんが本当に大事なことだと思っているならいろんな伝手を使ってでも周知しようとするだろうし、やっぱり自分sage? ってなってわけわかんなくなったわけ」


「やっぱりお兄さんって伝手とかあるんだー?」

「ミナにわからなかったら誰にもわからん。とりあえずその理論とやらを語ってみたらいんでないかい?」


「ん? スズって意外に興味津々?」

「そうなのスズちゃん?」

「……誰か、この暴虐ブラコンを止められる者が必要だと思っただけだ」


「何かのネタっぽいけど、ごめん。わからないからのれないや」

「責任、重大だね」

「正直、ミナくらいだったらなれるーいうんが信じがたいってのが大きかな? 人は成長しても生身で空は飛ばれへんやろ? そういうんや」


 重々しく頷く莉愛のレスはスルーされた。


「まあ確かに、空を飛べるほどになれるかっていうと厳しいかもね。あれってかなり高度だから」

「飛べるんだ」

「たとえを間違った」


「まあわたしくらいにはなれるっていうのも、確かに限定的な話ではあるかな? 逆に、わたしは特医師ほどには治療系に強くないし。そういう個人差や経験差はあるよ、もちろん。

 世代によって違うっていうのは、魔法に対する順化速度っていうのかな。魔法を使うためには起こしたい現象への理解が必要なんだけど、ただ理解しただけでそれを魔法に反映できるのがわたしたち魔法発生以降世代で、理解した上で魔法に反映するためにはもうひと手間が必要な世代が、発生以前世代って感じ。もちろん便宜的に言ってるだけで実際にはもっと複雑だけど。

 仮定にしてもこのひと手間っていうのはすごく大きい。これは試行錯誤するときの手間が必ず一つ少ないってことなんだから。

 キミたちも経験があると思うけど、何か一つ理解したらそこで終わりってわけじゃないでしょ? さらなる高度な理解があったり、そもそも理解が間違っていたり、それを修正してまた学習して、そして理解を積み重ねた先にある物事があって、それを更に理解して魔法に反映して……って終わりはないわけ。一段ずつその階段を上っている人の傍ら、一段飛ばしで階段を上っていたら、以前世代が99段上る頃には以降世代は200段を上っている。そしてその差は累積するから、ある程度以上になってしまうとどうやっても追いつけない差になってしまうってわけ。今現在は若いうちの知識量とか特化分野とか経験量の違いで世代ごとの差はないどころか以前世代のほうが優れているようにさえ見えるだろうけど、一定の閾値に達したらそれは一気に逆転されてしまうだろう……ってお兄ちゃんは言ってたんだけど」


「もっともらしいようなー、そうでもないような? ていうか長くてよくわかんなかった」

「話が長い。三文で」


「うん、悪い癖でた。ごめん。まとめる。


 まず、出生が魔法発生以前か以降かどうかで魔法習得能率に差がある。


 それは現象理解を魔法用に組み替えてから魔法に反映できるのと、現象理解からすぐに魔法に反映させられる、という工程が一つ省けるという差である。


 この工程が一つ省かれるというのは試行錯誤では累積するので、以降世代はすぐに追いつけるし、追い越された以前世代は二度と追い付けないほどの差になる」


「よくわかんない」

「老害のせいでは? おにーさんが公表しないの」


「やっぱり、スズもそう思う? わたし以外のエビデンスがないからかも、とも思ったけど、お兄ちゃんのことだから無根拠でこんなこというとも思えないんだよね」


「よくわかんないけど、つまりお兄さんが最強なのは今のうちだけってことー?」

「……そうなる」


「でもお兄ちゃんから魔法を習っているわたしが誰よりわかってるけど、ちっとも追いつける気がしないんだよね。ある一定の閾値ってのが10年で足りないっていうなら、お兄ちゃんの説は正しいことになるけど……」


「うーん?」

「ミナ、前提が違ってるかもしらん」


「前提? お兄ちゃんの説の前提?」

「むつかしい」

「それじゃなくて、ウチらが思っている『魔法の発生時期』が違ってて、実はおにーさんが生まれる前ってことなんじゃないかってこと」


「……それだっ!」

「むぅ」

「まあこれだと、なんでおにーさんがそんな自分が生まれる前の、それも誰も知らんようなこと知ってんの? そんでそれは正しいの? ってなるんやけどな」


「逆に言うとお兄ちゃんが公表しない理由にもなるね。証明しようがいないんだし」


「ていうか、お兄さんがそんな小さい頃からみーなーに教えられるほど魔法に詳しいことの説明にはなってなくない? あたしずっとそれがわからないんだけど」


「そら………………そうよ?」


「確かにね。これはもうお兄ちゃんが天才だからとしか言いようがないというか、お兄ちゃんの理屈偏重が魔法という体系にすごく嚙み合ったから、なんじゃないかな」


「つまりすごく勉強しろってことー?」

「夢のない話だな」


「ふっふっふ。それがそうでもないんだな。

 確かにお兄ちゃんみたいなわけがわからないくらい高位の魔法使いに近づくためには勉強して現象を理解して魔法に使ってその経験をフィードバックして、ってどんどん試行錯誤を繰り返していくしかないけど。

 前にも言ったけど、魔法は起こしたい現象の細かいところまでわかっていなくてもざっくり理解でも再現できるんだよ。

 それを実現するための方法が、魔法理論と魔法術式。

 これはざっくり言うと、魔法的視点から見た現象の理論と、それを元に公式化したもののこと。

 これがあるから単発放出型の魔法なんかはすぐに体得できるってわけ。

 だからこそ逆に、そっちの習得は後回しにして、まずは魔法を体に作用させる感覚っていうのを養ってもらうよ。これがあるのとないのとじゃ以降の魔法への理解度がまるで違ってくるからね。


 ただちょっと長くなりすぎちゃったから今回はここまで。

 次回こそは局所激ヤセ魔法(仮)を受けた上で運動してもらうよ。創作ダンス以外の案があったらその時までには提案してね。なかったら問答無用で創作ダンスだから。


 あとスズは残ってね。魔法体験リアクション集を撮るから」 


「スズちゃん……」

「リア……ここはウチに任せて先に行け。そして創作ダンス以外の案を出してくれ」


「あ、そういえば、リアにもオバさん呼ばわりされたっけ。だったら……」


「ごめん、ごめんねっ」


 タッタッタッタッ……


「気にするな……どうせお前もすぐに……」

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