第3話 赤広未那は修行した(させた)

「というわけで魔法の修行をしたいと思います」

「しつもーん」

「むしろ詰問したい」


 例によって赤広未那、若槻莉愛、美谷涼香の順番だ。


「はい、いい質問ですねさん。ここは魔法修行にわたしがよく使っている修行場ですよ」

「……ごめーん。ちょっとあたしにはツッコミきれないからスズちゃんお願~い」

「ツッコミ飽和させてキャラ崩壊さすのヤメロ定期」


「しょうがないな」

 と、未那は構えていたカメラを下ろして、

「で、何? ちゃんと質問には答えたでしょ?」


「それはされてもいない質問にあんたが勝手に答えただけだっていうのがまず一つ。

 アナってなに? っていうのが二つ目。

 更になんでカメラ構えてんの? ってのが三つ目。

 そもそもどうやっていつの間にウチらはここに連れてこられたのかってのが四つ目! ここ重要!」


「一つ目、それは単なるボケだよ。打ち合わせしたのにすっぽ抜けた感を演出してみました。いまいちだったから後でカットしとく。

 二つ目、配信ネーム? ってのが必要だと思って見繕っておきました。スズはリンリンでわたしは声しか出ないけど念のためハルカワで。

 三つ目、ヒントコロンカメラは撮影するもの。

 四つ目、それをせめて自覚できるよう魔法修行がんばろうね!」


「あかん。聞けば聞くほどツッコミ処が増える罠。この暴虐ブラコンはやくなんとかしないと。……いやガチで、なんとかしてよおにーさん」


「スズ、お兄ちゃんにチクったら……わかってるよね?」


 思わずここにいない元凶(元凶?)に助けを求める涼香に、未那は音もなく近寄って顔を覗き込む。


「笑顔でガチトーンヤメロ。いや、ホントに勘弁してください。自覚しないうちに見知らぬ場所に連れ込まれて撮影されている現場とか本気で恐怖で字面にすると更に恐怖なんで許可なく最強兄直伝魔法とかかけないでくださいホントにホントにフリとかじゃなくて本気で」


 涼香は平身低頭で懇願した。


「それよりー、なんでアナなのー?」


 そんなだから腹黒天然って言われるんだよと突っ込まれそうなタイミングで莉愛が質問する。


「他意しかないよ」

「ホントにー? ……?」

「リア、このやべー女は誤魔化しすらしていないって気付け」


 涼香がぽかんとする莉愛の耳に筒状にした両手を当てて内緒話するかのように『アナ』に込められた他意を吹き込む。

 なぜ内緒話風なのかは謎だ。

 とりあえず全国のアナさんにゲザるべき。


「え、え? ていうかみーなーあたしに当たり強い。強くない?」

「それあんたがロリ巨乳だから」

「熱い風評被害やめろし」


 珍しく先頭と後尾が入れ替わって(莉愛、涼香、未那)の発言順番である。そのまま胸部の厚さの順ではある。

 参考までに身長は、涼香>未那>莉愛の関係だ。


「というかまあ、全国のアナさんへの風評被害はともかく、リアみたいなタイプじゃ同性から敬遠されるから、弄られてる感があったほうが少しでも両取りできるかなって」

「なるほどー」

「ロリ巨乳だからで当たってて草」


 莉愛は「責任転嫁ですねわかります」という顔をしている。


「性格! の話だから」

「みーなー必死だね?」

「顔真っ赤っかで草」


「……局部の脂肪を燃焼させる魔法から教えようかと思ってたけどやめるし」

「詳しく」

「手のひらクルンって、え、マジであんのそんな魔法」


 未那は拗ねた。


「めっちゃ難しいけど本当にあるよ」

「詳しく」

「魔法初心者にめっちゃ難しいのやらせようとしてたのなんで?」


 なお、マジである。


「リアの食いつき見てたらわかるようにモチベーションって重要だし、リスナー受けも悪くないかなって」

「おーしーえーてー」

「圧倒的説得力。二つの意味で」


「でもやっぱり難しすぎてできないとリスナー離れを招いちゃうし、やめとくね」

「おーしーえーろー」

「匂わせ乙」


「いや、意趣返しに言ってるとか思ってるかもしれないけど、本当に難しいからね? 具体的には何をどうやっているのかきちんと理解していないとその男性特効胸部装甲だけ消えるとかあるし。それを消すのはまだ早いし」

「ぐぬぬ」

「そんな危険行為最初にやらせようとしたのなんで定期」


 未那の発言の最後は聞き取れないほど小さかった。


「抵抗値が鍛えられていない今ならわたしがかけてあげられるから、魔法体験談型初心者講座の題材にしようかなって」

「みーなーってスタイルいいよねー。うらやましいなー」

「熱い掌返し」


「二つ、条件を呑むならかけてあげてもいいよ」

「のむ」

「かけるのにのむとは」


 未那はこほんと咳払い。頬がちょっと赤い。


「下ネタは最低限で」

「それが条件?」

「下ネタってわかるの草」


 未那はプルプルと震えた。


「……うがーっ!」

「もう一つはー?」

「リア、そういうとこだゾ」


「こんなの条件にするわけないでしょうがーっ! 受けが取れるならコンプライアンスに引っかからない範囲でいくらでもやればいいでしょうがーっ! どうせヨゴレなんだしキミらはっ!」


「よごれてないもん。きれいだもん」

「未使用シール付き」


「とは言ったけどやっぱり下ネタは最低限でね。前にも言ったけどリアル志向はフィクションのリアリティだから、女の子グループがドギツイ下ネタ言ってゲラゲラ笑ってるのがリアルだとしても、配信見る人の大多数はドン引きするだけだから。あ、これは条件じゃないよ」


「みーなー情緒不安定?」

「このやべー女の情緒が安定していたことなんてないゾ。いつも兄に狂ってる」


 唐突に平静に戻る未那に二人はドン引きである。


「そんなに?」

「おにーさんと一緒にいるところを見ればわかる。やべーゾ。普段を知ってるウチらが見ればなおさらに」


 こそこそと。


「魔法ってね、五感強化もできるんだよ?」

「……ェ、ヒッ」

「まだ大したこと話してない」


 莉愛は声がしたことに振り向き、そこに未那がいないことで驚き、先ほどから一歩も動いていない(ように見える)未那に気付いて小さく悲鳴を上げた。


「うん、けど今日はデモンストレーションが主だから。そんなこともできるしこんなこともできるよって見せないとね」


「ね、ねぇスズちゃん。もしかしてこの人やべー人?」


「判断が遅い。……や、マジレスすると、おにーさんが最強ってのはガチで、ミナは何一つ誇張してなくって、そんなおにーさんに小さい頃から魔法を習っているミナはおにーさん除けば最強なんじゃないかな」


「え、けど……その、若すぎない? みーなーのおにいさんって確か三つ四つしかあたしたちと違わないって。みーなーの小さい頃からって……」


「よくそこに気付いたね、リア。さすが天然は天然でも腹黒だけはあるよ!」

「腹黒言ってるのみーなーだけだしっ!」

「同意」


「え、ちょ。どっちに同意してるのスズちゃんっ⁉」


「さて、ちょっとわちゃわちゃしすぎたから今回はこれまで。次回は今回でアナが気付いたことについて解説しながらお送りするよ。条件は次回に言うから心の準備をしといてね」

「だからどっち~⁉」

「……沈黙は金」


「それ答え! なってる⁉」

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