透明な彼女の愛し方
ましろ。
青色
青く染まる、空に筆をあげ空に絵を描く
美大生である僕はそんな芸術家のような言葉を浮かべながら公園のベンチで筆を空にあげ、はーっと大きなため息を吐く
まぁ要するに暇で暇で仕方がない
何一つアイディアも出てこないだけなのだ
過去これだけ何も描けなかった日なんてなかったはずだがここ最近は何をしても、何を見ても何も感じることができない
綺麗だと感じる、気がする。
心から綺麗だと、美しいと思える瞬間がなくなっていた
描いた絵も入学した直後はそのうち売れるだろうなんて思っていたが泣かず飛ばずな状態
もう3年になるにも関わらずまだ自分の作品を確立できずにいる
もうそろそろ潮時なのかもしれない。そんなことまで考えながら筆を口に咥えていると後ろから声がする
「何しけた顔してんの」
そういう彼女は美大の先輩
二つ上で去年卒業し今では個人で個展までやっている天才と呼ばれる部類の人間だった
「空見てたらなんか描ける気がしたんですよ」
「なるほどね、スランプってわけだ」
「そうとも言うのかもしれないですね」
「絵なんてって言ったらあれだけどさ、自由でいいんじゃないの?」
あんたは天才だからだろと苛ついてしまう気持ちを心にしまう。
「自由を探すために不自由な時間に今はまだいるんですよ」
「そうは言っても私もそんな時期あったけどねー」
「あ、先輩にも描けない時なんてあったんですか!?」
正直僕が出会ってからのこの人は描けない、なんて言葉が出てこないほどに次から次へと作品を生み出している印象だった
「当たり前でしょ!なんだと思ってるの」
「天才。この言葉につきますよ」
「天才じゃないよ、ずっと悩んでまだまだ悩む時もあるしそれでも目の前に筆と真っさらなキャンバスがあるからとりあえず筆を取るだけ」
それが天才なのだということに多分この人は気づかないのだろう。
「もういいです、ほっといてください
先輩こそ暇なんですか」
「暇じゃないけど暇そうな君を連れ出してあげる」
「、、、」
「めんどくさって顔したね」
「そんなわけないじゃないですか、ぜひ連れ出してください」
「よろしい、それじゃあとりあえずお昼ご飯まだだからラーメン屋さんに連れて行ってあげよう」
「どうせまた商店街のラーメン屋ですよね」
「どうせとはなんだどうせとは、思い出の詰まったお店でしょ!?」
「まぁたしかに」
商店街にある小さなラーメン屋、よく先輩たちと行っていた、安いけどボリュームはあり美味しい
先輩にほらほらと急かされベンチから立ち上がる
ずっと変わらない商店街の街並みを横目にラーメン屋へと向かう
「俺、学校辞めるか迷ってます」
声に出してしまった、弱い自分なんて見せたくなかったのに。
「辞めれば?絵なんてどこでも描けるでしょ」
驚いた。やめればいいと言う言葉より、
絵を描くことは絶対的にある世界で生きているこの人に驚いたのだ
その言葉を聞いたらなんだか馬鹿馬鹿しくなり腹を抱えて笑ってしまった
「なに?そんな変なこと言った?」
きょとんとする先輩の顔はきっとこれからも忘れることはないだろう
「いえ、なんにも
とりあえずいきましょ!
腹減りましたよ」
「急に元気になって君は面白い人間だね」
「先輩ほどじゃないですよ」
「なんだかばかにされたきがする」
そんな会話を続けながら絵に対する想いを語りながら向かいラーメンをすする間も熱く言葉をぶつけ合った。
懐かしいこの感じに居心地の良さを感じた
帰り際
「またラーメン連れてってあげるから連絡してもいいよ!」
「食べたくなったら連絡しますよ」
遠くになって振り向いてもまだまだ手を振ってるあの人を見てあんなに悩んでいたのが嘘のように頭の中はすぐに筆をとりたい気持ちで溢れていた
早足で、そして走り家に着く
キャンバスに色を置く
青の中に手を大きく振る天真爛漫なあの人を描いた
描き終えて筆を置きキャンバスを椅子にもたれながら眺める
いつかあの人に届く時が来たら、そんなふうに思いながらすでに暗くなった黒の中に灯りを灯した
透明な彼女の愛し方 ましろ。 @tomoki0316
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