0003 玲子

「今日、桜花さんの家に泊まって行ってもいい?」俺と身長差があるために見上げるようにしながら言って来るのは玲子。俺の婚約者だ。


「ああ、もちろんいいに決まってるだろ?俺たちは婚約してんだぜ?」

「そうなんだけど・・・。」

 玲子は肩をすくめ顔を赤らめている。何か言いたそうだ。

「何?」

「このドキドキする感じがたまらなくって・・・。」

 ・・・かっ、可愛い!今すぐ抱きしめたいが、ここは会社の中。自制自制。


「桜花さん、今夜は何が食べた~い?」玲子が泊まりに来る日は必ず手料理を作ってくれる。玲子の料理はどれも美味く、何でも食べ歩きが高じて料理教室にも通っているらしい。

「ん?何でもいいよ。」とっさに答えた俺の言葉に被せるよう玲子が言ってくる。

「あっ、そのセリフ、離婚の原因にもなるセリフなんだからね!」玲子は頬を膨らます。


「実はさ・・・言いにくいんだけど。」俺は頭をポリポリ。

「な~に?」玲子は笑顔を見せながら大きな瞳で俺を覗き込んでくる。

「昨日、ハンバーガーを食べたいと思ったんだけど、色々あって食べれなかったんだよね。」

「じゃあ、今夜は私の手作りハンバーガーを食べさせてあげる!」

「ホントに!やった!」俺は周りに気づかれないように、小さくガッツポーズをしてみせた。

「フフッ、桜花さんって時々子供っぽくなるよね。」

「そ、そうかい?まいったな。」


「可愛ィ!」頭をナデナデしてくる玲子。

「今は会社だから、ダメだって!」

 恥ずかしいやら嬉しいやらで頭を撫でる手を払いのけることはしない、いや、したくない!俺はありのままを受け止めた。

「いいじゃない、見せびらかせてあげましょうよ。」


 大体こんなことをしていると水を差すかのように邪魔者がやってくるものである。が。

「部長~、この資料なんですが・・し、失礼しました!」

 俺達のイチャツキを見て逆に部下の方が照れてしまい慌てて消えてしまった。


 そうなると、俺達のイチャつきは止まらない!玲子は俺の首に手を回し、もう少しで唇が触れるぐらいにまで顔を近づけてくる。

「今夜は何時ごろに仕事が終わるの?」

「ああ、今日はもう、上がるんだ。」

「そうなんだ、私は少し残業があるから、買い物をしてから家に行くわね!」

「合鍵、持ってるかい?」

「うん、大丈夫!」

「それじゃあ、また後で。」


 玲子は誰も見ていない隙にチュッっと唇を重ねてきて、足早に去って行く。


「部長~もういいですか?さっきの資料の件で・・・あっ、ちょっと待ってくださいね。」「これで唇を拭いてください。」とティッシュをくれた。



ー***-



「今日こそは、ハンバーガー食べるぞ!」

 マンションの扉の前で拳を握りしめる俺。何てったって、玲子手作りだよ?ファストフードも良いけどやっぱり肉汁ドバー!ボリューム満点のハンバーグを挟んだ俺のわがままハンバーガーには勝てんよ!


 鼻歌まじりにマンションの鍵を取り出し、鍵穴へ・・・鍵が開いてる!

「くぉら、またお前かー!」と勢いよくドアを開けると、セクシーなドレス姿の美女が3人立っていた。


「あ、あの、どちらさまでしょうか?」余りにもの美しさに鼻の下が伸びてしまう。

「私たちはニンフですわ。サリーナ様に仕えてますの。」

「は、はぁ・・・それで、そのサリーナ様は・・・」


「おおっ!帰って来たか!勇者よ!」サリーナはニンフたちをかき分けながら俺に近寄り前からこのマンションに住んでいるかのように出迎えてきた。


「お前、もう来んなって言ったよな!何で来るんだよ!それも3人も連れて!」とはいうものの、美人のニンフ達がいる事には悪い気はしない。

「ああ、こいつらを連れてくれば、わらわの美しさが解ると思って連れてきた!」

「あんな綺麗な人がいるのかよ!あっちの方がよほど女神らしいぞ!」

「何をぬかしとるんじゃ?こいつらなんぞ、平均以下の顔立ちじゃ!お前の目は腐ってるんじゃないか?」

 サリーナは可愛そうな人を見るかのような視線を送ってくる。

「いやいやいや、俺の世界では、こういう人の事を美人って言うんだよ!お前の方がおかしいんじゃないか!」



 俺とサリーナが言い合いをしていると、一人の女性の声が聞こえた。

「あ、あの・・・。」


「「なんだ!」」


 そこには両手いっぱいに買い物袋を持った玲子が立っていた。

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