第2話

総支配人、部長の田中 史郎は煩悶はんもんしていた。『佐藤が、まさか胸にパンティを突っ込んでいたとは・・・』う~ん俺は。何でパンティを被ってしまったのか。シブイ中年の見本といわれてたのに、これじゃ台無しだ。権威も失墜だ。社長の耳に入ったらどうしよう。


う~ん、箝口令かんこうれいでもしくかないかな・・。


煩悶する田中部長は散乱する書類の下に、肌色っぽい物を見つけた。書類をどかしてみると、何と、それはオッパイだった。


「何だ、これはー!」


 ビックリしたが、すぐに誰かのイタズラかと思った。それとも、おもちゃ売り場の見本かな・・・。それとも、肌着売り場の見本か?。


そっと、触ってみた。


「あっ」


 温かい。冷たいのを予想してたのに、それは温かかった。人肌の温かさだ。手で掴むと、適度な弾力がある。不思議に思い、なおいじくり廻していると乳首がもり上がってきた。


不思議に不審が重なり、なおモミ揺すり、弄り廻していたら近くで「あ~」という大声がした。




「部長、何やってんですか!。イヤらしい」


例の佐藤くんが居た。ぞわぞわと、周りの奴らも集合して来た。


「いや、なに、これは・・・」


「それ、私のオッパイです。何で、こんな所に」


「えっ、これ佐藤くんのオッパイなの」


「そうです。私のです。今朝、気付いたら無くなっていたのです。返してください」


「そ~、良く出来たオッパイだね。本物みたいだ」


「えっ、やだ、それ本物ですよ」


「えっ、!」


田中部長は、マジマジと珠恵を見た。珠恵は真剣だ。


「イミテーションじゃなくて、必要な時に脱着出来るオッパイパットじゃなくて、本物。


君、気は確かか。・・・バカな、本物のオッパイが取り外し可能なのか。『コブ取り爺さん』じゃあるまいし・・・」


「え~、でも本当なんです。今朝気付いたら、居なくなってたんです~」


なおも不審な田中部長に、珠恵が迫った。その気迫に押され、後退した田中部長が書類の山をバサバサと崩してしまった。

この上司は整理整頓が出来ていない。


「あれ~ない」


「やだ~ふざけないでよ~」


珠恵はバサバサと書類を散らしながら、オッパイを探した。見物中の従業員も一緒になって探した。


書類の下、机の上、引き出し、机の下、キャビネットの中、キャビネットの裏、不思議なことに何処を探してもオッパイは見つからない。


珠恵が泣きながら「また、逃げられちゃったぁ」と半狂乱で床にいつくばって探している。


だが、不思議にもオッパイは見つからなかった。


その時になって田中部長は、ようやく部外者の存在に気付いた。




「君、うちの従業員じゃ無いな。何者だ」


「私、邦東テレビの邦東ひるテレビ担当プロデューサー、山村 涼子といいます」


「えっ、何で?」


涼子は名刺を差し出した。


涼子は、今朝からの一部始終を知ったこと伝え、この怪異を取材させて欲しいと申し込んだ。


田中部長はシブイ顔をした。このヤッカイ事を面倒くさい相手に知られてしまったのだ。


「部長さん、人の口に戸は立てられませんよ。この怪異は尾ひれハひれが付いて、ドンドン拡散しますよ。箝口令かんこうれいなんか強いたら、よけいに拡がるでしょう」


田中部長を見て、涼子はニッコリと微笑んだ。


「う~ん」


「どうでしょう。私に任せてもらえませんか。物事は結果、結論が出れば、自ずと鎮まるものです。幸い私どもには、科学者、精神科医、評論家、作家などのたくさんのコネがあります。それを駆使すれば、何らかの結論が導き出せると思うのですが。


もちろん、丸腰さんの名はぼかします。どうでしょう」


「う~ん」


田中部長は、それでも逡巡しゅんじゅんしていたが、ようやく決断した。


「分かりました。ただ、社長に計って見ないと、ちょっと待ってください」


田中部長はその場で電話をした。アポを取って、直接社長に説明してから回答するとした。


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