第4話 屈辱の時間。
町屋梅子の家も、娘の異常事態にただならぬ空気を出していて一触即発の中、車から降りた相田晶はボコボコにした永礼崇を町屋梅子の前に突き出すと、「くだらない事は言うな。キチンと謝れ」と言う。
町屋梅子は顔を真っ白にして震えてしまうが、相田晶が「美咲、その子の横にいてやってくれよ」と言い、王子美咲が横に立って折れてない右手で、町屋梅子の手を掴むと町屋梅子は少し落ち着いた顔をした。
永礼崇は殴られすぎたからか、捨て鉢なのか「心にもない事を言ってすみませんでした。全て俺が悪いです。美咲にも大怪我をさせました」と謝ると、相田晶は永礼崇を車に押し込んで、町屋梅子の前で深々と頭を下げて「すまなかった!」と謝った。
意味がわからない町屋梅子は王子美咲と相田晶から、町屋梅子の両親は王子美咲の父から事情を聞いた。
そして相田晶は町屋梅子と両親に並んでもらい、キチンと頭を下げて「崇は俺の真似をした。俺のように人を傷付けて笑い飛ばせる人間になりたいと言った。俺はそんな気は無かったけど、そうだと言われれば原因は俺なんだと思う。謝らせてください」と言った。
車の中でそれを見ていた永礼崇には屈辱の一言だった。
自分がボコボコにされて町屋梅子に謝らされたことではなく、あの憧れのダークヒーローだった相田晶が、そこら辺の庶民に謝る姿なんて見たく無かった。屈辱だった。
だがキチンと謝る姿は堂々としていて目が離せなかった。
「なぜ俺は晶じゃない」
「なぜ俺は晶になれない」
そんな事を涙を流して呟いた永礼崇は、徐々に怒りの矛先を町屋梅子に向けていた。
「なぜ晶はあんな女に謝るんだ?」
「背だって無駄に高くて並んだらバランスが悪いだろ?」
「頭だって大きいし、声だって低いじゃないか」
目につく悪口をコレでもかと車の中で独り言い続ける中、外では町屋梅子が今も泣く王子美咲に「もう、泣かないでよ美咲。怪我に響くよ?骨折したんでしょ?頭だって5針も縫ったんでしょ?」と優しく語りかける。
優しい町屋梅子の言葉に、王子美咲が「梅子?」と聞くと、町屋梅子は涙目で「泣いてくれてありがとう。凄く辛くて悲しかったけど、美咲の本気はわかったよ」と言って、相田晶を見て「それにこの彼が…名前知らないや」と言うと相田晶は「俺か?俺は相田晶な」と自己紹介をした。
「晶くんが教えてくれたよ。美咲は真剣に私の為にセッティングしてくれてた。怪我をしても戦ってくれたし、何遍も謝ってくれた。だからもう泣かないでよ」
「本当?許してくれる?」
町屋梅子が「うん。本当」と言ってやつれた顔で微笑むと、王子美咲はワンワン泣きながら町屋梅子に抱きついて、「ありがとう」、「ごめんね」と何回も謝る。
町屋梅子は案外しぶとい。
「ねえ美咲、そんなに気にしてくれるの?」
「気にするよ!今度梅子の好きなシェイクを奢るよ!エビバーガーも奢るよ!」
相田晶や王子美咲の父は、王子美咲の安上がりな基準に呆れてしまう中、町屋梅子は「それはいいや。代わりにさ、晶くんと出かけられないかな?」と持ちかけた。
「へ?晶?」
「へ?俺?」
ウンウンと頷く町屋梅子は、父母が居るというのに「うん。真剣に謝ってくれて男らしかったし、初デートとかするなら晶くんみたいな人が…いいかな…ってさ」と言って顔を赤くする。
王子美咲としては町屋梅子には元気になってもらいたい。
だが相田晶には彼女がいる。
なので困った顔で「え…、まあ晶は口が悪いけど、頼り甲斐はあるよね…でも…」と歯切れの悪い言葉を続けると、意味を察した町屋梅子が「…やっぱりダメかぁ…、彼女とかいるの?」と聞いてきた。
「うん…今年のバレンタインにチョコを貰って付き合ったらしくて…」
本人を前に女子高生が抱き合いながら何を話すんだと親達が思っている中、「俺、今フリー」と相田晶は言った。
「え!?いつの間に!?」
「先月、夏休み前。なんか「そんな人だと思わなかった」って言われて終わった」
「何言ったの?」
「夏服で下着が透けてるのを毎日注意したら振られた」
王子美咲は聞いていて相田晶なら言いかねないと思ってしまう。
そう言えば、中学生の時に「美咲はブラジャーしないの?」とか聞いてきて真っ赤になった事があったのを思い出した。
「教えてくれなかったのは?」
「言う必要ないし、格好悪いし」
「義理チョコの準備とかあるんだから言ってよ!」
「…もういらねぇよ。貰うのもお返しとか大変だし」
このやり取りを聞いた町屋梅子は「なら出かけてくれる?」と相田晶に聞くと、「まあ良いけど、先に美咲から色々聞いておいてくれ。俺って確かに口が悪いから、また泣かせると美咲に殺される」と言ってデートの約束が成立してしまう。
これは車の中で聞こえてきていた永礼崇には厳しい現実だった。
帰りの車内も会話は一つもない。
その間も永礼崇の脳内では「元々町屋梅子は自分の彼女になる女だったのに、相田晶に取られた。相田晶が悪口を言わずにデートに行くなんておかしい」となっていた。
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