第2話 高校2年生の余裕と油断と過ち。

高校2年生にもなれば生活はこなれてくる。

慣れれば余裕や油断が生まれる。


余裕が生まれれば大概の男女は恋人を求める。

相田晶は傍若無人にも見える態度が受けたのか、高校一年のバレンタインデーに同じ学校の女子から告白されて、晴れてお付き合いをすることとなった。


相田晶のタチが悪い所は、永礼崇や王子美咲相手でも口撃をしてくる所で、バレンタインデーの日には王子美咲は夜になって帰宅した相田晶と永礼崇を呼んで、「今年もギリだよー」とチョコを持ってきた。ニコニコとチョコを渡してくれる王子美咲に、「お返しが手間だからいらん。崇にくれてやれ。俺は本命を貰った」と言って平気で断り、永礼崇に「お前は今年も寂しいだろ?美咲チョコに手をついて感謝しながら食え」と言う。


王子美咲はこのやり取りにケラケラ笑いながら、「おお!晶もチョコ貰えるようになったんだねぇ」なんて言いながら、「晶送りのチョコは私が食べるよ。お返し2倍だと崇が死んじゃうからね〜」と言い返す。


悔しいが永礼崇にはそれを拒絶できる出来事は無かった。

永礼崇は相田晶のように断ってみたいと思いながらも、王子美咲からのチョコレートを「ありがとう美咲」と受け取ると、親から「今年も美咲ちゃんだけ?本当に感謝しなさいよ」と言われて、より陰鬱な気持ちになった。


永礼崇は相田晶に憧れがあった。

だが現実は残酷で、どうやっても永礼崇は永礼崇でしかない。


相田晶の両親も口汚く人を罵れるタイプの人達だが、永礼崇の両親は社交性もあり真面目な人達で、人を無駄に傷つけたりはしない。


そもそもから違っていた。


そのことに気付かない永礼崇は、高校2年生になって生まれた余裕から、王子美咲の「学校で友達から男の人を紹介してって言われて、崇くらいしか思いつかなかったんだよね」という言葉に乗せられて女の子と会うこととなり、生まれた油断で人生の大失敗を犯した。


紹介された町屋梅子は決して悪い子ではなかった。

王子美咲は丁寧に永礼崇の人となりを伝えて、写真も見せて町屋梅子から了解を得てから連絡先を交換させたし、永礼崇も町屋梅子の写真を見た時に悪い気はしていなかったし、王子美咲に意思確認をされた時には了解をしていた。



だがいざ会う日が迫ると、つまらない不安感に襲われた。

この状況を相田晶はなんと思うか?

本人の耳には入っていないが、陰で散々酷評していた岩渕は?

他にも沢山批評した。

口にするのは嫌で相田晶に言わせたし、他の連中にも言わせた。


逆を返せば言われるのが当たり前の中で、皆は自分をなんと思うのだろうか?

そんな事を考えたら怖くて不安になってきた。


憧れの相田晶から「なんだ、美咲に頼んでやっとで、しかもその程度の女かよ」と言われる姿が夢に出てきて夜中に飛び起きた。


王子美咲はバカだと相田晶と永礼崇から酷評されていたが、それはあくまで成績だけの話で地頭は悪くない。

キチンと永礼崇の人となりを見て、町屋梅子との相性を見て、お似合いだと判断したから会わせる運びにした。


それなのに永礼崇は密かに憧れていた相田晶の真似をして、町屋梅子を泣かせて王子美咲と町屋梅子の仲を滅茶苦茶にした。


そして初めて王子美咲を本気で怒らせて、左頬を思い切り殴られた。

ここで反省して謝れば良かったのに、相田晶の真似をして取り返しのつかない事までしてしまった。



デートに行った永礼崇は、、出会い頭で一発目に町屋梅子に向かって「チェンジ」と言った。

なんの冗談かと顔を引きつらせる町屋梅子に、「俺の好みと違う。もっと可愛い子を出してよ」と言った。


絶望の顔で走って帰る町屋梅子の後ろ姿を見て、心は痛んだし気持ちよく無かったが、相田晶に一歩近づけたと思って「これで良かったんだ」、「これで肩を並べられた」と思い帰宅をした。


家の前では泣き腫らした王子美咲が居て自身を怒鳴りつけてきた。


「崇!何やってんの!?なんで梅子に酷い言葉を言ったの!?意味わかんない!?なんで!?なんで晶が言うみたいな真似なんてしたの!?」


ここで謝る道もあったのに、永礼崇は「美咲のくせにうるせーよ。どけ」と言って王子美咲を押し退けようとした。


これが体躯に恵まれた相田晶なら王子美咲は押されたかも知れないが、相田晶と永礼崇とは体格も違っていれば腕力も違う。


王子美咲は押されずに「崇!」と言いながら左頬を平手で殴ってきた。


バチンという音の後で、首は横を向き右を向いていた。

頬の痛みが殴られた事を証明していた。


その瞬間に永礼崇は王子美咲を押し飛ばしていた。

力加減を知らない永礼崇の一撃は、王子美咲を盛大に押し飛ばしてしまい、手をついた左手首は折れて、勢い余って打った頭からは出血をして大騒ぎになった。


たまたま通りかかった相田晶が王子美咲を介抱しながら通報したおかげで、すぐに救急車が来たが、それで終わるわけもなかった。


王子美咲は病院で治療を受けて、迎えに来た両親にボロボロの姿なのに町屋梅子に謝りたいと言い、相田晶が介助する形で町屋梅子の元に行き謝る。

話を聞こうとしない町屋梅子だったが、相田晶が「悪い。来るまでに話を聞いた。崇の奴がトチ狂って変な事を言って、怒った美咲に怪我までさせた。理由はわからない。でも美咲はキチンと考えていたんだ。台無しにしたのは崇なんだ」と説明をして、その横で今も泣いて謝る頭と手首に包帯を巻く王子美咲を見て、「…美咲に悪気がない事はわかった。でも今は1人にさせて。まだ話を聞けない」と言った。


それでも泣いて謝り続ける王子美咲を見て、相田晶は「もう今やれる事はやった。また頭から血が噴き出るぞ?益々バカになったらおじさんが泣くから帰るぞ。手だってくっ付かなくなる。お前はロケットパンチが出せないんだからやめとけ」と言ったが、それでも町屋梅子の家の前で泣いていた。


町屋梅子の悲痛な顔も見ていられない。本当にこの場所にいても、お互いにいい事は無い。相田晶は無理矢理王子美咲を連れ帰ると、その足で永礼崇を殴ろうとしたが永礼崇の両親に「先に話をさせて欲しい」と言われてしまった。


相田晶は「俺も同席していいですよね?美咲を病院に連れて行ったのは俺ですよ」と言って話し合いに参加をした。

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