第3話 逃亡

「はあっ!」


 彼女は力任せに何度も剣を振り回す。


 俺の体は予測しやすい攻撃を全て払い除けた。


 続けて、彼女は輝いた足で地面を踏みにじった。


(ちっ!一旦距離をとるか)


 バックステップをした。


 すると、地面に亀裂が生じた。


 そして、一気に弾け飛んだ。


「おいおい……期待外れだぜ。もっと強いと思ったのにな」


 飛来する小石を防ぐと、オレは挑発した。


 すると、彼女の剣は光り輝いた。


 「オレも本気で行かないと失礼だよな!」


 リュックサックを投げ捨てると、大きく前方に飛び上がった。


 すると、背後の木が倒れた。


 敵はもう目の前。


「ベネット家の剣技を喰らえ!」


 彼女は先程より強く光を放つロングソードをしっかり構えた。


「殺意の籠った魔力!こういうのを求めてたんだよ!」


 言葉を吐き捨て、魔力を乗せた拳を打ち込んだ。


 しかし、彼女は拳が届く前に振り落とした。


(ノヴァ、早く避けろ!)


 そんな助言も虚しく、閃光が走り、爆裂音が山中に轟いた。


 同時に辺りの木々は倒れ、小鳥は逃げていった。


「やったか……?」


 陥没した地面から現れた死体と思われる物を見て、彼女はそう呟いた。


 すると、すぐに納刀した。


「魔力消費が激しい……。頭痛がするな」


 彼女は頭を押さえた。


 すると、仲間達が現れたらしい。


 一番前の女性は呆れていた。


「イリアさん。流石にやり過ぎです!死体が原形をとどめてないですよ!……まあ、面白いから良いですけどね!」


「すまない。秘技を使わないと勝てなかった」


「へー!だとすると……B級以上!?ここで倒せて良かったー!」


「そうだな……」


 何か悩んでいる様子だ。


「どうしたんです?」


「手応えが無かった。本当に殺せたのか?」


「聖属性で攻撃したんでしょ?魂ごと消し去りましたよ!……多分」


「ああ、私の杞憂だよな?」


「もっと楽観的になりましょう!」


 彼女はイリアに助言した。


「……ところで、この死体持っていきます?」


「研究に使うだろうし、一応持って帰ろう。皆もそれで良いな?」


 一同頷いた。


 すると、亡骸を持って去っていった。




(もう良いんじゃねぇか?)


 あれから二、三分。


 恐怖で動けない。


(はあ、俺に体貸せよ……)


 それはため息にまみれていた。


(嫌だ!絶対追いかけるだろ?)


(……そりゃそうだろ?ところで、アイツら俺達に気が付かなかったな!)


(そうだな。流石に殺したと思ったんじゃないか?)


(かもしれねぇな!良くやったお前!)


(まあな!)


 全身が塵と化す前に、茂みに落ちている腕に意識を移した。


 そして、そのまま体を再生した。


 我ながら上手くやったと思う。


(やっと震え止まったな)


(……まあな)


 重い体を起こし、リュックから取り出した予備の服に着替えると、駅に向かった。




(なんだこれ!?馬車じゃねぇのか?)


 星空を背景に走っている列車を見て、彼は仰天した。


(魔力機関車の事か?魔石使って動くやつ。数年前に外国から伝わったらしい)


(魔石……って言うと、魔力貯める為の臓器のことか?)


(多分それ)


 適当に答えると、切符を買いに行った。




(えっと……)


 列車に乗ると、少し狭い廊下で予約した部屋を探した。


(ここじゃねぇか?)


 扉には、B-3と大きく書かれていた。


(本当だ!)


 ドアノブを回して開いた。


(結構豪華だなぁ!もしかして、金持ちなのか?)


(そんな訳ないだろ!今すぐ遠くに行けるのが方法がこれしか無かったんだよ……。おかげで財布に大ダメージ)


(はは!)


 大袈裟な笑い声が聞こえてきた。




 車窓越しの夜空。


 それは普段より綺麗に見えた。


(おい!なに無心になってるんだ?)


(別に良いだろ?)


(そうだな。ところで、到着は早朝なんだろ?早く寝るぞ!)


(だな!)


 ベットに寝転がった。


 新しい人生が今始まる……!


 などと思った時、ドアを叩く音が部屋に響き渡った。




 一方その頃、騎士団本部にて。


「イリアさん、まだ引っかかってるんですか?」


 二人で報告書の作成をしながら、紅茶を嗜んでいた。


「そう……だな」


 砂糖は既に溶けているというのに、スプーンで混ぜ続ける。


「有り得ないですよ!目の前で死体になるのを見たんですよね?」


「魔石が落ちていなかった。私が破壊したのは、能力によって作られた分身だったのかもしれない」


「そんな事有り得ますか?」


「可能性はあるだろ?」


 イリアは窓から夜空を見上げた。


「まあ……そうですね」


「明日調査にでも行くか」


 スプーンを置く音が、静かな部屋に響いた。

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