第3章 還り咲く英雄
第21話 神ノ愛シ仔
——シエル!
悲痛な叫びが、聞こえてくる。刻み込まれるような、悲痛な叫びが。どこからともなく、聞こえてくる。感情を揺さぶってならない、悲痛な叫びが。
ケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケ
——コウカイシタナ?
——だまれ。
異変を機敏に察知した慈悲深き
「……小娘。急用か? ならば……行くがいい」
「馬鹿を言うな」
——だが。
「もう手遅れだ」
それは——機敏な侵略者だった。
あたかも
一本、また一本と、形を保てずに消滅していく。それでも——
「とんだ——じゃじゃ馬だ」
彼女は——
添えられた二本指——人差し指と中指——が、残された
差した指を折り曲げ、親指が受け止める。蓄えられた力が、勢いよく放たれる。
——ビキッ!
弾かれた大気——霊気は悲鳴を上げ、耐えきれないように亀裂が走る。そして
彼女に——
それは——
ケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケ
けたたましい鳴き声——笑い声が、謁見ノ間に響き渡る。おもしろがるように。必死に抗う小娘を。
「……すまないな」
背後に控える
——コウカイシテイルナ?
「後悔はしない」
「……」
——ウソ。ウソダ! ウソヲツイタナ!
「黙れ」
あたかも怒りが現れたように。怒りに呼応したように。底から湧き上がる呼び声に、応じたように。
暗がりから忍び寄る
——オコッタ! オコッタゾ! ズボシダ! ズボシダッタ!
「あら」
暗闇から響いた靴音に、清らかな声を重ねながら、月明かり照らす謁見ノ間に、足を踏み入れてくる者がいた。
「
にこりと微笑んだかと思うと、自己紹介を忘れなかった。
「私は、アナスタシア。貴女を救うべく、聖女を冠された者。そして貴女の……」
——
「私に
「……ユニウェル。なんと……まぁ……憎たらしい響き」
——殺してやりたいほどに、と。
「……彼女は元気にしていますか?」
「おかげさまで」
——ウフフ。
愉快不愉快、気味が悪い微笑みが、端正な
——ハァァ。
「……
「不愉快だ」
——生まれ直すがいい、と。
「生まれ直すべきは、
——
「取り憑いた依代に愛着が湧きましたか? 自分は
「……」
「惜しくなりましたか? 記憶とは
「……」
「それとも……まさか……情が湧きましたか? 哀れな
「……」
——アハハ!
「
——
「ああ」
空気は一転、場は凍りついた。
——ハァァ。
「……信じられない」
現実に呆れたように——
——ですが、と。これ見よがしに——視線を戻して微笑んだ。
「私は諦めませんよ。私には、
——秘法が紛れ込んでいるものですから、と。
「それを
「それを人間は——奇跡と呼ぶものです。生死を超越した
——勉強になりましたか? というように。
「それに……人間は禁忌を破りたがる——犯したがる生き物です」
——なんと……まぁ……罪深き者か、と。
「誰しも——魔が差してしまうものだ」
「うふふ、おっしゃるとおりですね」
——貴方が言う通りですよ、と。彼女は悪くありません、と。
「いつか貴方は……彼女を手放すことでしょうか」
「オレと——」「私は——」「「一蓮托生」」
ピキッと首筋に痛みが走る。あたかも器に亀裂が入ったように。
「
——アハハ!
「仕方ないですね。まったく、手がかかる姪っ子です」
——失せろ。
足元に燻る青焔が、再び燃え上がる。そして獲物に襲いかかるように、前方を
(……明々と……燃えている)
我が謁見ノ間が。
——危ないところでしたね。ですが、火遊びは……ほどほどに。身体は大切にね。
呆然とした
ケ……ケケケ……ケケケケケケ……ケケケケ……ケケ…………ケ………………
衝突した
そして——世界に還元されるように、跡形もなく、消え失せた。
(身体は大切に……か)
首筋——髪の付け根に、そっと手を添える。まだ
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