第10話 夜更かしした翌日

「ねえ、アレ読んだ?」

「ふぁぁぁ……読んだよぉ。昨夜ゆうべ更新されてたよねぇ」


 夜更よふかしした翌日。襲い来る睡魔。衝動に身を任せた代償。後悔先に立たず。ただ受け入れること。それが人間に許された贖罪。


「考察も見た? 私びっくりしちゃった!」

「見た見た。確かに!? って思ったよねぇ」


 ——それは。


 少し話題になった小説について、気が置けない友人と語り合う。


 ——そんな。


 ありふれた青春に彩られた一場面ひとこまだった。


「だって前からさ、言われていたじゃん? 導かれた玉座に激昂げっこう案件」

「それなぁ。世襲咎められたから説は、少し弱いもんねぇ」


「そうそう、だからだよね。第一話で最後にふれられた、帝国を導いた英雄よ——が注目されたのは」

「ノクシオン公爵がいたからこそ、皇帝が統治できている。だから導かれた玉座」


 他人ヒトが考察した内容をタネにして、さも自分が考えたように語り合う。それもまた日常だった。


「そこで……だよ!」

「……ねぇ!」


 妙な興奮を共有し合う。それもまた青春だった。


「「そもそも公爵は英雄だったのか!?」」


 息が合った会話に、気が置けない友情を感じる。それもまた一興。


「冒頭から、主人公ルシアの記憶が当てにならなかったから!」

「確かに!? って思ったよねぇ」


「ダグラスが歩く野心とか、エリアスが歩く良心とか、どうみても的外れっぽいもんね」

「ダグラスこそ良心。私は信じてるから。テオ兄も、ギル兄も、絶対信用してるもん。だから大丈夫。ダグラスは裏切らない。私は信じてる」


 はいはい。ダグラスは正義ですよ、と受け流す。


「ダグラスが悪役なんて……」

「正気とは思えませんな」


 あはは、と笑い合う。はたから聞いたら、わけわからない会話。それもまた云々うんぬん


「第二話題名タイトルが、葬られた英雄」

「埋葬されたことで、記憶からも葬られた英雄。集団催眠だった説。怖すぎぃ」


「でもやっぱり、英雄が死んだにしては、反応が薄いよねぇ」

「皆が英雄だと思い込んでいた。でも実際は……うわぁ」


 想像したくないなぁ、と少し大げさに振る舞う。誰も咎める者はいない。


「そうなるとさぁ、駄目ダメ親父パパ……ってこと?」

「あのこんちきしょう案件ねぇ。畜生それが駄目親父を指していて、テオドールは了解している。でもルシアは、自分が何を言っているか、わかっていない。語られる記憶に問題がある……」


 それもまた、他人が考察した内容だった。


「誰を信じれば良いか、わからないよね」

「ダグラス一択。それは譲れない」


 はいはい。ダグラスは正義ですよ、と。他愛もない応酬やりとりが続いていく。


 それは——まるで夢に見たような——とある世界における日常会話おはなし

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