#3 Specular -鏡映-
――――私立・海晶(かいせい)学園、それが光弥達の通う学校の名前である。
地理的には、住宅地である"未土地区"のすぐ隣、"鶴来浜区"のほぼど真ん中。
このS県二間市の北部にある"日守山系"、東西に走る壁のように居並んだその裾野に設けられている。
中高一貫の進学校であり、そしてその特徴として挙げられるのは、他校と比べて頭3つは抜きん出るだろう、極めて広大な敷地面積である。
いわゆる東京ドーム換算で12個分ほどもある敷地内には、それぞれ一つの学校として見てもなお大規模な、中等部・高等部の校舎と、それぞれの専用運動場・プールといった設備はもちろんの事。
地上5F・地下1Fの造りを基本とする巨大な校舎群には更に、大食堂や視聴覚室、化学実験室等々の学習設備もあり、冷暖房器具までも全室完備。
極めつけには、見上げるような高さの真新しい学生寮までも所有していた。
この地で古くから影響力を持つ大地主であり、大資産家の肝入の”教育法人”というだけあり、このように設備規模は豪奢の一言。
更にその潤沢な環境から、近年は種々の専門教科も扱う"総合学校"としての体勢をも取り入れ、全国的にもかなり名の知れた学校であったのだ。――――
6月6日 8時51分
二間市
海晶学園 高等部棟前
そして、そんな巨大学校の校庭は多くの生徒達が行き交い、活気に満ちていた。
朝の部活動後で元気を漲らせている者。
いかにも起き抜けで眠そうにしている者。
中には、朝だというのに友人達と外遊びに興じている者までいる。
そんな彼らの共通項として、まだ始業時間の10分前だという、余裕とも油断ともつかない緩みを漂わせていた。
だが、斯様にして昇降口へゆるゆると流れる人の流れの中、しかし奇妙にもやたら息を切らして異彩を放つ3人組の姿がある。
言わずもがな、全力ダッシュの甲斐あって、どうにか遅れを取り戻すことに成功した光弥達である。
容易くない事を為した達成感に、彼らは一様に、駅伝を走りきったみたいに深い、深い喜びを浮かべていたのだった。
「―――― って、じょーだんじゃないってのーっ!!!!
あ、朝から、なんでこんな疲れちゃわなきゃなんないの、もぅ!!!!」
「へへ、いつも乗ってる、バス・・・・追い越して、やったぜ・・・・っ。
ざまーみろってんだ・・・・っ!!」
「張り合うところはそこじゃないって。
まぁともかく、間に合ってよかったよ、うん」
と、光弥は軽く汗を拭いながら、校舎の傍に建つ大きな柱時計を見る。
この度の記録は、歩いて30分以上はかたい道のりをわずか10分強で走破したことになる。
全員が全員、中々の健脚ぶりであった。
流石は運動部に所属している2人、といったところであろう。
「な、なにが流石だっ・・・・オメーは、なにをいい汗かいたみたいにスカしてんだよ・・・・っ。
もっと、つ、疲れた様子、見せろってんだよ・・・・っ!!」
「なんだい、ドベだったくせに一番疲れてるなぁ、正木」
「昔から妙に体力あるよね、光弥くんって・・・・」
さても、ひとまずは遅刻の危険は回避したということで、人心地がついた3人は安堵のため息を大きく吐いた。
「は~~~~・・・・」
が、しかしなにやら、香のものだけはどうにも辛気臭い。
ゆったりと言うより、げんなりと言い表すのがしっくり来る様子である。
「うー、今日も結局ギリギリ・・・・悪印象だよねぇ・・・・」
「まぁ、そんなに落ち込むこと無いって、香ちゃん。
ギリギリだったけど、あの状況からセーフに出来たのは凄いって!!」
「・・・・あのさ、光弥くん?
そもそもにあたしがこんなに遅れを取った原因は君なんだけど、分かってる・・・・?」
「・・・・ハイ。
いや、ホント、ごめんて・・・・」
憂鬱そうに頭を抱える香の非難は、至極当然の意見だった。
フォローの意図は伝わったものの、今回は少なくとも光弥の言えた義理ではない。
「――――香よ。
確かに原因はコイツな訳だが、根っから能天気なのもコイツなんだ。
萎らしくしてた方が不気味ってもんだぜ」
ついでに、それを見ていた正木も、めんどくさそうにこう言い添える。
褒められてるのか貶されてるのか、よく分からないコメントだった。
しかし、間を歩く光弥へのうらぶれた眼差しを見るに、後者だろう。
「――――何事もなかったように、持ってきたホットドッグを食えるあんたも大概だと思うけど。
・・・・まぁ、確かに、ね」
香もそれに愚痴り交じりに答えつつ、大きく息を吸う。
「「はぁぁぁぁ・・・・」」
そして吐き出した溜め息は、隣の正木と綺麗に揃っていたのであった。
「あのー・・・・二人とも、その重ーい溜息、さ。
なにか、すっごい罪悪感でいっぱいになるんですけど」
「・・・・こう見えて、あたしの方がもっと罪悪感に心が苦しいよ」
「
・・・・んぐっ、しかしまぁ、横にどーしても昼飯奢りたいってやつがいる気がするな~。
朝から走って疲れて、これくらいの食い物じゃ物足りねぇし・・・・な?」
「・・・・今まさに2つ目を取り出してるじゃないか・・・・」
と、このように、幼馴染の連携で攻め来るする2人を前に、笑みの引き攣る光弥。
なにせ、今朝の事はまったくもって光弥の不徳の致すところであり、こうして謝り倒すか、やり込められるままにならざるを得ないのであった。
(そ、それでも、だからこそ前向きに、だよな!!)
しかし、と光弥はあくまでもそこに真っ向対することを胸に誓う。
追い詰められ、塞ぎ込んで耐えるしかない。
しかしそんな時にこそ、気持ちと目線は下げること無く、止むこと無く進む先を見据え続ける。
そんな姿を、光弥は大きな指針として抱えていたからだ。
「でもさっ。
こうして落ち込む時こそ、顔を上げて前へ、って言うんだ。
"こうなりたい"と思う姿がいつも心にあれば、こうしていつでも迷わずに思い返せる。
正々堂々と進む気概は、そうして初めて生まれよう・・・・って、僕がそう言われてきたってだけなんだけど。
でもなんかそういうの、堂々としてて良いなって思うんだよ」
「「・・・・・・・・・」」
2人は再び揃ってため息をついた。
が、しかし今回は口元に温かみのある笑みが浮かべている。
「ったく、困るといつもの"格言集"かよ?
考えが説教臭いぜ、光弥よー」
「でもま、確かにね。
そうやって元気な方が、光弥君らしくて良いよ。
しんみりしてるのなんて、似合わなすぎて鳥肌モノかも」
「そこまで言う・・・・?」
長い付き合いである香と正木も、そんな光弥の性質は知り抜いていた。
確かに、いささかのんびり屋な所があるが、それだけ楽天的で寛容な面も持っている。
まさに今、光弥自身が言ったように、めげずに前向き。
そして、何事にも物怖じせずに向き合える積極的な性格は、光弥の昔からの"性"とでも言うべきか。
三つ子の魂百まで、というようにそれは容易には変わらないものである。
正木も香も、光弥のそういった面を嫌っているわけではなく、むしろ好意的に捉えてはいた。
「――――でも、言って損は無いんだし、ちゃんと言わせてもらうかんね。
光弥くんは、もうちょっと時間と向き合うべきだよ。
特に、朝」
「おぅ。
そのものずばり、朝」
「ってか、そもそも人生観と時間を守ることは、全然別物なんだからね?」
「話すり替えようったってそうはいかねぇぞー」
「あはは・・・・ま、まぁ、それはまぁ、ともかくとして・・・・」
圧倒的形勢不利。
となれば、時に前ばかりでなく潔く退くのも、また勇気である。
光弥は、今度は露骨に話を逸らして、なにやら指折り数え始めた。
「僕らはともかく、香ちゃんは次で3回目だ・・・・ちょっとやばいな」
「うん・・・・罰則なんて受けちゃったら大変だよー・・・・」
光弥のその試みは、どうにか功を奏する。
というより、香にとってはこの話題のほうが目下の問題であったのだろう。
光弥達の学校、海晶学園高校では、3度の規則違反(遅刻や無断欠席など)で罰則が課せられるきまりになっていた。
生活態度、それまでにやった規則違反の内容や回数などで、罰則の程度は上下する。
生真面目で模範生である香ならば、受けたとしてもせいぜいちょっとした自習課題だろう。
しかし香の場合は、程度よりも罰則を受けるという事実そのものが問題となってしまう。
「香ちゃん、生徒会に入ってるもんな」
「うん。
罰則とか受けると、ちょっと体裁的にまずいんだって・・・・」
困り顔になる香に対し、意地悪く目を輝かせる男が1人。
「風紀委員の腕章が泣いてるなぁ、香ちゃんよ?」
他人の不幸は蜜の味とばかりに、青白ラインの"それ"をつんつん突付く正木である。
「生き生きしてんなぁ・・・・」
「う、つ、つっつくなっ。
あと、あんたにだけは言われたくないっ」
と、香を茶化して憎ったらしく笑う正木。
すると、その身体が突然後ろにぶっ飛んだ。
「ギャ!?」
「はっ?」
「えっ」
一体何が起きたのかと、正木を見やる2人。
何事かは分からなかったが、ひっくり返ったカエルよろしく大の字に伸びているその姿は滑稽だ。
まぁそれはさておいて、この時いったい何が起こったのかだが、ヒントは悲鳴の直前に聞こえた妙な音だろう。
言葉にしづらいが、ベグッという感じの鈍い音から察するに、何かが正木に衝突したのだろうか?
「今、何か飛んできた?」
「うん、多分・・・・なんだろーね?」
「――――おい、まずぶっ倒れた俺を心配しろって」
すると、香の足元にさっきまでは無かった物が転がっているのに気付き、光弥はそれを拾い上げた。
手のひら大のゴム製の球は、握ればグニッとかなり硬めの手応えを返してきた。
「これ、ソフトボール?」
使い込まれ、灰色に変色した軟球は、"3号球"と呼ばれる最も大きいものだった。
海晶学園には女子ソフトボール部があるので、そこの備品だろう。
「ちょっと見せて。
・・・・花壇の土がこびり付いてるね。
もしかしたら、練習場から紛失したヤツかな?
だったら――――」
「あー、ちょいちょいー。
それ、あーしらのっすー」
その時、光弥から香の手に移ったボールを見つけて、声をかける者がいた。
見れば、妙に派手な格好をした女子生徒が駆け寄ってきていた。
これまた妙に足が速く、そしてなぜかバドミントン用のラケットをブンブン振っている。
1年生の腕章を着けた彼女は、呆気に取られている香の手からひょいとボールを摘むと、そのまま踵を返して去っていく。
「おーっすあざまるー」
「おいこら
と、思われたが、不機嫌さを滲ませた正木の低い声に、足を止めて振り返る。
「え、この人なんで寝っぱでキレてんのウケるんだけどwww」
「オメーのせいだってんだ
キレ気味に突っ込む正木だが、顔に付いたボールの跡のせいでどうにも締まらなかった。
未だひっくり返りっぱなしの正木を哀れに思い、光弥は手を貸してやる。
と同時に、件の女生徒は思い出したと言わんばかりに声を上げた。
「あーてか、誰かと思ったらマサクンじゃん。
ちーっすっ。
てかなんでフルネ?」
「いい加減にしねぇとチョップすんぞコラ」
独特な言語感覚を披露しながら、その少女――――幹本 奈桜は、2本指を額の辺りにかざすこれまた独特な挨拶を軽快に披露した。
――――彼女は、その姿もまたなんというか、ものすごく目立つ人物だった。
ピアスや手の込んだ装飾の入ったネイル、着崩された制服にやたら丈の短いスカートといった服装面がまず1つ。
次いで、童顔気味の顔立ちは、ばっちりメイクで盛ってあり、肩下程のセミロングの髪は毛先に金色のメッシュを入れてある。
海晶学園では、服装等に関する校則はそれほどうるさくない方の筈だが、それにしたってかなりギリギリを攻めているのではなかろうか。
メリハリのある長身を落ち着き無く動かす度、香水らしい匂いも濃い目に漂ってくる。
小麦色の肌色と、派手で忙しない様子は、羽を広げた孔雀のようにギラついた存在感を放っていた。
少なくとも、こうしていきなり声をかけられたら、思わず引いてしまうレベルで。
恐らく見た目だけなら美少女の部類に入るだろうが、一々披露する調子っ外れのノリで、それも台無しであった。――――
「――――それで、そのボールって君の?
妙に汚れてるけど、なんでまた?」
「おぉ・・・・お初なのにダチみあるわ。
勇者?」
「話が微妙に通じないな・・・・」
何処までも独自のペースを貫く奈桜。
迂闊に近寄るものを煙と徒労感に巻いてしまうアクの強さに、げんなり気味の光弥と正木。
香に至っては、既に若干身を引いて警戒態勢に入っている始末だった。
「ねぇ、光弥くん?
あの人って・・・・?」
「ほら、正木んチのある、"二間商店街"の知り合いだよ。
というか、僕とも会ったことあるはずなんだけどな・・・・」
あまりの色物ぶりに、直接声をかけるのははばかられたのだろう。
香に小声で尋ねられ、光弥はそう答えた。
と言っても光弥自身、それほど奈桜と親交があったわけではないのだが。
(そもそも幹本さんって、昔からこんなのだったっけな・・・・?)
「んまぁ、とりま、ちゃけってーとね?
あーしら、まーひだったからあっこでバドってたんよ」
仮にも知り合いが激おこ――――激怒しているというので、それまでの経緯を説明しながら歩き出す奈桜。
指を差す先には、たしかに同じような格好の女子生徒が1人、こちらの様子を伺っていた。
遊び相手は彼女なのだろう。
その時、光弥のワイシャツの袖を、香がつんつんと引っ張る。
「・・・・?」
「――――<とりあえずまぁ、実を言うとですね。
私達は暇だったので、あそこでバドミントンで遊んでたんです>
って言ってるんだと思うよ、多分」
「あぁ・・・・」
「したら、みーちゃがガチって、おもくそあの飛ばすヤツぶっ叩いてさぁ。
こう、ピューと飛んで、あの植物に行って、行方不明。
ワロっしょ?」
そう言って奈桜は、少し先に植えられた大きな木を指差した。
口ぶりとは裏腹に、その表情には不満がありありと伺える。
「・・・・????」
「――――<そうしたら、友達のみーちゃが気合い入れて、思いきりシャトルを叩いたんです。
こんな風にピューと飛んで、木の上に行って見失ってしまいました。
笑えるよね?>
って言ってるんだと思うよ、多分」
「あぁ・・・・」
「・・・・お前も大概、よく意味が分かるもんだな」
「まぁ確かに、この木の上の方に行ったってんじゃ、回収は難しそうだ」
次いで、光弥は件の植木を下から見上げてみる。
海晶学園の正面校門から入り、校庭を突っ切って校舎を目指すと、一番初めに辿り着くのは主に3年生の教室がある棟だ。
光弥達はその棟の昇降口の前、校庭から階段で一段上の敷地に登った、昇降口前の広場に現在立っていた。
校舎はちょうど"目"の形で配されており、外側を縁取るように花壇があったり、植樹がなされている。
3年昇降口前に、反対側のもう一本と合わせて巨大な門柱のように立つこの木も、その内の一つというわけである。
背丈はかなり大きく、5mほどはあるだろう。
これの天辺辺りに物が飛んでいって落ちてこないとなれば、なるほど、普通はお手上げの事態だと言える。
「それな。
つかせっかくアガってきたのに、羽無くなったとかシラケじゃん?
ちゃけば、デュースでこっからって時だったしー?
したらばこれ使うべってなったの」
「で、何処からか拾ってきたソフトボールでバドミントンを再開した、と」
「いえあ、ぴーす」
脳天気な奈桜を、なんともいえない哀れみを含んだ眼で見ながら、ゆるゆると首を振る香。
「・・・・ソフトボールは、そうやって使うものじゃないよ」
「たかしー。
てか、打っても弾が鬼速でマジ見えんし、なははー♪」
「と言うか没収します」
「えー!?」
「当然ですっ!!
部活動で使われるものは、学校の備品ですっ。
風紀委員として、私的流用は認められませんっ」
「うへー!!
何この人、小姑ー!!」
「なにおぉっ!?
まだ結婚なんてしてないしっ!!」
「・・・・そのツッコミはなってねぇぜ、香・・・・」
盛り上がっている奈桜達を他所に、光弥はそこから1人離れ、植木をしげしげと観察していた。
すると、件の失せ物が思ったより簡単な位置に引っかかっているのを見つけ、ふっと笑った。
「ちょっと良い、香ちゃん?」
「え、ちょっと、光弥くん?」
しばしそうしていたかと思いきや、いきなり香が没収した軟球を横からひょいと掠め取る。
「羽って多分あれの事だよね?
んで、ちょっと引っかかってるくらいだったら――――」
光弥は軽く振りかぶり、サイドスローでボールを投げ放っていた。
距離こそ遠くはないが、問題は十数センチしかない的の大きさだ。
普通なら、狙って当てるのは至難の業である。
しかし、光弥の投げたボールは、まるで吸い寄せられているように真っ直ぐに、引っかかったシャトルに向かっていく。
「おぉ」
「わ、凄い」
そして、見事なコントロールでバサリと枝を揺らすと、目的の品は転がるように落ちてきた。
香と奈桜の拍手の音を背に受ける光弥。
実際、生半には出来ない離れ業であるが、しかしそれを行った当人は、さも当然と言った風にボールとシャトルとを拾い上げ、それぞれに手渡した。
「的中、ってね。
はい」
「よっ、さすが手裏剣日本一っ!!」
「"自称"だけどな」
「へへー、先輩神ピッチャーかよあざーす♪
みーちゃ、羽戻ってきたー!!」
お礼もそこそこに、奈桜は調子よく羽を引っ掴むと友人の方へ駆け出し始める。
大袈裟なくらいの元気の良さに、そんなに嬉しいのか、と光弥は可笑しくなった。
しかし奈桜の場合は、単にせっかちなだけかもしれない。
今も飛び跳ねるようにして、階段を3段飛ばしに駆け上っている。
「ちょっと、そんなに急ぐと危な――――」
「あっ――――」
言わんこっちゃない、と誰もが思った。
だが状況は止めどなく、足を踏み外してしまった奈桜の身体は、自力では立て直せないほどに傾いだ。
「ひゃ・・・・っ!!」
しかもよりにもよって、後ろ向きに倒れ込む体勢は、最悪命に関わりかねない。
その状況に対し、咄嗟に動けた者が1人だけいた。
「まずいっ」
刹那、一声を発しながら光弥は飛び出した。
素早く、放たれた矢のような速さで、背中から落ちてくる奈桜の背後に走り込む。
両手を伸ばしてその肩を掴むと、ズシリとした重みに押し返されそうになる。
だが、転げ落ちそうになるその一瞬を耐えるだけで十分だった。
すぐさま、奈桜の方も危機を回避しようと反射的に動き、自分の足を真下に張り出して安定を得る。
果たして、どうにか一件落着。
事故を未然に防げた事で、安堵の息を漏らす光弥。
一体何事かと唖然としていた周りの人々も、判断が追いつくと共に、それに倣ってため息を付いた。
「・・・・ったく!!
流石にビビったぜ。
ナイスセーブだ、光弥」
「間に合ってなにより・・・・はー、今日は朝からヒヤヒヤすること多いな」
一方で、驚くべきは、誰しも間に合わないと思った奈桜の危機に反応した、光弥だろう。
危険を察してから走り出すまでの速さもそうだが、同じ距離でも平地を動くのと、十数段の階段を駆け上がるのとでは訳が違う。
加えて、それほど素速く動きながら、ほとんど背中から落下していた形の人一人分の体重を受け止め、びくともせずに支えてみせた。
冷静に考えて、それは並外れた身体能力であった。
「もぅ、良かったー・・・・さすが、光弥くん」
「珍しく、お前の謎な運動神経に感謝だぜ、やれやれ・・・・」
と、そこに"みーちゃ"と呼ばれた奈桜の友人も駆けつけてくる。
ちなみにもちろん、彼女はちゃんと階段を一段ずつ下りてきていた。
「ちょい、なっぴ無事ー!?
さりげやべー落ち方してたよ、あんた」
「――――よっと。
どうにかなったから良いけど、焦ると危ないよ、幹本さん」
「・・・・あ、ありがと、先輩」
呆然としながら、素朴な礼を述べる奈桜。
驚きのあまりに、あの独特な口調をする余裕もなくしてしまったらしい。
しかし、素直になるのは恥ずかしいのか、遅れてじんわりと頬を染め出すのだった。
「これに懲りたら、階段や廊下ではむやみに走らないことねっ。
まったく・・・・それからあなた達、1年生でしょ?
ここからじゃ教室まで結構あるから、急いだほうが良いんじゃない?」
むっとしながら、風紀委員らしい物言いでその場を締める香。
1年生の校舎は、3学年中で最も正門から遠く、急がなければいけないのは確かだった。
「へ、え、うん。
じゃ、じゃあ、お疲れっした・・・・!!」
未だふわふわした様子だったが、不機嫌そうな香の叱責にようやく我に返る奈桜。
動揺してより一層顔を赤らめた奈桜は、友人と共にわたわたと走り去っていくのだった。
「・・・・バイトか部活の挨拶かっての。
ともかく、俺らも行くか。
遅刻回数12回の残念賞はもらいたくねぇし」
「なんだかんだ、もう時間も回数も余裕無いな。
これで遅れようもんなら、次で祝・1ダースだ」
「祝うことじゃないし、ダースって・・・・」
色々な意味で嵐の後の気分だったが、すぐにいつもの調子を取り戻す3人。
朝のやり取りを見れば分かる通り、これぐらいの波乱には慣れっこだった。
いい加減に時間もギリギリということで、自分達の教室を目指して足を進め始める。
「そしたら、今度は何だろ?
また反省文とか、コピー取りか・・・・」
「掃除はだりぃけど、お茶汲みなら楽だよなぁ。
お茶菓子もつまめるしよ」
「・・・・そんな新人OLみたいな事、本当にやらされるのなんて嫌過ぎるんですけど・・・・。
ともかく、罰なんて受けないに越したこと無いんだし、二人もそんな呑気にしてる場合じゃないでしょ?
今日からは早く帰れるんだし、二人共遅刻なんてしないように、ちゃんとしてよね」
「あぁ、あれって、今日からだったっけ?
――――確か前、部活やってる二人には嬉しくない、みたいな事を言ってなかった?」
「うん、まぁ、ね・・・・」
その言葉に同意し、不服そうに唸る香。
原因は無論、今しがた自身が言った早く帰れるという事、そしてそれに付随する学園の対応についてだ。
光弥は、以前の学校集会で話された事を思い出していた。
――――曰く、先日の職員会議で、暫くの間学校の終了時間を早める事に決めたそうだ。
日程は、午前に3時間、そして昼休みを挟んで午後に2時間といった具合。
なぜこんな事態になったかというと、やはり理由は、最近続いている件の"猟奇事件"への用心らしい。
減ってしまう授業の時間は、この先の夏季休暇を短くすることで埋め合わせるというのが、ひとまずの学園側の決定だそうだ。
もっとも、光弥達が主に心配しているのは、授業時間に関することではなく、"帰る時間が早くなる"と言う点だった。――――
「少しどころじゃないよ・・・・。
もぅ、参っちゃう・・・・大会近いのに」
即ち、学校にいられる時間が大幅に短縮されたことにより、部活動ができる時間も同時に短縮されてしまう事になる。
香は弓道部、正木はサッカー部にそれぞれ所属していて、夏の大会に向けて今が大詰めである2人には大問題であるのだった。
1年に1度、ひいては合計で3度しか無い大事な本番戦を練習不足なんかで失敗してしまったら、泣くに泣けないことだろう。
そんな訳で、香はもちろん、部活に関して"だけ"は真面目な正木も、揃って頭を悩ませているという訳だった。
「せっかく学校にきても、部活が無いんじゃなぁ・・・・」
「正木なんか、部活と弁当だけが目当てで学校行ってるようなもんだろ?」
「ああ、まあな」
「いや、そこは否定しときなさいよ・・・・」
「るせぇ、青春と部活に打ち込むので精一杯ってな。
・・・・ふふん、帰宅部の光弥とは生きる世界が違うのさっ」
「言っときますけど、光弥くんの場合は帰った後ちゃんと勉強してるんだからね?
こんな感じだけど、何もしてないあんたとは違うの!!」
「ちっ、意外に成績良いからな、こいつ」
「・・・・色々引っかかるけど、とりあえず褒められてると思っておくよ」
言われ放題で釈然としない光弥だったが、ここは混ぜっ返さずに我慢。
大事な練習時間が無くなってしまいかねない香達の方が今は大事だ。
「弓道部の練習なんて、道場以外にまず出来ないもん。
顧問の西山先生に頼んで、何とか使えるようにしてもらわないと・・・・」
声音にまで困り果てた様子を素直に滲み出させる香。
そんな姿を見て、光弥は思いついた事をそのまま口にしていた。
「それじゃ、僕も一緒に行こうか?
今から急いで行けば間に合うよ」
「!」
微笑みながら嬉しそうにありがとう、と返す香。
しかし、すぐに手を振って遠慮をするしぐさを見せる。
「――――ううん、でもいいよ。
大丈夫、弓道部の事は弓道部でやるから・・・・」
「そっか、わかった」
「あ、気持ちはありがたく受け取っておくから・・・・」
「大丈夫、分かってるって、そのへんは」
申し訳なさそうに言った香を、光弥は制した。
元々は自分が勝手に出しゃばっただけだ。
いらぬおせっかいだったとして、断られはしても謝られる謂われは無い。
それでも、もう一度香は謝った。
こういう頑ななまでの律儀さが、彼女にとって美点であり、その逆でもあるのだろう。
「ともかく、その辺の事は今は後っ。
風紀委員の目の前で遅刻なんて、許さないんだから!!」
「あー、そう言われて、今めんどくさくなったわ。
俺サボっちゃおうかなー <ゴンッ> って痛ぇよ!!
いきなりチョップすんな!!」
「こんの、天の邪鬼男が!!
どーしてこういちいち捻くれたこと言うのよ!!」
「ばっ、冗談だってんだよ!!
おめーこそいちいち真に受けやがって、頭も固けりゃ胸板もカチカチってなっ!!」
「な"ぁ"っ"!!??」
「・・・・やれやれ」
一方、まさにこうしていちいち捻くれてしまいたくなる正木の気性には、果たして美徳の余地はあるのやら。
おまけに、"売り言葉に買い言葉"のサンプルケースのような諍いに発展しだす始末に、今度は光弥が辟易する番だった。
仲が良いほど喧嘩する、という言葉もあるが、あれは要するにムキになるタイミングが同じなのだろう。
そして"遠慮のない仲"というのもこの場合は災いして、こうして待ったなしに火花を散らし始める訳だ。
2人を見ていて、光弥はそう気づいたのだった。
それにしたって噛み付きすぎだとは思うが。
「二人とも、ほらやめなって。
そんな白熱すると、この後の数学起きてらんないよ。
香ちゃんもほら、あんまり興奮するとまた貧血に――――」
そう光弥は言った。
――――否、言おうとした。
「・・・・!!」
しかし、それよりも前に、光弥の横を通り過ぎた人物がいた。
それに気が付いた光弥は、言おうとした言葉を喉に詰まらせる。
「君は・・・・っ」
されど、その"少女"はあまりに何事も無かったかのように、静かに香達の方へ歩み寄る。
「香」
大きくはない、けれど凛としたよく通る声。
普段、光弥が散々手間取る香と正木のケンカは、その一声でピタリと収まってしまう。
そして、その少女を見た瞬間、香は正木の事を完全に放り出して、嬉しそうに少女に笑いかけた。
「おはよう、
「おはよう」
少女は涼やかな声でそう呟いて、愛想笑いのような形に口元を綻ばせた。
――――彼女の美しさは、あたかも絵画に描かれた天女のようだった。
手間暇を惜しまずに磨き上げた陶滋のように、艶めく
それとは正反対に、腰元まで流れる長い髪は引き込まれそうな漆黒であり、
長めの前髪の奥に覗ける瞳は、同じく深みある黒曜石の煌めきを宿し、凛とした鋭さとあどけなさとを両立させた、2つの大きな宝玉のよう。
秀麗ではっきりした目鼻立ち、その中に咲き誇る一輪の桜花のように、唇は愛らしい薄桃色に色づいている。
それら、全ての要素が相俟って繊細なバランスが成され、彼女の神秘的なまでの美貌は形作られていた。
なよやかな長身は、スラリと長い手足までも均整の取れたシルエットを描き、彼女の所作の一々を美しく映えさせる。
だが、そんな立ち居振る舞いの妙も、彼女の抜群のプロポーションの前には、些細な美点となり下がってしまうかもしれない。
Yシャツと黒のカーディガン、膝上丈のフレアスカート、夏用の学生服越しにはっきりと見て取れるのは、年齢不相応なまでに成熟した曲線美。
清楚な細首から少し下れば、そこにあるのは否応無しに人目を惹き付けるだろう、突き上げるような胸元の豊満な膨らみ。
そこから急激な落差を経てきゅっと引き締まった腹部、そして再び魅力的な丸みを帯びた腰回りへ、まろやかなS字の括れが繋がる。
あまりにも大胆に"女性"である事を主張して止まないその身体を支える、黒いタイツを履いた長い脚もまた、繊細さと柔和さを併せ持つ完璧な肉付きを以て、蠱惑的な斜度で伸びていた。
彼女の総身は、精妙極まる高貴さと豊満さの均衡を体現し、その並ぶもの無い美貌に、更なる妖艶な彩りを加えていたのだ。
それはあたかも、”美”を追い求めた夢想が命を得たかのような、彼女はそんな麗しい輝きを宿していたのだった。 ――――
「・・・・電話に出ないんだもの。
風紀委員の先輩が、香を探してた」
「ぅえ、ごめん・・・・っ。
あ、八木先輩かな・・・・そういえばなんか、仕事が一杯で勘弁~、とか言ってたっけ・・・・」
陽気で親しげな香。
それとは対象的に、少女の様子はひどく淡々としていた。
鈴を転がすような、涼やかで耳触りの良い、しかし平坦な調子で彼女は話す。
抑揚の小さく、顔に浮かべた愛想もどこか作り物めいている。
彼女の美しさも相まり、その様はまるで"とても出来のいい人形が喋っている"という、奇妙な錯覚を見る者に抱かせるようだった。
「わざわざごめんね、梓。
・・・・ふふ、
でもなんか、相変わらずだね、梓ってば」
もっとも、香はさして気にはしていなかった。
"親友"である彼女が、普段からこの様に物静かであることを、よく知っていたからだ。
そうだ、と香は思い出したように、手で梓を差しながら、2人の幼馴染を振り返った。
「――――二人には、まだちゃんと言って無かったよね。
あたしの友達の、
綺麗な子でしょ♪」
梓は無言、かつ愛想の一つも無いまま、小さなお辞儀をするのみに終わる。
その前に、ずずいと大げさに進み出る男が一人。
「こんにちわっ、眞澄さんっ。
となりのクラスの、金丸 正木です。
――――よろしくっ」
果たして、香は次の瞬間、自分の目を疑っていた。
正木がおかしくなった。
何がおかしいかって、まず顔がおかしい。
異様に眼をキラキラさせて、ニヤついた口元。
爽やかな色男を気取ったつもりの澄まし顔が、ドン引くくらいに似合っていない。
それから、口調に、声色、身振り、手振り、テンション等々。
指折り数えていく内に気持ち悪くなってしまい、香は顔を顰めていた。
「あなたの事は存じ上げていますよ。
さすがに香サンと友達だったなんて事までは知らなかったのですが――――」
「・・・・ちょっと嘘でしょ・・・・」
と、夢中で梓にがっついている正木には分からなかったかも知れないが、その背後ではあまりの猫かぶり様に呆れ果て、とてつもなく嫌そうに呟く香の姿があった。
「――――それにしても噂通りのお綺麗さですね。
どうです?今日、放課後、一緒にカラオケでも・・・・?」
「そういうのは、ごめんなさい」
しかし、相手も然るもの、とここは褒めるべきか。
危険な情熱を帯びて迫る正木を、何の逡巡もなく切り捨てて、梓はすっと顔を背ける。
「!」
「・・・・ざまぁみろ、アホ」
「んだ、とぉっ!?」
「なによっ!!
言っとくけど、梓はあんたみたいなスケベは断、固、お断りなんだからね!!」
「誰がスケベだ、誰がっ!!」
「あんた以外に誰がいるのよ!?」
「じゃあ、そのスケベに見向きもされないお前はいったい何なんだ!?」
「う"わ"ぁーっ!!
そういうこと言うんだこのロクデナシぃ!!」
「「○×△×■*%#▲○*'+&――――」」
喧々囂々と言い争い始める二人。
その隣で、光弥はじっと、静かに梓を見ていた。
正木も香も気付かなかったが、梓が現れてからの光弥は、一言も言葉を発していなかった。
――――それどころか、そこにあったのは貼り付けたように固く、強張った表情。
普段の光弥の朗らかさは、そこに微塵も見受けられない。
そしてそれは、ゆっくりと振り返る梓も同様だった。
立ち尽くす2人の、空虚な視線が交差する。
まるで、感情を削ぎ落とした仮面を被っているかのようだった。
違う人間同士が見つめ合っているのに、全く同じ虚ろな表情。
その様は、あたかも鏡像と見つめ合っているように似通っていた。
ところが、鏡映しの均衡は、唐突に破られた。
強い"感情"が発露し、梓の顔を一瞬だけ彩ったのだ。
しかし、それは決して友好的なものなどではない。
その眼に灯った、激しい"負の感情"を表すには、嫌悪などと言う言葉だけでは余りに足りないだろう。
溢れだす、強い拒絶。
そして、火のように燃え滾る憎悪。
暗い敵意が、涼やかな梓の美貌を全く違う様相に張り詰めさせる。
無機的だった彼女の抱える冷徹な一面を引きずり出させる。
「あ、梓・・・・?」
あまりに異様な雰囲気に、香と正木も騒動を忘れて絶句してしまう。
冷たく硬い、凍りついた空気がその場に、満ちる。
誰も、何も言えなかった。
当事者たる、光弥と梓は言わずもがな。
最悪の雰囲気に、周りの生徒の声があまりに場違いに響いた。
<キーン、コーン、カーン・・・・>
とてつもなく長く感じる数瞬を破ったのは、始業時間が近づいたのを告げる予冷の音だった。
「・・・・私、もう行くから。
香も遅刻しないよう、急いで。 」
梓はまるで何事も無かったように振る舞った。
硬く、平坦な声でそれだけ告げると、長い髪をなびかせ早々に歩き去って行く。
だが、まったく状況の飲み込めないままの香が納得できる訳も無く、堪らずに彼女を呼び止める。
「え、ちょ、何っ、どうしたの、梓っ!?
光弥くんとケンカでもしてたの!?
ごめんっ、あたし、知らなくって・・・・」
「いいの。
・・・・何でもない――――」
それでも梓は、冷酷に呟く。
香達の視線に背を向けたまま、そして言葉にも向き合わないままで。
「――――私には、関係ないから」
立ち去って行く、梓。
佇むままの、光弥。
どちらも心配で、どちらにも行けず、香は板ばさみになってしまう。
オロオロと二人の姿を見比べるしかできずに、ただ困惑するばかり。
こんな友人達の姿を、香は知らなかった。
明るさの欠片も存在しない、暗い失望に張り詰めた2人の姿を、知る由もなかった。
「――――おら、せっかく急いだ分をチャラにするつもりかよ?
ほい、進めよ、香。
そらそら」
その時、誰よりも先んじて正木が動き出した事に、香も・・・・そして光弥も、意表を突かれた。
問い質し気な香の視線を遮るように立つや、問答無用で彼女の背を押して追い立て始める。
「散々遅刻すんなって言ったのはお前だろ?
さっさと行った行った!!」
「わっ、正木、押さないでよ、ちょっとっ――――!!」
ひたすら強引に、押しのけるようにして正木は香を連れて行く。
抵抗をする香だが、結局ずるずると遠ざけられて行ってしまうのだった。
「・・・・・・・・・」
――――光弥は内心、頭が下がる思いだった。
この時の正木は冷静だった。
きっとこの中の誰よりも冷静だった。
だからこそ、正木は今の光弥から多少強引でも、香を遠ざけてくれたのだ。
光弥の心情を、しっかりと汲んで。
(ありがとう・・・・)
心の中で光弥は正木に礼を言った。
ただ、今だけ。
今だけは、自分のそばに誰もいないでほしかった。
光弥の顔には、今はもう表情が戻ってきていた。
痛み、苦しみ。
そして、何かへの諦め。
全てが一緒になって交じり合い、光弥の内心は閉塞していく。
前向きな気持、強く進む姿。
そんな自分の言葉なんて、まるで戯言のようだった。
甘い幻想を簡単に踏み潰す、古い、黒い"記憶"。
自分は、何処までもそこから逃れられないのだと思い知る。
その失望に、傷跡に・・・・誰にも触れて欲しくなかった。
「――――分かってる。
・・・・これは報いなんだ。
・・・・だから、呑み込んで、行くしか無いんだ――――」
光弥は俯き、項垂れたまま、歩き出す。
思わず溢れたその本音は、本来なら決して顕にしてはならないものだった。
弱音は許されず、墓場まで持っていかねばならないものだった。
覚悟と共に、それを改めて飲み下すのは、あまりに苦く、痛みを伴なうのだった。
――――To be Continued.――――
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