第25話: おまえの、仕業だったのか(すっとぼけ)
──世界は、一つではない。
この宇宙も、いや、幾つもの連なる宇宙全て、それらを包み込むようにして形成されている箱……言うなれば、それが『世界』である。
世界を管理するのは創造神だが、補佐をする形で主に女神が行っている。
女神もまた、世界を管理する存在。幾つもの世界を管理しており、必要に応じて干渉し、世界が壊れないよう見守っている。
そして、そんな女神すらも管理しつつ、女神たちが管理している世界全体……いや、その外側すらも管理しているのが、『創造神』である。
創造神は、その名の通り全ての創造の神。
創造神より上はなく、創造神に匹敵する存在も居ない。あらゆる時間、次元、世界を超越する、唯一無二の絶対的な存在である。
その力は世界の外側……いや、それ以上の大きな枠組み、女神ですらその輪郭を伺うことすら出来ないモノをも管理するぐらいに……それが、創造神なのである。
……で、だ。
普通、創造神が特定の女神に干渉することはほとんどない。それは意図的にしないとかではなく、単純に、手を貸す必要が一切無いからだ。
なにせ、補佐的な役割とはいえ、世界を管理する女神は伊達ではない。
人間ソウル(男)がインストールされているせいで、色々とポカを繰り返してはションボリしちゃう彼女とは根本から格が違うのだ。
管理出来ているのかどうかすらサッパリ分かっていない(まあ、この世界に居るだけで良いらしいけど)彼女とは違い、なにかしら問題が起きても、他の女神はスパッと一瞬で解決してしまう。
言い換えれば、解決出来ない問題が生じた時点で、もはや世界が崩壊する一歩手前というか、確定した状態。
さすがに、そのレベルになると創造神が動くしかなくなるわけだが……女神たちは優秀なので、実際に創造神が動くのは本当に極々稀なのである。
なので、創造神から連絡が来た時は、ガチで彼女はビビりながらも……そういえば、と彼女は首を傾げた。
たしか、創造神の話では、連絡を寄越すのは10兆年ぐらい後だったはずだ。
けれども、今は……まだ、その万分の1にも達していない。
創造神たちの時間に対する感覚は有って無いようなものだから、多少なり誤差があるにせよ、さすがに誤差が有りすぎるように思えた。
……と、なれば、だ。
おそらく、創造神の方でナニカ……あるいは、急遽お伝えする必要があるトラブルでも起こったのだろうと彼女は思った。
「あの、創造神様、なにかあったのですか?」
なので、率直に尋ねた。
(いや、大した問題ではないのですが……実は、きみが管理しているその世界……ちょっと、小さな世界がニョキっと生えてきたというか、枝分かれしたというか)
「ごめんなさい、創造神様が何を言っているのかさっぱり分かりません」
(う~ん、でも、見たまんまだから……まあ、急ごしらえだったし、なにかしらの不具合が出ても不思議ではないかな~)
「創造神様、なんか言葉が軽い……軽くない?」
けれども、あまりに想定外の話をされた彼女は、素直に待ったを掛けた。
いや、だって……ねえ。
小さな世界が生えたって……え、『世界』って、そんなニョキって生えてくるものだっただろうか?
少なくとも、彼女が知る限り……『世界』とは、そういうものではないと認識し、理解している。
瞬間的な増減こそあっても、『世界』の数は常に一定。
無限にも等しい数の世界が生まれては消えるサイクルの中で、これまで例外はなかった。
だが、例外が起きた。初めてのイレギュラーが発生した。起きてしまったからこそ、彼女はここに居るのだ。
人間の男だった時の……そう、『黒端透』としてのソウルが女神ボディに入れられた理由だって、そのイレギュラーへの対応の結果でしかない。
なのに……そこに、さらにイレギュラーが発生した……っと?
正直、聞くのが怖いと思った。
(情報を送ると、きみの頭がパンクしちゃうだろうし……とりあえず、見た方が早いかな)
「え、あ、ちょ、引っ張られ──」
けれども、聞かないという選択肢など取れるわけもなく……フッと意識が遠ざかり、視界がグルングルンと回転したかと思えば──次の瞬間にはもう、彼女は宇宙空間に居た。
──直感的に、己が初めてこの世界に降り立った場所である事に彼女は気付いた。
何故なら、ヒントがあって、それは眼前の……いや、眼下だろうか。
星の外からでも分かる、砂漠だらけの惑星。既に死に絶え、寿命を迎えた始まりの星。
そこに、ポツンと伸びている……女神的な目で見る事で確認出来る、『世界樹』があったからだ。
「──うわっ、キモっ!? キノコみたいにニョキニョキじゃんか!?」
と、同時に……彼女は、堪らず仰け反った。
何故なら、世界樹から伸びているからだ。なにがって、枝葉……というより、世界樹に似た樹木が、ニョキッと。
しかも、一つだけじゃない。
彼女が例えたキノコの言葉通り、それはもうニョキニョキだ。あるいは、ブロッコリーに見えるやもしれない有様になっていた。
「そ、創造神様!? なにがどうなってこうなったんですか!? 私、特に何かをした覚えがないんですけど!?」
女神ボディであるとはいえ、女神ビギナーである彼女には、なにが起こっているのかサッパリだった。
なので、率直に尋ねた(Part.2)。
(……さあ?)
「いや、さあって、創造神様?」
軽い調子の創造神様に、思わず彼女も軽い調子で返事をした。
(とりあえず、この状態だと不安定極まりないので、世界樹の状態を安定させましょう)
「えぇ……ま、まあ、やれと言われたらやりますけど……」
なんだろう、滅茶苦茶不安である。
けれども、しないという選択肢が無い以上はやるしかなく……促されるがまま、彼女は宇宙空間を飛んで──世界樹の前へと降り立った。
(──あ、ごめん、なさい、時、間切、れ)
「え、なんて、創造神様?」
(これ以──耐え──無理──ごめ──あと──書──)
「あの、聞こえません。なんかピコンピコンとアラームがうるさいんですけど、なんですか、これ?」
途端、なにやら聞こえていた創造神様の声が途切れ途切れになった。
その途切れっぷりが激し過ぎるせいで、何を言っているのか分からない。なんとなく、これ以上のお話が出来ないということは……っと、その時であった。
『お待たせしました、事情は全て創造神様よりお伺い致しました。早急に、対処致しましょう』
プツン、と。
感覚的な話だが、創造神との通話が途切れたのが伝わってきたと同時に、フッと音も無く眼前に賢者の書が現れたのは。
「うわ、出た」
思わず、嫌そうな顔をした彼女は……まあ、悪くはないだろう。
……。
……。
…………で、だ。
賢者の書曰く、此度の問題……簡潔にまとめるなら、『この世界が分裂しようとしている』ということらしい。
なんでも、普通は絶対に起こりえない現象らしいのだが、この世界の場合は事情が違う。
元々、彼女が居るこの世界は、余分に生まれてしまった世界であるがゆえに、そのまま消えるはずだった世界だ。
しかし、どういうわけか消滅することなく安定してしまった。
それも、他の世界とは違い、下手に創造神や女神が手を出せば、他を巻き込みかねない程度の安定さで。
なので、対処する必要があった。
このまま放置すれば、他の世界まで巻き込む連鎖的な大惨事になってしまう可能性が極めて高い。
それを防ぐ為に限定的な女神として彼女のボディが作られ、人間ソウルを入れられ、ようやく誕生したのだ。
それが彼女の経緯であり、この世界の経緯である。
つまり、他とは成り立ちからして違うし、管理している女神もまた半人前以下の素人女神だ。
いちおう、世界を安定させる効果はちゃんと出ているらしいが……そもそも、他の世界より不安定なのは変わらない。
実際、世界樹から別の世界樹が生まれようとしている時点で、かなり世界が不安定になっている……というのが、創造神の話らしくて。
彼女が万が一この世界から離れていたら、その時点で世界が崩壊しても不思議ではないので、早急に対処するべし……というのが、創造神からの指示であった。
(……というわけです……いいですね……用事が済んだら帰りますので、晩御飯はそっちで……あ、今日は海鮮鍋……分かりました……ええ、それでは……)
とりあえず、状況を知らないマザーへと軽く説明のテレパシーを送った後で。
「分裂って、そんなにヤバい状況なの?」
『そりゃあ、規模はとてつもなく小さいですけど、この世界の事の始まりに近しい現象が何度も起こっているみたいなものですからね』
「あ~……うん、その言葉でなんか納得した」
『この世界ですら、貴女様という特注の管理者が必要だったわけです。そこに、さらに不安定かつ小規模な世界が生まれたとなれば、貴女様以外に適任がいない……というわけですね』
「おお、創造神様が直で連絡してきたワケがようやく分かったよ……」
賢者の書に尋ねれば、悔しいが、けっこう分かりやすいイメージで教えてくれた。
この糞ボケ書物、時々はちゃんと仕事するから腹立つんだよなあ……と、思いつつ、彼女は、改めて賢者の書に問うた。
「で、私はどうしたらいいの?」
『主は、ここです。なので、この世界から今は離れるわけにはいきません』
「うん」
『しかし、分裂しようとしてる世界には、貴女という世界を安定させる存在が必要なのです』
「まあ、そうなるね」
『なので、貴女様の女神的なパワーを、分裂しようとしている世界樹を通して送るのです』
「……そんなんでいいの?」
首を傾げながら問い掛ければ、『難しく考える必要はありません』と返答をされた。
『分裂しようとしていても、元は貴女様が管理する同じ世界。貴女様の力さえそこに在れば、すぐにでも世界は安定するでしょう』
「ふ~ん……思ったほど、手遅れな状況じゃなくて良かったよ」
とりあえず、一安心した彼女は……後回しにする必要性皆無なので、さっさと世界を安定させることにした。
方法は、言葉にすれば簡単だ。
分裂している世界樹に触れて、女神パワーを送るだけ。それならば、いちいち方法を考える必要はない。
「それじゃあ、まずは手前のコイツから──」
ぺたり、と。
キノコのように大本の世界樹より伸びた新たな世界樹に触れた彼女は──そこで、おやっと目を瞬かせた。
なんと言えば良いのか……女神的な感覚というか、手応えが、おかしく思えた。
こう、アレだ。
感覚的な話だが、鱗のように何枚も重なっているかのような……上手く説明出来ないが、とにかく、手応えに違和感があった。
『さあ、頑張ってください。分裂しようとしている世界は、現在19万8671個となっております』
「は?」
なので、女神パワーを送る前に確認を取ろうと思ったのだが……そうするよりも前に、賢者の書が原因を教えてくれた。
……いや、ちょっと待って。彼女は、首を傾げた。
そんなに世界樹が伸びているようには見えないけど……そう思いながらも、改めて、触れている世界樹(分裂)を探ってみた彼女は……瞬間、絶句した。
「ふぁ!? めっちゃいっぱいあるじゃん!? 気持ち悪いぐらいにいっぱいあるじゃん、鱗みたいにさ!」
『え? 言いましたでしょ、分裂しているって』
「言ったけど、見た目に現れていなかったから全然気付かなかったよ!」
そう、賢者の書に報連相の大事さを叩き込んだ彼女は……気持ちを切り替えると、目を閉じて、不安定な世界を己の女神パワーを送ろうと。
(……晩御飯、海鮮鍋か……)
した瞬間、フッと……どうでもいい事が脳裏を過った。本当に、それは一瞬の事であり、次の瞬間には忘れているような事だったのだが。
『あ、余計な事を考えましたので、貴女様の力が海のやつらの形を取りましたよ、晩御飯の事でも考えましたか?』
どうやら、それが悪かったようだ。あまりに過敏な反応に、ギョッと彼女は目を見開いた。
「え、今ので?」
『言いましたでしょ、不安定かつ小規模な世界だと。それこそ、箸を使って針の穴に糸を通すかのような繊細さが必要なのです』
「Oh……どうしよう、これってヤバい感じ?」
感覚的な話だが、触れている世界に……こう、海鮮的な姿をした存在が、女神的なパワーによって生まれたのが分かる。
けれども、明らかに他とは違う。存在としての格が、他とは隔絶し過ぎているのが彼女には分かった。
だって、この海鮮(もどき)……当たり前のように宇宙空間を活動出来るばかりか、肉体の頑強さも能力も、明らかに生物の範疇に無いのだ。
ぶっちゃけると、銀河一つをあっという間に呑み込んで増殖するような存在で。
今はまだ、そこまでではないが、いずれはマザーの科学力すら上回ってしまうぐらいの……うん、ヤバいわ、これ。
「どうしよう、この海鮮(もどき)、女神パワーで殲滅した方が良いかな?」
『いえ、下手に破壊に傾いた女神パワーを打ち込めば、世界が破裂してしまう可能性が……そうではなく、貴女様の分身を折り込めばよいのです』
「分身?」
『破壊ではなく、分身に管理させてしまえば良いのです。内と外、二つ側から管理すれば、より安定しやすくなります』
「なるほど、わかった」
提案を了承した彼女は、強くイメージする。
合わせて、その世界に送り込まれた女神パワーが形を成して……あっという間に、女神(分身)が生まれた。
『おや、ちょっと姿を変えたのですか?』
「うん、まったく同じ姿だと、ちょっと気になるから……まあ、変えたといっても少しだけだよ」
その女神は、彼女と同じく非常に美しい外見をしていた。
ただ、彼女とは違い、その身より放たれるオーラは黄金ではなく、白銀のような澄み切った輝きであった。
「よし、それじゃあ君は今から『白銀の女神』だ。さっき生まれた、海鮮たちと仲良くやって、世界を安定させておいてほしい」
──分かりました。
近くて遠い彼方より、己より生み出された女神から……『白銀の女神』が、微笑みながら頷き、了承の声が彼女には見えた。
──では、今より我が身を『白銀の種族』とし、彼の者たちを我が種族の眷属にして……そう、貴女様の使命を受けて生まれたので、彼の者たちを『連盟種族』と定めましょう。
「え? いや、別にそんなことはしなくても──」
──では、行きます。勇敢に、誰も行ったことのないところへ!!
最後まで、彼女は言えなかった。
そうするよりも前に、ふわりと白銀の翼をはためかせた白銀の女神は、その世界の奥深くへと入り込み──気配が途絶えた。
意識して深く探れば見つけ出せそうだが……それをする必要はないだろうと判断した彼女は、そっとその世界から意識を離した。
「……なにアレ? いきなり種族とか言い出したんだけど?」
『おそらく、昨日見た宇宙のスターなトレック映画の影響じゃないですか?』
「マジ? そんな事あるの?」
『あります、だって貴女様の分身ですよ? むしろ、影響が出ない方が変でしょう』
「……なんだろう、イラッと来たけど反論できないから、なお腹が立つ……!」
とはいえ、苛立ったところで状況が好転するわけでもないし、頼まれた仕事が片付くわけでもない。
ひとまず、怒りを胸の内に納めた彼女は、「とにかく、ちゃっちゃと終わらせよう」そう頭を切り替えると、次の世界へと手を伸ばし。
「──へっくち!」
思わず、くしゃみをした。
……。
……。
…………しばしの間、沈黙が女神と本の間を流れた。
「……どう?」
『くしゃみの反動で、女神パワーがかなり広範囲に飛びましたね。特に濃厚に飛んだ先が……おや、環境汚染やら何やらで、酷い有様になっている星ですね、人間に該当する生命体も確認されました』
「……人、周りに居た!?」
『そうですね、何も無い砂だらけの場所なので、誰かに当たったとかそういうのはありません』
「──セーフ!!」
安堵のため息を零した彼女は……もう、これ以上変な事にならない為にも、あと、海鮮鍋……さっさと作業を進めるのであった。
……。
……。
…………そうして、しばらくして。
途中で、上から塩を掛けるように力を送れば行けるのではと思いつき、腕利きの料理人の如く塩を振りかけるのと同じ要領で女神パワーを送り……無事、世界樹が安定したのを確認した後。
「いやあ……マジ、大変だった。ごめんね、こんな夜遅くまで待たせちゃって」
「いえいえ、構いません」
「う~ん、労働の後の海鮮鍋は格別だわ……ビールも美味いし、たまには労働も良いもんだな」
自宅へと戻った彼女は、何時でも出せるよう用意していたマザーより出迎えてもらい……遅めの晩飯を堪能していた。
自宅である儚駄目荘には、彼女たち以外誰も済んでいない。
なので、深夜に食事を始めたりテレビを点けたりしても、なんら苦情が入るわけもなく……ん?
「……? 賢者の書、なんか戻ってからずーっと黙ったままだけど、どうしたんだ?」
ふと、彼女の視線がテレビから、部屋の隅で沈黙を保っている賢者の書へと向けられた。
何時もなら、なにかしら女神を煽り倒す糞ボケ書物なのに……そう思いながら、理由を尋ねれば、だ。
『いえ、ふと、気になった事がありまして……』
「なにが?」
『その、私の認識間違いでなければ、世界樹に異常が生じていましたよね』
「ん? まあ、分裂しようとしていたわけだし、そうなるね」
『それで、不思議に思ったのですが……女神様、世界樹の異常を感知した時、どのように感じましたか?』
「え? そりゃあ、ナニカがぶつかったような……あれ?」
ぶつかった?
分裂していたのに?
違和感に思わず首を傾げる彼女に、賢者の書は……珍しく、言葉を選ぶかのような言い回しで考えを告げた。
『もしかしたら、ぶつかったナニカと、世界樹が分裂した際の違和感は……別なのではありませんか?』
「え?」
『ですので、たまたま感知したタイミングが重なっただけで、実際はもっと前に起こっていたのではないか……そう思うのです』
「……何を言っているのか分からん、具体的にせい」
そう促せば、賢者の書は……答えた。
『では、その……薄皮を捲るように、玉ねぎの皮を捲るように、この世界と、その外側の間を捲って確認してもらえますか?』
「ん? ん~、よく分からんけど……え~っと、こんな感じ?」
『そんな感じです。何事もなければ、青空のように澄み渡った空間が広がっているだけなはずです』
「ふ~ん、そうか」
あくまでも、イメージである。
しかし、そのイメージですら実現させるのが女神ボディ。
曖昧な指示ではあるが、ものの見事にその通りに動いた結果、ペラリと彼女の隣の空間が開かれれば、その向こうは赤黒い空間が──うわぁ。
思わず──彼女は絶句した。
いったいどうして……それは、明らかに異常を示している赤黒い空間を埋め尽くさんばかりに……異形の化け物が居たからだ。
いったい、どれだけの数があるのか。
数えるという考えすら放棄したくなるような大群が、ひしめき合うように蠢いていて……しかも、それだけではない。
その化け物たちの顔に見覚えがあった彼女は……ポツリと、告げた。
「姿形こそバラバラだけど、全体的な方向性と顔がMIKADOじゃん……なにアレ? マジで何がどうなってこうなったの?」
心底嫌なモノを見た……そう言わんばかり、ピシャリと空間の裂け目を閉じた彼女は……賢者の書へと視線を向けた。
『……覚えていますか? 最初にこの世界に降り立った時、世界樹を操作したことで、異常な怪物が出現したのを』
「あ~、アレね。それがどうかしたの?」
『それと同じだと思われます。いくら不安定で小規模とはいえ、世界樹であるのは同じ。そして、その世界樹の一つ一つに異常が……そう、バグが生じていたならば』
「あれだけの数になるってわけか……ていうか、アレって私が女神パンチで倒したアレと同類……ってことだよね?」
『はい、そのうえ、懸念事項が一つ』
ふわり、と。
声を潜ませるように、賢者の書は高度を下げ……炬燵に入っている彼女の隣に降りた。
『アレらは……おそらく、壁を超えて来ます。さすがに世界の壁は越えられませんが、元は世界樹より生まれたモノですから……出現位置は、太陽系の外でしょう』
「……アレだけの、が?」
『はい。そして、皮肉なのはアレには目的は存在せず、たまたま進行方向に太陽系があるだけ……それで、どうしますか?』
「どうするって?」
『下手に女神パワーで解決しようとすると、せっかく安定させた世界樹に影響が出ます。なので、貴女様以外の誰かが対処しなければなりません』
「私以外って……いや、今の人類でアレに対抗できるの? 別に女神パワーでなくても倒せはするだろうけど……今の科学力では、戦いにすらならんよ」
『そこが問題なのです。私の計算だと、人類の総戦力をぶつけたとしても、その進行速度の1%も抑えられないまま……この星ごと壊滅するでしょう』
「そうか……ええ、どうし……ん?」
自分が一切手出し出来ない状況に、堪らず頭を抱えたくなった彼女だが……そうするよりも前に、前触れもなくいきなり差し出された冊子を見て……思わず、目を瞬かせた。
──『地球防衛計画 ~降臨 ゴッド・ムーン~』
そう、デカデカとプリントされた冊子を手渡してきた、マザー。その恰好は先ほどまで着ていた割烹着ではなく、お堅いスーツ姿で……こう、カラフルなヘルメット(?)を被っていた。
「ま、マザー?」
「長官、と」
「え?」
「地球防衛局のマザー長官とお呼びください」
そして、呆気に取られている彼女を他所に……長官と自称したマザーは、告げた。
──来るべき戦いの為に、人類の科学力を……ロボテッカーを開発生産出来るようにするべきだ……と。
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