第10話: 悲報:女神ボディの輝き、『物の怪の類か!?』と疑われる




 色々あって、未知の星(おそらく、Ω―104だと思われる)へとワープしてしまった彼女だが、前途は多難であった。



 というのも、だ。



 まず、この星にも知的生命体は居た。


 彼女が知る人間とほとんど変わらず(というか、瓜二つ?)、なんだろうか、和服なのか何なのか分からないけど、なんかデジャヴュってしまう出で立ちであった。


 その人たちは、村を作っていた。


 子供が居て、大人が居て、老人が居て、家畜が居て、幾つもの家が立ち並び、それらを囲うように田や畑があって……とにかく、はるか昔の田園風景を思わせる光景が広がっていた。



 そこまでは、良かった。



 なんだか昔話で見た日本人だわと、ちょっと懐かしくも切なくなった。たぶん、文明的なアレが、まだそういう時代なのだろうと思った。


 以前の星が、ファンタジーな世界だったのだ。


 この星では、和風な世界が広がっていても、なんら不思議ではない。



 そう判断した彼女は、とりあえずその村へと向かった。



 仲良くなりたいとかそういう下心とは別に、少しでもこの辺りの情報を仕入れておきたかったからだ。


 なにせ、この場には外付け辞書である賢者の書がいないのだ。


 賢者の書にテレパシーを送ってはみたが、返事が来ない。距離が有りすぎるのか、彼女自身が上手く行えていないだけなのかは不明だが、連絡が取れない状況だ。


 とりあえず、こっちに来いと強く命令しておいたが……何時に到着するのか分からない以上は、そう判断するのは当然であった。



 ……で、だ。



 そこまでは、良かったのだ。


 意気揚々と村へと向かい、村の出入り口っぽい場所で番人っぽいことをしている村人らしき男を見つけた彼女は、遠くから呼びかけた。


 そこまでは、本当に良かったのだ。


 だた、問題なのはそこからであり……具体的に、何が起こったのかと言うと、だ。



「──も、物の怪だ! 女の物の怪が出たぞ! みんな来てくれ! 物の怪だ!!!」

「ひぇ……!!」



 こちらの姿を見た瞬間、とんでもない化け物を見付けたかのように叫び声を上げたのだ。


 最初はなんの冗談かと思ったが、遠目にも分かるぐらいに挙動不審になりつつ、持っている木の棒を大きく振り回している姿は……縁起でも何でもない。



 明らかに、恐怖している。


 いったい誰にって、それは……女神である己に対して。



 当然ながら、彼女は威嚇的な行為は何もしていない。というか、そもそも彼女の外見からして、相手を威圧させるものではない。


 背丈は小さく、美少女なだけ。正直、可愛さだけで突破出来るのではと過信していた。


 そりゃあ、頭上に光輪が浮いていて、動く度にキラキラ粒子が残像を残し、よくよく見ればちょっと浮いていて、翼もパタパタと忙しなく……あ、うん。



 ──そりゃあ、化け物か何かだと思うのは当たり前であった。



 普通に考えて、ふわふわ宙に浮きながら近づいてくる女(しかも、明らかに普通じゃない見た目)なんて、化け物と思われても不思議ではない。


 前回、彼女が特に敵対されなかったのは、彼女を受け入れられる素養なり宗教なりが有ったからで、それが無ければまあ……そんなものである。



「て、天狗じゃ! 女天狗じゃ!」



 そうして……なにやら村の長老っぽい人まで騒ぎ出したのを見て、慌てて空へと逃げた(野生動物、怖いよね)彼女は……色々と考える。


 以前のファンタジー的な星とは違い、彼女の容姿は些か目立ち過ぎるようだ。


 まあ、確かに、村人たちの様子や雰囲気を見ても、和風的なエナジーをそこかしこに感じ取れると、彼女は納得する。



 この場合において、間違っているのは己なのだ。



 そう、判断した彼女は……早速、女神パワーを使って……己の容姿をスパッと変えた。


 具体的には光輪と翼を他者からは見えず触れられない状態にして、顔もちょっとばかり変えて、肌の色もちょっと濃くした。


 つまり、超綺麗な日系(アジア系とはちょい違う)の美少女になったわけである。鏡で確認した彼女は、あまりの己の美しさにニヤッとほくそ笑んだ。




 ──勝ったな! 




 これならば、コミュニケーションもばっちりだと確信した彼女は、再び村を探し……そうして見つけた村にて、一度目と同じく朗らかな笑みで挨拶した。



「──も、物の怪だ! 女の物の怪が出たぞ! みんな来てくれ! 物の怪だ!!!」

「ちょ、待てぃ!! なんでそうなる!?」

「人間に化けても無駄だ! みんな、武器を持て! きっと、人を食って美しさを保つ化け物だ!!」

「えぇ……(ドン引き)」



 結果、一度目と同じく超恐れられたうえに殺意満々で向かってきたので、撤退を余儀なくされたのであった。


 そうして始まる2度目の独り反省会だが……彼女は、諦めようとはしなかった。



 だって、寂しいし。



 ずーっと独りで暮らす、あの気が狂うような孤独感に比べたら、この程度は何の問題でもない……で、そこで、彼女はようやく気付いたのだ。



 ──普通に考えて、今の己みたいな美少女が1人でのこのこ外を出歩いている時点で、怪しさ全力100%だということに。



 いや、そりゃあ、そうだろう。


 現代ですら、抜きん出た美少女や美女は周りが放っておかないし、変な虫がまとわりつかないよう動く。


 だって、周りは分かっているから。


 例外は、物理的、あるいは精神的にそれを自覚させなかった場合ぐらいで、そうでなければ、あっという間に上流の階級に行ってしまうのが世の常だ。


 ましてや、この星……見たところ日本昔話に出て来そうな、何百年以上も前の風貌の者たちの中において、今の彼女は異端も異端。


 ぶっちゃけると、綺麗過ぎるのだ。加えて、彼女の恰好も綺麗過ぎた。



 例えるならば、だ。



 名所があるわけでもない、バスも通っていないような田舎に、テレビの向こうでもお目に掛かった事のない、それはそれは高そうな衣服を身に纏った見慣れぬ美少女が歩いているようなものだ。



 ……まともに考えられる者ならば。



 後先考えないイカレタ者でない限り、只者でないと思うだろう。触らぬ神に祟りなしと思って、遠巻きにするだけである。


 で、そんな美少女が、手を振って近づいて来たら……どう思うか。



「これ、アレじゃん……完全に、笑顔で油断させてから夜中に1人ずつ食い殺してゆくホラーなアレじゃん……!!」



 ようやく、その事に思い至った彼女は……再び、姿を変えることにした。


 どうやら、ただの美少女では駄目なようだ。もっとか弱く、無害ですよと思わせなくてはならない。


 と、いうのも、これまで応対してきた者たちの口ぶりからして、どうやらこの星には『物の怪』なるモノが存在している可能性が浮上している。


 己が人間として生きてきた時と同じく、それがただの迷信であれば良いのだが……実在していた場合、非常に面倒臭い状況に陥りかねない。



 ゆえに、彼女は……さらに己を小さくした。


 具体的には、赤ちゃん化した。


 もちろん、見た目だけである。



 中身はちゃんと元のまま、つまりは広義な意味でのロリババァ(ある種の赤ちゃんプレイ)になった彼女は……早速、己を竹藪の中にセットした。



 どうして竹藪の中なのかって、特に深い意味はない。



 歩きながら考え事していて、たまたま思いついて実行した場所が竹藪の中だっただけで、そこが平原でも変わらなかっただろう。


 いったい何をそこまで必死にさせるのかと疑問に思う者もいるだろうが、それはまあ、うん。


 この辺りの感覚は、あの孤独感と退屈を味わった彼女にしか分からないので、聞くだけ無駄である。


 それに……賢者の書たち(要は、宇宙船エルシオン)がこっちに到着するまで、どれぐらい掛かるか分からない。



(眠れば、こっちに来た時に起こしてくれるだろうけど……その時、この星も砂漠とかになっていたら嫌だしなあ)



 加えて、前世としての感覚の影響から、和風的な雰囲気を強く感じて、懐かしさをどうしても覚えてしまう。


 だから、ここでだけはそんな結果にだけはなりたくない。


 そんな思いから、彼女は迎えが来るまでは、寝るのを止めて、この場所に触れ合っていこう……そう思ったわけである。


 ……さて、そんな感じで、親切な誰かに拾われるまで、どれぐらい掛かりそうかな……と、思ってボケーッとしていると。



「おお、なんと……竹の根元に光り輝く赤子が……!」


(──あ、やべ、ぼんやりしていたら漏れちゃったよ)



 計画通り、己を見付けてくれた人はいたのだが……どうやら、うっかり女神的な粒子をポロリしてしまっていたようだ。


 けれども、見つけた老人の男……お爺さんは、これまでの者たちとは違い、危険な存在とは思わなかったようで。



「こりゃあイカン、こんな場所ではあっという間に獣に食われてしまうぞ……さあ、家に来なさい」



 けっこうあっさり、自宅へと連れて行ってくれた。



「お~い、見てくれ、竹藪の中に赤子が捨てられておったんじゃ」

「まあまあ、可愛そうに……さあさあ、身体が冷えないうちに、こちらへ」

「しかし、どうしたらいいだろうか……ワシらで面倒を見るにしても、この子が成人を迎えるまで生きていられるか……」

「そうですね……お隣はたしか、子供が4人……」

「ある程度働ける子なら……いや、仕方がないか。この子がワシらの下に来たのも、天命なのだろう」

「ええ、ええ、そうでしょうとも……せめて、私たちが生きている間、出来る限り育ててあげましょう」

「そうだな、そうしようか」

「それで、名前はどうしましょうか?」

「名前か……この子は赤子ながら顔立ちも整っているし、すぐには思いつかんぞ」



 おまけに、奥さんであるお婆さんも心優しかったようで、ちょっと光り輝いていた彼女(赤ちゃん状態)を受け入れてくれて、甲斐甲斐しく世話をしてくれたのであった。






 ……。



 ……。



 …………とまあ、そんな感じで、無事に心優しい老夫婦に引き取られた彼女だが……暮らしは平穏とは言い難かった。



 というのも、引き取ってくれた老夫婦だが……正直、見ていて非常に危なっかしかったのだ。


 それは鈍臭いという意味ではない。身体的な話というよりは、生活基盤の問題である。



 どういうことかって……全てが綱渡りなのだ。



 老夫婦は小さな畑を持っており、他にも罠やら何やらで時折食料を得たり、山に入って木の実などを集めたり、余裕が出れば時々町の方へと向かうらしいが……はっきり言おう。



 この生活──一歩何処かで歯車狂ったら、即破綻するじゃねえか、と。



 なにせ、老夫婦の家は山の中というか、森の中というか、自然の中にあるわけだが……ぶっちゃけ、生活基盤がめたくそに弱い。


 共に健康で、老いているようには思えないぐらいに機敏に動くが、言い換えれば、共に機敏に動けているからこそ、今の生活を維持出来ているだけのこと。


 どちらかが怪我したり、病気になったりした時点で詰む。さすがに、どちらも若い頃のように無茶が利かない身体なのだ。


 おそらく、片方が何らかの要因で亡くなれば、もう片方は半年持たないかもしれない……それぐらいに、先行きを想像するのが辛い現状であった。



 ──ゆえに、彼女は一念発起した。



 ダラダラとぐうたら女神やっている場合じゃねえぞ、と。あと、赤ちゃんプレイの素養がそこまでではなかったので、途中から羞恥心が限界を突破したのも理由の一つである。


 とりあえず、彼女は身体を成長させ、大きくすることにした。


 とはいえ、いきなりデカくなると物の怪扱いされそうだから、ちょっと時間を掛けて、バレないよう気を付けながら行った。



 次に、お金である。



 お金自体は、女神パワーで『ここで使われている金出て来い』と願えば出てくるから、用意自体は楽である。


 ただ、さすがに手元からジャンジャラと出したら物の怪扱いされそうだから、ここはひと手間加えた。



 それは、竹藪だ。



 その中で光る竹をあえて目立つように設置した後、お爺さんにその竹を切らさせ……まあ、親孝行というやつだ。


 次に、着る物も用意した。これも、竹藪の光る竹だ。


 ただ、服に関しては好き嫌いがあると思ったので、切った者が欲しいと願った衣服が出るように調整した。



 ……が、コレに関しては、ちょっと失敗した。



 なにせ、出て来たのが自分たちの衣服ではなく、彼女が着るような衣服……つまり、ものの見事にお高そうな着物だったからだ。 


 お爺さんは駄目だとお婆さんの方で試してみたが、結果は同じ……どうやら、二人とも彼女が可愛いようで、自分たちよりも……と優先しているようだった。



 まあ、そこらへんは失敗する前から察してはいた。



 だって、事あるごとに『姫』と呼ぶからだ。もちろん、それが名前ではなく、ちゃんとした名が思いつくまでの愛称みたいなものである。


 おい、とか、おまえ、ではなく、姫である。お姫様、姫、である。


 そりゃあ、赤ちゃんだとか、娘と呼ぶのは違うだろうが、だからといって、姫というのは可愛がり過ぎでは……と、思うわけである。



 正直、恥ずかしい。



 でもまあ、正式な名前がまだ決まっていないだけだし、「そろそろ付けないとな」と夫婦で話し合っているのをこっそり聞いたから、そこらへんは時の流れに任せることにした。


 ……『姫』というワードが定着しちゃって、呼ばれなくなるような予感はしたが……まあいい


 とにかく、女神パワーでちまちまと二人の生活をアシストしつつ……セミが鳴く季節が2回目となった……蒸し暑い夜。



「姫は、背丈が伸びるのが速いのう」

「そうですね、あっという間に私たちよりも背丈が伸びましたねえ」

「まあ、育ち盛りってやつですから!」



 気付けば、彼女の背丈は老夫婦を超えて、世間一般には年頃で嫁の貰い手がどうとか言われ始めるぐらいに成長していた。


 そして、同時に……彼女の美しさは、近所のみならず、近隣の村などにも噂が広まるぐらいにまでになっていた。



 そりゃあ、そうだろう。



 元々そうだったのを赤子モードになっただけで、意図して変えなかったら元のスーパー美少女になるだけだ。



 加えて、彼女の場合は……女神パワーによる絶対的なアドバンテージがある。



 どれだけ日差しに晒されようが肌は焼けず色は白く。


 どれだけ汗を掻こうが垢は溜まらず、常に甘く香り。


 擦り傷切り傷あかぎれその他諸々は無縁で、まるでつい先程生まれ出てきたかのように、全身がツルツルすべすべで。


 髪も、どんな時ですらつい先程整えられたばかりだと言わんばかりに艶やかで、うっすら濡れているのかと錯覚してしまう。


 それで、噂が広まらないというのが無理な話であり。



「しかしなあ……元気に育ってくれたのは嬉しいのだが、こう毎日のように嫁取りの話を持ちかけられるとのう……」

「そうですね、お爺さん。姫を幸せにしてくれる殿方なら、私たちは誰でもいいんですが……」


「いや、前にも言ったけど、嫁に行く気はないからね」


「おお、優しいなあ、姫は……でも、何時までもワシらに構うことはない、姫は若いのだから、コレと思った殿方に付いて行くべきだとワシは思うぞ」

「ええ、ええ、そうですよ。私たちは老い先短い身、何時までも姫の道を塞ぐわけにはいきませんからねえ」


「う~ん、その気持ちは嬉しいけど、そうじゃないんだよなあ……」



 ポロッと零してしまった老夫婦の愚痴のとおり、気付けば彼女は家の周辺でも迂闊に出歩けないぐらいになっていた。


 つまりは、それぐらいに彼女の存在が人気になったわけである。


 そりゃあもう、日中は彼女の姿を一目見ようと、家の周りをウロウロする不審者が出るぐらいには。


 もちろん、それらの不審者が実力行使に出ようと少しでも思っていたら、その前の段階で排除されるよう彼女は罠を設置していたが……けれども、だ。



「ところで姫、おまえを是非拝見したいという、とある貴族の方がおられるのだが……」

「え、別に私は会いたくないけど……これ、断っちゃ駄目なやつ?」

「相手は貴族様だぞ、断るだなんてとんでもない。上手くいけば、貴族の一員になれるのに……そういえば、貴族に嫁ぐなれば、名前をちゃんと決めておかねばならんのう」

「待って、聞いて。お爺ちゃん、早とちりはボケの始まりだよ」

「そうですよ、お爺さん。何時までも姫では……いいかげん、ちゃんとした名前を与えませんと、この子が笑われてしまいますよ」

「ん~、お婆ちゃん、その気持ちは嬉しいけど、そこじゃないんだよなあ~」

「う~ん、そうだな……あ、そうだ、『輝夜姫』という名前はどうかのう? 夜の中でもひと際輝くお姫様……どうじゃ?」

「まあ、それは良い名前だと思いますよ、お爺さん」

「お願い、待って、人の話を聞いて。お爺ちゃんもお婆ちゃんも、こういう時はマジで話が耳に入らなくなる、本当にヤメテ……ヤメテよ、マジで!?」



 さすがに、自分を育てて面倒見てくれた心優しい老夫婦の頼みには……強く出られないのであった。



 ……。



 ……。



 …………ん? 



(輝夜姫……はて、それって昔話の……)



 まさか、ね。



 そう、ひとまず横に置いた彼女は、再び老夫婦の説得に動くのであった。





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